【番外編】情報交換
元宰相のパーソロンとミエスクの結婚により宰相邸は公爵邸に呼び名が変わることになっている。
その公爵邸には、もう何日かすればミエスクが身一つで引っ越してくることになっている。
セバスは引き続きパーソロンに仕えることが決まっているので、アレミロード家もそのまま公爵邸で暮らすことになる。
因みにリリアは平日は神官寮で寝起きして、休日だけ公爵邸に戻ることになっている。
そんなちょっとした変化の目前に控えアレミロード家が揃って夕食をとっている。
「リリア、小さな子供ではないのだからもっと落ち着いて食べなさい!」
先ほどから、兄のカークをチラチラと見ながら食べているリリアがセバスから注意を受けている。
「は、はい。
すみませんお父様……」
厳格な父から注意を受けたリリアはシュンとしている。
「リリアも年頃なのですから貴族令嬢としての自覚を持ちなさい。
そんなことでは嫁の貰い手がありませんよ」
普段は叱ったりしない母のマリアにも注意されてリリアは更にシュンとなっている。
先ほどからリリアに落ち着きがない理由は、兄のカークが「ダンジョン探索のメンバーに選ばれた」とセバスに報告したことと深く関係している。
リリアは一刻も早くカークからダンジョン探索の話を聞きたくて仕方がないのだが、食卓の空気が重たくなってしまい聞くに聞けない状況である。
これ以上のお小言はゴメンとばかりにリリアは食事に集中しているふりをしている。
「カーク、探索にはいつ出立するんだ?」
カークに質問するセバスに対して「お父様だけズルいです」とリリアは思うのだが決して口には出さない。
何故なら、絶対に怒られるからである。
「はい、二日後です。
ですから、その前に休みを頂きました」
セバスとカークの会話にリリアの耳がダンボより大きくなっている。
だが、決してフォークを動かす手を止めてカークを見ることはしない。
何故なら、セバスに見つかると「後で私の部屋に来なさい」からの、お説教コースが待っているからである。
食後のデザートを平らげてお茶を頂く間もリリアは決して油断をしない。
何故なら「其処へ座りなさい」からのお説教コースが待っているからである。
リリアは「私は旦那様の話し相手をしてくる」とセバスが言うのを辛抱強く待っている。
そして、リリアがお茶を飲み終えた頃にセバスが主であるパーソロンの下へ向かった。
マリアは、先ほど湯浴みへ向かったので戻って来ることはない。
遂に千載一遇のチャンスがリリアに到来した。
「お兄様、ダンジョンの話を聞かせて下さいませ!」
セバスが扉を閉めてから、十秒数えてからリリアはカークに話しかけた。
もし、十秒以内だとセバスがフェイントを使って戻ってくる可能性があることをリリアは身に染みてよく分かっている。
「うーん、教えてあげたいのは山々なんだが、まだ不確定要素が多くて口外することは禁止されているんだよ」
リリアを殊の外、可愛がっているカークだが上層部からの命令には従わざるを得ない。
「そんなことを言わずに教えて下さいませ!」
散々、我慢してチャンスを待ったリリアは最大限の駄々をこねて見せる。
「あははは、これは困ったな」
一度、面白い物センサーが反応した妹は、手が付けられなくなることをカークは身に染みてよく分かっている。
「それなら、情報交換をしようか?」
カークは、前のめりなリリアに一つの提案をしてみた。
「お兄様、情報交換って何ですか?!」
ダンジョン探索に加えて情報交換という面白そうなワードが乗っかったため、リリアが更に前のめりになる。
「お互いが聞きたい情報について交互に質問し合うんだよ。
但し、質問は具体的でなければいけないよ。
それと、これはここだけの話で決して口外してはいけない」
カークは幼い子供に語り掛けるようにルールを説明した。
「分かりました。
私はダンジョンが何階層か知りたいです!」
先行後攻を決めることなく、リリアが一つ目の質問した。
「鑑定士が言うには七階層前後らしいよ。
私が知りたいのはアルマ嬢の性格かな?」
当たり前のようにリリアの質問にカークは答えて、アルマについ質問をした。
「アルマ様の性格ですか……
少し上がり症ですが自分の意見はしっかり言いますね。
次は、どんな魔獣がいるのか教えて下さい!」
何故、カークがアルマの性格を聞いたのか疑問ではあるが、リリアはまだダンジョン探索への興味の方が勝っている。
「先遣隊のロベルト隊長の報告によると一階層には魔物の森と同じような魔獣がいるそうだ。
ゴブリンやオーク、それとヘルハウンドとキラーラビットもいたらしい。
それでは、アルマ嬢の仕事振りを教えて欲しいな」
「アルマ様は何事にも前向きに取り組まれています。
それにしても、お兄様はどうしてアルマ様のことを聞くんですか?」
度重なる質問に対してクーデターの夜にカークがアルマに一目惚れをしたのではとリリアは勘ぐっている。
「伯父上からアルマ嬢との縁談話を聞かされたんだよ。
それで、アルマ嬢が義理の姉になることにリリアは抵抗があるか聞いておきたかったんだよ」
「えー、お兄様とアルマ様の縁談ですか?」
突然の話にリリアが戸惑っている。
「リリア、質問は交互にするルールだよ。
早く、答えてくれないかな」
「私はまだダンジョンの質問をしていませんよ。
あっ、もしかして先程の縁談の確認も質問の一つに入るんですか?」
先ほどリリアは自分が質問をしたことに気が付いていなかったようだが、残念ながらルールはルールである。
「質問はダンジョン探索だけとは限らないからね。
さぁ、早く答えてくれないかな?」
「お兄様、ずるいですよ……
私は"待った"を使います!」
幼い頃は妹であるリリアには何をするにも"待った"が一回許されていた。
「はははは、その歳で"待った"はないだろう」
真剣に"待った"をする妹の顔がカークは可笑しくて堪らない。
「私が" 待った"を使えるは昔からのルールです。
お兄様がダンジョン探索について知っていることを全て教えて下さいませ!」
リリアは"待った"を使った上に抽象的な質問をする最終手段に打って出た。
「全く、リリアには敵わないな」
昔から成長していない妹を見てカークは全面的に降伏をした。
「お兄様、早く教えて下さいませ!」
こうしてリリアはダンジョン探索の情報を全て手に入れてから、先ほどの「アルマが義理の姉になる」質問の返事に「勿論、大歓迎です」と答えたのであった。




