【第二章プロローグ】黒服の男の反省と決意
クーデター失敗から数日が経ったある日のこと。
公爵邸の前で黒服の男が佇んでいる。
だが、ここはバイアリターク王国ではない別の国である。
「やはりアースドラゴンを討伐されてしまった時点で計画は破綻していたようです……」
悔しさを噛み殺して黒服の男が呟いた。
魔導具研究所によるアースドラゴン討伐の報に耳を疑ったのは、未だ彼の記憶に新しいところである。
クーデター計画では洞窟に確保しておいたアースドラゴンを彼の持つ"召喚のスキル"を使ってホークワイド領に出現させ騎士団を引き付けることになっていた。
「フッ、ハイオークではアースドラゴンの代わりにはなりませんでしたね」
アースドラゴンに勝るとも劣らない魔獣が用意できる目処は付いていたが、宰相に追い込まれた公爵がクーデター計画を前倒しにしたお陰で予備として確保しておいたハイオークの群れを使わざるを得なかったのである。
「それと、あの場に魔王と勇者がいたのが大きな誤算でした……」
計算高い彼もバージョンアップされたゲームで遊ぶために魔王が再びバイアリターク王国を訪れているとは夢にも思っていなかったようである。
「それから、クラーケンとコカトリスを失ったのも痛かったですね」
ホークワイド領でアースドラゴンが暴れ始めたタイミングでクラーケンとコカトリスを召喚すれば王都に残っていた騎士達も援軍として出動せざるを得なくなる。
そして、がら空き状態になった王都にガークウィン子爵が傭兵団を引き連れて入場して各部隊の支援に回る予定であった。
だが、アースドラゴンに続いて二匹とも魔導具研究所に討伐されてしまった。
残念ながらこちらの代わりは目処さえ立っていなかった。
「計画の障害になるのは宰相と大司教だけだと思っていたのですがね……」
今度はバイアリターク王国のある方向を見て忌々しそうに呟く。
「ホークワイド領のゲーム、交通渋滞の解消、貧民街の治安の回復、国王の部屋のインターホン……
魔導具研究所とやらに悉く邪魔をされてしまいました」
悔しさが一周したのか黒服の男は笑みを浮かべている。
「極めつけは、あの強い酒に酔った公爵が計画を吐露したことでしょうね。
それにしてもどなたも使えない方々でした……」
公爵や子爵に本気でクーデターを起こす気があったのか、彼は甚だ疑問に思うのだが今となっては後の祭りである。
「後で動かし易いと思ったのが間違いでしたね」
なまじ頭が切れる者を担ぐと後で面倒なことになるものである。
だから、担ぐ御輿は軽いに越したことはない。
彼が公爵に目を付けたのは、そんな理由からである。
「今回の計画は失敗に終わりましたが奴等の実力が把握できたのがせめてもの収穫です」
これは、決して負け惜しみではなくバイアリターク王国でのクーデター計画は彼の壮大な計画の初歩に過ぎない。
彼にとってはクーデター計画など"成功すれば儲けもの"程度でしかなかったのである。
「しかし、魔族には"受けた屈辱は倍にして返せ"という掟があります」
まるで前世の銀行マンが主役のドラマの台詞のようであるが彼はそう教えられて育ってきた。
「次は容赦はしませんよ。
ですが、奴等の実力を考慮して計画を練り直す必要があります。
暫くの間は新たに召喚したアレの相手をして頂きましょう」
そう呟いて、黒服の男は公爵邸の中へ消えていった。
この後、バイアリターク王国には六十年振りにダンジョンが誕生したという報せがもたらされることになるのであった。




