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【第七十三話】クーデターの夜(教会本部)

 「「「それでは、お先に失礼します」」」


 リリアとアルマとミレイの三人は女子会の用意があるため午前中で仕事を切上げることになっている。


「リーネ君も会合があるらしいから、午後から休みだったよな……」


 だからと言ってユウイチが女子会に参加する訳にもいかない。


 そもそも、誘われてもいない。


 何故ならユウイチは男の子だからである。


「ちょうどいい機会だからアレを試してみよう」


 ユウイチは予てより考えていた構想実現に向けて空いた時間を有効利用することにした。


「名付けてOPS計画だ!」


 断っておくが、"OPS"とは前世の野球の長打率を表すものではなく、"王都ポジショニングシステム"の略称である。


 もう、お気付きだと思うがユウイチは前世の超便利システムである"GPS"を王都で再現しようとしているのである。


 もし、"OPS"が実現すれば馬車に"カーナビ"ならぬ"バーナビ"を付けることが可能である。


 もしかしたら駅馬車の位置情報を乗客に伝えることができるかもしれない。


 "OPS"が実現できれば夢は広がるばかりである。


 ここで前世の"GPS"を簡単に説明すると、衛星が「いつ発信したか」という正確な時間情報を電波に乗せて送り、受信機は受け取った時間との差を測り距離を算出している。


 三つの衛星で緯度、経度、高度を特定して四つ目の衛星で受信機側の時計のズレを修正しているらしい。


 ユウイチの考えでは、受信機は魔導具で実現可能だが問題となるのは送信機である。


 前世の""GPS"の送信機である衛星は上空二万キロメートルを飛んでいる。


 王都をカバーするのにその高さは必要ないが、それでも現行のドローンが飛べる十メートルと言う訳にはいかない。


 高さが十メートルなら四十五度の角度に魔力を飛ばせれば半径十メートル内なら受信は可能なはずである。


(注:計算が間違っている可能性があります。何故なら、数学が苦手だからです)


 もう一つの問題である正確な時間であるが、今のところドローンと受信機が共有できていれば良いので、これは何とかなりそうである。


 ユウイチは現行の偵察用ドローンを一気に八台に増やして研究所周辺で試してみることにした。


「あっ、忘れてた正確な地図が必要なんだよな……」


 研究所だけなら測量すれば正確な地図は作れそうである。


 その際に基準点を取っておけば、緯度と経度の替わりになるものを設定できる。


 これは、飽くまで実験なのだから仮のものでも問題ない。


「これは、リーマンブラザーズに頼んでみるか……」


 元大工のトンテなら、測量ができるだろうとユウイチは考えた。


 もし、できなくても遣り方を説明すればやってくれるかもしれない。


 何故ならリーマンブラザーズはドワーフだからである。


 ユウイチは、老護院へ出向いてリーマンブラザーズを探したのだが見つからなかった。


「あははは、俺の発明した魔導具のせいで忙しいのか……」


 工房に手伝いに来ていた老人によるとリーマンブラザーズは形状記憶窓と現状回復壁の設置で超が付くほど忙しいらしい。


 少しだけリーマンブラザーズに申し訳ない気持ちである。


「うーん、今日のところは送受信の確認だけにしておこうかな」


 ユウイチはドローン八台と前世のスマホに似せた端末二台に時計機能を付与した。


 時刻のズレが修正できるように標準時間を刻む時計も魔導具で作っておく。


「よし、これらを使って送受信のテストだな」


 だが、ユウイチが窓の外を見ると日が暮れようとしている。


「やっばりテストは明日にするか。

 四人に手伝ってもらった方が効率良くテストできるだろう」


 ユウイチは、テストを諦めて八台のドローンを偵察モードに切り替えて飛ばしておく。


 そして、ユウイチが研究所の戸締まりをしようとしたところにカミューヨが訪ねてきた。


「所長様、お願いがございます」


「何でしょうか?」


 ひょっとしたら、ミエスクからの言伝で、無理難題を吹っ掛けられるのではないかとユウイチは身構える。


「何も聞かずに、こちらの工房で孤児院の子供と老護院の老人を預かって欲しいのです」


 だが、カミューヨの話す内容は予想外のものであった。


「えーっと、詳しい話は聞いちゃ駄目なんですよね。

 食事などはどうしましょうか?」


 ユウイチは詳しい話は聞かずに必要なことを聞いた。


 何故なら、今は夕食を食べる時刻だからである。


 もし済ませていないなら、老人は我慢できても子供は我慢できないはずである。


「少しだけなら用意してあります」


 そう言ってカミューヨはパンらしき物が入った袋を二つ見せる。


 幾らなんでも、これでは少なすぎるとユウイチは思う。


「ちょうど、女子会用に作った料理の余りがあるんですよ。

 一人では食べきれそうにないので、良かったら皆さんで召し上がって下さい」


 ユウイチはお裾分けを兼ねた食品ロス回避案を申し出た。


 何故なら、食べ切れずに廃棄しているところを子供達に見られたら恨まれるかもしれないからである。


「それは、助かります。

 司祭を二人付けておきますので、所長様はゆっくりとお休み下さい」


 この時のカミューヨの眼差しが厳しかった理由をユウイチは暫く経ってから思い出すことになるのだが、この話は今は置いておく。


 何故なら、それを書いてしまうとネタバレするからである。(書かなくてネタバレしているかもしれない)


「さあ、たくさんあるから遠慮しないで食べていいぞ!」


 これだけの人数に対して司祭二人では手が足りないだろうと思いユウイチも手伝うことにした。


「おじちゃん、ありがとう!」


 ユウイチからスープを受け取った小さな女の子がお礼を述べる。


 だが、ユウイチは"おじちゃん"呼ばわりには耐性がある。


 何故なら、前世では姪っ子がいたからである。


 それと、恐れるのは親しみが込められた"おじちゃん"よりも、嫌悪が込められた"おじさん"と呼ばれるようになることである。


「"おじちゃん"じゃなくて"お兄さん"だぞ」


 後ろに並んでいた年上の男の子が女の子を注意しているが、さすがにお兄さんは言い過ぎである。


「あははは、どちらで呼んでも構わないぞ」


 ユウイチは子供達に優しく語り掛ける。


 何故なら、見た目は若くても中身は"アラフィフ"のおっさんだからである。


「一通り行き渡りましたので所長様も座って召し上がって下さい」


 いつもは一人きりの夕食だが、大人数で食べる夕食は楽しいものである。


 だから、今夜は無礼講である。


「皆さんには、これを」と老人達に魔女殺しを勧めたが、大司教から「今晩は控えて下さい」と厳命されているらしい。


 全員が食事を終えると就寝までは自由に過ごすようである。


「所長様、工房の出入口は何ヵ所ありますか?」


 カミューヨが真剣な眼差しで尋ねてきた。


「えっと、事務所へ続く扉と倉庫へ続く扉がありますが、外へ出るには事務所を通らなければ出られません」


「窓から外へ出られますか?」


「シャッターを降ろしていなければ可能です。

 窓はあちら側に三ヶ所ありますよ」


 司祭の二人は避難経路を確認しているようだが、ユウイチは詳しいことは聞かないでおく。


 何故なら、最初に「何も聞かずに」とカミューヨに言われているからである。


「それでは、子供達はこちら側に固まって寝て下さい」


 倉庫へ続く扉の近くに子供達が集められているので火災を想定していることはないようである。


「俺は事務所のソファーで寝るので、何か困った事があったら遠慮せずに言って下さい」


 ユウイチは念のため事務所で寝ることにした。


「これが必要になるような事態にならなければいいけどな……」


 ユウイチは、念には念を入れて手の届く場所に魔導マシンガンをおいておく。


 何故なら腕っぷしには自信がないので、強力な飛び道具で身を護るためである。


 暫くすると、工房から話し声が聞こえなくなったので全員が眠りに就いたようである。


 ユウイチもソファーに横たわってウトウトしていると、「ピンポーン」とインターホンが鳴った。


「シェーケン殿、何かあったのか?」


 モニター画面にシェーケンの顔が"ドアップ"で映し出されている。


 だが、それを見て笑ったりツッコミを入れたりはしないでおく。


 何故なら、シェーケンの表情から察するに、そんな場合では無さそうだからである。


「ドローンにやられた奴らが公園に転がっているんだ。

 念のためこっちの様子を確認に来たんだよ」


 シェーケンに同行した騎士二人に留守番を頼んだユウイチは魔導マシンガンを携えてシェーケンに付いて行く。


「シェーケン殿、この二人がここの首魁のようだな」


 ドローンの映像を確認したユウイチは、そう判断した。


「そのようだな。

 とにかく二人の身柄は騎士団で預かるとしよう」


 シェーケンが合図をすると、何やら言い合っている二人を騎士が連行していく。


「シェーケン殿、神官達に被害はなかったのか?」


「大司教様の指示で神官達は騎士団の詰所の三階に集まっていたから被害はない。

 施設の損壊の確認に付いては夜が明けてから行うつもりだ」


 詳しい事情はシェーケンが改めて報告してくれるようである。


 何故なら、数時間もすれば夜が明ける時間だからである。


「どうやら、残党はいないようだから所長殿はゆっくり寝てくれ」


「そうか、それなら魔女殺しでも飲んで寝るか」


 ユウイチは緊張感から解放されたのだが、少しばかり興奮しているので直ぐには眠れそうにない。


「飲むのはいいが、所長殿が酔って暴れたら俺達が寝る時間がなくなるからな」


「あははは、できる限り気を付けるよ」


 クーデターの舞台になった割には長閑な会話で締め括られたのであった。


 何故なら、被害が出る前にドローンが撃退してくれたからである。

 

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