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笑撃の異世界発明狂想曲  作者: 亀山小太郎
転生王都編
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【第七十一話】勝者と敗者

 ロベルトが率いる先遣隊がホークワイド邸に到着したのは数分前のことである。


「ホークワイド卿、一体これはどう言うことですか?」


 屋敷に着くや否やロベルトがホークワイドに質問をした。


「はははは、隊長殿の見た通りだよ。

 特に説明は不要だと思うがな」


 そう言って笑うホークワイドとロベルトの目の前にはハイオークの死体の山が聳え立っている。


「これを見ればハイオークが討伐されたことは分かります。

 しかし、失礼ながらホークワイド卿の手勢だけでは不可能だと思いますが?」


 恐らく、積み上げられているハイオークとホークワイドの手勢は同じぐらいの数である。


「ん、確かにそうであるな。

 だがな、我が領地には彼らがおるのだよ」


 ホークワイドが見詰める先には勇者と魔王がARゲームを楽しんでいる。


「フッ、魔王はまだゲームに飽きていなかったのですか?」


 王国中に広まった"魔王と勇者の奇跡"は、もう随分と前の話である。


「先週、"新バージョン"とやらが導入されたのだよ。

 だから、また二人してゲームで遊んでおるのだよ」


 ホークワイドの話によれば、ゴーグルの中の仮想現実でゲームを楽しんでいた者達にハイオークの群れが襲いかかったらしい。


 ゲームの中ではランカーであったとしても、さすがに現実世界のハイオークにはなす術がない。


 その様子を見た魔王が「ゲームの邪魔をするな!」とハイオークの群れに対してキレたようである。


 そして、ゲームを中断した魔王はハイオークを瞬殺したのだそうである。


「なるほど……

 理由を聞いて納得しました」


 俄には信じられない話ではあるが、ロベルトは無理矢理にでも納得することにしたようである。


「うむ、魔導具研究所は本当に役に立つ。

 ははははは、ははははは……」


 ホークワイドの高笑いが深夜のホークワイド領に響き渡っていた。


「合図はまだか?」


 その頃、城門前で待つ子爵の確認の回数は、先ほどの八回から更に五回増えて十三回目になっていた。


「どうなんでしょうね」


 もう真剣に答える部下は一人もいない。


「子爵殿、こんな時間に武装して集まっているとは何事ですかな?」


 突然、背後からの呼び掛けられた子爵は"ハッ"として振り返った。


「子爵様、王都騎士団です」


 部下の一人が子爵に耳打ちしたが、時既に遅しである。


「何だと、誰も気が付かなかったのか?!」


 その場に子爵の怒鳴り声が響いた。


 これは、子爵が花火の合図を気にし過ぎる余り全員の意識が上を向いていた結果である。


 これでは、部下を責めることはできないと言うものである。


「おい、"命あっての物種"だ。

 皆、逃げろ!」


「王城騎士団なんかに敵う訳がない」


「話が違う、やってられっかよ」


 屈強な騎士団の登場に傭兵達は蜘蛛の子を散らすよう四方八方に逃げ出していった。


 残された僅かな手勢では騎士団に抵抗することもできず子爵を始め全員が武装を解除した。


 そして、その場で団長のリズンスターによる尋問が始まった。


「改めてお聞きしますが、軍勢は何のために集まっていたのですか?」


「ん、ホークワイド領からハイオークの群れが此方に向かっておると聞いてな。

 こうして、備えておったのだよ。

 そんなことよりも、ハイオーク討伐に向かたはずの騎士団がここにいるのは何故だ?」


 これは、計画を知っている子爵の当然の疑問である。


「何処にいようと我等の自由と言うもの。

 しかし、子爵は何処からハイオークの情報を得たのですかな?」


 リズンスターがギロりと子爵を睨み付ける。


 その迫力に思わず子爵は目を逸らした。


「ホークワイド領より逃げ出して来た者からに決まっておるであろう。

 お前達も直ちにホークワイド領へ向かったらどうなのだ?」


 内心はドキドキだが子爵は精一杯、強がって見せる。


「そんな筈はございません。

 何故なら、ハイオークの群れは被害が出る前に魔王に瞬殺されてのですからな」


「な、何だと……

 そんな戯言、誰が信じると言うのだ」


 これは、現地に行った者でさえ信じ難い出来事である。


 当然のように子爵は呆れ返っている。


「子爵様、大変でごさいます」


 そこへ、タイミング悪くホークワイド領から偵察隊が戻ってきた。


「い、今は王都騎士団の団長殿へ事情を説明しておる。

 そ、その方の報告は後ほど聞かせてもらう……」


 己が放った偵察隊の登場で先程よりも心拍数が跳ね上がり子爵のドキドキが止まらない。


「隊長殿、我々の事は気にせず報告下さい」


 リズンスターが偵察隊のリーダーを一睨みして凄んで見せる。


 団長の迫力に怯んだ隊長は魔王がハイオークを瞬殺した事実を子爵に告げた。


「子爵殿、これでお分かり頂けましたかな」


「そんな馬鹿な……」


 子爵はがっくりと項垂れるしかなかった。


 一方、宰相邸ではパーシアが取り押さえられている。


「何故、貴様達が宰相の屋敷におるのだ?

 イテテテ……」


 護衛騎士に腕を取られて首根っこを押さえ付けられているパーシアがミレイを見上げて悪態をついている。


「あら、私が何処にいようと貴方には関係がないではありませんか?」


 ミレイはパーシアを見下ろしながら悠然と答える。


「公爵様を裏切った身で偉そうな口を叩くな。

 イテテテ……」


 人に首根っこを押さえ付けられているのだから大人しくすればいいものを未だパーシアは悪態をついている。


「フッ、私は公爵様の仲間になった覚えはございませんわよ」


 ミレイの言う通り、規制局の職員だから味方だと思う方が間違いなのである。


「えーい、うるさい。

 それよりも、何故ここにいるのだ?

 答えろ!

 イテテテ、イテテテ……」


 パーシアの学習能力は頗る低いようである。


「私は正式に女子会に招待されておりますの。

 それより何故、招待されていない貴方がここにいらっしゃるのかしら?」


 パワードスーツを着たミレイが魔導マシンガンの銃口をパーシアに向けている。


「み、ミレイ様、迫力がありすぎます」


「そうですよ、仮にも伯爵令嬢なのですから」


 同じくパワードスーツを着て武器を手にした二人が駆け寄ってくる。


「女子会だと……」


 パーシアは、女子会と聞いて絶句している。


 今日はリリア主催の"お茶会"と"晩餐会"と"お泊まり会"を兼ねた"女子会"が催されているところであった。


 三人がパワードスーツを着ていたのは、ちょっとした遊び心からである。


 だが、突然のラボラトリー・エンジェルズの登場で屋敷の者達がリリア達の下に集まってしまい持ち場には誰もいなくなった。


 そこへ運悪くと言うか運良くと言うかパーシアが現れたのである。


「ほう、ラボラトリー・エンジェルズは一人でも恐ろしいものだな」


 剣を納めながらリリアの兄のカークが近寄ってくる。


「お兄様、軽口は止めて下さい。

 伯爵令嬢に向かって失礼ですよ」


「は、早く謝らないとカーク様も同じ目に逢うと思います」


 カークはアルマの進言通り素直にミレイに謝っていた。


 そして、教会本部ではユウイチとシェーケンが何やら話し合っている。


「シェーケン殿、この二人がここの首魁のようだな」


「そのようだな。

 とにかく二人の身柄は騎士団で預かるとするか」


 そう話す二人の前にはリボーとトゥルビヨンが縛られて横たわっている。


「トゥルビヨン、ドローンとやらには気を付けろと口を酸っぱくして申したではないか?」


「はい、耳にタコができるほど聞いていたので私は常に二台を見張っていましたよ。

 リボー様こそ気を付けていなかったのですか?」


「私も二台をしっかり見ておったぞ」


 捕まった後の責任の擦り付け合いほど見苦しいものはないが小物同士ならよく見る光景である。


「でも、二人が同じ二台を見ている必要はないですよね?」


「ドローンとやらは、二台だと聞いていたので仕方があるまい」


 普通ならば、盗賊崩れの侵入未遂事件があったのだから相手が対策を取っていると考えるはずである。


 それを全く考慮していないところが役所の幹部ぽい二人である。


「あははは、ドローンは八台体制にしたばかりなんだよな」


 盗賊崩れの侵入事件の後にユウイチは偵察用ドローンを追加しておいた。


 これは偵察用と言うよりも前世のGPSの様な使い方を視野に入れての八台体制である。


 二人は細かくなったドローンの網の目に見事に引っ掛かったと言うわけである。


 これで残る公爵派の軍勢は王城の前で待機する公爵軍だけとなったのである。


「何が何でも遅すぎる。

 それに何処からも連絡が来ないのも腑に落ちぬ……」


 公爵は既に配下の者が敵方の手に落ちていることを知らない。


「未だ何処からも知らせが届いておらぬのか?」


「はい、何処からもございません」


 そんなやり取りをしていると"カツカツカツ"と蹄の音を響かせながら一人の騎士が公爵に近付いてきた。


 一斉に攻撃態勢に入る護衛騎士を公爵が右手で制する。


「公爵様、陛下始め皆様がお待ちです。

 武装を解いて御一緒願えますかな?」


 下馬した騎士が公爵に国王の伝言を伝えた。


「陛下だと……」


 騎士は黙って頷いたが公爵はまだ事の次第が理解できないでいる。


「公爵様、事は既に終わったのです」


「終わっただと?」


 これは芝居ではなく余りにも短時間で体勢が決してしまい本当に理解できていないのである。


「城門でガークウィン子爵、教会本部ではリボー殿とトゥルビヨン殿を捕らえました。

 そして、宰相邸ではパーシア殿が捕らえられております」


 騎士の説明を受けて計画の失敗を悟った公爵の肩から"スッ"と力が抜けた。


 公爵は護衛騎士に武装を解かせて素直に投降した。


 騎士の先導で王城のエントランスのエスカレーターで上へと昇っていく。


 公爵は"ひょっとするとエスカレーターに乗るのはこれが最後になるかもしれない"等と感傷に浸るような玉ではない。


 頭のなかではこれから行われるであろう尋問のシュミレーションが何度も行われているのである。


 そして、頭の中で五回目のシュミレーションが終わった頃に謁見の間に到着した。


 大きな扉が開かれると既に捕縛され連れて来られた子爵達が情けない表情をして公爵を見ている。


 "フッ、馬鹿者どもが、貴族なら最後まで毅然としておれ"と公爵は心の中で呟く。


 謁見の間の壇上の前に見慣れた憎き顔が見えた。


「公爵様、お身体の調子はどうかしら?」


「暴れられるぐらいには回復されているようですぞ」


 教会の女狐と田舎出の狸がからかうように話している。


 この期に及んでこの二人に向ける言葉など公爵にはない。


 ただ、またしても野望を阻まれた悔しさだけが込み上げてきている。


「儂は、そなたら二人ではなく陛下に呼ばれたはずだが?」


 精一杯、感情を抑えて公爵が尋ねた。


「お待ちしておりました公爵殿。

 陛下は自室でお待ちです。

 此方へどうぞ」


 謁見の間の外から侍従長が公爵に声をかけた。


 公爵は宰相と大司教に一瞥をくれると入ってきた扉へ向かって歩いてく。


「皆、ご苦労であったな」


 捕縛された子爵達の前を通り過ぎる時にせめてもの労いにと公爵が言葉を掛けた。


 公爵の労いの言葉に子爵達は悔しそうに俯いていた。


 そして公爵は謁見の間から長い廊下を進んで国王の自室の前に立った。


「公爵様、此方のボタンを押して下さい」


 侍従長が促した通りに公爵がボタンを押すと、"ピンポーン"とチャイムが鳴った。


「ん、こんな朝早くに余の寝室を訪ねてきたのは誰かな?」


 インターホン越しに国王の声が聞こえてきた。


「お休みのところ申し訳ございません。

 公爵家、ゴルディ=カーリアンであります」


 自分が何をやらされているか理解できないが公爵は名乗った。


 そして、国王の言葉を待っている。


「公爵か今までご苦労であったな。

 沙汰は追って伝える。

 それから、聴取には進んで協力するようにな」


 "ガチャ"っと音がしてそれ以降は声が聞こえなかった。


「ゴホン!」


 公爵は咳払いをして、侍従長に説明するように目で訴える。


「陛下はかねてよりインターホンを使いたがっておられました。

 此度、公爵様のご協力でやっと念願が叶いました」


「そ、そうか……」


 クーデターの件で国王直々に沙汰があるのだろうと身構えていたが、国王から盛大な肩透かしを喰らって茫然自失で立ち尽くす公爵であった。

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