【番外編】美魔女の館
魔導ルームランナーが発売されて一ヶ月が経った。
自室で人知れずダイエットに励むことができる魔導ルームランナーは貴族の女性に大人気である。
「ユウイチさん、魔導ルームランナー以外に健康器具ってあるんですか?」
この、何気ないリリアの一言が一大プロジェクトの始まりである。
「他にもあるが適度に運動するのが目的なら魔導ルームランナーで十分じゃないかな」
ユウイチはそう答えたのだが、リリアの面白い物センサーが素早く反応した。
「ユウイチさん、他の運動器具も試してみたいです」
「そうか……
バリエーションがあった方が飽きなくていいかもしれないな」
それからユウイチは、五日に一台ぐらいのペースで前世のジムにあるようなトレーニングマシンを再現した運動器具を増やしていった。
「うーん、少し増やし過ぎてしまったかな……
お陰で、事務所が手狭なってしまった」
「そうですね。
運動器具を置く専用の部屋が欲しいところですね」
またしてもリリアの一言によって女性専用のトレーニングルームをリーマンブラザーズに協力してもらって建てることになった。
「リリア君、呼び名が"トレーニングルーム"では味気なくないか?」
「そうですね……
せっかく女性専用にするんですから、それに因んだ名前がいいですね」
"女性専用"とは"ユウイチの立ち入り禁止"の意味である。
これは、ユウイチの目を気にせずに四人が自由に使えるように配慮した結果である。
シャワーと化粧室は勿論のこと談笑が可能な待合室も作ってある。
「リリア君、"美しさを追求する魔女の集まる部屋"と言うのはどうだろう?」
王都の民は魔女に例えるのが好きなようなのでユウイチはそれに倣ってみた。
「女性受けしそうですが、もう少し短い方が呼びやすいですね」
ユウイチは、長いタイトル名が多かった前世のラノベ小説の影響を受けたのかもしれない。
だが、結局は省略して呼ぶようになるのでリリアが言う通り始めから短い方が良いかもしれない。
「それなら、"美魔女の館"ではどうかな?」
「何となく意味深ですが呼びやすそうですね」
どうやら、リリアも賛成のようなので建物に"美魔女の館"の看板を設置した。
それから数日が経ったある日のこと。
「ユウイチさん、この服装では動きづらいんですけど……」
リリアが着ているゴワゴワとした工房の作業服は少し走るぐらいなら問題はなかったが、運動器具を増やした為に適していないことが分かったのである。
「それもそうだな。
もっと動き易くて汗をかいても大丈夫な服が必要だな」
またしてもリリアの一言から運動に適した服が作られることになった。
ユウイチは前世の学校の体操服風のジャージをデザイン画としてスウィフトに渡した。
急な依頼にも関わらずスウィフトは直ぐに仕上げてくれた。
「やっぱり四色用意してあるんですね」
スウィフトに四人の服を頼むと必ず四色用意される。
出来上がった黄色のジャージを苦笑いしながらリリアは試着していた。
それからまた数日が経ったある日のこと。
「ユウイチさん、"美魔女の館"が教会で奉仕している女性の神官の間で噂になっているようです」
日が暮れると窓のカーテンにトレーニングしているリリア達の姿が影絵のように映し出されている。
それを見た女性の神官の間で、中で何が行われているのかと話題になっているようである。
「よし、教会の施設で奉仕している女性は無料で美魔女の館を使えるようにしよう」
「皆さん、きっと喜びますよ!」
またしてもリリアの一言が発端となり、ユウイチは教会施設の女性に"美魔女の館"を無料解放することを決めた。
それに加えてラボラトリー・エンジェルズのカラーの中から好きなカラーのジャージを選べるようにもした。
「私はリーネお姉様と同じ赤にしました」
「私は可愛らしいアルマグリーンを選びました」
好きな人と同じカラーのジャージを着ることで自然とテンションも上がるようである。
これは前世の推し活でメンバーカラーを身に付けるのと似ているかもしれない。
そして、口コミで広がった噂により美魔女の館は連日のように満員御礼状態となっている。
教会騎士団の女性騎士は「普段は鍛えられない部分を鍛えられるのが良い」と"美魔女の館"に通う目的を語る。
教会の神官は「神に仕える私は心身ともに磨かねばなりません」と語る。
更には、バーガー・カテドラルのスタッフが「ファストフード店のイメージを守るためにスッキリとした体型を目指さねばなりません」と語っている。
皆が各々にトーレーニングする目的を持っているようである。
そして、"美魔女の館"が無料開放されて暫く経ったある日のこと。
「皆、熱心に取り組んでいます。
ですからトレーニングの成果が分かるようにしてあげたいですね」
成果が数字に現れるとモチベーションのアップに繋がるものである。
「リリア君、それはいい考えだな。
トレーニングを続ける理由付けにもなるしな」
またしてもリリアの一言からユウイチはバーコードシステムを使って個人データの管理システムを作りあげた。
このシステムは、先ず美魔女の館専用カード(通称ウィッチーズパス)に魔力を登録することから始まる。
それから、運動器具を使用する前と後に"ピッ"とタッチすれば使用時間などのデータが蓄積されていくのである。
勿論、女性が気になるであろう体重やスリーサイズなどが計測可能な魔導具も用意しておく。
「ユウイチさん、この極めて重要な個人情報が漏れたりしないのでしょうか?」
これらのデータは女性にとっては命の次に大切なものである。
「そうだな、心配ならリリア君が個人情報を管理するか?」
「私がですか?」
「こればかりは俺がやるわけにもいかないだろ?」
「それは絶対に駄目ですよね。
確実にリーネさんやミレイ様から確実に怒られます」
この一言で、本人とリリア以外はシステム内の個人情報が閲覧できないようになった。
トレーニングの成果が目に見えて分かる様になると更に多くの女性が"美魔女の館"を訪れるようになった。
そして、ウィッチーズパスが導入されて数日が経ったある日のこと。
「ユウイチさん、明日の夜に大司教様が"美魔女の館"をご利用なさりたいそうなのですが……」
「リリア君、皆まで言わなくても分かっている。
取り急ぎ大司教専用のジャージを用意しよう!」
まさか、大司教に向かってラボラトリー・エンジェルズの四色の中からジャージを選べとは言えない。
こうして大司教のために急遽としてピンクのジャージが用意された。
「ユウイチさん、大司教様のウィッチーズパスは皆と同じで問題ないですよね」
このリリアの一言でユウイチは大司教専用のゴールドウイッチーズパスを作った。
前世でもこちらの世界でもゴールドカードは一段上のクラスを表すものである。
大司教は"美魔女の館"を気に入ったらしく、忙しい合間を縫って足繁く通っているようである。
そして、大司教がゴールド会員になってから数日が経ったある日のこと。
「ユウイチさん、洗濯をすると乾かないこともあるので替えのジャージが欲しいそうです」
「そうだな冬場は乾き難いからな。
それならもう一着用意しよう」
「では、ピンクを多めでお願いします」
リリアによると神官達は二着ともエンジェルズの推しカラーと言う訳にはいかないらしい。
これは神官達による大司教に対する忖度だろうとユウイチは想像する。
そして、"美魔女の館"にピンクのジャージが増えて数日が経ったある日のこと。
「リリア君、すまないがマシンの利用状況を教えて欲しいのだが?」
人が増えて順番待ちの時間がながくなっていないか気になったユウイチがリリアに確認した。
「えーっと、"グルートマシン"と"チェストプレスマシン"の二つの使用が突出してますね」
胸を前方のパッドにつけて踵でプレートを強く押しながら息を吐いて足を後方に押し出すのがグルートマシンでこれは主に"大臀筋"に効く。
それと、シートに深く腰掛けて両サイドのグリップを軽く握り手前に押し出すのがチェストプレスマシンでこちらは主に"大胸筋"に効く。
ベンチプレスやエアロバイクなどは女性騎士以外にはあまり人気がないようである。
「ユウイチさん、どうしてこんなにも差があるのでしょうか?」
「何と言うか、これは"女の勘"だろうな……」
リリアの質問にユウイチは染々と答えるが、歳を重ねた女性が重力と言う名の敵と戦っていることは敢えて口には出さないでおく。
ユウイチはマシンがどの様な効果をもたらすのかは説明していない。
だが、実際に使用する中でグルートマシンとチェストプレスマシンがどの部分に効いているのか女性達には分かったようである。
「何だか最近、上がってきましたわ。
この辺りが……」
「鏡に映るシルエットが少し変わりましたわ。
この辺りが……」
そして、自分の身体で結果を理解した。
女性の情報伝達スピードはドラゴンの飛行速度よりも速い。
そして情報伝達の範囲はドラゴンブレスよりも広いのである。
「リリア君、グルートマシンとチェストプレスマシンを増やすか?」
ユウイチの問い掛けにリリアは静かに頷いた。
数日後、美魔女の館にグルートマシンとチェストプレスマシンが三台づつ追加で設置されて女性達を歓喜させた。
今、王城では口コミの噂を聞いた王妃の強い要望により"美魔女の館"の視察計画が検討されているようである。




