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笑撃の異世界発明狂想曲  作者: 亀山小太郎
転生王都編
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【第五十六話】音声拡張機

 建国祭が終わり王都は無事に新たな年を迎えられたようである。


 このところ何かと賑やかで騒がしい日々が王都では続いているのだが、その震源地である魔導具研究所だけは本日も通常モードである。



「それでは対策会議を始めます。

 先ずは研究所のメンバーの自己紹介です。

 私は当研究所で助手をしておりますリリア・アレミロードです。

 よろしくお願いします」


 魔導具研究所のただ一人の生え抜きであるリリアがいつものように会議の仕切り役を務めている。


 王都の民からは竜騎士として認知されているリリアだが、王立学院の魔法課を平凡な成績で卒業していることは余り知られていない。


「私はミレイ・ファーレン。

 魔法規制局から研究所に出向してきております」


 ミレイはファーレン伯爵家の令嬢で魔法課を首席で卒業した才女である。


 その毒舌は止まるところを知らないが、珠に見せる可愛らしさが彼女の魅力である。


 また、多くの貴族令嬢の憧れの存在でもある。


「リーネ・クロイツよ。

 私も商業ギルドから出向してきてるわ」


 表の顔は大商家の令嬢だが、実は裏の顔を持っている。


 研究所の中では姉御的な存在であり、新たに生まれた百合族とM男の憧れの存在である。


「あ、アルマ・シャルードです。

 私は王城から出向してきてます 」


 あがり症ではあるが思ったことはしっかり言うタイプである。


 近頃、王都のお父様方のアイドル的な存在になりつつある。


「所長のミズシマユウイチです。

 お力になれるように頑張ります 」


 この研究所の所長であると同時に、王都に様々な騒動を巻き起こしてきた問題児である。


 こちらの世界では彼が転生者と言うことを知る者は少ない。


「これは皆様、ご丁寧にありがとうございます。

 私は教会で司祭を務めているカミューヨと申します。

 研究所の力で私達の声を礼拝堂の奥まで届けて欲しいのです」


 いかにも教会のシスターといった感じで、"ピシッ"と身嗜みを整えた女性が挨拶をした。


 聞くところによるとカミューヨは大司教の側周りの世話もしているようである。


 あの大司教の側で仕えているのだから、人並み外れた胆力の持ち主であると想像するに難くない。


「以前、私が儀式に参列した時には、後ろまで声は届いておりましたわよ」


「み、ミレイ様が仰る通りです。

後ろにいてもはっきりと声は聞こえていました」


 王都に住む貴族は十歳になると洗礼の儀式を教会の礼拝堂で行うのが慣例となっている。


 その儀式に何度か参列した経験のある二人によると声が聞こえないと言うことはなかったようである。


「お二人が仰っておられるのは小礼拝堂での儀式のことだと存じます。

 問題は年に数回だけ行われる大礼拝堂でのお話でございます」


 教会の入り口から真っ直ぐに進むと地下の小礼拝堂に突き当たる。


 貴族は一族単位で儀式を行うことが多いため、殆どがこの小礼拝堂を使って儀式が行われている。


「教会には滅多行かないけど、一度だけ大礼拝堂で行われた合同の儀式に参列したことがあるわ」


 庶民が参列するような儀式は多くの人が入る事ができる大礼拝堂が使われるらしい。


 多くの寄付をする貴族には個別に儀式を行うが、寄付の少ない庶民は纏めて儀式が行われる。


 この辺りもリーネが教会を毛嫌いする理由の一つである。


「そうでしたのね。

 私も教会に行く機会が少ないものでよく知りませんでしたわ」


 リーネとミレイは教会本部の施設の一つである研究所に通っていることを分かって言っているのだろうかとユウイチは少し心配になった。


「人が教会に来てまで神に祈るのは、ご自分を助けて欲しい時だけでございますから何ら問題はございません。

 逆を申せば、人が教会で神に祈る必要がない世界が我々の望むところでございます」


 このカミューヨと言う司祭はミレイとリーネを相手にして何ら臆するところがない。


 だがらユウイチは、心の中でカミューヨに感心するとともに、"一触即発の事態になって嵐が吹き荒れませんように"と神に祈っておく。


 これが、カミューヨが言った"自分を助けて欲しい時だけ"なのだが、その事にユウイチは気が付いていない。


「それでは、大礼拝堂の奥まで声を届かせるにはどうすれば良いか意見のある方はお願いします」


 場の空気を読んで上手に本題に戻したリリアは、ユウイチにとって救世主である。


「参列者を声が届く範囲に制限すれば宜しいのではなくて?」


「儀式の日取りや形式は慣例により全て決まっておりますので、これを違える訳には参りません」


 ここで、ミレイ対カミューヨの開戦の狼煙が上がりそうになった。


 ユウイチは"神様ヘルプ"と叫びたくなってしまいそうである。


「一度に行いたいのなら、この届く範囲で幾つかのグループに別れればいいんじゃない?」


「先ほども申しましたが、儀式の形式は決まっておりますので違える訳には参りません」


 カミューヨの四角張った答えにリーネの顔が前世の閻魔様のように険しくなっている。


 もし地獄の入口でリーネにあったなら絶対に嘘はつかないでおこうとユウイチは心に誓う。


この、ただならぬ空気を察知したアルマは"神隠し"に遭っているかの様に完全に気配を消し去っている。


「ユウイチさん、儀式の日取りと形式は今まで通りで何か良い方法はありませんか?」


 ここでリリアが突如としてユウイチに話を振った。


 だが、ユウイチからすれば緊迫した場面で指名されるなのど、神も仏もあったものではない思いである。


「うーーん、そうだな。

 音声を拡張する魔道具を作ってみるのはどうだろうか?」


 ユウイチは慎重に言葉を選びながら提案してみた。


「音声拡張でございますか?」


 カミューヨの表情が、まるで地獄で仏に会ったかのように"パッ"と明るくなった。


「今、私の耳には音声拡張と聞こえましたが、聞き間違えではごさいませんわよね?」


「ええ、確かに所長は音声拡張と言ったわ」


「わ、私にも、はっきりと音声拡張と聞こえました」


「絶対に音声拡張で間違いありません!」


 素材採集の旅を経てラボラトリー・エンジェルズの連携が神憑り的な進歩をみせている。


 これが、連携攻撃の神髄と言っても過言でないほどである。


「今回は音声機能ではく音声拡張だから、そんなに心配しなくてもいいと思う。

 まぁ、神には誓うとまでは言えないけどな…… 」


 ユウイチは、自ら音声を発する魔導具ではなく、音声を拡張させるブースター的な魔導具を考えている。


 魔石が前世の記憶を持っている仮説が正しければ、鳴き声の大きい魔獣の魔石をチョイスすればよい。


 前世のホエザルの鳴き声は数百メートル先まで届くそうである。


「私達は、所長さんの神をも恐れぬ所業を数々見て参りましたわ」


「今更、神に誓われてもね」


「も、問題が起こっても神の悪戯で済まされそうです」


「でも、人の行いを神様は見ているんですからね」


 またしても、エンジェルズの四連ツッコミがユウイチに襲いかかった。


「皆、安心してくれ"正直の頭に神宿る"ものだよ。

 カミユーヨさん、そうですねよね?」


「世間では、そう言われておりますね」


 最後は神頼みになったユウイチに、四人はお手上げ状態である。


 こうしてユウイチが音声拡張の魔導具を作ることで会議は決着した。


 ユウイチとしては、やるだけやって結果は神のみぞ知ると言ったとこである。



 対策会議から一週間が経ったある日のこと、五人が揃って教会本部を訪れている。


「ここが大礼拝堂なのですね。

 研究所から直ぐの場所にあったなんて気がつきませんでしたわ」


 人は興味のないことには気がつかないものである。


 だから誰もミレイのことを責めてはいけない。


「そうね、私もすっかり忘れていたわ」


 人は興味のないことはすぐに忘れてしまうものである。


 だから誰もリーネを責めてはいけない。


「わ、私は知っていたけど興味がなかっただけです」


 正直なことは、とても良いことである。


 だから誰もアルマを責めてはいけない。


「私はよくお祈りに来ています」


 教会本部の施設である魔導具研究所の面目を守ったリリアを皆で称賛しよう。


「これから地方の神官が集まる儀式が執り行われるらしい。

 今日は、この場を借りて音声拡張機のテストをさせて貰うことになっているんだよ」


 既に大礼拝堂に音声拡張機を設置済みである。


「私は、規制局での報告会に出席する予定が入りましたの……」


「私は、これから繊維組合の会合がある予定なのよ……」


 "皆で、一緒に参列しないか?"とユウイチが誘う前に二人はそそくさと大礼拝堂から退散した。


「ゆ、ユウイチ所長、私は参列します」


「私も、面白そうだから参列します」


 だが、アルマとリリアは参列しくれるようである。


 だからと言ってミレイとリーネを責めてはいけない。


 何故なら、神は罪を憎んで人を憎まないものである。


 そうこうしているうちに大礼拝堂にぞろぞろと神官達が入場してきた。


 こんな数の神官が一ヶ所に集まっては、業務が滞ったりしないのだろうかとユウイチが心配になるぐらいに集まっている。


「確かに、これは人が多いですね」


「り、リーネさんによると庶民の儀式では、礼拝堂に入りきらないこともあるそうです」


 前世の野外フェスでもスピーカーを使って音と声を届けていた。


 壇上からかなりの距離がある後方まで、肉声を届けるのは難しいだろうとユウイチは分析する。


「それで音声拡張機ってどんな仕組みなんですか?」


 面白い物センサーの反応しているリリアがユウイチに質問した。


「簡単に言うとスタンドマイクに付いている魔石に魔力を流しながら話すと、受信機であるスピーカーから声が発せられる仕組みだな」


「お、音声文字変換と似た仕組みですね」


「アルマ君の言う通りだな。

 違いは、届いた声をプリンターで文字に変えるか、スピーカーで響かせるかだけだな」


 アルマは音声文字変換機の仕組みをよく覚えていたなとユウイチは感心する。


 やはり人は興味があることは、よく覚えているものなのだろう。


「ユウイチさん、儀式が始まるみたいですよ」


 ユウイチがリリアの声に振り返ると壇上に一人の女性神官が立っていた。


 見たところスタンドマイクに手を置いているようなので、恐らく魔力を流しているのだろうとユウイチは思う。


「皆様、遠いところよく参られました。

 只今から儀式を開始しいたします」


 非常に美しい声が音声拡張機のスピーカーから響き渡っている。


「今日は、我々のいる所まで司教様の声が届いているではないか」


「我々も司教様の声を聞くことができるとは感激です」


 ユウイチの周りの神官達の反応を見ればテストは合格だと言うことがわかる。


 もしかしたら、神官達は"これが神の御業だ"と思っているのかもしれないとユウイチは自惚れている。


「よし、確認もできたことだし我々は研究所に戻るとしよう」


「「はい」」


 三人は儀式の邪魔に成らないように静かに大礼拝堂を後にしたのである。


 それから、一ヶ月が経ったある日の大礼拝堂で、神官を集めた儀式が執り行われている。


「今日も神様がいらっしゃっるのだろうな」


「このところ、儀式の度にいらっしゃっているからな」


「こうして神に仕える我々を見守ってくださるのだから光栄なことではないか」


 厳かな儀式が始まる前に参列した神官達が何やらにこやかに談笑している。


「それでは儀式をハジメマス」


 壇上の司祭がマイクに向かってしゃべった言葉が、まるで前世のヘリウムガスを吸ったような変な声になっている。


「ミナサマ、神の前にテヲ合わせひざま付いてクダサイ」


 司教が話せば話すほど、声がおかしなことになってしまうようである。


「クックックッ、今日は神様の悪戯が過ぎるのではないか?」


「フフフ、良いではないですか。

 皆が集まったことが、神様もよほど嬉しいのでしょう」


 これは、スタンドマイクの魔石に流す魔力が乱れると声がヘリウムガス声になってしまうしいのである。


 この珍事が初めて起きた時に大司教のミエスクが"皆さん、笑わないで下さい。これは神様の悪戯なのですよ"と誤魔化した。


 それ以来、神官達はミエスクの言葉に倣っているが、既に真実は知れ渡っている。


 だから、司教達は壇上での進行役の順番が来ることに戦々恐々としているらしい。


「来月は私の番なのだが、大司教様に地方支部に転属を願い出ようかな」


 真剣に考えている司祭は少なくはないようで、その説得に大司教は苦労しているらしい。


 さすがの大司教でも"嘘も方便"とはいかなかったようである。



 後日談。


 教会本部の敷地内に神官が寝起きをする寄宿舎がある。


 その中に一部の者しか出入りが許されない場所が存在する。


 それが、ミエスクの寝起きする大司教専用の宿舎である。


「大司教様、ただいま戻りました」


「お疲れカミューヨ。

 それで研究所の様子はどうでしたか?」


 ベッドと簡素な家具しかなく生活感が殆ど感じられない部屋でミエスクがカミューヨを待っていた。


 教会本部の司祭であるカミューヨは、表向きはミエスク専属の側仕え役ということになっている。


「魔導具研究所の中では特に怪しい動きは確認できませんでした」


「魔導具は問題を起こしてばかりですが……

 働く者は特に問題なしですか」


 遠い目をして染々と話すミエスクの言葉をカミューヨは黙って聞いている。


「教会本部の施設だけでも本が大泣きしたり渡り鳥になったり、車椅子でのレースが開催されたりしましたわね。

 朝になると着用者が凍っているなんてこともあったかしら……」


 このボヤきともとれるミエスクの話もカミューヨは黙って聞いている。


「それで、魔獣討伐の話はきけましたか?」


「いえ、私は自ら神に仕えることを選んだ身ですから特には……」


 突如としてミエスクが話題を変えたが、カミユーヨは話に乗って来なかった。


 だが、言葉少なに答えたカミユーヨの両手は"ギュッ"と握られている。


 実はカミューヨは十三歳になるまで、傭兵団に育てられていた過去を持っている。


 十五年前のある日のこと、傭兵団の拠点が魔獣に襲われて、生き残ったのはカミューヨだけであった。


 傷ついた身体で森を彷徨っているカミューヨを、たまたま通りかかったミエスクが助けたのである。


「……そうですか。

 もう下がってよろしいですよ」


「では、失礼します」


 カミューヨは一礼すると部屋を後にした。


 一人になったミエスクは紅茶を飲みながら独り言ちる。


「私の思い違いだったのかしら……」


 先日、老護院の慰問と称して冒険者ギルドから借りてきたアースドラゴンの討伐の試写会が行われた。


 元冒険者の老人達がやいのやいの騒ぐなかで、カミューヨは口を真一文字に結び映像を真っ直ぐに見詰めていた。


 そのカミューヨの目は決っして神に仕える者の目ではないとミエスクは感じたのである。


「フゥー、あの娘は神に救われるべくして救われたのに……

 けれど、これでは完全に救われたとは言い難いわね……」


 ミエスクはもう一口、紅茶を口に含み静かに目を閉じて呟いた。


「また今夜もあの娘は、あの日の夢を見て魘されるのかしら……」

 

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