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【第五十五話】粉もんパーティー

 ユウイチ達はクラーケンを討伐して港湾都市ミストハーバーから王都に戻って来てた。


 建国祭の準備で人々が忙しなく動き回っている様は、ユウイチに前世の師走を思い起こさせる。


 昨年は、花火大会が大成功(?)を納めたが、今年は魔導具研究所として何を行うのかユウイチは頭を悩ませている。


「ユウイチさん、クラーケンの引き取ってもらう日取りは決まっているんですか?」


 リリアは、建国祭の事よりも漁港から連れて帰ってきたクラーケンの方が気になっているようである。


「未だ、ヴィーラング殿から連絡は来ていないな。

 今は、年末の処理が忙しくてクラーケンどころじゃないんじゃないかな」


 ご多分に漏れずヴィーラングも王都中を走り回っていることだろうとユウイチは思っている。


 幸いクラーケンは蛸壺の中で"カチンコチン"に凍っているので、急いで引き取ってもらうこともない。


「ユウイチさん、今回のクラーケンも丸ごと買い取って貰うんですよね?」


「そうだな、クラーケンは素材というよりも殆どが食用だしな」


 リリアにそう言いながら、ユウイチはクラーケン料理についてアレコレと考えてみる。


 先ず、頭に浮かんだのは前世の駅弁でよく食べた"たこ飯"である。


 蛸壺を模した容器に入った"たこ飯"は正に引っ張りだこの人気であった。


 次に居酒屋で酒の肴にした唐揚げや酢の物などメニューが続く。


「話しは変わりますけど、リーマンブラザースさんが完成した屋台を確認して欲しいって言っていましたよ」


 ユウイチが頭の中の居酒屋でタコ唐をツマミに中ジョッキを煽っているところにリリアの声が聞こえてきた。


「屋台とビールと蛸料理…… 

 リリア君、それだよ!」


 ユウイチが"バン"と机を叩いて立ち上かった。


 どうやら、ユウイチの思考の中でクラーケンと屋台が上手く結び付いたようである。


「それだよって、どれのことですか?」


 ユウイチとは長い付き合いのリリアだが、さすがに頭の中のことまでは分からない。


「リリア君、今から冒険者ギルドへ行ってくるから留守番を頼むよ」


「は、はい、構いませけど屋台の確認はどうするんですか?」


 リーマンブラザーズに任せておけば屋台の仕上がりに不安はない。


「リリア君、リーマンブラザーズは後回しだ。

 それよりも今はクラーケンの方が大事だ!」


 そう言い残してユウイチは、大慌てで事務所から駆け出して行った。



 それから、時は流れて建国祭まであと一週間に迫ったある日のこと。


「皆、聞いてくれ。

 今年の建国祭は"粉もんパーティー"でいくことにした!」


 頭にねじり鉢巻をしたエプロン姿のユウイチが堂々と宣言した。


「所長さん、"こんなもんパーティー"って何かしら?」


「ミレイ様、違うわ"これだもんパーティー"よ?」


「ふ、二人とも違います。

 ゆ、ユウイチ所長は"こなぱんとティー"と言ったはずです」


「いえ、三人とも聞き間違えています。

 "コレモンバディー"が正解ですよね、ユウイチさん?」


 前世の食い倒れの街の名物である"粉もん"は、こちらの世界の住人である四人にとっては初耳の言葉である。


 (注:突然ではあるが、ここからは副音声も交えてお伝えする)


「四人とも違う、"こ・な・も・ん・パーティー"だ」


(副音声:あんさん、耳の穴かっぽじってよう聞きなはれや)


 ユウイチは、四人が聞き取り易いように敢えてゆっくりと話した。


「"粉もん"ですか?」


 今回は聞き取れたようだが、"粉もん"の意味までは分からないようである。


(副音声:ええか、説明するのはただでっさかいよう聞いとくんなはれや)


「粉もんとは主に小麦粉を使った料理の総称だよ。

 去年の屋台で出した"焼きそば"や"たい焼き"、それから"タピオカ"なんかも含まれるんだよ」


 タピオカの原料は芋の粉だから広義の意味で粉もんに含んでもクレームは来ないだろ。


 (副音声:ここは異世界でっせ、そないなことでクレームなどきやしまへんがな)


「所長のことだから、前回と同じメニューを出すわけじゃなさそうね?」


 商業ギルドから出向してきているリーネは、粉もんパーティーに興味があるようである。


「勿論、新メニューを出す。

 昨年のメニューだけだと、競合するだろうからな」


 さすがに、一年もあれば"焼きそば"や"たい焼き"は模倣されてしまう。


「屋台の新メニューですか? 

 何だか面白そうですね」


 リリアの面白い物センサーが反応したようである。


 (副音声:やっぱり人生はオモロイのが一番でんな)


「それで、新メニューの準備はできているのかしら?」


「フフフ、

 ミレイ君、その辺りに抜かりはない。

 既に屋台の確認はできている。

 必要な機材も用意したし、食材もばっちり確保してある」


 ユウイチは粉もんパーティーに向けて、ヴィーラングに三種類の肉を手配してもらっている。


 (副音声:わてのやることに抜かりはおまへんで)


「それでは、今から順番に作っていくので四人には試食をしてもらって、感想を聞かせてもらうことにしよう」


 そう言うとユウイチは、屋台で使う魔導具のホットプレートを用意して調理にとりかかった。


 先ずは、外は"カリッ"として、中は熱々で"トロッ"としている。


 クラーケンの歯ごたえがアクセントになっているたこ焼きである。


(副音声:ええか、たこ焼きと明石焼きはちゃいまんねんで)


「い、一気に頬張ると口の中で"ホフホフ"としなければなりませんが、とても美味しいです」


「これを上品に食べていては、美味しさが半減しそうね」


 次にユウイチは、水で溶いた小麦粉に刻んだキャベツと解きほぐした卵などを入れてかき混ぜる。


 そして、熱々の鉄板に油をひいてさきほどのネタを広げて焼いていく。


 おっと忘れてはいけないのがアースドラゴンの薄切り肉である。


 これを乗せてコテで"クルッ"とひっくり返す。


 両面がこんがりと焼けたらソースをかけて出来上がるのが、たこ焼きと並ぶツートップの一角の"お好み焼き"である。


 (副音声:今回は豚玉ではのうて竜玉でっせ)


「ユウイチさん、生地とソースとドラゴン肉のハーモニーが堪りませ」


「これは、比較的お上品に食べられますわね」


 そして最後は親指サイズにカットしたコカトリスの肉を串に指す。


 それを、溶いた卵に付けてパン粉をまぶし"ジュワ"っと油であげる。


 こんがり揚がったらソースに付けて食べる。


(副音声:おっと、ソースの二度漬けは禁止でっせ)


「そのままでも美味しいけどソースをつけると美味しさが一段上るわ」


「ひ、一口サイズなので食べ易いです」


 四人があれもこれもと、次から次へと手を伸ばしては口に運んでいく。


 お陰でユウイチの食べる分が無くなってしまった。


「ユウイチさん、どの料理も美味しいです」


「所長さん、どの料理もソースとの相性がバッチリですわ」


「焼きたて揚げたてが味わえるのがいいわ」


「お、美味しいけど舌を火傷してしました」


 約一名、猫舌が紛れ込んでいるみたいだがどれも好評のようである。


 (副音声:これはかなり儲けが期待できまっせ)


「これが、粉もんパーティーだ。

 建国祭の屋台の成功は間違い無しだと思わないか?」


「「「「はい、大丈夫です!」」」」


 新メニューのプレゼンは四人の胃袋を満たして無事に終了したのであった。


 そして、いよいよ建国祭当日を迎えた。


 屋台の調理担当はユウイチが務める。


 アルマは調理補助、それから観光に来ていたモーメイブに無理を言って仕込み役を頼んだ。


 リーネが呼び込み係でミレイが会計係り、そしてリリアが接客を担当する。


 モーメイブが連れてきたレイラはお手伝いを申し出て、リリアに観光案内をしてもらう約束を取り付けていた。


 序でに様子を見にきたヴィーラングには行列の整理、ローブスタにはゴミの片付けを頼んでおいた。


 "なにわともあれ"、このメンバーで"粉もんパーティー"を開催する。


「所長さん、この法被というものは着なければなりませんの?」


「何となく、所長の悪意を感じるんだけど……」


「り、リーネさんの言う通りです。

 デザインがパワードスーツっぽいです」


「でも、法被を着るとお祭り気分が盛り上がってきますね」


 ユウイチがスウィフトに依頼して作ってもらった法被の色がパワードスーツの色と被っているためか屋台の前にしだいに人集りができ始めた。


「ねぇ、ミレイ様にお釣りを手渡しされたわ。

 この銅貨は私の一生の宝物よ」


 貴族の子女らしき少女が大切そうに銅貨を握り締めている。


「おい、見てみろよ。

 リリア様の動きにそつがないだろう。

 あの動きができるからアースドラゴンと渡り合えたんだな」


 学院の騎士課の学生らしき少年が、狭い屋台のスペースを縦横無尽に動き回るリリアに感心している。


「アルマ様が頑張っている姿を見ると私も頑張らねばと思わされますな」


 壮年と言ってもいい年齢の貴族の男性が両手の拳を握り締めて、懸命にユウイチの補助をするアルマを見詰めている。


「リーネお姉さまに声をかけられました……

 今日という日を私は決して忘れません」


 女性はうっとりとしながらリーネを熱い眼差しで見ている。


 既に購入した客から、研究所の屋台の噂は口コミでどんどん広がっていった。


 暫くすると屋台前の広場は押すな押すなの大混乱に陥ってしまった。


 群衆に囲まれて役目を全うできそうにないリーネとヴィーラングは既に屋台の中に避難してきているが、ゴミ拾いのローブスタは人混みに揉まれて屋台に辿り着けそうにない。


「所長殿、このままでは怪我人どころか死人が出かけない。

 お願いだから屋台の営業を中止して欲しい」


 混乱を収集させるために教会騎士団を引き連れたシェーケンが現れた。


 将棋倒しが起きては大惨事になりかねないので、シェーケンの申し出は至極当然のものである。


 だが、営業の中止を聞いた群衆がパニックを起こしたりしたら、もっと危険である。


「うーん、ではこうしよう!」


 ユウイチはシェーケンに何やら耳打ちをした。


 それを聞いたシェーケンが直ちに団員に指示を出した。


「お前達は今から店を手伝え。

 いいかこれは団長命令だ、逆らうことは許さない」


 断ろうにも、団長命令では団員達に拒否権はない。


 全員が、すごすごと屋台の手伝いに入る。


 その効果もあってか、暫くすると人集りが綺麗に整列された行列に変わっていく。


 一人、また一人と商品を受け取っては、大はしゃぎで走り去っていく。


「ふぅー、所長殿の提案で事故もなく終わったな」


 シェーケンは、最後の一人に商品が手渡されたのを見て安堵している。


 その時、蒼白い光が走り天から大量の水が降ってきた。


 どうやら、花火大会のフィナーレである水を降らす魔法陣の花火が打ち上げられたようである。


 辺りはびしょ濡れで屋台の屋根からも大量の水が流れ落ちてくる。


 屋台の中では苦肉の策で、購入者全員にサインを書かされ疲れ果てた四人がユウイチを睨み付けている。


「あははは……

 これがあることをすっかり忘れていたな。

 文字通り全てを水に流そうじゃないか?」


「「「「この件は簡単には流しませんよ」」」」


 王都は無事に新年を迎えたが、ユウイチが無事に新年を迎えられたかは定かではない。

 

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