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【第二話】自動ドア

 先日の自走式掃除機の失敗は、前世とこちらの世界の違いを計算に入れていなかったからであるとユウイチは結論付けた。


 再度、前世の技術をこちらの世界で役立てようとユウイチは新たな魔導具を発明したのである。



「ユウイチさん、あのドアはいつ取り付けたんですか?」


 勝手に開閉した事務所のドアに驚いたリリアがユウイチに駆け寄って聞いた。


「どうだリリア君、自動ドアは便利なものだろ?」


 ユウイチがリリアに向かって渾身のドヤ顔をして言い放った。


 ユウイチはこちらの世界に来て自動ドアの有り難みが身に染みて分かったのである。


 前世では当たり前のようにあったものが無くなるととても不便である。


 不便があれば何とかしてそれを解消したいのが技術者と言うものである。


 これが今回、ユウイチが自動ドアを発明した経緯である。


「横着しないでドアぐらい自分で開け閉めすればいいじゃないですか、私は自動ドアは必要ないと思いますよ」


 意外なことに面白い物に目が無いはずのリリアの食い付きが悪い。


 もしかしたら両親のどちらかにドアの開け閉めに関して厳しく躾られて育ったのかもしれない。


「リリア君、それは全ての発明品を否定する言葉になりかねないぞ。

 ひいては我々の存在も否定する事になる危険な考え方に繋がるものだぞ」


 ユウイチは自身の持つ技術者の矜持を穏やかな口調でリリアに語って聞かせた。


「ユウイチさんの言ってる事は分かりますが、やはり自動ドアには必要性を感じません」


 対するリリアは持論を引っ込める気は全くないようで徹底抗戦の構えをみせている。


「リリア君、もし両手に荷物を持っている人が閉まっているドアの前にきたらどうする?」


 そう言ってユウイチは持っていた書類を床に置いてドアを開ける動作をしてみせる。


 ユウイチも受けて立つ構えである。

"絶対に負けられない戦い"と言う訳ではないが、こちらの世界の常識で育ったリリアを納得させられない様では前回の二の舞の可能性もあるとユウイチは考えている。


これは謂わばリリアに対する社内プレゼンの様なものである。


「手が塞がっていては開けられませんから当然の行動ですよね」


 今の説明ではリリアの心に何も響かなかった様であるが、プレゼンは始まったばかりである。


「それではドアが自動で開いてくれたらどうだろう?」


 そう言ってユウイチは先ほど床に置いた書類を持って立ち上がり一歩前に出た。


「まぁ、その場合は確かに便利ではありますね」


 今の説明はリリアの心に少しばかり響いた様で、ここは一気に畳み掛けるチャンスである。


「開ける必要がなければ閉める必要もない。

 更に言えば、杖を突いたお年寄りも難なく通ることができる」


 ユウイチはオーバーアクション気味に腰を屈めながらリリアをチラッと見る。


「自動ドアに人が挟まれることはないんですか?」


 ごもっともな指摘であるが、その辺りに抜かりはないのである。


「あそこに魔力を感知するセンサーが付いているんだよ。

魔力に反応している間はドアが閉まらない様になっているんだよ」


 ユウイチはドア上部に付いている小さなガーゴイル像を指差した。


 ユウイチはシーサーか狛犬か、はたまた金剛力士像かと迷った末にガーゴイル像を選んだ。


 これは、こちらの世界で多く見られる西洋建築風の建物に似合いそうだからと言う単純な発想からである。


「魔力を感知するんですか……

 ところで魔力を全く持たない人はどうするんですか?」


 こちらの世界の殆どの動植物は大なり小なり魔力を体内に秘めているのだが、稀に魔力がゼロの動植物も存在する。


 これは人間にも例外なく当てはまることである。


「そんな人は魔石を持っていれば大丈夫だな。 

このセンサーが正常なら問題なく通れるはずだよ」


 ユウイチは指紋認証方式も考えたのだが、とても面倒臭そうなので早々に諦めて魔力感応方式を選んだようである。


「それでこの自動ドアは規制局の審査をパスできたんですか?」


 どうやらプレゼンは大詰めを迎えているようである。


「そんなに複雑な魔導回路を組み込んでいないから問題なく許可が降りたよ」


 再びドヤ顔のユウイチがリリアに向かって右手の親指を立て付き出した。


「ユウイチさん、もう一度通って来てもいいですか?」


 プレゼンは無事に成功したようである。

 自動ドアの利便性に納得したリリアは暫く出入りを繰り返してはしゃいでいた。



 自動ドアの発売から二週間が経ったある日のこと。


「ユウイチさん、自動ドアが凄く噂になっているようで、自動ドアを設置したお店はどこも行列ができているようですよ」


 事務所の自動ドアが開ききる前に駆け込んできたリリアがユウイチに話し掛けた。


「フッフッフッ、今回は利便性を追求した俺の勝利だな」


 今回はクレームが来ることはないだろうとユウイチは自信満々で腕を組み胸を張ってみせる。


「それと、出入りする時に挨拶するパージョンと音楽が流れるバージョンを追加で発売したんですよね?」


「自動ドアの開閉が分かるように魔力センサー部分に音響機能の魔法陣を付与したんだよ」


 リリアに褒められた気がしたユウイチは更に胸を張った。


「入る時と出る時で挨拶の言葉が変わるって友達が驚いていましたよ」


 出たり入ったりのジェスチャーを交えながらリリアが友達の体験談を楽しそうに話してくれる。


 挨拶の言葉が変わるのは魔方陣の効果だが、ここでは敢えて詳しい説明はしない。


 決して読者に突っ込まれるのを恐れている訳ではなく、飽くまで企業秘密なのである。


「ユウイチさん、今回こそ特別報酬が出ますよね?」


「リリア君、受注した分をきちんと納品できれば特別報酬も夢ではないぞ」


 それを聞いてニコッと微笑むリリアに釣られてユウイチも微笑んだ。



 自動ドアが発売されてから一ヶ月が経ったある日のこと。


「ユウイチさん、商業ギルドから自動ドアの経過報告が届きましたよ」


 そう言いながらリリアが書類の束を机に置いた。


 前回の自走式掃除機では経過報告で結構な数のクレームがあることが判明した。


 嫌な予感を抱えながらもユウイチは書類に目を通していく。


「自動ドアが気に入った人しか通さないので機嫌を取りながら使っています」


「店員に嫌われている客には高速で開閉させるなどの意地悪をしますね」


「私が入る時は嬉しそうにしますが、出る時にはなかなか開けてくれません」


 報告書を読んだユウイチは天を仰いで目を閉じたまま固まってしまった。


「ユウイチさん、これって掃除機の二の舞ですよね?」


「あははは……、そうなるな」


 リリアのツッコミにユウイチは前を向いたが苦笑いをして誤魔化すしかなかった。


「それにしてもスライムを使っていない魔導具が、どうして自我を持ってしまったんでしょうね?」


「ウーン、どうしてだろうな」


 ユウイチは考える素振りをしているが、思い当たる節が無いわけではない。


 恐らく、音響機能の魔法陣と魔力識別機能の魔法陣の相互干渉が原因である。


 何がどうしてこうなったかの説明は企業秘密なので敢えてしないことをご理解頂きたい。


「幸い取り替えて欲しいとかのクレームは来てないんですよね?」


「それは来ていないな。

 自動ドアも可愛がれば自走式掃除機のようにペットの替わりになるかもしれないからだろうな」


「ユウイチさん、餌が必要ない自動ドアはペットの替わりにはなりませんよ!」


 リリアのジト目に耐えられずユウイチは再び目を閉じて固まってしまったのである。



 後日談。


 王都の庶民に人気のある料理屋"ルガーノ"は本日も大盛況のようである。


「やっぱり、この店は看板娘のプルミエちゃんの存在があってこその人気だよな」


 ルガーノは決して料理の味が悪いわけではないのだが、話題の中心はいつもウエイトレスのプルミエである。


「おい聞いたか?

 遂に例の貴族の次男坊がプルミエちゃんに求婚したらしいぞ」


「あぁ、あの野郎か……。

 いくら貴族と言ってもアレは頂けないよな」


 件の次男坊はわざわざ庶民の店にやってきては横柄に振る舞う盛り場の嫌われ者である。


 しかし、貴族の次男坊であるが故に庶民には対抗手段がないので始末が悪いのである。


「プルミエちゃんも可哀想にな。

 無碍にできないもんな 」


「俺達も何とかしてやりてぇんだが、お貴族様相手に喧嘩を売るわけにもいかねぇしな」


 常連客はいつもプルミエの心配をしているが、何もできないことに歯痒い思いをしていた。


「イラッシャイマセ」

「いらっしゃいませ」


やって来た常連客を自動ドアとプルミエが出迎えた。


「おっ、これが王都中で噂になっている自動ドアか?」


「はい、とても便利ですよね」


 先日、ルガーノにも魔導具研究所の自動ドアが設置されたのである。


「帰る時には"アリガトウゴザイマシタ"って言うんですよ」


「ほう、入る時とは言葉が違うんだな」


ここ最近、ルガーノにしては珍しく話題の中心がプルミエではなく自動ドアになっている。 


 そんなある日、この男がルガーノにやって来たのである。


「プルミエ嬢、今宵こそは良い返事を聞かせておくれ」


「けっ、嫌な奴が来やがったな。

プルミエちゃん、大丈夫かな?」


 常連客が呟いた通り、嫌われ者の次男坊が店にやって来たことでプルミエの表情が曇った。


 これまで何度も求婚を断っているのだが、次男坊は一向に諦める気配がないのである。


「さぁプルミエ嬢、僕の手を取ってくれたまえ」


 貴族の次男坊がそう言って手を差し出した瞬間に"バッ"とドアが閉まった。


「なんだ、どうしてドアが閉まったのだ?

 この私に対して無礼じゃないか!」


 門前払いを喰らった格好の次男坊がドア越しに怒鳴っている。


「ココハアナタノクルバショデハナイ」 


「何だと!

 ……と言うか誰だお前は?」


 次男坊が辺りをキョロキョロと見回すが、声の届く範囲に人影は見えない。


「モウイチドイウオマエノクルバショデハナイ」


「貴様、卑怯だぞ姿を現せ!」


 声はすれども姿は見えない相手に次男坊の怒りがどんどんヒートアップしていく。


「ワタシナラココニイルゾ」


 そう聞こえた瞬間に自動ドアが少しだけ開いた。


 それを見た次男坊は人伝に聞いた挨拶する自動ドアの噂を思い出した。


「ふん、馬鹿馬鹿しい。

 ドアが喋るはすがないであろう。

 その奥に誰かいるはずだ。

 今から行ってやるから顔を見せろ!」


 次男坊は少し開いたドアの隙間に身体を捩じ込んで店内を窺う。


「ぐぇー、痛い!

 やめろー! 」


 次男坊が身体を捩じ込んだ瞬間に自動ドアがゆっくりと閉まっていく。


 挟まれた次男坊はどうにかして逃れようとじたばたしているがドアはジワジワと閉める力を強めていく。


「分かった、帰るから……

 頼むから離してくれ…… 」


「ニドトコナイトチカウカ?」


「あぁ、誓う……

 二度と来ないから…… 」


 その言葉でドアが"バッ"と開き次男坊はどてっと尻餅を付いた。


 ほうほうの体で逃げ帰る次男坊を見送るように、ゆっくりとドアが閉まっていく。


「やったな、プルミエちゃん。

 アイツはもう来ないってよ 」


「この自動ドア最高だな。

 差し詰め、プルミエちゃんの護衛騎士ってところだな」


「はい、皆様ご心配して下さってありがとうございました」


 喜ぶ常連客達にプルミエは涙ぐみながら深く一礼をした。


「今日は目出度い日だ。

 皆に一杯奢るぜ! 」


「おっ店主、嬉しいこと言ってくれるね」


「やったな、今夜はとことん飲むぞ!」


 厨房から出てきた店主の一言で客は更に盛り上がった。

 

「しかし、何で自動ドアは次男坊を店に入れなかったんだ?」


「自動ドアも次男坊のことが気に喰わなかったんじゃないか?」


「俺はプルミエちゃんの願いを神様が叶えてくれたんだと思うな」


 酒を煽りながら酔った常連客同士が話をしている。


 だが、実は次男坊が来店した時点で店主がこっそりと"迷惑客撃退モード"に設定を変更したのはここだけの秘密である。


しかし、真相を知らない者達が次男坊撃退事件を面白おかしく広めてしまったために自動ドアが人を選ぶと言う噂が立ってしまったのである。


こうして、人々は自動ドアのちょっとした誤作動を大袈裟に捉えてクレームとして商業ギルドへ報告したのであった。

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