【第一章プロローグ】バイアリターク王国建国神話
創造神が新たな世界を創造した。
「先ずは灯りが必要じゃな」
創造神の一言で世界を明るく照らす"光の女神"が生まれた。
「創造神様、少し疲れたので眠ります」
生まれたばかりの光の女神が眠りに就くと、世界はたちどころに暗くなった。
この時、世界に昼と夜が生まれ、同時に時間が生まれた。
「おはようございます、創造神様。
今日は何をなさるおつもりなのですか?」
光の女神は、とても寝起きとは思えない程に元気である。
「今日は色々と試してみたいことがあるんじゃよ」
「それは、とても楽しみです」
好奇心旺盛な光の女神が目を輝かせて下界を見つめている。
「先ずはこうじゃ」
創造神が擦り合わせた両手から溢れ落ちた物で世界に平らな場所が出来上がった。
この時、世界に土が生まれた。
それから、創造神が魔力で"えいっ"と平らに広がった土を動かすと山ができ上がった。
暫くして、山が「ドカーン」と轟音を響かせて噴火した。
この時、世界に火と音が生まれた。
火口から吐き出された噴煙が神界まで届き、覗き込んでいた光の女神の目に入った。
光の女神の目から零れた涙が雨となり降り注いだ。
この時、世界に水が生まれた。
創造神が放った魔力と光の女神の涙に入っていた魔力で大地は満たされた。
そして、火で暖められた水が水蒸気となり上昇気流が発生した。
この時、風が生まれた。
こうして、世界に魔力と"光・闇・土・火・水・風"の属性が揃った。
そして、暫く経ったある日のこと。
「創造神様、今日は何をなさるおつもりですか?」
「うふ、この間の続きをしようと思うておる」
「続きですか、何だか面白そうです」
光の女神が見詰める中、創造神が手から生み出した物を下界へ落とした。
落とされた物が地中に埋まり暫くすると芽を出した。
この時、世界に植物が誕生した。
「とても可愛いです。
早く大きくなると良いですね」
光の女神の言葉で植物がグングンと成長した。
そして、魔力が濃い土地からは魔木や薬草が生まれた。
「何だか、美味しそうな物がぶら下がっています」
女神が一本の木に実った赤い果実を見て垂らした涎がぽとりと落ちた。
その涎はプルプルとした塊になりモゾモゾと動き出し世界にスライムが生まれた。
「ふむ、なかなか面白そうではないか。
儂も動く物を作ってみるとするか」
創造神が手当たり次第に動く物を作り出した。
この時、世界に多様な動物が生まれた。
そして、魔力の濃い土地の動物は魔力の塊である魔石を宿した魔獣が生まれた。
「創造神様、何だか世界が混沌としています」
魔力を持て余した魔獣が何百年も争いを繰り返していた。
「ふむ、世界を管理するものが必要だな」
創造神はそう言うと、開いた手のひらにフッと息を吹き掛けた。
「創造神様、あの面白そうな動物は何ですか?」
光の女神は大きな口と背中に翼が付いている四本脚の動物を指差した。
「名前はとても大切である。
あれは、ドラゴンと呼ぶことにしよう」
こうして、世界の管理者として"光・闇・土・火・水・風"の属性を持つ六体のドラゴンが生まれた。
「創造神様、ドラゴンのお陰で無事に世界が治まったようです」
「ふむ、ドラゴンは儂が授けた叡智を巧く使って治めておるようじゃ」
創造神はドラゴンを褒めることで自分自身を褒めた。
この時、世界に自画自賛が生まれた。
「ドラゴン以外にも叡智を持つ者がいるようです」
実体を持たぬ精霊の末裔が魔力を固めて実体を得た。
この時、世界にエルフが生まれた。
そのエルフは暴風竜より叡智を授かった。
叡智のお陰でエルフは魔力を込めて色々なことができるようになった。
この時、世界に魔法が生まれた。
「ほう、二足歩行とは珍しい生き物だな」
「創造神様、私も作ってみたいです」
光の女神は二種類の二足歩行の生物を生み出した。
この時、世界に獣人と人間が生まれた。
獣人は身体能力に優れていたが、人間は何も持っていなかった。
「可哀想なので、ツルツルして弱々しい人間には聖輝竜より叡智を授けましょう」
「光の女神よ、この世界は"優勝劣敗"が決まりである。
人間に余り肩入れするものではないぞ」
創造神が光の女神を止めた。
「それでは、せっかく作った人間が滅んでしまいます……」
「よし、それならば他の世界から人間に似た生き物を呼んでくるとしよう」
こうして、世界に転生者が現れた。
「良いか、これから儂らは見守るだけじゃ。
決して手出ししてはならぬぞ」
創造神の一言により世界は住人達に任されることになった。
この時、世界に自治が生まれた。
そして、数百年が経ったある日のこと。
「人間達は滅びることなく頑張っているみたいです」
久しぶりに下界の様子を見た光の女神が安堵している。
転生者がもたらした知識は言葉と文字で伝えられ、この世界に合うように変化していった。
「獣人はエルフから叡智の一端を教えられたようです。
人間にも叡智を与えたいところですが、創造神様からは禁止されています。
ですから、バレないように私の使徒である聖輝竜ではなく蒼水竜を使いましょう」
創造神から過度の干渉を止められている光の女神は一計を案じて、自身の生み出した属性を持つ蒼水竜にこっそりと伝えた。
「どうやら、創造神様にはバレていないようです」
この時、世界に思いやりと嘘が生まれた。
それから数百年が経ったある日のこと。
「人間達は蒼水竜から叡智を授かったでしょうか?」
光の女神が、下界を覗くと予想外の出来事が起こっていた。
「何故、人間同士で争っているのでしょうか?」
叡智を授かっていない人間は光の女神が生み出した思いやりと嘘の影響を強く受けていた。
思いやりは自己愛となり嘘は欺瞞へと変化していた。
「大変、どうしましょ……」
蒼水竜は女神の言い付けを聞かなかったようである。
この時、世界に正義が生まれた。
「光の女神よ、だから申したではないか……」
「申し訳ございません。
これに懲りて二度と致しません」
光の女神は創造神に謝罪した。
この時、世界に反省が生まれた。
「宜しい、その心掛けに免じて一度だけ人間達に機会を与えることを許す。
光の女神よ何かあるかな?」
「そ、それでは全ての人間に蒼水竜の叡智を授けさせたいと思います」
「ふむ、それは干渉し過ぎである。
故に、叡智を与えたい人間を一人だけ選ぶが良い」
全ての人間に叡智を与える案は創造神によって却下された。
「それでは、あの者に致しましょう」
光の女神は、転生者の末裔である一人の男を指差した。
「宜しい、あの者が正しき者の味方になると蒼水竜に誓えば叡智を授けることを許すとしよう」
「創造神様、ありがとございます」
この後、光の女神は二度と世界に干渉しないと誓った。
この時、世界に約束が生まれた。
そして、人間の争いが続く世界に蒼水竜が姿を現した。
「どれ、先ずは叡智を与える価値があるのか見定めねばならぬ」
蒼水竜は人間達の住む土地にある湖に身を潜めた。
「何故、同じ種族の者同士が争わねばならぬ!」
一人の男が湖に向かって叫んでいる。
今、人間の間では二つのグループが互いに己の正統性を主張して争っている。
湖に向かって叫んだ男は転生者の末裔でリーダとして二つのグループを束ねる必要がある。
「私達は、共に手を取り繁栄せねばならぬものを……」
今度は湖に向かって呟いた。
「ふふふふ、なかなか面白そうな男ではないか。
どれ、一つ試してみるとするか」
蒼水竜は、そう呟くと水面に顔を出した。
「な、何だ!」
盛り上がった水面から顔を出した蒼水竜を見た男は腰を抜かして地面にへたり込んだ。
「儂は創造神様より遣わされた蒼水竜である。
お前達は争ってばかりおって目に余る。
よって、創造神様はお前達を滅ぼせと審判を下された」
「ほ、滅ぼせと……」
威圧する蒼水竜を目の前にして男は身じろぎ一つできないでいる。
この時、世界に恐怖が生まれた。
「うむ、儂がアクアブレスを放てばお前達を滅ぼすことは可能である」
蒼水竜は、そう言った後に首をもたげて左右に振って空に向かってアクアブレスを放った。
「……」
余りのことに男は声がだせなかった。
この時、世界に驚きが生まれた。
「猶予は三日、逃げるもよし戦うもよし。
何れにせよ、お前達は滅ぶであろうがな」
そう言い残して蒼水竜は湖に身を沈めた。
「困ったことになってしまった……」
何とか立ち上がった男は仲間の下へと向かった。
「そんな話は信じられぬ。
夢でも見ていたのではないか?」
「もしかして、我々を謀っているのではないのか?」
男が話した湖での出来事は全く信じてもらえなかった。
「信じてくれ、本当のことなんだ。
あの、アクアブレスが放たれたら私達は全滅してしまう。
直ちに争いを止めて、皆で蒼水竜様に赦しを乞うのだ!」
猶予期間一杯を使って男は懸命に説得したが、どうしても納得してもらえなかった。
説得を止めた男は一人で湖に向かった。
この時、世界に孤独と諦めが生まれた。
「結局、誰にも信じてもらえなかったな……」
トボトボと歩いて湖に辿り着いた男は肩を落として呟いた。
「ほう、逃げずに戦いに来たか?」
「い、いえ、私達が蒼水竜様と戦う謂れはございません」
湖面に顔を出した蒼水竜に対して、腹を括った男はきっぱりと言い切った。
この時、世界に覚悟が生まれた。
「では、大人しく滅ぶが良い!」
蒼水竜は首をもたげて左右に振ってから大きく口を開いた。
「お待ち下さい!」
バッと両手を広げて男が叫んだ。
「ん、この期に及んで何か申すことがあるのか?」
「私の命一つで皆を救って頂けませんか?」
サッと跪いた男が蒼水竜に仲間の助命を乞うた。
この時、世界に勇気が生まれた。
「その覚悟は認めるが、奴等の心根は変わらんぞ。
それでは、只の犬死になるだけではないのか?」
「もしかしたら、私の死で皆の目が覚めるかもしれません。
滅ぼすのはそれからでも遅くありません。
今一度、機会をお与え下さい!」
男は仲間にも同じ様な話をしてから湖までやって来ていた。
「ほう、仲間の為に己の身を捧げると申すか?」
「リーダーである私に皆を纏めるだけの力がございませんでした」
今回の件で、誰も彼も自分の都合を述べるだけでリーダーである自分の意見を軽視していると男は知った。
「ふむ、力があれば纏められると申すか?」
「力があれば纏めて見せますが、その力が無いことはとうに分かっております。
ですから、私の命一つ差し出したく思います」
そう言って男は右手を胸に当てた。
「そうか……
では力を与えようではないか。
その力を使い見事に皆を纏めて見せよ!」
男を見る蒼水竜の眼光が一層鋭くなった。
「私に力を与えてくださるのですか?」
顔を上げた男の目は真剣そのものである。
「但し、常に正しき者の味方でなければならぬ。
儂に誓えるか?」
「はい、決して違えることはありません」
蒼水竜に対して男は深く頭を垂れた。
「分かった、その言葉を信じよう。
そして、信じた証しに友と呼ぼう」
「蒼水竜様、有り難うございます」
この時、世界に信頼と友情が生まれた。
「儂の役目は終わった。
この先は湖で友の活躍を見守るとしよう」
「必ず争いの無い世界を作って見せます」
男は曇りなき眼でそう答えた。
「最後にもう一度言う、"汝、常に正しき者の味方であれ"」
そう言い残して蒼水竜は静かに湖に沈んで行った。
そして、蒼水竜から叡智を与えられた男は約束通り争っていた仲間を纏め上げて一つの国を作った。
そして、世界に男の名が冠されたバイアリターク王国が生まれた。




