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【第一話】自走式掃除機

 ここはバイアリターク王国。


 この王国は地球のある宇宙とは別の宇宙に存在する、いわゆる異世界にある。


 中世のヨーロッパの街並みに似たバイアリターク王国の王都サドラーズには王城の他に教会本部などの施設がある。


 その教会の施設の一つで魔導具の研究開発を行う魔導具研究所の所長を転生者であるユウイチが務めている。



「ユウイチさん、この床をチョロチョロと這っている物は何ですか?」


 この研究所の助手を務めるリリアがしゃがみ込んで動き回る円盤を不思議そうに見ている。


「これは床に落ちている塵や埃を掃除してくれる魔導具だよ。

 いわゆる、主婦の強い味方ってやつだな」


 この魔導具は前世のル○バをまるパクリしたことは素直に白状しよう。

 

 しかし動力にはこちらの世界の物を使っているので、前世の関係各所には訴えるのだけは思い止まって頂きたいとユウイチは心の中で頭を下げる。


「ユウイチさん、これはどうやって動いているんですか?」


 這い回る円盤を"ツンツン"とつつきながらリリアがユウイチを見上げて聞いた。


「グッドタイミングだ、リリア君」


 そろそろ魔導具の詳しい説明をしようと思っていたユウイチはリリアの質問にニヤリと笑って答えた。


「実は、この中にはコイツが入っているんだよ」


 ユウイチはチョロチョロと床を這い回っている円盤を捕まえると、蓋をパカッと開けてリリアに中を見せてやる。


「なんだスライムですか……」


 中を覗き込んだリリアは期待した複雑な機構や初めて見る魔法陣でなくスライムだったことにガッカリしたようである。


「ははは、なんだはないだろう。

 スライムが快適に動け、且つ逃げ出さない大きさ。

 その最適解を見つけ出すのに苦心したんだからな」


 ユウイチは拳を握りしめてリリアに開発の苦労を熱く語っているが、実際はスライムが勝手に型に合わせてくれただけの話しである。


「とにかく、この"自走式掃除機"を商業ギルドを通して売り出すことにしたぞ」


 これ以上、リリアに深掘りされてはボロが出る危険性がある。


 そうなる前にユウイチは強引に話を変えた。


「ところで魔法規制局の許可は取れたんですか?」


「動力にスライムを使っている上に複雑な魔導回路を使っていないので思ったより簡単に許可が降りたよ」


 二人の言う魔法規制局とは魔法や魔力の取り扱いなどの審査を専門とする公的な機関である。


 新しく生み出された魔導具は勿論のこと、新しく創作された魔法陣などもその対象となる。


 問題があれば何度も足を運ぶことになるため、ユウイチは魔法規制局が苦手である。


「規制局の許可が降りたから商業ギルドも販売にゴーサインを出したんだよ」


 ユウイチはドヤ顔でリリアに向かって右手の親指を立て突き出した。


「はぁー、スライムが主婦の味方になるなんて信じられません」


「文句も言わずに黙々と掃除してくれるんだ。

 ひょっとしたら自分の子供以上に頼りになるかもしれないぞ」


 未だリリアは自走式掃除機の利便性に納得がいっていないようである。


 ユウイチは掃除機を床に戻して「頑張れよ」と心の中で呟いた。



 自走式掃除機の発売から数週間が経ったある日のこと。


「ユウイチさん、掃除機が凄い勢いで売れてると商業ギルドから報告がありましたよ」


 事務所に駆け込んできたリリアの声が興奮からか少し上ずっている。


「ふふふ、当然と言えば当然だな」


 前世では掃除道具が箒から掃除機にあっという間に変わった。


 そして掃除機の市場はいつしか自走式のル○バ型に席巻されたのである。


 そんな懐かしい前世の変化をユウイチはふと思い出した。


 未だに箒で掃除をしているこちらの世界ではそれ以上の変化がこれから起こるだろうとユウイチは期待して止まない。


「まだまだ売れそうなので追加製造をお願いしますとも言っていましたよ」


 ぼんやりとしていたユウイチはリリアの声で我に帰った。


「追加製造に対応するとなるとボォーっとしている暇はないな。

 リリア君、これから忙しくなるぞ」


 先ほどまでボォーとしていたユウイチは自分のことを棚に上げてリリアを鼓舞する。


「分かりました。

 今から工房の皆にも伝えてきます」


「リリア君、特別報酬を期待してもらってもいいぞ!」


「特別報酬ですか、皆が喜びますね」


 リリアはあれが欲しい、これも欲しいと呟きながら事務所に入ってきた時の勢いそのままに工房に向かって走っていったのであった。



 自走式掃除機の発売から一ヶ月が経ったある日。


「ユウイチさん、商業ギルドから経過報告が届きましたよ」


 なにやら困惑顔のリリアがユウイチに報告書を差し出した。


「リリア君、更なる追加製造の要請でも書いてあったか?」


 ユウイチは自信満々でリリアから受け取った報告書に目を通す。


「掃除機が決まったゴミしか掃除しなくなったわ」


「家族が食事中のテーブルの横で掃除機がパン屑が落ちるのを待っています」


「ご飯時になると掃除機が"キューン"と鳴きながら俺の足元に擦り寄ってくるんだよ」


 報告書にはユウイチの想定外の内容が色々と書かれていた。


「これはスライムが味を覚えて自分の好物を催促しているって事になるのか?」


 ユウイチは些か呆れながら報告書の続きを読む。


「私は掃除機に名前を付けて可愛がっていますよ」


「子供が亡くなった犬のジョンの替わりに掃除機を可愛がっています」


 ユウイチは読み終えた報告書をパサッと机に置いて静かに天井を仰いだ。


「ユウイチさん、これって掃除機がペットみたいになっていますよね?」


「ペットみたいじゃなくて、これは完全にペットだな」


 報告書にあった購買者の感想を読む限り、リリアの言う通り自走式掃除機の扱いが前世のペットの扱いにそっくりである。


「そうですよね。

 だから商業ギルドでは改めて"自走式掃除機型ペット"として大々的に売り出しているそうです」


「もう掃除機として認識されていないんじゃないか、あはは……」


 リリアから駄目押しの情報を聞かされたユウイチは虚しく笑うことしかできなかった。


「ユウイチさん、いいじゃないですか。

 どちらにしても売れてるんですから」


「リリア君、そう言う問題かな?」


 慰めにもならないリリアの言葉にユウイチは技術者としてのプライドを少しだけ滲ませた。


「そう言う問題ですよ。

 売れているんだから特別報酬が期待できるじゃないですか」


「リリア君、目的はそれか?」


 ユウイチの言葉にリリアが肩をすくねて悪戯っぽく笑った。



 後日談。


 私の名はリーネ。


 王都を騒がせた前代未聞の魔導具のペット化事件の対応を相談するためにギルマスの部屋を尋ねた。


 "コンコン"とノックをして部屋に入った私の機先を制するようにギルマスは切り出した。


「ああ分かっている。

 リーネ、例の件だな」


 ギルマスが鋭い眼光をこちらに向けている。


 あの目は商業ギルドよりも冒険者ギルドの方が似合っていると私は思っている。


 しかし、私は怯まずに購入者からのクレームが前代未聞の数に達していると報告書の束を机の上に"バッ"と広げてみせた。


「パン屑しかし食べません」


「ご飯時にテーブルの横を離れません」


「"キューン"と鳴きながら足元に擦り寄って来ます……」


 報告書にさっと目をとしたギルマスがこめかみを押さえながら"はぁー"と深い溜め息を吐いた。


 この一週間、私は遅くまで残業をしてクレーム報告書を読み続けた。


 それと同じ量の書類をギルマスにも読ませてやりたいと思っている。


 だから嫌味を込めて「ほかの報告書も読みますか?」と聞いてみた。


「いや、結構だ。

 とうせどれも同じような内容だろ」


 少し嫌味が過ぎたのかそう言い返されてギルマスにジロリと睨まれた。


 ギルマスの視線に気まずくなって私は魔法規制局に関する話題に変えることにした。


「例え内蔵されているとはいえスライムが自我を持った可能性があるのなら看過できないと言ってきた」


 恐らく規制局でチクチクと責められたのだろう、ギルマスはとても忌々しそうな顔をしている。


 その後ギルマスに「それで研究所の方は何と言っている?」と聞かれたので、研究所の助手から聞いた通り答えたらギルマスが突如として椅子から立ち上がった。


 私はギルマスの勢いに少し怯んでしまった。


 そして、この人はやっぱり冒険者ギルド向きだと改めて思った。


「いや、止めておこう……」


 座り直すなら初めから立たないで欲しい。


 私はびっくりして損した気分になった。


 研究所に乗り込みそうではないので、「呼び出しましょうか?」と聞いてみた。


「此方の手に余るようなら呼ばざる得ないな。

 リーネ、ウチで対応できそうか?」


 この騒ぎを納めよとは、ちょっとした無茶振りじゃないかと思う。


 しかし、私に考えがないわけではない。


 ギルマスに規制局の方の対応をお願いして、後は私が何とかすると答えておいた。


「分かった。

 それで頼む」


 ギルマスの許可を得て意を決した私は部屋に戻り机の上に宣伝用のポスターを広げた。


 そしてポスターに目立つように次の様に書き込んだ。


 "自走式掃除機型ペット

 可愛くて良く懐きます。

 一家に一匹いかがですか?"



 私の名はリーネ。


 きっと、魔導具ペット化事件の最大の被害だと思う……。

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