【第百話】二階層探索⑤
前日、セーブポイントから地上に戻れることを確認したミレイは「本当に空間転移魔法のようですわ!」と興奮していた。
だが、魔法陣を見つけられず「これは魔法ではなくスキルなのでしょうか?」と、しばらく考え込んでいた。
「詳しいことは分かりませんが、今回は他に収穫がありましたので良しと致しましょう」と、気持ちを切り替えたミレイはリーネと共に王都へと帰っていった。
「さて、俺達は再びセーブポイントへ戻るか? それとも階段を降りて二階層を一から探索するか?」
「ユウイチさん、一から探索しましょう!」
「私も一から探索したいです!」
じゃじゃ馬コンビの目的がフェニックスとの戦闘なのは明らかだ。
「だが、マグマ沼はスルーして行くぞ!」
「ユウイチさん、そこは状況しだいです」
「そうです。不可抗力の遭遇なら仕方がありません」
じゃじゃ馬コンビは目を泳がせながら主張する。
「所長様、本日の目標は新たな魔獣を倒しつつボス部屋へ辿り着くことに致します」
慎重派でまとめ上手なカミューヨはフェニックスとの戦闘を避けてくれるようでユウイチはホッと胸を撫で下ろした。
「よし、一から探索してボス部屋を見付けよう!」
目標が定まったユウイチ達はドローンを従えたアルマを先頭に昨日と同じ道を進んで行く。
「ドローンと探知スキルのハイブリッドに慣れたようだな」
アルマを見たユウイチはその適応力に感心する。
「確か、あの辺りにマグマ沼があったはずです。ユウイチさん、これは一体どういうことでしょうか?」
ユウイチは、「前世のRPGゲーム一のリセットのような機能だろう」と考えたが「うーん、何故だうな」とだけ答えておく。
「アルマ様、私達で謎を解明しましょう!」
「そうですね、今後の探索のためにも解明しておく必要があります」
じゃじゃ馬コンビが互いの顔を見て頷き合う。
謎を解明するために二階層を行ったり来たりさせられそうな予感がするユウイチである。
◇ ◇ ◇ ◇
「ユウイチ所長、この先に魔獣が二匹います!」
しばらく進んだところで探知のスキルに反応があったようでアルマが声を上げた。
カミューヨが「行ってみましょう!」と言い終わる前にリリアが駆け出して行く。
「私達も参りましょう」
カミューヨの指示でユウイチ達もリリアの後を追う。
「ユウイチさん、サラマンダーとファイヤーキャメルが喧嘩しています」
リリアは岩影に身を潜め「シー」っと人差し指を口に当てた。
「あそこです」と、リリアが視線を送った先では二匹の魔獣が共に口から炎を吐き合っている。
「カミューヨさん、サラマンダーは炎の中に棲むトカゲ型の魔獣で、ファイヤーキャメルとはコブに溜めた油を発火させて口から吐き出す魔獣だったよな?」
「その通りです。単体なら討伐することは難しくはありません。しかし、この場合はどう致しましょうか?」
予想外の展開に慎重派のカミューヨが判断に迷っている。
「うーん、止めに入るか? ……だが、そうすると二匹が襲って来そうだな。どうしようかな……」
「ユウイチさん、二匹とも討伐するのが良いのではないでしょうか?」
「そうです。違う種類の魔獣を相手に戦うのもアリですよね?」
じゃじゃ馬コンビはヤル気満々でユウイチの判断を待っている。
「カミューヨ君、戦うなら作戦はどうする?」
「ここは、出たとこ勝負でしょうか……」
慎重派で戦術に長けたカミューヨにしては珍しくノープランのようだ。
「それなら、攻撃開始の合図代わりに私がウォーターボールを放ちます」
アルマがサッと手を上げた。
「仕方がない。各々が思った場所に陣取ったらアルマ君のウォーターボールを合図に攻撃開始だ!」
ユウイチがざっくりと作戦を決めると、リリアが右へ、カミューヨは左に回った。
アルマの背後に陣取ったユウイチは、「これは『ひよって』いるからではなく作戦だ」と心の中で弁明しておく。
ユウイチが無駄な弁明していると二匹の魔獣との距離を詰めた二人の手が上がった。
「ウォーターボール!」
「ズドーーン!」
アルマが放った水魔法がサラマンダーを直撃した。
だが、魔力量に差があるようで余り効いていない。
「私はサラマンダーを狙います!」
剣を抜いたリリアが突っ込んで行く。
「それでは、私はファイヤーキャメルの相手をしてきます」
カミューヨもグートソードを抜いて突っ込んで行った。
「ユウイチ所長、岩なんかに登ってどうするんですか?」
「火山地形用に開発した魔導具を試すんだよ」
ユウイチは空間収納から魔導具を取り出した。
「俺は大丈夫だからアルマ君も参戦してきても良いぞ」
戦いたくてウズウズしているアルマに向かってユウイチは声を掛けた。
「戦闘の邪魔をしたらお二人に怒られます」
実は三人の間で、「お互いに邪魔をしない」という取り決めがなされている。
「あっ、リリア様がサラマンダーの炎に苦戦しています」
「リリア君は、サラマンダーの火魔法を気にして、もう一歩間合いを詰めきれていないな」
「カミューヨさんは防戦一方みたいです」
「カミューヨ君もファイヤーキャメルの吐く炎をグレートソードでやり過ごすのが精一杯のようだな」
「ユウイチ所長、その魔導具で何とかなりますか?」
「よし、先ずはファイヤーキャメルを攻撃してみよう」
ユウイチがファイヤーキャメルを選んだ理由は「邪魔をしましたね」と、リリアに怒られるのが怖いからではない。
ファイヤーキャメルが吐く物理的な炎に対して、より高い効果が得られると踏んだからだ。
「これでも喰らえ!」
「ブァーーー!」とユウイチが構えた魔導具から大量の水が放たれる。
「ユウイチ所長、それは何ですか?」
戦闘中にもかかわらずアルマが興味深そうな顔をしている。
「これは魔導放水銃だよ」
魔導放水銃は、前世の茅葺き屋根の集落でよく見られる放水銃を応用したものだ。
孤児院での消火作業で掃くよう噴射しながら火元に近付かなければならない消火器の欠点にユウイチは気が付いた。
その欠点とは、勇気を持って火を吐く魔獣に近づかなければならないということだ。
「ユウイチ所長、今のでファイヤーキャメルが怯みました」
「一刀両断!」
その隙を見逃さなかったカミューヨがスキルを発動させて一気に間合いを詰めて大上段からグレートソードを振り下ろす。
「スバーーーン!!」
「グェェー」
一撃を喰らったファイヤーキャメルが断末魔の叫び声を上げている。
「ユウイチ所長、サラマンダーにも撃って下さい」
「魔法の炎にも効果があるかな?」
「そうじゃなくてサラマンダーの眼を狙って下さい」
「なるほど!アルマ君、良いアイデアだ」
これで「せっかく戦闘を楽しんでいたのに」とリリアに怒られたら、「言い出しっぺはアルマ君だ」と言い訳ができるとユウイチは確信を持った。
「ブァーーーーー!!」
ユウイチの魔導放水銃から放たれた水がサラマンダーの顔面を直撃した。
「ユウイチさん、ナイス援護です!」
意外にもリリアにお礼を言われたユウイチはホッとする。
「なら、更にこれだ」
ユウイチは放水銃を上下に振って水のカーテンを作り出した。
「今です、疾風迅雷!!」
水のカーテンに向かってリリアが雷魔法を放つ。
水は電気を通す。
勿論、雷も通る。
いつものように青白い閃光の後にバリバリと轟音が響きわたる。
「ユウイチ所長、どうやら終わったようです」
雷魔法の直撃を喰らったサラマンダーが地面の上でひっくり返っている。
「カミューヨ君、サラマンダーから素材は採れるのかな?」
ユウイチは、ファイヤーキャメルのコブに溜まっている油が素材になることは知っている。
だが、素材としてサラマンダーを使ったことはない。
「冒険者ギルドで皮と魔石を高値で買い取ってもらえます」
カミューヨの説明によるとサラマンダーの魔石は火属性の魔石のなかでは高級品らしい。
「フェニックスと違ってサラマンダーは美味しいな」
「所長様、サラマンダーの肉は不味くて食べられたものではないそうです」
「そ、そうか、それは残念だな」
自動変換機能にちょっとした変換ミスが起こったようだ。
「少し休憩したいところだが……」
ユウイチは辺りを見回すがセーブポイントらしきものは見当たらない。
「所長様、地上に戻りますか?」
「カミューヨさん、探索を終了するなら地上にもどるのも有りですが、休憩だけなら時間が勿体ないです」
「リリア君の意見にも一理あるな……」
前世のブラック企業の十ヶ条に「やったら戻るな前進せよ」というものがあった。
しかし、魔導具研究所はホワイトを目指している。
「ユウイチ所長、ミレイ様の為にも進みましょう」
ブラックかホワイトかで迷っているユウイチにアルマがグレーゾーンの選択肢を提示した。




