【第九十九話】二階層探索④
「やはり、セーブポイントを試して見たいですわ。
ですから、二階層を探索しましょう!」
「「ミレイ様、それは名案です!」」
くるっと振り返ったリリアとアルマが見事にハモった。
「前世の双子タレントも驚くほどのシンクロ率だな」とユウイチは舌を巻く。
「所長様、どう致しますか?」と、カミューヨが判断をユウイチに委ねた。
「大司教様、明日ではダメでしょうか……?」
ユウイチとしては、じゃじゃ馬コンビの手綱を抑えられるリーネが参戦できる明日がベストだ。
「明日は作業員を連れて王都に戻らなければなりません」
「そう言うことでしたら、セーブポイントを探してみますか?」
慎重派で空気が読めるカミューヨが賛成に回った。
「これ以上、抵抗しても無駄のようだな……」
諦めたユウイチは二階層へ入ることを決めた。
◇ ◇ ◇ ◇
二階層に入るとリリアが野生の勘を働かせながら先頭を進んで行く。
一方のアルマは先陣争いを止めてドローンを従えたミレイの横にぴったりと張り付いている。
「ユウイチさん、なんだか暑くなってきました」
「火山地帯を進むうちに気温が上がったんだろう」
空間収納の中に空調服は入れてあるがパワードスーツの上から着用しても意味がない。
おまけに着替えられそうな場所も見当たらないのでユウイチは黙っておく。
「あれは、なんでしょうか?」
更に進んだ所でリリアが指差す先にオレンジ色の沼のようなものが見えた。
「紫色の沼には毒矢ガエルが棲んでいましたけど……探知のスキルに反応はありません」
「所長様、念のため鑑定をお願いします」
「分かった。鑑定!」カミューヨに指示されたユウイチがスキルを発動した。
【名前:マグマ沼】
【種別:地形】
【魔力:0】
【属性:土属性】
【魔法:無】
【スキル:無】
【称号:無】
「ここには、マグマが溜まっているだけのようだな」
覗き込むユウイチの腰が引けている。
「そう言われると余計に暑く感じますわね」
さすがに「心頭滅却すれば火も自ずから涼し」という訳にはいかない。
突然、「ズバッ!!」と音がしてリリアが「ヒヤっ!」と叫び声を上げた。
沼には飛沫となったマグマが飛び散っている。
「ユウイチ所長、沼の中に魔力反応があります」
「さすがにマグマの中では生きられないだろう……
鑑定!」
【名前:フェニックス】
【種族:精霊】
【魔力:180】
【属性:火属性】
【魔法:火魔法】
【スキル:ファイヤーバースト】
【称号:不死鳥】
「ヤバい、フェニックスだ!」
自ら炎に飛び込んで永遠の若さを得る精霊であるフェニックスとマグマがあるこの場で戦えば劣勢は否めない。
「逃げましょう!」
慎重派で冷静な判断ができるカミューヨが叫んだ。
だが時既に遅し、フェニックスが沼から飛び出してきた。
「アルマ君、バリアだ!」
「はい!」と、アルマが結界を張った。
「さすがに分が悪いです。このまま、退きましょう!」
ここは、「三十六計逃げるに如かず」だと、慎重派のカミューヨは判断を下した。
「所長さん、しばらく観察いたしませんこと?」
だが、滅多に見ることのできないフェニックスにミレイは知識欲を掻き立てられている。
「アルマ君、バリアを維持できそうかな?」
「攻撃されなければ半日以上は保ちます。私も観察したいです」
アルマもフェニックスを観察したい派だった。
「こちらから手を出さないのが条件です」
またしてもカミューヨが空気を読んだ。
「戦うのはダメなんですね……」と呟く戦闘したい派のリリアをユウイチは放置しておく。
「ところでフェニックスからはどんな素材が取れるんだ?」
「精霊であるフェニックスは実体をもちませんわ。
炎でできた身体は燃え尽きて無くなるため魔石さえも残らないそうですわよ」
「あははは、使えるような素材は無いんだな……」
「所長様、言うなればフェニックスは鑑賞用です」
「それならば危険を冒してまで不死の鳥と戦う理由はないな」
戦闘したくない派のユウイチにとって都合の良い結論を導き出せた。
「あっ!フェニックスがこちらに向かって翼をはためかせています!」
結界を維持しながらアルマが叫んだ。
「あれは、熱風を送って私達の反応を見ているだけですわ」
ミレイは慌てる素振りを見せない。
「ユウイチさん、まるでサウナルームにいるみたいです……」
「あははは……フェニックスが送った熱風のおかげで結界の中の気温が更に上がってしまったな」
◇ ◇ ◇ ◇
しばらく経ってから「そろそろ移動しないか?」とユウイチが提案した。
しぶしぶだが、「観察したい派」の三人が重たい腰を上げた。
マグマ沼から離れてアルマが結界を解くと少し暑さが和らいだ。
「あっ、良いことを思い付きました。後でリーネさんに相談いたしましょう!」
ミレイが叫んだ。
しかし、この話を広げてしまうと長くなりそうなのでユウイチはスルーしておく。
「ユウイチ所長、三時の方角から魔獣が来ます!」
「一難去ってまた一難ですね……」
慎重派で冷静なカミューヨが呟く。
「先ほどのフェニックスでしょうか?」
戦闘したい派のリリアはフェニックスとの戦闘を期待している。
「もし、フェニックスなら前から来ないよな……
鑑定!」
【名前:ケルベロス】
【種族:魔獣・キメラ種】
【魔力:80】
【属性:火属性】
【魔法:火魔法】
【スキル:無】
【称号:冥界の番犬】
「ケルベロス……?」
三つの頭とヘビの尾を持つ巨大な犬が姿を現した。
「ケルベロスは、死者が冥界から逃げ出したり生者が許可なく侵入したりするのを防ぐ役割を持つとされています」
慎重派で魔獣に詳しいカミューヨが特徴を教えてくれた。
「確か、ケルベロスは炎を吐いて攻撃してくるんでしたわね」
ミレイは落ち着き払っている。
「アルマ様、結界を張りながら水魔法を放つことができますか?」
「カミューヨ君、それだとアルマ君の負担が大き過ぎないか?」
ユウイチはアルマの魔力と体力の両方が消耗することを心配する。
「その時は、私の治癒のスキルの出番ですわね」
これが、ミレイがダンジョンに来たもう一つの理由だ。
「それでは、私とリリア様で注意を引きます。アルマ様はケルベロスが炎を吐いた瞬間にウォーターボールを放って下さい。怯んだところを斬り捨てます!」
カミューヨの立てた作戦に三人が「「「分かりました」」」と答えて戦闘に入る。
因みにユウイチの出番は無い。
「「行きます!」」
リリアとカミューヨが結界から飛び出して二手に分かれて構えた。
対するケルベロスは歌舞伎の見得のように三方を睨んだまま微動だにしない。
「ああやって、俺達との間合いを測っているんだろうな?」
「いえ、恐らくどの頭が主導権を取るか争っている最中でしょう」
そんなケルベロスに「こっちですよー」とリリアがちょこまかと動き回っている。
一方、「こちらにもいますよ」とカミューヨが大上段にグレートソードを構えている。
「所長さん、一番前に出て下さらないかしら」
ミレイが隣に並んでいたユウイチの背中をゆっくりと押した。
その瞬間、ユウイチに向いていた中央の頭が「グワッー」っと口を開けて炎を放った。
「ウォーターボール!」
ケルベロスの吐いた炎とアルマが放ったウォーターボールが、激しくぶつかり合って消えた。
「ここです、一刀両断!」
ケルベロスに向かって飛び込んだカミューヨが剣を振り降ろした。
「「「グワッー」」」と、胴に一撃を喰らったケルベロスが断末魔の雄叫び上げる。
「危ない!」
グレートソードを振り抜いて無防備になったカミューヨに噛み付こうとした尻尾の蛇を飛び込んで来たリリアが「バッサリ」と斬り捨てた。
「ふうー、無事に討伐できたようだが……大司教様が俺を前に出したのは何故かな?」
「それは、ケルベロスは一番弱い相手に向いている顔が真っ先に攻撃するからです」
代わって答えたカミューヨの隣でミレイはユウイチからソッと目を反らした。
「あははは、大司教様とケルベロスの目利きは確かだったということか……」
分かっていても改めて言われると少し落ち込むユウイチであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ケルベロスを倒した後にセーブポイントを発見したユウイチ達は地上に戻ってきた。
「お帰りなさいませミレイ様。ダンジョンで収穫はございましたか?」
建設現場の進捗を確認して今後の指示を終えたリーネがミレイを出迎えた。
「ええ、大きな収穫がありましたわ!」
「それは、どんな魔獣の素材でしょうか?」
「収穫は、素材ではありませんわ。リーネさん、サウナルームに熱風を起こすのですよ!」
「熱風!? 所長、何のことだか分かる?」
「あぁ、おおよその予想はつくよ」
フェニックスが翼をはためかせて結界の中の温度を上昇させたことから前世のアウフグース(ロウリュとは少し違う)を思い付いたのだろうとユウイチは推察する。
これにより、こちらの世界のサウナルームに「フェニックス(熱波師)」と呼ばれる職業が生まれるのであった。




