【第百一話】二階層探索⑥
アルマのグレイゾーンの提案で探索継続を決めたユウイチ達は深い峡谷へと辿り着いた。
峡谷を渡るには切り立った崖に走る、人一人が通れるほどの道を進まなければならない。
もし、上から大きな岩が落ちてきたら「へしゃげ」かねないとユウイチは心配している。
「ここは、焦らずに落石に注意して進みましょう」
慎重派のカミューヨに言われた通り全員が頭上を気にしながら進んで行く。
「アルマ君、バリアを張る体力が残ってるかな?」
アルマは、「はい、まだ大丈夫です」と、答えて結界を張った。
「こんなところでも植物は生きていけるんですね」
リリアは岩肌に生えている草を見て感心している。
ユウイチも「まさしく雑草魂だな」と感心する。
だが、前世で「雑草という名の草はない」と言われたことを思い出したユウイチは鑑定してみた。
【名前:アグラフォーティス】
【種族:植物・薬草】
【魔力:30】
【属性:火属性】
【魔法:無】
【スキル:無】
【称号:座禅僧草】
「これは、アグラフォーティスという名の薬草のようだな」
「これがアグラフォーティスですか。非常にレアな薬草だと聞いたことがあります」
慎重派で薬草にも詳しいカミューヨが珍しそうに見入っている。
「カミューヨさん、アグラフォーティスから採れる深紅の液体は魔力や悪魔の力による呪いを追い払う効果があるんですよね?」
「はい、リリア様。邪悪な力から身を守るためのポーションの素材になります」
「ユウイチ所長、採集しますか?」と、アルマが振り返った。
「レアな薬草なら放っておく手はないな。だが、さすがに崖の上に生えているのは採れないよな」
レアと聞けば見えているもの全部採ってしまいたくなる貧乏性のユウイチが指差した。
すると、「大丈夫です」と槍を伸ばしたアルマがスパッと薬草の茎を切った。
ユウイチは「アルマ君は槍の扱いが上手くなったな」と感想を述べながら前世の通販番組の高枝切狭を思い出す。
「この方が風魔法より確実なんです」と、アルマが笑う。
「所長様、冒険者ギルドで高値で買い取ってもらえるはずです」
カミューヨも近場の薬草を摘んでいる。
ユウイチは「二階層の探索はタイパが良いな」とほくそ笑む。
あらかた採集を終えると「ユウイチさん、何だかお腹が空いてきました」と、リリアが前世の独りぼっちグルメドラマの主人公のようになってしまった。
「よし、店を探そう」ではなく「よし、セーブポイントを探そう」とユウイチは再び歩き出した。
「ユウイチ所長、あれは洞窟でしょうか?」
崖を渡りきって、いつの間にか先頭に立ったアルマが火山にありがちな洞窟を発見した。
「あれは、溶岩洞(溶岩チューブ)かな?」
「所長様、クレタカルーフォの罠の可能性があります。念のため鑑定をお願いします」
慎重派で学習能力が高いカミューヨは、どんな時でも油断をしない。
「鑑定の結果は、ただの洞窟だったが念のためサーチしてみてくれないか?」
ユウイチの指示を受けたアルマが「はい!」と返事をして探知スキルの網を広げていく。
「ユウイチ所長、洞窟の中にセーブポイントがあります!」
それを聞いて「ユウイチさん、入ってみますか?」と言ったリリアの顔には「是非入りたい」と書いている。
「リリア様、残念ながらセーブポイントの周辺に魔獣はいないようです」
「アルマ君、それを言うなら『残念』ではなく『幸い』だぞ」と、ユウイチは心の中で訂正する。
「所長様、ひとまずセーブポイントで休憩しましょう」
慎重派だが体力が消耗したカミューヨは洞窟に入ることに賛成のようだ。
「よし、洞窟に入ろう」
ユウイチ達は前世の某探検隊のように勇ましく洞窟に踏み込んで行く。
因みに、この洞窟が「前人未到」なのかは定かではない。
「ユウイチ所長、ドローンには何も映っていません」
念のため先行させたドローンの映像をアルマが確認した。
「前回の洞窟にはアースドラゴンがいたので、今回は火炎竜を期待します」とリリアが不吉なことを口走っているがユウイチはスルーしておく。
「カミューヨさん、火炎竜なら即撤退だよな?」
「もし、洞窟の中でファイヤーブレスを放たれては逃げ場がありません」
二人の話を聞いたリリアが「アルマ様の結界があれば……」と呟いているが慎重派のユウイチは、これもスルーしておく。
「ユウイチ所長、道が分かれています。どちらを進みますか?」
ドローンが映し出した映像では前方で太い道と細い道に分かれている。
「アルマ君、細い道の方をサーチしてくれるかな?」
「あっ、この先にセーブポイントがあります!」
「やはりな。アルマ君、太い道にもドローンを飛ばしてみてくれないか?」
「えーと、ホールになっているようですが暗くてよく見えませんね。覗いてきましょうか?」
「欲張らずに大きい葛籠より小さい葛籠を選んだ方が良い」と説いていた前世の童話を思い出したユウイチは「ピーン」ときた。
「アルマ君、今ので十分だよ」
ユウイチは歩き出したアルマを止めた。
「ユウイチさん、もしかしたらボス部屋ですか?」
野生の勘を働かせたリリアはノーヒントでユウイチと同じ結論を導き出した。
「そうと分かればセーブポイントで休憩がてら作戦会議をしましょう」
慎重派で空腹気味のカミューヨの提案で四人は見慣れた小屋で休憩することにした。
◇ ◇ ◇
「お腹一杯です」
「私もです」
じゃじゃ馬コンビの腹拵えが終終わった。
「おかわりは沢山用意してあるぞ」と気を利かせたユウイチを「食べ過ぎると動けません」と二人が制した。
「もしかしたら、これが最後の晩餐になるかもしれません。悔いの無いようにしっかりと食べることは大切です」
魔獣相手に常に勝利できるとは限らない。
歯車が一つ狂っただけで命を落とすことがあることをカミューヨは知っている。
「カミューヨさん、縁起でもないことを……」
「いえ、リリア様。これから私達はダンジョンのフロアボスを相手にするのです。常に最悪の事態を考えておかなければなりません」
慎重派でダンジョン探索の酸いも甘いも知っているカミューヨが、真っ直ぐリリアを見た。
ユウイチは「カミューヨ君はダンジョン探索で命を落とした仲間を何人も見ているはずだ」と推察した。
「カミューヨ君の言う通りだよ。ダンジョンは魔獣のホームグラウンドだから決して油断してはいけない。ここまでは無事に進んで来られたが、いつ魔獣に有利な状況に変化するか分からないからな」
誰一人、仲間を失いたくない慎重派のユウイチは思いを伝えた。
「私もその通りだと思います。ですが、訓練を積んだのも事実です!」
自信に満ちたアルマが立ち上がった。
「そうだな、訓練通りやって駄目なら即時撤退。絶対に全員で帰るんだ。何故なら、今日の晩御飯はとっておきを用意しているんだからな」
「命あっての物種」、ダンジョンでは無理は禁物だとユウイチは考えている。
「わかりました!必ず帰って晩御飯をものにします!」
今度はリリアが立ち上がり力強く拳を握った。
「リリア様、晩御飯を食べる話でした?」
すかさずアルマがリリアにツッコミを入れた。
「「「ふふふふ」」」
お互いに顔を見合わせて三人が笑う。
どうやら、リリアの食いしん坊が暗いムードを吹き飛ばしたようだ。
「いいか、我々はあくまで挑戦者としてフロアボスに挑む立場だからな」
ユウイチは偽らざる思いを言葉にした。
◇ ◇ ◇
セーブポイントを出たユウイチ達は、太い道を進みホールへと辿り着いた。
「ここには、扉は無いみたいです……」
カミューヨが不思議そうにしている。
慎重派でダンジョンに詳しいカミューヨによると通常のダンジョンのボス部屋に扉は付き物のようだ。
「魔獣が湧いてきます!」
探知スキルに反応があったアルマが叫ぶ。
四人が見詰める先でオレンジ色の靄が次第に一つの塊になっていく。
「鑑定!」
【名前:イフリート】
【種族:精霊】
【魔力:280】
【属性:火属性】
【魔法:火属性】
【スキル:縦横無尽】
【称号:至高の精霊】
「イフリート……!?」
「イフリートは、火から生まれた実体を持たない存在です。とても動きが早く全く予測ができません。『変幻自在』のスキルを使って戦うリリア様とは相性が悪いかもしれません」
慎重派で魔獣に詳しいカミューヨがイフリートについて解説をした。
「二階層のフロアボスのお手並み拝見です!」
剣を抜いたリリアがイフリートに向かって行った。




