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【第九十八話】二階層探索③

 ホークワイド邸を出発したユウイチ達は仮眠を挟んで明け方に無事にダンジョンに到着した。


 到着するや否や「大司教様がお見えになったぞ! 全員集合だ!」と、現場を仕切っているリーマンブラザーズのトンテが作業員を集めた。


「わざわざ、作業を中断しなくても良かったのですよ」


 馬車から降りたミレイが整列している作業員にそう語りかけた。


「いえ、我々に生きる糧を与えて下さった大司教様に是非とも感謝の言葉を述べたいのです」


 ここでは、訳あって仕事に就けずに困窮していた者達を連れてきて奉仕をしてもらっている。


 この現場で奉仕をしている間、彼等は衣食住が保証されている。


 つまり、奉仕という形をとってはいるが、明らかに生活支援である。


「こちらこそ日々の奉仕、大変感謝致しておりますわ」


 作業員からすれば、間違いなくミレイが聖女に見えているはずだとユウイチは推察する。


 何故なら、「怪我などに気を付けて無理をせず奉仕して下さいませ」というミレイの一言に「も、勿体ないお言葉です……」と感動して涙ぐむ者がいるからである。

 

 もしかしたらミレイから放たれるオーラが聖女のそれに変わっているのかもしれないとユウイチは思うが、実際はリーネによるミレイの聖女化策の一環である。


 しかし、ミレイに対して「聖女」の一言は間違いなく地雷を踏む。


 だから、ユウイチは黙っておく。


「それでは私は建設の進捗を見てきます」と、挨拶が終わった頃合いを見計らってリーネがトンテと共に建設現場へと向かった。


「じゃあ、俺達は一息入れてから二階層の下見に行くとするか?」


「ユウイチさん、ひょっとして下見だけですか?」


 ダンジョン探索において無理は禁物だと慎重派のユウイチは思っている。


 しかし、リリアは道中に魔獣と遭遇しなかったことで溜まったフラストレーションの捌け口をダンジョン内の魔獣に求めているようである。


「今日は大司教様にダンジョンの作りを見てもらう方が先だな」


 魔法オタク疑惑のあるミレイなら自分達が見落としている事に気付くかもしれないとユウイチは期待している。


「では、リーネさんの代わりに私がミレイ様の護衛を務めます」と、既に戦闘モードのリリアがミレイの前に出た。


 すると、「あっ、リリア様、抜け駆けはズルいです」と、負けじとアルマも前に出る。


 見かねたカミューヨが「仲良く二人で護衛すればいいのでは?」と提案した。


 それを聞いたリリアとアルマが「お互い頑張りましょう!」とガッチリと握手をしている。


 リーネという箍が外れた、じゃじゃ馬コンビの暴走をユウイチは危惧せずにはいられない。


 しかも、「二人とも治癒が必要ならいつでも仰って下さいませ」とミレイが、じゃじゃ馬コンビのやる気に油を注いでしまった。


「二人とも、あくまで下見だからな……」


 ボス部屋までノンストップという事態にならないようにユウイチは二人に釘を刺しておく。


 それに対して、「ユウイチさん、魔獣の下見も下見のうちです」とリリアが屁理屈を言う。


 すると、「もし、魔獣が襲ってきた時は不可抗力です」とアルマも屁理屈を言う。


「所長様、二階層に入らなければ問題ありません」


 この場では、慎重派で分別のあるカミューヨだけが頼りのユウイチである。


 そんなカミューヨに対して「カミューヨさん、戦闘の後の晩御飯は格別ですよ」「スイーツも一味違います」と、じゃじゃ馬コンビが悪魔のように囁いている。


「それは楽しみです!」


 慎重派だが美味しいものに目がないカミューヨはあっさりと釣られてしまったようである。


「と、とにかくダンジョンに潜ろう」


 最早、ユウイチは諦めムードで「成るようになれ」の心境である。


「「「はい!」」」と返事をした三人は、各々の目的に向けて気合い乗りは十分なようである。


「何があっても良いように武器を用意しておきましょうか?」


 一方、初めてダンジョンに潜るミレイは少し緊張気味である。


「階段に魔獣が出現したことはないそうだから武器は必要ないと思うよ」


 ミレイの緊張をほぐすような気の利いた言葉が出てこないユウイチである。


 リリアも「ミレイ様、アースドラゴンと比べたら大したことありませんよ」と気を利かせているが、これは明らかに例えが悪い。


 続いて「帰ったら美味しい晩御飯をお腹一杯食べましょう」とアルマも気を利かせる。


「ふふふふ、アルマ様はリリア様に似てきましたわね」


 今のアルマの一言でミレイの緊張が解れたようである。


「皆様、気持ちに余裕を持つのは良いことですが油断してはいけません」と、慎重派でダンジョン探索に慣れているカミューヨが場の空気を引き締める。


 「やはり、慎重派でリーダーに相応しいカミューヨが、じゃじゃ馬コンビの防波堤になる」とユウイチは心強く思う。


「カミューヨさんの仰る通りですわね。

 では、気を引き締めて参りましょう」


 念のためミレイにはドローンを付け、殿はカミューヨが務めることになった。


 そして、じゃじゃ馬コンビを先頭にユウイチ達は階段を降りていく。

 

 途中にある一階層の階段の踊場で「空間転移がどのようなものか体験したいのですが……」と、ミレイが辺りをキョロキョロ見回している。


「ユウイチさん、扉が現れないのは何故でしょうか?」


 「恐らく、一階層のボス部屋から出入口へ戻ったからじゃないかな」


 ボス部屋の「戻る」の扉はセーブポイントのそれとは用途が違うようだとユウイチは推察する。


 「例え扉が現れても大司教様には見えないかもしれません」とカミューヨが補足する。


「それもそうですわね。

 私は初めてダンジョンに潜るのですから」


 そもそも、一階層のボス部屋で「戻る」の扉をくぐっていないミレイに見えないことは言わずもがなである。


 すると、ここぞとばかりに「ミレイ様、二階層のセーブポイントまで進めば体験できますよ!」と、リリアが提案した。


 だが、これはミレイの好奇心をダシにして、リリアが魔獣との戦闘を楽しみたいだけの話である。


「リリア君、セーブポイントが近くにあるとは限らないだろう。

 だから、そんなに奥へは入らないよ」


 もしかしたら、二階層に出現する魔獣の強さが変わるかもしれない。


 だから、慎重派のユウイチは「迂闊に進めば取り返しのつかない事態に陥りかねない」と危惧している。


「所長さん、この階段は何処まで続いているのかしら?」


 相変わらずキョロキョロとしながらミレイが尋ねた。


「騎士団の調べによると最下層まで続いているそうです」


「それですと昇り降りだけでも大変ですわね。

 ここにエスカレーターを設置すれば楽ですのに」


「大司教様、かなりの労力になります。

 それにダンジョンに潜るような冒険者なら平気だと思いますよ」


 確かに名案であるが、「ここにエスカレーターを設置すればデパート感が更に増してしまう」とユウイチは思う。


 その上、壁に「二階層でオークフェア開催中」や「各地から取り寄せた希少魔獣展」などのポスターが貼られれば完全にデパートだとも思う。


「そうですわね……この案は保留にしておきましょう」とミレイは考え直したようである。


 しかし、リーネの耳に入ったら「採用」に変わる恐れがあるとユウイチは危惧せずにはいられない。


 そんな事をユウイチが考えていると「ここが二階層のようです」とリリアが壁に書かれた「B2」の表示を指差した。


「確か、魔鏡には火山地形と書いてあったな……」


 ユウイチは魔鏡から書き写したメモをポケットから取り出して確認する。


「それなら火属性の魔獣が多いのでしょうか?」と、リリアが期待のこもった目で尋ねる。


「フロアボスはどんな魔獣なんでしょうか?」とアルマも期待のこもった目で尋ねる。


 それに対して「潜ってみなければ何とも言えませんね」と慎重派のカミューヨが冷静に答える。


「やはり、セーブポイントを試して見たいですわ。

 ですから、二階層を探索しましょう!」


 突然、ミレイがユウイチのもっとも恐れていた一言を発した。

 

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