【第九十六話】二階層探索①
二台のキャンピング馬車でユウイチ達は約一ヶ月振りにダンジョン探索へと出発する。
馬車が二台になった理由は、「現地に行って建設工事の進捗を確認したい」というリーネと、「実戦で治癒のスキルを試してみたい」というミレイがメンバーに加わったからである。
「一台目は私とアルマ様とユウイチさん。
二台目にはミレイ様とリーネさんとカミューヨさんに分かれて乗車します」
出発前に各々が乗車する馬車の割り振りをしているリリアは見て、「前世の遠足のバスガイドさんみたいだ」とユウイチは思う。
「ユウイチさん、途中で宰相閣下のお屋敷に寄るんですよね?」
王都を出たところでバスガイドならぬナビ役のリリアが今後の予定を確認した。
「『旅のしおり』でも作っておけば便利だな」とユウイチは考えたが、恐らく予定通りに行きそうにないので止めておく。
「宰相殿との約束だから、ARゲームのバージョンアップをしておかないとな」
これはリーネが、消火器配布費用の半額を王城に持たせる交換条件に出したため仕方がないことである。
「今回は、どんな要素が追加されるのですか?」と、バージョンアップと聞いたリリアの面白い物センサーが反応した。
「今まではソロの冒険者同士が共闘していたが、今回からパーティーを組めるようにしたんだよ」
ゲームを、より楽しんでもらうのが表向きの理由だが、パーティーを組めば途中でゲームを抜け難くなるという裏の狙いもある。
「ユウイチ所長、パーティーを組むメリットはあるんですか?」と、話を聞いていたアルマも興味を持ったようである。
「訓練や実戦でパーティーのレベルが上がればレアな必殺技を獲得できるようにしたんだよ」
これは、ゲームの「やり込み度」を上げるための創意工夫である。
「ユウイチさん、いくらレアな必殺技でも皆が使えばレアじゃなくなりませんか?」とリリアが指摘する。
「戦士や騎士、魔術師など、パーティーメンバーの組合せによって発動できる必殺技が変わるようにしてあるんだ。
だから、必殺技は他のパーティーと被らないはずだよ」
これぐらいの工夫は前世で数多くのゲームをプレイしたユウイチならお手のものである。
「私達をモデルにした必殺技もありそうですね?」とアルマが勘ぐっている。
「これを思いついたのは勇者に任命されて各々がスキルを得たからなんだよ。
だから、色々と参考にさせてもらったよ」
ゆくゆくは、「鑑定や探索など、攻撃系以外のスキルも充実させたい」とユウイチは考えている。
「あー……二号車、聞こえますか?」
ユウイチ達がARゲームの話で盛り上がっていると、スピーカーからリーネの声が聞こえてきた。
「はい、こちら二号車です。どうぞ!」
通信機能を使ってみたくてウズウズしていたリリアがすかさずに応答した。
これは、いちいち馬車を降りて話をしなくて済むように、新たにキャンピング馬車に搭載した通信機能である。
因みに音声拡張機をベースにしているので、魔力操作が拙いとヘリウムガス声になってしまう。
「前方に馬車を発見、故障している模様、どうぞ!」
「あー、了解しました。
私達でお手伝いできることがないか聞いてみましょうか?」
素直で思い遣りのあるリリアならではの対応である。
「ちょっと、待ってくれ。
念のため用心しておいた方がいいな」
何事も疑うぐらいが丁度良いと思っている慎重派のユウイチの対応である。
その後、何度かの遣り取りをしたユウイチ達は、少し距離を取って馬車を停めた。
そして、ユウイチを伴ったアルマが「どうかされましたか?」と声をかけた。
「いえね、行商の途中なんですが車輪が外れちまったみたいで困っているんですよ」
アルマの問い掛けに、服装は商人風なのだが人相は商人らしくない男(以後、人相の悪い男)が答えた。
「土属性の復元魔法が使えればよいのだが……」とユウイチが呟くと、「生憎と私は水属性ですから……」とアルマが返す。
「水属性って……もしかして、お貴族様ですか?」
二人の会話を聞いた人相の悪い男の表情が変わった。
「いえいえ、我々はそんな大層な者ではございません。
ただの旅の途中の庶民ですよ」
「おい、お貴族様の馬車だとよ。
どうりで立派なわけだぜ」
謙遜するユウイチの説明を聞かずに、人相が悪い男が車輪を修理していた男(以後、修理役の男)に声を掛けた。
「そいつは良いことを聞いたな。
おーい、降りて来ていいぞ!」
修理役の男の合図で幌を張った荷台から四人の男達が降りてきてユウイチとアルマを取り囲む。
「これは、何の真似でしょうか?」とアルマが慌てる様子も見せずに聞いた。
「へっへっへっへ、商人に見えただろ? だかな、生憎と俺達は盗賊なんだよ」と、人相の悪い男があっさりと自分達の正体をバラした。
続いて、「まんまと引っ掛かりやがったな。 この、お人好しのお貴族様が!」と修理役の男が悪態をついて見せる。
「リーネさん、聞こえたよね?
どうしようか?」
ユウイチはアルマを庇いながらピンマイクに向かって話し掛けた。
「商人を装うような盗賊なら遠慮は要らないんじゃない」とリーネが冷静に応答して交戦が決定した。
「そうか、恐らく相手は七人だよ」とユウイチが言い終わる前にリリアが馬車を降りて猛然と走ってくる。
それを見たリーダー格の男(以後、リーダー)が「ちっ、護衛がいやがったのか!」と叫ぶ。
「だが、護衛が一人だけなら容易い!」と、副リーダー格の男(以後、副リーダー)が続けて叫ぶ。
更に続けて「数で勝る俺達の勝ちだな!」と、副リーダー格補佐の男(以後、補佐役)が叫ぶ。
「あら、私は数に入っていないのかしら?」と、神出鬼没のスキルを発動させたリーネが、いつの間にか盗賊の背後に回り込んでいる。
「お、おい、……もう一人いたぞ!」と最後尾に立っていた男(以後、最後尾の男)が叫んだが、既にリーネに腕を取られた上に首に剣を当てられている。
だが、数的優位を疑わないリーダーが「構うことはない、やっちまえ!」と叫んだ。
「……全く諦めが悪いわね。
カミューヨさん、そっちは頼んだわよ」
リーネの指示に「分かりました!」と答えたカミューヨがグレートソードを引っ提げて馬車から降りてくる。
「ちっ、もう一人隠れていやがったか。 卑怯者が!」 と御者席にいた新米盗賊らしき男(以後、新米)が叫んでいるが、「それはお互い様だろ!」とユウイチは思う。
「ユウイチ所長、私も参加してもいいですよね?」とアルマが遠慮がちにユウイチに尋ねた。
「あははは、止めても無駄だよね」というユウイチの返事を聞いたアルマが、すかさず槍をグ~ンと伸ばして一歩前に出た。
それを見た副リーダーが「おい、この娘も護衛みたいだぞ!」と周囲に知らせた。
「誰か! あのひ弱そうな男を人質にしろ!」と、焦ったリーダーが指示を出すと、「分かりやした!」と、近くにいた補佐役がユウイチを羽交い締めにした。
だが、腹にスタンガンを当てられて補佐役の男が「グェーーー!」と呻きながら、のたうち回っている。
「先ず、一丁上がりだ! 皆、存分に暴れても良いぞ!」と、ひ弱そうな男であるユウイチが大きな声で叫んだ。
「それなら、貴方が二人目ね」と、リーネがうなじに手刀を叩き込むと「グッ……」と最後尾の男が崩れ落ちた。
「では、貴方が三人目です!」と猛然と走り込んできたリリアがリーダーに剣を振るう。
「こんなもの……」と、リーダーがリリアの剣を払おうとしたが、残念ながら剣の軌道を読むことができずに土手腹に一撃を喰らい崩れ落ちた。
「おい、コイツらやべーぞ……」と、御者席から逃げ出そうとした新米の後頭部にアルマの伸ばした槍の柄が命中した。
「ど、どうなってやがる……」、バタバタと倒されていく仲間を見て呆然としていた副リーダーの肩にカミューヨのグレートソードがめり込んだ。
「くっ、馬車を奪ってずらかるぞ!」「おお、あれだけでも金になりそうだ!」と、キャンピング馬車目掛けて人相の悪い男と修理役の男が走り出した。
「ユウイチさん、追いかけますか?」と、リリアが確認する。
それに対してユウイチは「ん、どうしようか?」と、どちらでも構わない様子である。
「待っているのは『最強』と『最恐』の二人ですから」とアルマが続ける。
「私達はこっちの後片付けをしましょう」と、慎重派で段取りの良いカミューヨも放置する様子である。
「へっへっへ、アイツら追ってきませんぜ!」と、修理役の男が人相の悪い男に話し掛けたが、「それよりも、この馬車の御者台は何処だ?」と、人相の悪い男が戸惑っている。
「とにかく、こじ開けましょうや」と、修理役の男ガチャガチャとドアノブを引っ張っているが、ドアは一向に開く気配がない。
「貴方達、ドアを壊さないで下さる」
もう一台の馬車の中からミレイが元伯爵令嬢らしく悠然と降りてきた。
「おい、本当のお貴族様はここに隠れていやがったぜ!」
ミレイを見た人相の悪い男が宝物でも見つけたように叫ぶ。
「悪いがあんたには一緒に来てもらうぜ……」
そう言って、ミレイの腕を掴もうとした修理役の男が力なく崩れ落ちた。
「おい、どうした?
ゲッ、お前は一番後ろにいたはずだぞ!」
突如として現れたリーネを見て驚いた人相の悪い男が幽霊でも見たかのように目を見開いた。
「私が何処にいようが貴方には関係のない話しよね」
リーネが殺気のこもった目で人相の悪い男を睨み付ける。
「くそっ、それ以上近づきやがったらコイツがどうなっても知らねぇーぜ!」
リーネの殺気に恐れをなした人相の悪い男は消去法でミレイに剣を突き付けて凄んで見せる。
「あっそ、お好きにどうぞ」
リーネはどうでもいいようである。
「リーネさん、それはないでしょう!」
やる気のなさそうなリーネの態度を見たミレイが不満を顕にしている。
「ミレイ様、身を守る術は教えましたよね。
それぐらい、ご自分でどうぞ!」
リーネは些か呆れ気味である。
「ごちゃごちゃ言ってねぇーで、馬車を動かせ。
この女がどうなっても知らねぇーぞ!」
再び、人相の悪い男が凄んで見せる。
「ミレイ様、時間がもったいないですよ」
リーネは心底どうでもいいようである。
「もう、分かりましたわ」
ミレイが人相の悪い男の手首に手刀を叩き込むと持っていた剣がぽとりと地面に落ちた。
「それから、どうしますか?」
「確か、こうですわね」
ミレイは人相の悪い男の腕を取ってグルッと後ろに回った。
「イテテ……
何をしやがる」
「それで?」
「確か、こうでしたわね」
人相が悪い男の背後に回ったミレイは、うなじに手刀を叩き込むと「グッヘッ」と人相の悪い男が膝から崩れ落ちた。
「ミレイ様、やればできるのですから始めからなさって下さい」
リーネがやれやれと肩をすくめて見せる。
「はぁー、暴漢に襲われているところを颯爽と現れた騎士様に助けて頂くなんてことは現実には起こらないのですね……」
「はぁー、当たり前です」
二人は顔を見合せ、改めて深い溜め息を吐いた。




