【第九十二話】一階層探索報告会
ダンジョンでもう一泊したユウイチ達は帰り道もノンストップ作戦で夜通し馬車を走らせて研究所に辿り着いた。
「ふうー、やっと戻って来られたな」
ユウイチは研究所に帰ってくるとホッとするようになった。
まことに「住めば都」とはよく言ったものである。
「リリア君とアルマ君の二人でダンジョン探索の報告書を書いてくれるかな?」
旅から戻って即、仕事とはブラックにも程があると思わないで欲しい。
何故なら、今日は昼まで作業して午後からは休む予定だからである。
「それは構いませんが、その間ユウイチさんは何をするんですか?」
人に作業を押し付けてサボるのは、絶対に止めておいた方がよい。
何故なら、上手く遣ったつもりでも、いつか必ずバレるからである。
「俺は甲羅の苔を取る準備をするよ」
リーネに報告するためにサーペントネックタートルの甲羅に幾らぐらいの価値があるのか早めに調べておく必要がある。
「ユウイチさん、一人だけでは大変じゃないですか?」
巨大魔獣の部類に入るサーペントネックタートルの甲羅は大きい。
だから、手作業ではかなりの時間がかかりそうである。
「チッチッチッ、良い方法を思い付いたんだよ」
ユウイチは右手の人差し指を左右に揺らしながらリリアにドヤ顔をして見せる。
「何だか面白そうな匂いがしますが、どんな方法ですか?」
面白い物センサーを反応させたリリアは「私も手伝います」と言わんばかりの勢いで聞いた。
「アレを使うんだよ」
ユウイチは事務所の床磨き用に置いてあるポリッシャーを指差した。
「ユウイチ所長、あれは王城から返品されてきたポリッシャーですね」
事実だが、「返品されてきた」は余計だなと感じるユウイチである。
「苔で滑って落ちてしまいそうですが……」
平らな床でフラフラしていたユウイチが甲羅の上でポリッシャーを使ったらどうなるのか言うまでもない。
「だから、先ず滑らない靴を作る!」
前世には用途に合わせた色々な靴が存在していた。
その中に「滑らない」があったとユウイチは記憶している。
「もしかして、その靴の滑り止めにスライムを使いますか?」
「あははは、
リリア君、なぜ分かった?」
リリアの野生の勘により図星をつかれたユウイチは苦笑いをして誤魔化しておく。
「所長様、私なら身体強化すれば滑り落ちても大丈夫です。
苔取りを手伝いしましょうか?」
慎重派で気配りのできるカミューヨが手伝いを買って出てくれた。
「それは、助かる。
では、苔落としはカミューヨ君に頼むとして俺は靴作りに専念するとしよう!」
「結局、ユウイチ所長はスライム靴が作りたいんですね」
アルマがやれやれといった表情で肩をすくねている。
「俺は冒険者ではなく技術者だからな。
ダンジョン探索ではなく魔導具の開発が本来の仕事だよ」
ユウイチはアピールを兼ねて負けずに応戦した。
「それなら、報告書にユウイチさんがスライムを使った靴を作っていることも書いておきます」
報告書に「スライム」の文字が記載されていれば当然のようにリーネとミレイから厳しい尋問を受けることになる。
「リリア君、靴の前に新作のスイーツを作ることにするよ」
慌てたユウイチは予定を変更して懐柔策に出る。
「もう、ユウイチさんはズルいですね。
でも、仕方なくですが買収されてあげます」
思ったより簡単に釣れたとユウイチはホッとする。
もしかしたら研究所に戻って来た時よりホッとしたかもしれない。
「それでは、ティータイムが終わったら作業に取り掛かってくれ」
ブラック企業ではない魔導具研究所は従業員には、ゆとりを持って作業してもらう方針である。
「ユウイチさん、報告書が出来上がりました」
リリア達が報告書を完成させたのはランチタイム間近である。
もしかしたら、リリアの腹時計が働いたのかもしれないが、要らぬ地雷を踏まないようにユウイチは黙っておく。
「お疲れ様、これは新作のスイーツだ。
三人で食べてくれ」
ユウイチは口止め料代わりのスイーツを渡しておく。
「有り難うございます。
ところで、本当に明日はお休みしても良いんですか?」
「ダンジョン探索で疲れただろうから、ゆっくり休んでくれ」
ブラック企業ではない魔導具研究所では「休むのも仕事の内」という方針を掲げている。
「有り難うございます。
アルマ様、先ほどお話した通り明日の午後からダンジョンの反省会をしましょう」
「分かりました。
この、新作のスイーツを忘れずに持って行きます」
ブラック企業ではない魔導具研究所では「休み方は人それぞれ」という方針を掲げている。
「所長様、少し宜しいでしょうか?」
リリアとアルマがスイーツを持って帰宅した後、入れ替わるようにカミューヨが事務所に戻ってきた。
「カミューヨ君、何かあったのかな?」
「はい、甲羅にこの様な物が埋まっていました」
カミューヨが紫色をした拳大の鉱石らしき物をユウイチに差し出した。
「鑑定!」
見ても分からないユウイチは迷わず鑑定してみた。
【名前:アダマンタイト】
【種族:鉱石】
【属性:土属性】
【魔力:80】
【魔法:無】
【スキル:無】
【称号:七貴石】
「所長様、いかがですか?」
「カミューヨ君、これは七貴石の一つであるアダマンタイトだよ!」
探していた七貴石が手に入ったユウイチは心の底からホッとする。
これが、今日のユウイチの「ホッとしたランキング」の一番かもしれない。
「所長様、これでリーネさんに怒られなくて済みますね」
これは、慎重派で常識人であるカミューヨの精一杯の軽口である。
ユウイチは今回のダンジョン探索で「カミューヨ君との距離が少し縮まったかな」と感じている。
「あははは、カミューヨ君も上がって貰ってもいいよ。
明日はゆっくり休んでくれ」
ブラック企業ではない魔導具研究所では「休む時は皆で休む」という方針を掲げている。
「所長様、そのアダマンタイトは、ほんの極一部なのですが?」
「もしかして、取り出すのが大変な量なのかな?」
「はい、かなりの量になると思います」
後で調べて分かったことだが、サーペントネックタートルは胃石にアダマンタイトを使っていてそれが甲羅に蓄積されるらしい。
一万年生きるとされる魔獣なら蓄積される量も多くなる。
「それは朗報だな。
だが、取り出すのは休み明けにしよう」
「分かりました。
それでは私も失礼致します」
慎重派でもしかしたらスイーツ好きかもしれないカミューヨもスイーツを持って帰宅した。
「ふうー、俺も休むとするか。
だが、技術者と冒険者の二刀流は大変だな」
ユウイチは前世の偉大な日本人メジャーリーガーに畏敬の念を抱きながら大きく背伸びをした。
「「おはようございます!」」
翌々日の朝、じゃじゃ馬コンビの元気の良い挨拶が事務所に響く。
「おはよう、リリア君、アルマ君。
今日の報告会は頼んだよ」
「任せて下さい!」とアルマが大きな胸を「バン」と叩くと、「報告会でも私達の連携をお見せします」と大きさは別としてリリアもバンと胸を叩く。
「おはようございます。
所長さん、一階層の探索お疲れ様でした。
報告会を楽しみに待っていましたのよ」
リーネを従えて研究所に姿を見せたミレイも、大きさは別として期待に胸を膨らませている。
「大司教様の期待に添えると思いますよ」
ユウイチは不敵な笑みを浮かべている。
「皆さん、お揃いのようですね」
暫くしてカミューヨを従えたミエスクも姿を現した。
「公爵様、おはようございます。
これで、全員揃いましたので今から報告会を始めたいと思います」
恐らくサーペントネックタートルより手強い三人に対しての報告会が始まった。
「先ず、一階層で討伐した魔獣と採取した素材から報告します」とアルマはレポートに記した通り倒した順に魔獣と魔木の名前を挙げていった。
「クレタカルーフォですか、それは非常に珍しい魔木ですわ」
その中でミレイは人喰植物に興味を惹かれたようである。
「毒矢ガエルの皮からは解毒剤が作れるのね。
それなら、診療所に常備しておきたいわ」
一方、 リーネは解毒剤の素材になる毒矢ガエルの皮に興味があるようだ。
因みにポピュラーな部類に入るキラーラビットには誰も興味を示さなかった。
「そして、とても意地が悪い仕掛けがある大きな建物がボス部屋で、中にいたサーペントネックタートルを倒しました」
話が脱線しないようにリリアが細心の注意を払いながら進行する。
「素材としてサーペントネックタートルの皮と甲羅、それと部屋の奥にあった宝箱を持ち帰りました」
アルマがリリアの話を引き継いで説明した。
「サーペントネックタートルですか……
魔物の森では、まず見ることがない魔獣です」
「サーペントの皮は見たことがございますが、サーペントネックタートルの皮は見たことがございませんわ」
ミエスクとミレイの反応からサーペントネックタートルがとてもレアな魔獣だということが分かる。
「そして、サーペントネックタートルの甲羅に七貴石の一つであるアダマンタイトが埋まっていました」
今回の探索における最大の成果をアルマが発表した。
「まぁ、それは素晴らしい。
これからの探索が、より楽しみになるわね」
ミレイの後ろに立つリーネも、大きさは別として期待に胸を踊らせているようである。
「これで、デパートダンジョンで七貴石が揃う可能性が出てきましたね」
満足そうに話すミエスクの後ろに立つカミューヨが、大きさは別として得意そうに胸を張っている。
「今回の探索の成果は以上になります。
ご意見のある方はいらっしゃいますか?」
「私はセーブポイントへの移動が空間転移の魔法なのかが知りたいですわ」
魔法オタク疑惑のあるミレイは未発見の空間系の魔法が気になっているようである。
「私はボス部屋に辿り着くための条件ね」
ダンジョンの周辺開発に力を入れているリーネは冒険者が集まりそうな情報が知りたいようである。
「私は、古文書の記述とダンジョン探索の共通項が知りたいですわ」
古文書オタク疑惑のあるカミューヨはデパートダンジョンの探索結果を精査したいようである。
「その辺りは改めてレポートに纏めて提出します」
この辺りは、今後の探索にも役立ちそうな情報でユウイチも気になっているところである。
「以上を持ちまして報告会を終わります」
それ以上の質問が出なかったので、リリアの閉会の言葉で報告会は終わったのであった。




