15話俺達の戦いはこれからだ!!
「アージダハーカぁぁぁぁぁ!!儂ビッチというやつじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
側近のアージダハーカが執務室に入ってくるなり、魔王は側近に向かって開口一番こう叫んだ。
突然の魔王の発狂ぶりにアージダハーカは「またか…」と軽く溜め息を吐きつつ紅茶を執務机の上へと用意する。
「良いではありませんか…先代の魔王様も王妃様の他に愛人を58人は囲っていらっしゃったのですから」
「おばあ様はお祖父様のそれが原因で36回は実家へ帰ったのだぞ!!」
魔王はありし日の祖母の言葉を思い出す。
「貴女はあんな誰彼構わず手を出すお祖父様のような最低な魔王になってはなりませんよ」
祖母のその言葉には重みがあった。やはり経験者の言には生々しいまでの重みがある。
祖父の浮気するその姿に、祖父の息子で魔王の父は魔王の位を拒否し、最愛の母一人だけを愛したのだ。
結果、両親から産まれた人物の中で最も魔力が強かった現魔王が次の魔王の位を継いだのである。
「先代様の血を色濃くお継ぎでいらっしゃるのですよ…誇りにお思い下さい」
アージダハーカの微妙な励ましに危うく頷きかける魔王であったが――
「誇りに思えるかいぃぃぃ!!」
魔王にしては珍しくツッコミが入ったのでアージダハーカは驚きに目を見張っている。いよいよ重症かもしれない。
「魔王様…ですが彼ら勇者の皆様の中から一人をお選びになる事ができるのですか?」
アージダハーカの核心をついた一言に魔王は「ぐぬぅ」と口をへの字に結んでしまう。
三人が三人共に魅力的で魔王には誰か一人だけを選ぶ事など出来そうになかった。
「それでしたら、魔王様の今のお気持ちを皆様にお伝えしてみてはいかがでしょうか?もしそれでも良いとおっしゃるのでしたらお三方をお婿様とされたら良いですし、それが嫌だと言うのでしたらその方にはお婿様の座を退いて頂くだけです」
「何だか身勝手な話だのう」
彼らは唯一人の魔王を愛してくれているのに、当の本人は三人を愛してしまったのだ。
自身の身勝手さに落ち込む魔王にアージダハーカは優しく言葉を掛ける。
「そのように悩まれ苦悩されているのを皆様きっと理解されていますよ」
「アージダハーカ…」
側近の珍しく純粋な優しい言葉に魔王は目頭が熱くなるのを感じる。
「次代の魔王様の後継者になるであろう子供は多いに越した事はありませんからね――」
アージダハーカの呟きが魔王の耳に届く事はなかったのであった。
☆☆☆
翌日、試合に勝利した睦月とメリクリウス、そしてウルカーヌを謁見の間へと呼ぶと魔王は言葉を発する。
「皆に聞いてほしい事がある――この度のバトルロワイヤルは儂の婿を選ぶ為に行われた――本来ならばこの中の唯一人を選ばねばならぬ所なのだが――」
そこで魔王は一区切りし、深呼吸をする。謁見の間に呼ばれた三人に緊張が走る。
「儂はそなた達三人を等しく愛してしまった――儂には一人を選ぶ事が出来ぬ。もしそなた達がそれでも良ければ儂は三人を婿として儂の伴侶としたい――もしそれが嫌であればこの場で言ってほしい。その者には十分な褒賞を与えて母国に帰そう」
魔王のとんでも発言に睦月もメリクリウスもウルカーヌも顔を見合わせて立ち尽くす。
「三人共が嫌であれば全員に褒賞を与え帰そう」
魔王はそう言うと俯いて唇を噛む。全員に拒絶されるのは覚悟が出来ているが、目を見て拒絶されるのが耐えられなかったのだ。
「俺は構わないぜ…魔王さんあんたの婿になるよ」
「私も異論はありません」
「僕もですよ」
どれ位の時間が経ったであろうか――三人から発せられた言葉に魔王が顔を上げると、そこには魔王を拒絶する人間は居なかった。
「そなた達…本当に良いのか?」
恐る恐る魔王が尋ねると、三人は笑顔で頷いた。
「まぁ但し魔王さんとの初夜権は俺がもらうけどな!!」
「それは譲れません…私は貴方よりも昔から魔王様を愛していたのですから初夜権は私の物です」
睦月の言葉にすかさずメリクリウスが反論する。
「僕は皆とまとめてでも構わないけど、最初に○○するのは僕がいいですね」
二人の言い争いを横目にちゃっかりと魔王の元へと行き、魔王の手の甲に口づけるウルカーヌ。
「テメェ!!何抜け駆けしてやがる!!」
「ウルカーヌ…その汚らわしい手を魔王様から離しなさい!!」
ウルカーヌが魔王の手の甲にキスをしているのを見た二人が一斉に剣を引き抜く。
「今から魔王さんとの初夜を賭けた戦いだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「望む所です」
「だから僕は全員まとめてでもいいんですけどね――」
こうして魔王の婿となった三人による初夜を賭けた戦いが始まるのであった――
完
「おいぃぃぃ!!こんなオチで良いのかアージダハーカぁぁぁぁ!!!!!!」
「面白くなってきましたね魔王様」




