↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/19

第8話 ハムカツ好きなの?

 とはいえ、毎日ラーメン屋に通い詰めるのはどうかと思った。

 思いっきり、藤原目当てみたいで。


 いや、藤原目当てなのは、半分そのとおりなんだけど。

 残り半分、あそこのラーメンが気に入ってるのは本当なんだと、強く主張しときたい。する相手がいないのはともかく。


 ちょっともやもやを抱えながら学校の最寄り駅に向かってると、見慣れた美人が場違いっぽいとこにいた。


 駅近の揚げ物屋で、たぶんハムカツをテイクアウトしてる藤原。

 まぁ、あの店のハムカツ美味いよね。


 背中を丸め、妙にこそこそと周囲の目を気にしてる怪しさ。

 ヤンキーが萌え漫画買う時、ああいうふうになりそうって、なんとなく思った。


 見なかったことにした方がいいんだろう。

 それは分かってる。


 だけど、ハムカツ?を買った藤原は、路地の方に入ろうとして、よせばいいのに振り返った。

 俺と目が合う。


 そしたら、思いっきり睨んできた。

 何十メートルか離れてるはずなのに、すぐ目の前にいるみたいな圧。


 美術の時にも睨まれてると思ってたけど、圧の桁が三つ以上違う。

 俺の中にある、本能? 野生? ケモノ? そういうふうなとこが圧し潰されてく。


 数秒そうしてから顔を背け、今度こそ路地に入って……入ったはずなのに、数歩戻ってまた俺の方を向いた。ゆっくりと。


 バツが悪い。

 正しい意味は知らないけど、今の藤原の顔は、たぶんそれだ。


 さすがにリアクションせねばと気付き、軽く手を上げたとこで、藤原は走って路地の向こうに消えた。


 誘ってる?


 単に二度見して逃げただけかもだけど、あそこまで不審な態度取られたら、追いかけない方が失礼な気がした。

 失礼?


 とにかく、車がギリ通れるくらいの細い道に入ってく。

 俺にはこの駅前をぶらつく習慣がないので、初めて通る道だ。


 揚げ物の衣を落としながら逃げてたら面白いけど、そういうこともなく。

 だけど、意外とあっさり見付かった。


 藤原がいたのは、古い住宅街の中にぽつんとある、十台も停めれないちいさなコインパーキング。

 そこの鉄パイプの黄色い車止めに、お尻を乗せてた。


 長くてまっすぐな黒髪が、風で少しだけ流れてる。


「何しにきたの?」


 きつい口調でなく、かといってラーメン屋の時のようでもなく。

 家出が三十分で終わった小学生みたいな、すねた言い方。


 こっちが何か言う前に、ハムカツにかぶり付く。

 目を細めて美味しそう。


「いや、あれだけ怪しかったら、追いかけたくなるだろ?」

「だって、細田くんに見付かるなんて、思わないじゃない。よりにもよって、細田くん」

「俺はよりにもよるんだ?」


 また、特別感があるようなないような言い方だ。


「うん、他の子だったら睨めばいいだけじゃない? 圧で記憶を消すんだよ」

「異能力者」

「睨んでたら、意外と相手の顔って把握できないんだよね。圧かけるのに集中してるから?」

「能力に制約があるやつ」

「でも、睨んだ後、歩き始めてから、なんか見た顔だぞってなって」

「で、戻ってくるとか謎の挙動したわけだ」

「その言い方、不審者みたい」


 実際、知ってる人間じゃなかったら、そう思ってた。


「ハムカツって、そんな恥ずかしい?」


 思ったままの疑問を口にする。

 ぶっちゃけ、藤原のイメージじゃないけど、あそこまで隠そうとしなくてもいいような。


「口実与える訳にはいかないんだよ」

「口実? 誰に?」

「不特定多数の人間」


 今いち分からん。

 首を傾げてると、自分の言葉が足りてないって気付いたみたいだ。


「『藤原さん、あそこの揚げ物屋さん行くんだ?』『何食べるの?』『いいよね、ハムカツ! あたしも好き!』そういう、会話の口実」

「ああ、隙見せたら終わりなんだ?」

「そうそう!」


 明るく笑うけど、その考え方はかなりキツいもんがある。

 共通の話題を見付けて話しかける。きっと、仲よくなりたいから。

 この女は、それを拒絶するのだ。


 と、なると不安になってくる。


「俺は? 俺が今みたいに話しかけてるのも、面倒な事態の始まり?」

「え?」


 ハムカツをかじってた藤原が、目を大きく開いて俺を見る。

 なに言ってんだ、こいつ? みたいな顔。


「今、細田くんしかいないでしょ? 群れで襲ってきたり、それ見てて嫉妬してくるやつらが面倒なんだよ」


 ゾンビみたいな言い方だけど、確かに前にそういうこと言ってた。

 俺ひとりだったら面倒は起こらない。


「それって……安心な、存在ってこと?」


 藤原の中で俺はそうなってる。

 下心で近付いてくるような奴じゃない。


「うん、そう。安心……というか……」


 首を傾げながら、澄んだ青空に目をやる。


 その妙な間に、不安がせり上がってく。

 独りでハムカツ食べたかったのに、勝手についてきたのが俺なのだ。


 藤原が俺を見て言う。


「細田くんは、話してて嫌な子じゃないな。安心だから? それだけじゃない? 分かんないけど」

「へぇ……それってレア?」


 どうしても、特別扱いを期待してしまう。

 気になる人には、そういうふうに思ってほしい。

 仕方ないだろ?


「まぁ、レアかも。高校じゃ、ふたりしかいないね、そういう人」


 ああ、もうひとりいるんだ?

 けど、学校でふたりしかいない枠にいるのは、かなりいいことじゃなかろうか?


「あ、でも学校じゃ話しかけてこないでね」

「お互いのため、なんだよな?」

「そうそう。物分かりいいとこ、好きだよ」


 にっこりと軽く、心臓をドキリとさせること言って、ハムカツが入ってた紙袋をくしゃっと握りしめた。


 お尻を浮かせて車止めから離れる。

 駐車場の敷地から出ようとしてる後ろに声をかける。


「俺、五分くらい待ってから行った方がいい?」

「分かってるね。やっぱ、わたしたち似たもの同士」


 くるりと身体ごと振り返った藤原が、指で作った鉄砲で俺を撃つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。