第5話 好きは……
ラーメンを待ちつつ様子見てると、藤原は明るく元気な店員ではある。
が、さっき俺にした手招きみたいな、あそこまで砕けた態度じゃあない。
あくまで「ラーメン屋の店員」の範囲内だ。
やっぱ、俺だけ特別……?
勘違いなんだろうけど、勘違いしても仕方なくない?
思わせぶりな小悪魔ってキャラじゃなさげなくせに、俺の心を惑わせないでくれ。
「お待たせしました~!」
その藤原がラーメン運んできた。
どんぶりが音を立てず滑るようにカウンターの上に置かれる。
「お、うまそう」
「ごゆっくり~!」
と、言い残して背を向けた藤原が、またくるりとこっちを向いた。
どうしたと顔を向けた俺の肩に、親しげに手が置かれる。
「細田くんが褒めてくれたの、お父さん喜んでたよ」
「そっか、よかった。思ったそのままだったけど」
藤原が両拳を胸のすぐ前で前後に振り、うれしそうな茶目っ気のある表情を向けてきた。
そういうの、他のお客にはしてないよね?
「細田くんに来てもらってよかったっ。同級生、誰も呼ばないからお父さん心配してたんだよね」
「あ、そういう事情あり? 寂しめな」
喋りかけるなオーラ出しまくりで、ウチのラーメン屋来てください、とは言えんわな。
「細田くんなら安心だし」
「安心? 俺が?」
そんな信頼、いつの間に獲得してたんだ?
いや、信頼されてるって事実をまず喜ぼう。
ふたりにとって、大きな一歩が……
「だって。細田くん、人間嫌いでしょ? 後から面倒なことにならないもんね」
「はい?」
「あ、ラーメン冷めちゃうよ!」
言いたいことだけ言って、藤原は去っていった。手を振りながら……
そりゃまぁ……人付き合い悪いのは認めるけど……
「人間嫌い」ってきっぱり言われるほどじゃあ、ないつもりなんだが?
ラーメンは相変わらず美味いけど、今日はなぜだか苦みも感じた。
怒ってるとかじゃないけど、さすがに誤解は解いときたい。
会計の時に話しかけた。
「あの~、藤原……ちょ~っと聞いてほしいんだけど」
「え、どうしたの。おサイフ忘れた?」
「あのさ、俺、人間嫌いレベルじゃあないって、自認しててですね……」
「あ、言い方マズかった?」
両手を合わせ、申し訳なさそうに首を傾げる。
両手の間に伝票挟んでいるが、いや、むしろそれがかわいい。
藤原は首を傾げたまま、右手で俺を指差してくる。
「言い方はゴメン。でもキミ、クラスメイトの誰にも心開いてないよね?」
「うっ」
そのとおりなので言い返せない。
「わたしと同じ。同類。絶対ヘンな勘違いしないから、安心なんだよ」
「いちおう聞いとくけど……ヘンな勘違いって、例えば?」
ついさっきまでの脳内のグルグルが思い出され、冷や汗が出てくる。
「わたしのこと好きって言い出すとかそういうの。めちゃくちゃ面倒なんだよ。キミなら分かってくれると思うけど」
「そ……そうなんだ。俺は好きになられたことないから、想像しかできないけど……」
「もう、ホントに面倒なんだ……」
うなだれて、弱々しい声で言う。
美形の彼女なら、これまで大量の好意を向けられてきたろう。
「面倒」という言い方は引っかかるけど、それは負担だったということか。
「恋愛なんか大嫌いってかんじ?」
「大嫌い……?」
伝票を指に挟んだまま、腕組みをして考え込む。
なんか、恋愛のこと深く考えたことないっぽい。
しばらく待ってたら口を開いた。
「恋愛が嫌いって訳じゃないかも。うちの両親も好き同士で結婚だし、話聞いてていいなぁって思ったこともあるし」
「あ、全否定じゃないんだ?」
意外な回答が返ってきた。
じゃあ、チャンスが! な~んて考えるのは、甘すぎるって分かってる。
「でも、学校の中で好きとか言われるのは、めちゃくちゃ面倒なことになるって知ってる」
「ああ、学校の中はなぁ」
「あ、お店でナンパされるのも面倒だな……」
「ああ、ナンパはなぁ」
自分なりの答えを見付けたらしい藤原が、深くうなずく。
「恋愛が嫌いなんじゃなくって、今まで面倒な目にしか遭ったことないから面倒なんだよ」
「そういう点、俺は安心なんだ……?」
確かにいろいろ勘違いしかけてたけど、好きになるとかまでは行ってない。
俺はギリセーフなはず。
藤原が、にこやかに笑いかけてきた。
「そう、安心! 同い年で安心できる子ってなかなかいなくって。ヘンなテンションになってたかも。ヘンだったよね、わたし?」
「いや、明るい店員さんだなって思ってた。普通より?」
明るいどころかかわいいって思ってたけど、今言うわけにはいかなかった。
「いつもは普通の店員だからね?」
いたずらが見付かった幼稚園児みたいに、上目遣いで見つめてくる。
「じゃあ……また確かめにくる。藤原の普通がどんなもんか」
「ホント! ありがと、細田くん。思いきって声かけてよかったっ!」
常連客ゲットで喜んでくれてるけど……
このまぶしい笑顔を何度見せられても、俺はこの子のこと好きになっちゃいけないらしい。
好きになるなら藤原だろうって、思ったんだけどなぁ。




