第4話 やっぱりキャラが違いすぎる
家からラーメン屋『飛龍』へは、チャリで頑張れば行ける距離だ。
電車通学の高校になってからは、あんまり使ってないチャリを、ギーコギーコとこいでいく。
あくまでラーメンを食べにいくつもりだけど、店に近付くにつれ雑念がジワジワ大きくなる。
当然、あの店員のことだ。
期待というより、不安の方がデカい。
前はあくまで営業スマイル。俺との距離は学校のが正常。
「うわ、こいつまた来やがった」
試しに自分で口にしてみて、予想以上のダメージ受ける。
だけど、今さら行くのはやめられない。
口の中がラーメンになってるから……いいや、店員がどういう態度を取るのか、気になりすぎて頭がどうにかなりそうなんだ。
停めれそうなところに自転車停めて、店の入口を見る。
めちゃくちゃ入りやすそうな店なのに、ガタイのデカい兄ちゃんが門番してるヤバいクラブより入りづらい。
ここまで来たのによ……
と、いきなり引き戸が開いた。
「ありがとうございます!」
その明るく高い声は、前にも聞いたことがある。
だが、これは俺に向けられたもんじゃない。
ごきげんなおっさんが店員に向かって片手を挙げる。
「ごっそさん!」
深々と下げてた頭を上げた店員と、目が合った。
「あっ、細田くん!」
前も見た、店頭の照明のショボさを無効化する、華やかな笑顔。
同時に、学校では絶対に見れないやつだ。
「え、あ、おう……」
俺がコミュ障丸出しになったのは、学校との差がデカすぎるから。そういうことにしたい。
「え~、もしかして?」
片手を口元に当て、大きな目をキラキラさせて、めちゃくちゃ期待してるの隠そうとしない。
これでもし、単に通りがかりですが?とかなれば、罪悪感で心臓が潰れただろう。
「まぁ、そう。ラーメン食いたくなって」
「わあ! いらっしゃいませっ!」
テンションが高すぎる、ラーメン屋の娘。
両手を頭の高さまで上げて手招きしてるのは、ちょっと一般的な店員の態度と違う気がする。
もしかして俺だから……?
そんな期待をしかけて、いや別に、俺が特別な理由なんてひとつもないな、とスンとなる。
学校では、朝のあいさつすら交わさない仲なのだ。
ともあれ、キョンシーみたいな手招きしてる店員の側まで行くと、店員は、ぴょんと軽く跳ねて先に店の中へ入った。
「どうぞ、カウンターへ!」
手を広げた先にある席へと収まる。この前の右隣か?
メニューを見てる間、隣にはずっと藤原が立ってた。
学校にいる時とは違う圧を感じる。ラーメン屋好きすぎるオーラが、圧になって迫ってくるのだ。
「ラーメン並と、単品なんだけど……」
と、藤原に視線を送ると、察したのか隙を見つけたのか、ずずいっと前に出てきた。
「餃子は前に食べてくれたよね? うちは唐揚げも自信あり。お父さん、中華料理屋さんに潜り込んで味盗もうとしてバレて土下座して教えてもらったんだ。脂っこいのは……っていうなら、ごはんにキムチも地味にあり。お米は頑張ってブランド米。農家の人から直接買ってるから採算ギリセーフ。キムチもお母さんが漬けるのハマりすぎて一時は毎食キムチで、それでも今でも飽きずに食べれる美味しさだよ」
「あ、はい」
予想の五倍以上の熱量に、悪いと思うけど引いてしまう。
危うく全部頼みそうになるが、食べきれない方が罪が重そうなので唐揚げだけにした。
注文を復唱した後、藤原がにっこり笑顔を向けてくる。
「ありがと、細田くん。また来てくれてっ」
まっすぐすぎる視線にドギマギしつつ、ここまでで二回、引っかかることがあった。
聞き間違いじゃないはずだけど、あり得ないことだって思った。
頭の中でぐるぐる回してるだけじゃ、答えは一生出てこない。
だから、思いきって聞いてみた。
「俺の名前……なんで知ってんの?」
「え、だってクラスメイトだよ?」
当然じゃない。みたいな顔されたが、普段の態度は、その当然の枠から思いっきり外れてるんだよなぁ。
「だ、だったな……いつも隣にいたわ」
「ま、わたし。クラスで名前憶えてる子、五人くらいしかいないんだけどね」
「え? 俺、その中のひと……」
「はーい、お待ちくださ~い!」
俺の問いを最後まで聞かず、店員は呼ばれたテーブルへと走り去った。
五人か……特別感があるようなないような、ビミョーなラインだ。
単に隣の席だから、が一番ありそうな答えだよなぁ。




