第16話 藤原とカフェ3
藤原は相変わらず幸せそうにパフェ食べてる。
見ててつくづく思う。
「今の藤原。学校のやつら見たら、混乱して死人が出そうだな」
「絶対見せないけどね~」
なぜか得意げにそう言うと、俺の目関係なしの大口開きで、イチゴ一個を丸ごと食べる。
そして目元を蕩けさせた。
「ま、その方がよさそうか。ヘンに親近感持たれて、山ほど群がってきそう」
「そう。というか、群がってきたんだよ、中学時代に」
「経験談か」
「経験談」
中学時代の藤原は、喋りかけるなオーラは出してなかった?
いろいろあって、高校では初っ端からオーラ出してたんだろうか。
入学初日の自己紹介は酷かったからなぁ。
名前だけ言って。「後は言う必要なし!」で強制終了させちまった。
先生は顔引きつらせながら、結局次のやつに回した。
藤原が人差し指を立てて言う。
「無限遠じゃなきゃダメなんだよ。ちょっとでも近寄られると、離れたとこにいるやつらが嫉妬してくる。ああいうの、なんて言うんだろう? 一軍?」
「ん? ヒエラルキーの一番上って、いちいち周り気にすんの? 余裕こいて自分らだけで盛り上がってるイメージだった。知らんけど」
「あいつらが言うには、どーも、わたしが目立ちすぎるらしい。なのに、クラスの中心だとか何も気にしてない。で、イラつくみたい。知らんけど」
一軍って、自分らがクラスの中心にいないとイラつくのか?
そういうの、ボスで変わってきそうな気もするけど、藤原がいた中学校という名の猿山のボスは、心が狭かったみたいだ。
「知らんがな。だな、それ」
「まさにまさに。だから、全員を無限遠の彼方に突き放すの。仕方なくない?」
藤原みたいな境遇だと、藤原みたいな生き方になるのは仕方ないのかな?
いいや違う、と俺は言いきれなかった。
わざわざ傷付く方を選ばなくていいと、俺は常々思ってる。
「仕方ないか。フツーに藤原と話してみたいだけっぽいやつ、たまに見かけるけど」
「その子に悪意がなくっても、近寄らせちゃ全部台無しなんだよ」
確信持って言ってるっぽいのに、目にちょっと力がなかった。
そしてぽそりと言う。
「全然、心痛まないわけじゃないんだよ?」
「やっぱ、そうなんだ」
ため息ついた後、イチゴ頬ばって顔を蕩けさす。
食べ終わってから俺を見た。
瞳がちょっと、揺らいでるような気がする。
今まで見たことない顔だ。
「悪意ないの、たまに分かるからね。けど、追い払わないと後から面倒なことになるってのも分かってる」
「だから追い払うんだ? 自分も傷付くけど」
「わたしより、相手の方が傷付いてると思うよ。そりゃあね」
他人を気遣えないやつじゃない。
ラーメン屋の藤原見てて、なんとなくそう思ってた。
お客を気遣って、両親を気遣って、そういうのが、仕事してるとこから伝わってくる。
だから、今の発言には素直に納得できた。
「下心あるやつの方が、まだマシなんだ?」
「まぁ、そう。良心傷めず突き飛ばせるからね」
にっ、と笑う。
いや、中にはホントに藤原のこと好きなやつも……と思いかけて。
それ、わざわざ藤原が見極めて、対応変えるって藤原の負担がでかすぎる。
悪意ないやつ含め、全員突き放すって決めてた方が、負担に潰されずに済むって思った。
「今んとこ、中学よりマシ? 前みたいなトラブルはあるけど」
カレシが勝手に藤原に惚れたからって、女子が理不尽にキレてきた。
ああいうのが、高校になってからも時々起こってる。
「うん、だいぶマシ。だいたい、気楽に『無』でいられてるね」
「ならよかった」
「うん。ありがと、心配してくれて」
口元を大きく緩めて、柔らかく笑いかけてきた。
真正面でそんな顔されると、恥ずかしくって目を背けたくなる。
けど、それは悪い気がして、相手の目を見たまま返す。
「おう。そんな大層なもんじゃないけど」
「でも、うれしい」
ダメだ、この笑顔は長時間見てられない。
俺の対人関係の心臓はあまりに弱すぎた。
「あ、そだ。わたしのイチゴ、お礼に一個あげる」
追撃するのやめてくれ。
そんな甘いかんじのは俺には甘すぎるって。
なのに、スプーンでイチゴすくって、マイペースに俺の器の方に持ってくる。
入れられる前に、どうにか手で器を覆えた。
「ええ~、なんで?」
「楽しみにしてたパフェだろ? 全部自分で食った方がいいって」
「まぁ……そう言うんだったら?」
大人しくスプーンを引いて、自分の口に放り込んだ。
「おいし~っ!」
その笑顔はもう見てられず、うつむいてかわした。
深い深いため息が出る。
笑うのが終わったくらいで顔上げて。
「藤原って、甘いの好きなんだな」
と、無難な話題を振ってみる。
学校の話は、楽しいパフェの時間にふさわしい話題じゃなかったかもと、今さら思ったりで。
「ま、フツーにね。細田くんはどうなの? 割と強引めにパフェ勧めといて今さらだけど」
「俺もフツーに好きだぞ。自分からパフェ、ケーキ買ったりはないけど」
「よかった。なんだかんだ付き合いいいよね。今日来てくれたのも、パフェ頼んでくれたのも」
「えっ、う~ん」
相手がお前だからだよ、藤原。
なんて言う度胸はどこ探してもなく。
それでも、理由っぽいの必要な気がして言う。
「たまにはいつもと違うことするの、面白いかもってな。実際、パフェ美味いし正解だった」
「そういうマインドなのに、なんで他の子にはあんな付き合い悪いの? たまにはカラオケ行ったら面白いかも、とかは?」
「あ~、俺の人間関係にご興味が?」
「ま、ちょっとね」
藤原に興味持ってもらえるのは……シンプルにうれしい。
本当にちょっとなんだろうけど、それでもだ。
人間関係の話は正直あんまりしたくない。
とはいえ、ここで藤原の興味を逃すのは、もっと嫌だ。
「どうせ深い付き合いになれないから、最初っから距離置いとく、みたいな」
「どうせなの? 仲よくなれないって思ってたけど、付き合ってみたら違ってた! みたいなの見るけど」
「それって恋愛の話だろ? 動画? 漫画?」
「漫画」
フィクションと現実をごっちゃにすんな。
「俺の場合、一番好きなものが他人に理解されないものなんだよ。そんなんじゃ、深い付き合いになれないだろ?」
「へぇ~。好きなものって、聞いてもいい?」
「う~ん」
正直、あんまり言いたくない。
それに、衝撃的なエピソードがあったわけじゃないし。
けど、藤原になら……
「俺ってさ、昭和の怪獣映画が好きなんだよね。ヌジラって言うんだけど」
「なんか聞いたことある。でも、最近の映画だったかも?」
「そう、今も続いてる。けど、俺が好きなのは昭和の頃。シリーズ長いんだけど、特に、ヘンに子供ウケ狙って、映画マニアからディスられがちな作品が好きなんだよ」
一部の特撮マニアからは愛されてるけど、多数派とは言えず。
過去作の使い回しだとか低予算の哀しみが出てて、フツーの映画マニアがディスりたくなるのも分かる。
「好きなのに、ディスられるんだ?」
「というか、今の子供は興味ないと思う。小学生の頃、友達に何回か観せたことあるけど、ビミョーな反応ばっかで」
だから、友達に勧めるのはやめた。
しつこく探せば、話合うやつが見付かったかもしれない。
けど、ヘンに空気壊すやつになりたくなかった。
「ああ、中学の友達も、わたしがラーメンのこと語り倒したらビミョーな顔する。でも、友達続けられてるけど」
「うーん、なんだろう? 俺は怖がりなんだろうなぁ。小学生の時でもダメだったのに、高校生になって昭和の怪獣映画? みたいに思うんだよね」
「好きなもの否定されたら傷付くよね。わたしもあるよ」
藤原は、まっすぐ俺を見てた。
口元を緩めてるけど、それはヘンな意味で笑ってるんじゃなく。
思ったとおり、藤原はちゃんと聞いてくれた。
だから、俺も語れる。
「で、結局、中学の頃から今みたいなかんじ。いや、中学じゃ一緒に遊びにいくくらいはしてたかな? それも面倒になったのが、今の俺」
「ふふふふふ……」
藤原が口元を覆って笑い声を漏らす。
けど、嫌なかんじはしない。
「ねぇ、細田くん」
いたずらっぽく目を輝かせながら。
「なんで、ふたりでパフェ食べてるんだろうね? わたしたち、こんなんなのに」
藤原が、また口元を隠すと、大きく吹き出した。
自分が見付けたものが、面白くって仕方ないみたいに。
肩を揺らしながら笑い続け、最後にタタンと両拳で軽くテーブルを叩いた。
まだ笑ってる顔で俺を見つめ、頭をちょっと傾けてから言う。
「また、どっか食べにいこうね。こじらせた同類同士でさ」
「おう、そうしよう」
こじらせてる。
そう自覚してるくせに、やること変えれないとこが、いかにも同類だ。




