第15話 藤原とカフェ2
藤原が目をキラキラさせながらメニュー見てる。
学校と全然違いすぎて、なんか和む。
「イチゴパフェにぃ~、ドリンクは……ジュースだと味がバッティングする? カフェオレにしようかな~」
急に顔を上げて、ぼんやり藤原を眺めてた俺の方を向く。
「細田くん何食べたい?」
「いや、俺はブレンドだけ。チェーン店じゃないコーヒーって、どんなのか興味あるし」
「え~、一緒にイチゴパフェ食べようよ~。ここのって、結構すごいよ? ほらほら」
と言いながら、藤原が自分のスマホを弄り始める。
そして見せてきたのはパフェの画像。
「インストで何人かアップしてる人いるんだよね。見て見て、山盛り」
インスト……インフルエンサーとかが上辺だけキラキラな生活を披露してるSNS。
承認欲求の亡者が徘徊する地獄の荒野。
そんなもん、藤原から見せられるって思ってなかった。
「藤原、インストなんてやってるんだ? 意外すぎる」
「自分用のは見る専だけどね。それよりパフェ!」
「自分用? 他人用もあるの?」
一般人がインストをどう使ってるか?
俺の知らない世界であり、別に知りたい訳でもない世界だ。
けど、藤原の場合はちょっと気になる。
「ああ、うちのお店のアカウント回してるの。お店の名前で見たら出てくるよ」
「いや、インストなんかしてないし」
「ええ……? 現代人……?」
しかめた顔でディスられる。
うるせぇ、俺には、趣味と憎悪が渦巻く地獄の泥沼、Tuitterがあればいいんだよ。
「ま、お店のは後で見せたげる、それよりパフェ見てよ」
「え? うーん……確かに、かなりボリュームありそうだな」
ちいさく刻んだイチゴが、クリームの上にちょろっとだけある。
みたいなしょぼいんじゃなくて、半分に切ったイチゴがクリームを囲ってて、その奥に丸ごとのイチゴも見えてる。
投稿主は、その画像に異様に絵文字を貼り付けたコメントを添えてた。
ウザそうだし中身を読む気はせん。
「お、ちょっと興味出た? じゃ行っとこ。せっかく半額なんだしさ」
「だな。俺もイチゴパフェ。それとブレンド」
「きーまりっ」
藤原がさっきのやる気なさげな店員を呼ぶ。
「お、パフェの半額セール狙い。お客さん、目ざといっすねぇ~」
さっきよりちょっとテンション上がってる。
そして、親指でカウンターを指しながら言う。
「うちのテンチョ、発注ミスってイチゴ十倍頼んじゃってさ。涙目になるし、うちが半額の案出したの」
「へぇ、それじゃ、店員さんのおかげでわたしたち得した?」
「うちらにしても、腐らすなら食べてもらった方がうれしいし。ウィンウィン」
というわけで、半額セール考案者に、そのセールを活用した注文をした。
「がっつり盛るから!」
拳を振って店員が去る。
どういう店だよ、ここ。
藤原が、ラーメン屋とはまた違った明るさの笑顔を向けてきた。
元々が目元クールだと、喜んだりした時、印象が変わって分かりやすい。
「盛ってくれるってっ」
「腐らすなら使いまくった方がいいんだろな」
「めちゃラッキー! お母さんにしてはよくやった」
ご機嫌でスマホ弄り始める藤原。
母親にLIMEしてるのかと思ったら、またスマホ見せてくる。
「ほらこれ、お店のインスト」
ラーメン屋『飛龍』のアカウントが映って。
フォロワー数は二百人ちょっと。
多くはないっぽいけど、ラーメン屋として少なすぎるのか、インスト使ってない俺には分からん。
「へぇ」
アカウントの感想は地雷原と判断し、俺は無難な返事した。
「後、TuitterとFACEBACKもやってるよ」
FACEBACK。
言うまでもないが、俺はアカウント作ってない。
Tuitterは、家帰ってからチェックしとこう。
「マメだなぁ」
「できるだけ、お店のこと知ってほしいしね」
「じゃあ、藤原は顔出ししてんの?」
ラーメン屋の看板娘。美少女JK。
藤原なら、これ以上ない客寄せになるだろう。
「するわけないよ。面倒なことになるって決まってるよね?」
って、俺をキツくキツく睨んでくる。
軽く言っただけなのに、容赦がなさすぎた。
いや、軽かった、からか。
藤原は、面倒な事態にこれまで悩まされ続けてるんだし。
「悪かったよ。そりゃあ、そうだよな。ラーメンに興味ないの集まってきても意味ないし」
「そうそう、分かってるじゃん。美味しそうって思ってくれた人に来てほしいの」
「実際、美味そうに撮れる」
藤原がスワイプしてくのを見ると、『飛龍』のメニューがひとつひとつ画像で紹介されてた。
正直に言うと、他人の反応は少ないめ。
「スマホで撮ってるんだけど、美味しそうに撮るのって、めっちゃ凝らなくちゃで。慣れるまで苦労したよ~」
「ホント、ラーメン屋のこと好きだよな。今も活き活きしてるし」
「うんっ、そりゃあね。お店開く前、お父さん修行してた頃から見てるんだし」
「あ、そっか、まずは修行なんだ」
ラーメン屋を開くにはどうするか?
当たり前だけど、考えたことない。
「だよ。お父さん、修行するお店の近くに部屋借りて。単身赴任的な? 何年か、ほとんど顔見れなかったんだよね」
「そこまでするんだ? まぁ……そんだけガチってことかぁ」
「ガチもガチ。だから、今もお店があるわけ。といっても……どんな苦労があったのか、子供のわたしはあんまり知らないんだけどね~」
と、大きい目に力が入り、今まで以上に印象が濃くなる。
「だから、知りたいんだ。お店のこと、もっともっと」
ラーメン屋への深い想いが込められた、強い視線を向けてきた。
真ん前にいる、俺に対して。
そのことに、藤原に聞かれそうなくらい胸が高鳴るが、そうなるのが不思議とは思わなかった。
ただただ、その想いを精いっぱい受け止める。
「そっか……藤原だったら、そうなんだろうな」
「うん、分かってもらえてうれしいな」
今度は、柔らかい温かい笑顔を向けてくる。
やっぱ、俺に心許してくれてる?
当然、完全に、じゃないんだろうけど、ちょっとでもそうなんだったら、かなりうれしい。
「お待ちぃ~っす」
さっきの店員が、カフェらしからぬ言い回しでパフェを持ってきた。
並べられたのはイチゴパフェふたつに、カフェオレとホットのブレンド。
「ごゆっくり~」
店員が、なぜか俺にニヤつきながら去ってった。
そういうんじゃないんだよ。
「おいしそ~!」
俺への視線は完全にパフェに奪われた。
目をキラキラさせて、クリームが溶けそうなくらい熱く見つめてる。
そして、スマホで撮り始めた。
照明の位置を気にして微妙に位置を変えながら。
ええ? これ、俺先に食べていいの?
なんとなく、女子が先に口付けてから男子が食べるもんのような気がする。
マナー講師! 今すぐ来て!!
コーヒーならいいかな?と、ブレンドをすする。
チェーン店の味と比べると……いや、チェーン店のコーヒーの味なんて、全然気にしてこなかったよな?
まぁ、美味いのは美味い。
クリームをちょっとだけ入れたけど、苦みがちょいあり、味わい? なんかそういうのがある。
これ以上の解説が言えるほど、俺の味覚は鍛えられてない。
「いっただ~きま~す!」
両手を合わせた後、やっと藤原がパフェを口に入れた。
「あんま~い!」
虫眼鏡で紙を焼く実験を思い出させる、キラキラな目で俺を見てくる。
口の中のものを飲み込んでから言う。
「何してんの、細田くんも食べなよ」
お前待ってたんだよ。
なんていちいち言わず、いただきますの後、スプーンでイチゴとクリームすくって口の中に入れた。
確かにイチゴもクリームもいいかんじに甘い。
「うまっ」
「だよね? ここは大当たりだよ。う~ん、美味し~」
藤原はふた口目を頬ばると、両目を固く閉じながら、思ってることをだだ漏らす。
顔全体が溶けそうで、身体もくねくね骨ないのかよってくらい揺らしてる。
さっきの真剣な眼差しと落差がでかすぎて、藤原という人間がさらに理解不能になる。
まぁ、いっか。
俺もパフェ味わお。美味いのは全面同意だし。




