↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/21

第14話 藤原とカフェ1

 藤原は放課後になると即帰る。

 喋る相手もいないんだし残る理由なんてないんだけど、それにしたって毎日一分以内は早すぎた。


 俺はわざと帰る準備をもたもたして、五分過ぎたのを時計で確認してから教室を出た。


 こうやって、藤原とふたりだけの秘密の行動してるのは、正直ちょっと気分いい。

 クラスメイトみんなが知らないことしてる。あの藤原と。


 校門を出たら、近いとこにある公園へ行き、トイレの個室で私服に着替える怪しいやつになる。

 いや、そうしてるやつ結構いるって話だけど。


 今日の私服はなんのひねりもない、ジーンズに、白地に黒のネルシャツ。

 安い割にそこそこ品質がいいと、よく知られたショップで揃えたものだ。


 藤原がご近所用のファッションなのに、俺だけヘンにキメキメだと馬鹿みたいになるからな。

 そもそもキメキメの服なんてないが。


 今から目指すカフェは歩いて十分くらいか?

 スマホのマップ頼りで迷わず見付けられた。


 藤原が言ってたとおり、古いけど、昭和レトロ的な味わいがあるってわけじゃない外観だ。

 学校からも駅からも微妙に離れてるし、うちの高校の生徒がわざわざ行こうとは思わんだろう。


 店が見えた時点で<もうすぐ着く>とLIMEを送ったら、<家出たとこ>と返ってきてた。

 なので、先に入るのは俺ということになる。


 扉を開けると、その上の方に付いた鐘が鳴った。

 予想してなかった音にビクッとなり、藤原がいなくてよかったとなる。


「っしゃいませぇ~、おひとりですかぁ~」


 やる気なさげな若い店員が近付いてきた。

 金髪のプリンだし、この店にこだわりの世界観的なのはないっぽい。


「あっ、後からもうひとり」

「お好きな席どうぞ~」


 飲食店に行く時はたいていひとりで、指一本立てるだけで済ましてるから、こういう時にじゃっかん挙動不審になっちまう。

 とにかく席だ。


 店内は古いが汚くはないかんじ。

 年季の入ったフローリングに、白かっただろう壁。

 四人がけと二人がけのテーブルが、六つずつあるだろうか。


 万一道から見られないよう、窓から離れた席だったな。


 一番奥の……と思ったらすぐ隣がトイレだったので、反対側の壁際にある、二人がけのテーブルを選ぶ。

 横と後ろに壁がある席だ。


 あれ? こういう時、男は壁側に座るべき? 逆?

 イスは木製の同じ物。

 片一方がソファとか柔らかかったら、そっち譲るんだろうけど。


 いや、藤原が来た時に、見付けられないとダメか。

 というわけで、壁を背に座った。


 いちいちキョドって疲れる。


 とりあえず、着いた報告をしようか。


信太<着いた

   入って右奥のテーブル>

まさご<ごめん、ちょっと迷ってる>


 方向音痴なのか?

 まぁ、マップのアプリで現在地分かってても、迷うことあるけどさ。


 落ち着かないのを、じわじわと自覚してくる。

 もはや気付かないふりはできそうにない。


 そりゃあ、そうだ。

 喋りかけるなオーラの酷い、クラスイチの美少女とふたりっきりでカフェなんだし。


 面倒だ面倒だと、学校のやつらを寄せ付けない藤原と、いつの間にかここまで仲よくなれてる。

 いいや、仲よくなれてるっていうのはうぬぼれで、パフェが食べれたら相手は誰でもよかったのかもしれん。


 にしても、ひとりでも来れるって言ってたのに、俺を誘ったのは事実だ。

 藤原の中で俺がどういうポジションなのか、ホントに読めない。

 しかも、読むのミスったら即ゲームオーバーな予感がする。


 扉の鐘の音がした。

 目を向けたら、藤原が店の中をキョロキョロ見てる。


 こっちから声かける前に気付いて、ぱあっと明るい笑顔を向けてきた。

 さっきの店員にひと言かけて、俺の方に近付いてくる。


「おまたせ~」

「いや、全然」


 気の利いた言葉が何も出てこん。


 藤原は、グレーのストレートのジーンズに、白い無地のスエット。

 腰の上まである黒い髪は、学校の時と同じように下ろしたままだ。


 これは褒めるべき?

 女子の私服は褒めるべきなんだろうけど、本人が言ってたとおり、どう見てもご近所用だ。


「なんか言いたげ?」


 藤原が立ったまま首を軽く傾ける。

 なんで座らない? 言われ待ち? 何か言うべき? なんて?


「いや、ユニシロみたいだなって」


 失敗した。

 テンパりすぎて、ディスってるみたいなこと言っちまった。


「そうそう、ユニシロだよ」


 藤原がやっと座る。

 俺の発言に怒ってるわけではなさげだけど、喜んでるようにも見えん。


 アウトなのかセーフなのか読めないのがツラい。


 藤原が自分のスエットのそでを摘まみながら、大きく両手を広げた。

 右側は壁なので、右ひじは曲げて。

 そうして両手を上下に軽く振って、踊ってるみたいにする。


「ご近所用と部屋着はたいていユニシロ。長持ちするし、デザイン無難だし、十分だよね?」

「まぁ、そうかも」


 ファッションのことはまるで分からんけど。

 俺が今着てるのは、ユニシロより安いブランドのだし。


 腕を振るのをやめた藤原が、右手のひらを俺の真ん前に突き出す。


「おでかけ用は違うからね? こう見えて、ファッションはそこそここだわってるから」

「こう見えてっていうか、藤原はこだわってそうって思ってた」

「え~、そういうふうに思ってたんだ?」


 両ひじをテーブルに付け、両手のひらであごを支えながら聞いてくる。

 気のせいか、目が輝いてない?


「学校で見てて、髪とか顔とかすごい手入れしてるっぽいし、やっぱ美人は美意識高け~って思ってた」


 前にラーメン屋で見た爪もきれいだって思ったけど、それを言うのはキモそうなので黙っとく。


「美人」


 藤原が、切れ長の目をまん丸になるくらい開いて、驚いた顔してる。

 どっかミスった?


「え、あ、ごめん?」


 理由も分からず謝る俺。


「ああ、いや。細田くんって、本人にしれっと美人とか言う人なんだって驚き」

「えっ! ごめん!」


 なんも考えずに言ってた。

 いっつも男が絡んでくる藤原にしたら、すぐに美人とか言ってくる軽い男は敵認定?


「いやいや、怒ってるんじゃなく。別に嫌って思わなかったもん」

「ああ、そうなんだ……よかった……」

「別にうれしかったんでもないけどね」

「ああ……うん」


 そらまぁ、そうか。

 好きでもない男に言われてもなぁ。言われ慣れてるんだろうし。


 それでも、嫌って思われなかっただけよかったか。

 せっかく楽しくパフェ食べにきてるのに、その前に嫌な思いさせるのはアウトだ。


「細田くん、もっと人間に興味ない人だって思ってた。かわいいとかイケメンとか、全然見てないっていう」

「そんなことないって。人間嫌いじゃないし、人間に興味ないわけじゃないから」

「ごめんごめん、頭の中でちょっと調節しとく」


 ホント、その辺りの調節はしといてほしい。

 藤原の中の俺、どこまで変人になってるんだ?


 上を向いて俺のイメージを調節してたらしい藤原が、「あ」と言って俺を見る。


「だったらさ。今日のわたし、もっとマシな服着てた方がよかった?」

「え、どっからそんな話に?」

「わたしのこと美人って思ってるんなら、きれいな服着てた方がうれしかったり?」


 え? なんて答えたらいいの?

 藤原の言うとおり、きれいなカッコした藤原が見れるなら、それは大変ありがたい。

 是非とも見たくなるくらい美人なんだし。


 けど、そう答えたら、今俺がここにいるの下心だけみたいにならない?

 

 下心?


 ええ……藤原に誘われたのは普通にうれしかったし、今も心の中じゃ浮かれまくってる。

 これ、下心なのか?


「いや、お気遣いなく。今の服もよく似合ってるし」

「そうなんだ? わたしの自意識過剰だったか」


 手のひらで頬を覆い。


「うう、恥ずかしくなってきた。自意識過剰女め~」


 実際、頬が赤くなってるし、本気で恥ずかしがってるみたいだ。


 すまん、俺が正直になれんばっかりに。

 けど、思ってること丸出しにするには、俺は小心者すぎるんだ。


「いやいやいや、気にするなって。そんなことより、パフェ食べにきたんだろ?」

「あ、そっか、パフェだよ!」


 両手を開き、藤原が目をかがやかす。

 やっと目的を思い出したようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。