第13話 <お母さんと何話してたの?>
朝、家を出る直前になって、LIMEに着信があった。
まさご<(おはよう のスタンプ)>
朝のあいさつが来るのは初めてだし、何か用事があるんだろうか?
駅へと歩きながら返信する。
信太<(おはよう のスタンプ)>
まさご<昨日、お母さんと何話してたの?>
すぐに本題が来た。
感情が読み取れない文面だけど、朝イチで送ってくるとこからして、あんまりいい感情じゃない気がする。
けど、何話したっけ?
ちょっと雑談したくらいだったような?
すぐに思い出せない。
信太<特に何も?>
まさご<細田くん、いい子だねって言ってた>
まさご<何話してたの?>
文字しか見えない画面だけど、目付きが厳しいのが透けて見える。
信太<俺は何も>
本当に、俺から何か気の利いたこと話した記憶はない。
ああ、けど、そういえば。
信太<おばさん、俺のこと藤原の友達だって勘違いしてる>
だから、いい子だね、なんてわざわざ言ったんだろう。
クラスメイトの感想は、そうはならんもんな。
まさご<そうなんだ>
まさご<言われてみたら、そういう態度だったかも>
まさご<中学で初めて友達できた時もあんなんだった>
信太<あんなん?>
まさご<ヘンにニヤニヤ>
あのお母さんなら、その図は簡単に想像できた。
藤原は眉間にしわ寄せて相手してたろう。
けど、おばさんがそうなるのも分からんでもない。
信太<友達少ない娘だと母親は心配なんだよ>
まさご<人のこと言えないくせに>
信太<だからわかる>
母さんから、そういう系の圧を感じることが、たまにある。
友達いるの? と、めっちゃ遠回しに聞いてくるのだ。
信太<とにかく、俺からはヘンなこと言ってない>
信太<はず>
まさご<はず?>
信太<他人の親と話した内容なんて憶えてない>
まさご<たしかに>
まさご<細田くんは何も言ってないけど、お母さんが勝手に細田くんのこと友達って誤解してた?>
信太<そう>
まさご<別にいいけど>
どういう意味の「いいけど」だ?
電車に揺られながらドギマギする。
もう友達だし、みたいな?
いやいや……妄想は引っ込めろ。
あんだけ人間関係を面倒がる藤原が、簡単に友達を作るわけがない。
俺としては……俺としては、どうなんだろ?
藤原と友達になる。
全然ピンとこない。
友達になれば、もっと藤原のこと知れるんだろうけど、そうなってるイメージが出てこない。
そもそも、友達ってなんなんだ?
信太<別にいいんだ?>
まさご<うん>
まさご<恋人なら面倒だけど>
まさご<友達って思われても別に面倒にはならないでしょ?>
信太<それもそうか>
そろそろ学校が見えてきた。
俺はショートホームルームの二十分前には教室に入る。
信太<藤原ってもう家出た?>
まさご<まだ部屋着>
信太<そんなこったろうと思ったよ>
そのペースで、毎日髪サラッサラなのが謎すぎた。
夜遅くになって、また藤原からLIMEが来る。
まさご<労働終了>
信太<(おつかれさま のスタンプ)>
まさご<超面倒くさい>
信太<?>
まさご<お母さんが、細田くんと行ってきたら?とか言って、カフェのチラシ渡してきた>
まさご<パフェのセール>
信太<草>
その図も簡単に想像できた。
なんかこう、あのお母さんは人の話聞かないで、話進めるタイプだって思った。
俺が友達なの否定しても爆笑でスルーしてたし。
まさご<そんなの迷惑だよね?>
信太<わかる>
信太<渡された時の藤原の顔(笑)>
まさご<もし他の子にバレたら、細田くんの平和がなくなっちゃうしさ
そういうの全然分かってないんだもん>
あれ?
メッセージ行き違った。
藤原が迷惑じゃなく、俺の迷惑心配してる?
それはなんか……うれしくなるやつじゃん。
信太<悪気はないんだろ>
まさご<なくてもなあ>
まさご<しかも期限は明日まで>
まさご<気が利いてなさすぎ>
信太<雑>
まさご<いちごパフェ半額を目の前に吊されたかなしみ>
信太<中学の友達と行けば?>
まさご<おぬし、策士よのう>
信太<たんとお食べ>
ここで藤原からの通信が途絶える。
中学の友達とやり取りしてるんだろう。
いちごパフェに執着する藤原?
意外と甘い物が好きなんだろうか。
こんなふうに、藤原のことを知ってくたびに、胸がくすぐったくなる。
しばらくTuitterを眺めてたら着信。
まさご<全滅>
まさご<言うて2人だけど>
信太<縁がなかったな>
まさご<だめだパフェの口になってる>
信太<1人で行くとか?>
まさご<それもできるけど>
できるんだ?
カフェでひとりでパフェ食べる女子高生。
あんまりいなさそうだ。
けど、藤原で想像したら、思ったとおりフィットした。
まさご<このカフェ、学校からちょっと離れてるんだよね>
まさご<微妙に古いけど昭和レトロじゃなく>
まさご<学校の子ほぼ来なさそう>
まさご<駅前に安いカフェあるし>
まさご<奥の方座ったら道からもバレない>
まさご<たぶん大丈夫>
まさご<いけるいける>
俺に喋ってるというより、自分に言い聞かせてるっぽい。
なんでそんなメッセージ俺に送る?
ちょっとずつ嫌な……いいや、妙な期待が湧いてきてる。
けど、そんな期待ができるくらいの距離に、俺はいるんだろうか?
人間同士の距離感なんてもん、俺の浅い経験値で分かる訳ない。
まさご<細田くん>
まさご<明日の放課後、パフェ行かない?>
まさご<カフェ>
まさご<わたしおごるし!>
信太<いや、おごりはいい>
そろそろ眠たくなってたのに、一瞬で目が冴えちまう。
あのクラスイチの美少女の、喋りかけるなオーラの、藤原がカフェに誘ってきた???
何度もメッセージ読み直すが、確かに誘われてる。
どうすりゃいいんだ?
頭の回転が異様に落ちてて考えがまとまらない。
まさご<やっぱ迷惑だよね?
バレるのこわいし>
ここで話がパーになるのは勘弁だ。
それこそ目の前に吊されたチャンスなんだから。
いいやそれより、藤原を不安にさせてるのがマズい。
信太<私服ならいけるんじゃ?>
信太<家から持ってくし、公園のトイレで着替えたら>
まさご<いいの?>
信太<俺も古いカフェのコーヒー飲んでみたい>
まさご<ありがと!>
まさご<わたしはいったん家に帰るね>
その後、藤原からカフェの場所のリンクが送られてきた。
別々に学校を出て、カフェの中で合流する。
これは密会ってやつなのか?
いいや、単に藤原がパフェ食べるのに付き合うだけだ。
まさご<先に言っとくけど、私服はご近所用のだからね>
信太<ご近所用?>
まさご<スーパーとか散歩とか行く時用>
まさご<おでかけ用は別にあるから>
まさご<こいつダサって思わないように>
信太<俺こそダサいのしかないし>
まさご<気にしないよ>
まさご<じゃあ、明日はよろしく!>
まさご<(よろしくお願いします のスタンプ)>
まさご<細田くん>
まさご<ありがとありがとありがとありがと>
まさご<(おやすみ のスタンプ)>
信太<(おやすみ のスタンプ)>
なんてこった、明日藤原とカフェらしい。




