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13/21

第13話 <お母さんと何話してたの?>

 朝、家を出る直前になって、LIMEに着信があった。


まさご<(おはよう のスタンプ)>


 朝のあいさつが来るのは初めてだし、何か用事があるんだろうか?

 駅へと歩きながら返信する。


信太<(おはよう のスタンプ)>

まさご<昨日、お母さんと何話してたの?>


 すぐに本題が来た。

 感情が読み取れない文面だけど、朝イチで送ってくるとこからして、あんまりいい感情じゃない気がする。


 けど、何話したっけ?

 ちょっと雑談したくらいだったような?

 すぐに思い出せない。


信太<特に何も?>

まさご<細田くん、いい子だねって言ってた>

まさご<何話してたの?>


 文字しか見えない画面だけど、目付きが厳しいのが透けて見える。


信太<俺は何も>


 本当に、俺から何か気の利いたこと話した記憶はない。

 ああ、けど、そういえば。


信太<おばさん、俺のこと藤原の友達だって勘違いしてる>


 だから、いい子だね、なんてわざわざ言ったんだろう。

 クラスメイトの感想は、そうはならんもんな。


まさご<そうなんだ>

まさご<言われてみたら、そういう態度だったかも>

まさご<中学で初めて友達できた時もあんなんだった>

信太<あんなん?>

まさご<ヘンにニヤニヤ>


 あのお母さんなら、その図は簡単に想像できた。

 藤原は眉間にしわ寄せて相手してたろう。


 けど、おばさんがそうなるのも分からんでもない。


信太<友達少ない娘だと母親は心配なんだよ>

まさご<人のこと言えないくせに>

信太<だからわかる>


 母さんから、そういう系の圧を感じることが、たまにある。

 友達いるの? と、めっちゃ遠回しに聞いてくるのだ。


信太<とにかく、俺からはヘンなこと言ってない>

信太<はず>

まさご<はず?>

信太<他人の親と話した内容なんて憶えてない>

まさご<たしかに>

まさご<細田くんは何も言ってないけど、お母さんが勝手に細田くんのこと友達って誤解してた?>

信太<そう>

まさご<別にいいけど>


 どういう意味の「いいけど」だ?

 電車に揺られながらドギマギする。


 もう友達だし、みたいな?


 いやいや……妄想は引っ込めろ。

 あんだけ人間関係を面倒がる藤原が、簡単に友達を作るわけがない。


 俺としては……俺としては、どうなんだろ?


 藤原と友達になる。


 全然ピンとこない。

 友達になれば、もっと藤原のこと知れるんだろうけど、そうなってるイメージが出てこない。


 そもそも、友達ってなんなんだ?


信太<別にいいんだ?>

まさご<うん>

まさご<恋人なら面倒だけど>

まさご<友達って思われても別に面倒にはならないでしょ?>

信太<それもそうか>


 そろそろ学校が見えてきた。

 俺はショートホームルームの二十分前には教室に入る。


信太<藤原ってもう家出た?>

まさご<まだ部屋着>

信太<そんなこったろうと思ったよ>


 そのペースで、毎日髪サラッサラなのが謎すぎた。




 夜遅くになって、また藤原からLIMEが来る。


まさご<労働終了>

信太<(おつかれさま のスタンプ)>

まさご<超面倒くさい>

信太<?>

まさご<お母さんが、細田くんと行ってきたら?とか言って、カフェのチラシ渡してきた>

まさご<パフェのセール>

信太<草>


 その図も簡単に想像できた。

 なんかこう、あのお母さんは人の話聞かないで、話進めるタイプだって思った。

 俺が友達なの否定しても爆笑でスルーしてたし。


まさご<そんなの迷惑だよね?>

信太<わかる>

信太<渡された時の藤原の顔(笑)>

まさご<もし他の子にバレたら、細田くんの平和がなくなっちゃうしさ

   そういうの全然分かってないんだもん>


 あれ?

 メッセージ行き違った。

 藤原が迷惑じゃなく、俺の迷惑心配してる?


 それはなんか……うれしくなるやつじゃん。


信太<悪気はないんだろ>

まさご<なくてもなあ>

まさご<しかも期限は明日まで>

まさご<気が利いてなさすぎ>

信太<雑>

まさご<いちごパフェ半額を目の前に吊されたかなしみ>

信太<中学の友達と行けば?>

まさご<おぬし、策士よのう>

信太<たんとお食べ>


 ここで藤原からの通信が途絶える。

 中学の友達とやり取りしてるんだろう。


 いちごパフェに執着する藤原?

 意外と甘い物が好きなんだろうか。


 こんなふうに、藤原のことを知ってくたびに、胸がくすぐったくなる。


 しばらくTuitterを眺めてたら着信。


まさご<全滅>

まさご<言うて2人だけど>

信太<縁がなかったな>

まさご<だめだパフェの口になってる>

信太<1人で行くとか?>

まさご<それもできるけど>


 できるんだ?


 カフェでひとりでパフェ食べる女子高生。

 あんまりいなさそうだ。


 けど、藤原で想像したら、思ったとおりフィットした。


まさご<このカフェ、学校からちょっと離れてるんだよね>

まさご<微妙に古いけど昭和レトロじゃなく>

まさご<学校の子ほぼ来なさそう>

まさご<駅前に安いカフェあるし>

まさご<奥の方座ったら道からもバレない>

まさご<たぶん大丈夫>

まさご<いけるいける>


 俺に喋ってるというより、自分に言い聞かせてるっぽい。

 なんでそんなメッセージ俺に送る?


 ちょっとずつ嫌な……いいや、妙な期待が湧いてきてる。


 けど、そんな期待ができるくらいの距離に、俺はいるんだろうか?

 人間同士の距離感なんてもん、俺の浅い経験値で分かる訳ない。


まさご<細田くん>

まさご<明日の放課後、パフェ行かない?>

まさご<カフェ>

まさご<わたしおごるし!>

信太<いや、おごりはいい>


 そろそろ眠たくなってたのに、一瞬で目が冴えちまう。


 あのクラスイチの美少女の、喋りかけるなオーラの、藤原がカフェに誘ってきた???


 何度もメッセージ読み直すが、確かに誘われてる。


 どうすりゃいいんだ?

 頭の回転が異様に落ちてて考えがまとまらない。


まさご<やっぱ迷惑だよね?

  バレるのこわいし>


 ここで話がパーになるのは勘弁だ。

 それこそ目の前に吊されたチャンスなんだから。


 いいやそれより、藤原を不安にさせてるのがマズい。


信太<私服ならいけるんじゃ?>

信太<家から持ってくし、公園のトイレで着替えたら>

まさご<いいの?>

信太<俺も古いカフェのコーヒー飲んでみたい>

まさご<ありがと!>

まさご<わたしはいったん家に帰るね>


 その後、藤原からカフェの場所のリンクが送られてきた。

 別々に学校を出て、カフェの中で合流する。


 これは密会ってやつなのか?

 いいや、単に藤原がパフェ食べるのに付き合うだけだ。


まさご<先に言っとくけど、私服はご近所用のだからね>

信太<ご近所用?>

まさご<スーパーとか散歩とか行く時用>

まさご<おでかけ用は別にあるから>

まさご<こいつダサって思わないように>

信太<俺こそダサいのしかないし>

まさご<気にしないよ>

まさご<じゃあ、明日はよろしく!>

まさご<(よろしくお願いします のスタンプ)>

まさご<細田くん>

まさご<ありがとありがとありがとありがと>

まさご<(おやすみ のスタンプ)>

信太<(おやすみ のスタンプ)>


 なんてこった、明日藤原とカフェらしい。

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