第12話 お母様とご対面
早い時間にラーメン屋に行き、例によってカウンターでラーメンを食べる。
今日は前に勧められたキムチとごはんだ。
ブランド米らしいが、俺に米の味が分かる味覚はない。
今日は藤原はいなかった。
早すぎたか? この店のシフトはまだ把握できてない。
がっかりしすぎな自分に恥ずかしくなりながら、ラーメンをすする。
と、隣の席におばさんが座った。
店内、ガラガラなんだけどな?
「細田くんだよね?」
いきなりおばさんに話しかけられ、ごはんがのどに詰まりかけるくらいびっくりした。
ナンパ? 悪いが、熟女趣味はない。
「はぁ」
当たり障りがないってやつを返す。
「私、真砂……藤原真砂の母親。いつも娘とお店がお世話になってます」
ぺこりと頭を下げられる。
ああ、藤原のお母さん。
よく見たら似てる気もするけど、目元がまったく違った。
藤原は、ちょっと睨まれたら寿命が縮まるくらいキツくなる、切れ長の目。
このお母さんは、くりっとした丸い目だ。
「真砂のクラスメイトが来てくれたって聞いた時は、びっくりしたよ」
「びっくりなんですか?」
「あの娘、学校の話はほとんどしないし、誰かとこういう話した~とか全然ないの」
「へぇ~」
何もコメントできない。
ウソをつくのはいかんし、事実を伝えるのはもっといかん。
「中学の時は文句多かったし、それよりマシなのかなぁって思ってて。いじめられてるんじゃなさそうだし、学校でどんな様子かは……聞かない方がよさそう」
はい、その方がよいです。
普段の喋りかけるなオーラもだし、ついこの間のトラブルもあるし。
おばさんが笑顔を向けてくる。
笑った時の口元は似てるかもしれない。
「ありがとう、あの娘の相手、してくれて」
「してくれて、って感じじゃないですけど。普通に話してるだけですよ」
「でも、LIMEの交換したって、お父さん……店長から聞いてるよ? しかもあの娘の方から」
「い、意外に見てますね、店長」
いかつい顔のお父さん監視の下、LIME交換してたのか。
今さらのように足元冷えてきた。
「娘が男子と仲よくしてたら、そりゃあ気になるよ。しかも、後で本人に確認したら、『ないしょ~』とか言われたらしいし」
なんでヘンな思わせぶりするんだよ、藤原。
単なる連絡用だったはずだろ?
結局、長話したりになったけど。
「そんなやましいもんじゃないですよ?」
「なんか、ヘンなとこあるよね、あの娘。けど、噛んでたら味が染みてくる娘だから」
「ここのチャーシューみたいな?」
「あっ! うちのチャーシュー気に入ってくれた! 今の仕込みに決めるのに三年かかってて! その間無駄にした豚肉は数知れず! 今じゃチャーシュー目当ての常連さんもいっぱいで! 有名店より美味いって言ってくれる人までいるんだよ!」
「は、はい。すごいっすね。美味いっすもんね」
似てるわ、ここの母娘。
まったく形が違う目なのに、キラキラさがまったく同じだった。
「ああ、ごめんなさい。我が家のよくないとこが……」
反省できるだけ、さすが大人、母の方が成熟してる。
「藤原も、ここ大好きですよね」
「引くでしょ?」
「……最初の方はちょっと?」
「あはは、細田くん正直。やっぱり、あの娘が好きそうなタイプだね」
「えっ!!」
おばさんが、地下基地を破壊するアメリカの爆弾級の発言をなさった。
聞きたくても聞けるわけない、奥深くをえぐる。
「あの娘って、なかなか友達作らないから。細田くんみたいな子じゃないとね」
「は、はぁ……友達、っすか」
思いっきり期待を外してきた、このおばさん。
それでも、いい感触ではあるのかな?
友達になれるタイプなのか、俺。
「あなた、いっつもひとりで来てくれるんでしょ? そういうとこ、あの娘のタイプなの」
「ああ、人付き合い悪いやつ、好きそうですよね」
「ああ、ごめんなさい。人付き合い悪いっていうか……自分のペース守れる子? その方が聞こえいいよね」
聞こえが多少よくなろうと、言ってる意味はあんまり変わらない。
自分のペース守れるって、他人のペースに合わせらんないってことだもんね。
「藤原とは同類らしいです。そう言ってました」
「ああ、分かる分かる!」
分かられた。
藤原と似た人間だと、その母親から認められる。
うれしいようで、微妙な気分の方が大きかった。
それより、おばさんは大きな勘違いをしてるっぽい。
一応、否定しとかないと、藤原に知られた時に面倒そうだ。
「藤原のお母さん、いちおう言っとくと、俺って別に藤原の友達じゃないですよ?」
「あはははははは!」
おばさんはでかい笑い声を出すと、バシバシ俺の背中を叩いてきた。
割と痛い。
その後、冷めるからとラーメン食べるのを勧められ、ちょっと褒めたら長ゼリフで迫られたりしつつ、なんとか全部、食べ終えた。
会計の時におばさんに言われる。
「真砂の相手してたら、時々メンドくさいってなると思うけど、末永く友達してあげてね」
「だから……いや、もういいです。藤原とは、これからもフツーのクラスメイトやってきますよ」
「あははははははは!」
また爆笑されて、疲れながら店を出た。




