↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FIST  作者: 伊藤げん
PR
5/9

逃亡と鼠

 (――何かが来る。)


鐘の付いた高台の上、魔物の群れが来ないか監視を続けていたマストは、直感的に強力な何かが村に迫っていると感じ取った。


先程現れた、柵を超えて襲撃して来た空を舞う魔物数匹の退治には、吹雪の中で視界が良好で無かった事から後れを取った。


自らが仕えるゼイドの家を無惨な姿に変えてしまった自責の念から、彼は食事を取ることもせず全神経を外敵に集中させていた。


ゼイドには家を守れなかった事、年端も行かない娘を危険に晒した事を丁重に謝罪したが、彼は全くマストを責める事はしなかった。


「一番巨体だった魔物や他の魔物は君が退治してくれたのだろう?

君を責める事なんて誰もしない。」


彼はそう慰められた。

マストは多大なる恩に報いる為にも、いち早くその危険を伝えに行った。


「――良し。おおよその準備は整ったな。」


ゼイドらは出発の40分前であるが、国外へ富野を逃す為の馬車に、保存の効く食糧と防寒用の服や毛布を詰み終えていた。


「そんで、本当にお前のやり方で上手く行くのかね?」


ハーンズが訝しげにゼイドに尋ねる。


「国内の港は既に帝国の役人達が目を光らせているかも知れないだろう?

私が先程提案したルートの方が見張りの居ない可能性が高い筈だ。」


ゼイドの提案したルートとは、村を北上して氷結した海上を渡り、そのまま帝国の領土外まで侵入するというものだった。

御者であるマスト、護衛としてゼイド、そして富野の3人で流氷の近くまで向かい、ゼイドが富野を国外まで送り届けた後に、ゼイドが待機していたマストと合流し村へ帰るというルートだ。


「そりゃあ、今の時期は完全に海が凍っちまって殆ど人は居ねぇだろうがなぁ。

国外まで最短でも2日は掛かるぜ。2日ぶっ通しで流氷の上を歩くのは2人共しんどいだろ。」


「確かに苦しいだろうが、魔物も追手も居ない分安全だ。」


「安全ねぇ…トミノはどう思う?」


ハーンズは村に来た頃とは違い、上下に防寒着を着てブーツを履いた富野に尋ねた。

村の住民から譲って貰った物である。


「俺は…流氷の上を渡る方が良いと思います。

ゼイドさん達と共に向かうなら、帝国側の人達が来る可能性の低い方が迷惑が掛からないと思うので。」


富野は申し訳なさそうに言った。

ゼイドの方から切り出した事とは言え、やはり彼らに迷惑を掛けるのは富野にとって心苦しかった。


「――そう言えば、トミノさんの亡命って話はどうなったの?」


食糧を積み終えたエリアがゼイドに問いかけた。


「あぁ、それは現地に着いてから彼の身の上を説明する時に話す事にしようと思っている。」


「え、それだと色々と面倒じゃないかしら?

やっぱり旅人とかって言った方が丸く収まらない?」


エリアは純粋に疑問をぶつけると同時に、自分なりの提案をした。


「それは駄目だ。彼がどんな罪を犯したのかは分からないが、死罪にまでなる程の罪を犯した事を誤魔化すのは宜しくない。」


「…相変わらず変な所真面目だな。こ

いつがどんな罪を犯したのか分からん以上、政治犯だったと仮定して亡命させるのがお前の中でベストな方法って事に変わりは無ぇんだな。」 


ハーンズは付き合いが長い事も有り、彼が到底理解出来ないゼイドの考えを理解していた。


「本当にごめんなさい。

話せない事が多くて…。」


富野が深々と彼等に頭を下げ、辺りに気不味い空気が流れた。

その時であった。

「ゼイド様。宜しいでしょうか。」


高台から降りたマストが、ゼイドへ知らせを届けに来た。


「出立を30分早めて下さる事は可能でしょうか。

何か、ただならぬ者達が村へ向かって来ています――。」



 「――ただならぬ者達と言うのは、まさか帝国の追手か?」


「それは分かりかねます。然し、魔物とは違う気配でありながらこちらへ向かって来る者となると…。」


束の間の静寂が緊迫した雰囲気に飲み込まれ、焦燥感が彼等を包んだ。


(もう、俺の居場所が分かったのか…!?)


冷や汗が富野の額を伝う。


「良し、分かった。ではトミノ、マスト、行くぞ。」

ゼイドは彼の言葉を信じ、腹を括った。


「はい。」

「…は、はい!」


名を呼ばれた2人にも、彼の覚悟が伝わった。

3人は最後にそれぞれの想いを胸に込め、馬車に乗り込む。


「ちょ、あぁもう!皆気を付けてね!」


エリアは慌てながらも彼等の背中を押した。


「あぁ。2人は村の安全を頼んだぞ。」

「あいよ、村長。」





 3人が村を出てから40分程の事。

村に1台の馬車が迫っていた。

ハーンズは高台の上からそれを見ると、村を囲む柵の外から、エリアと共に出迎えた。


「――ごきげんよう。少しお尋ねしたい事が在るのだか、お時間宜しいか。」


白衣に身を包み、癖っ毛のある鼠色の髪が特徴的な女性が2人へ尋ねる。


「質問を質問で返す様で悪いが、あんた等(ら)誰だい。」


ハーンズは尋ね返した。

エリアは目の前に居る相手と馬車に残っているもう一人の乗客、そして、何も肌に身に着けていない御者を警戒していた。

御者は少なくとも、人ではない何かだ。


「おっと、失敬した。

こちらが先に名乗るべきだったね。

私はモルル。

帝国に仕える『十二支機団』の一刻(こく)、モルル・モ・イブニーだ。」


(十ニ支機団…本当に来やがった。)


「時間があまり無いので早速質問に入らせて頂くよ。

実は昨日、死刑囚が死刑の目前に逃亡したらしくてね。ここらで誰か怪しい人物を見かけなかったかい?」


「知らねぇな。昨日は吹雪だったしまともに出歩ける状態じゃなかったんだ。

仮にそいつがこの辺りに逃げ込んだとしても今はもう地面に埋まってるか、魔物に喰い殺されてるだろ。」


ハーンズは我関せずと言った様な口調で返答する。


「そもそも帝国本土ともどえらい距離があるしな。」 


「ふぅん、確かにそうかも知れないねぇ。ただ気がかりな事が有るんだ。」


「…何だよ?」


モルルが怪しげに微笑む。


「その死刑囚には共謀者が居たらしい。

転移の魔術を使い、仲間の所へ飛ばすと言っていたそうだ。

まぁ発動した直後串刺しにされたから、確実に送り届けたのかは不明なんだがね。」


「何が言いたいのかしら。私達がその協力者だとでも?」


エリアも悟られまいと白(しら)を切る。


「フフ……。

そうで無いのなら、何故私達をこうも警戒するのかな、魔術師のお嬢さん。

君、ここに来てからずっと臨戦態勢に入っているだろ。」


モルルは先程よりも口角を上げ、エリアを指摘する。


エリアの背中に汗が滲む。


「あら、そんな事無いわよモルルモさん。」

「モルルで良いよ。モはミドルネームね。」

「モルルさん。

もし仮に、あなた達がお偉いさんの身分を偽った盗賊とか、人の姿を真似る魔物だったら危険でしょう。

死刑囚なんかよりよっぽどね。

そんな人達を警戒するのは不自然じゃ無い。」 


(こいつ等をウェル達に会わせるわけには行かない――!)


エリアは依然として警戒を続ける。


「身の潔白を証明したいなら――」


ピピピッ!と、奇怪な音がモルルの方から鳴った。


「あぁ、すまない。

私のだ。

ちょっと失礼するよ。

……どうだい、見つかったかな?」


モルルは己の耳に手を当て、誰かと通話をしている素振りを見せた。


『はい、対象を発見致しました。』


通話相手は冷徹に返答した。


「良くやった。それじゃあ、村まで丁重に連れてきてくれ給え。」


(…!!)


エリアは驚きの表情出さざるを得なかった。


「あなた達、まさか…!?」


「――良い茶葉と菓子を持ってきたんだ。

君達の『仲間』を私の部下が連れてくるまで、ティータイムと行こうじゃないか。」


村の門が、開けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。