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世界を変える女  作者: 此花サギリ


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第81話 銭軍拡大

 近江(おうみ)の中心にそびえる巨大な城。


 天下に名を轟かせる安土城(あづちじょう)は、冬の青空の下で威厳を放っていた。


 石垣は高く、天守は七層。城下には商人や職人の町が広がり、街道には各地からの荷駄が列をなす。すでにこの城は、単なる城ではなく、天下の政を動かす場所になっていた。


 


 その天守の奥、評定の間では重臣たちが集められていた。


 


 中央に座るのは、天下布武を掲げる男。


 


 織田信長(おだのぶなが)


 


 彼の左右には、織田家を支える名将たちが並んでいる。


 


 柴田勝家(しばたかついえ)

 丹羽長秀(にわながひで)

 明智光秀(あけちみつひで)

 羽柴秀吉(はしばひでよし)


 


 誰もが歴戦の武将であり、天下統一を目前にした織田家の柱であった。


 


 だがこの日、議論されているのは戦の布陣でも、敵の城攻めでもない。


 


 話題はただ一つ。


 


 北国で生まれた新しい制度。


 


 


 銭で武将を雇う制度。


 


 


 つまり――


 


 給料制軍団。


 


 


 発端は一人の女だった。


 


 


 望月梓(もちづきあずさ)


 


 


 現代日本から来た商人であり、兵糧と銭を操り、織田家の富国を支える存在。


 


 


 そして最近起きた大事件。


 


 


 北国の軍神。


 


 


 上杉謙信(うえすぎけんしん)


 


 


 その臣従である。


 


 


 しかも条件は異例。


 


 


 領地を持たず。


 


 


 銭で雇われる。


 


 


 評定の間では、その報告書が机の上に広げられていた。


 


 


 沈黙を破ったのは羽柴秀吉(はしばひでよし)だった。


 


 


「殿」


 


「これは……」


 


 


「本当に採用なさるおつもりで?」


 


 


 秀吉の表情は真剣だった。


 


 なぜならこの制度は、戦国の根本を揺るがすものだからだ。


 


 


 武士は土地を持つ。


 


 土地から年貢を取り、その収入で兵を養う。


 


 


 それが武家社会の仕組みだった。


 


 


 だがこの制度では違う。


 


 


 武将は土地を持たない。


 


 


 代わりに銭を受け取る。


 


 


 つまり。


 


 


 雇用。


 


 


 まるで商人の組織のような軍制度だった。


 


 


 だが信長は笑った。


 


 


「面白いではないか」


 


 


 その一言で、空気がわずかに変わる。


 


 


 明智光秀(あけちみつひで)が静かに言った。


 


 


「確かに利点はございます」


 


 


「戦後の恩賞問題がなくなります」


 


 


 丹羽長秀(にわながひで)も頷いた。


 


 


「領地分配は常に争いの種」


 


 


「それが消えるなら、統治は容易になります」


 


 


 柴田勝家(しばたかついえ)は腕を組みながら言う。


 


 


「武将が不満を言わぬか」


 


 


 信長は笑った。


 


 


「銭があれば言わぬ」


 


 


 そして立ち上がる。


 


 


 窓の外には近江(おうみ)の広い平野が広がっていた。


 


 


 信長は言った。


 


 


「戦とは何か」


 


 


「兵」


 


 


「兵糧」


 


 


「銭」


 


 


「この三つ」


 


 


 そして振り返る。


 


 


「その銭と兵糧を」


 


 


「握っているのが」


 


 


 望月梓(もちづきあずさ)


 


 


 だった。


 


 


 信長は笑った。


 


 


「ならば使わぬ手はない」


 


 


 そして宣言する。


 


 


「今後」


 


 


「織田が攻略した大名」


 


 


「領地は与えぬ」


 


 


「銭で雇う」


 


 


 重臣たちが息を呑む。


 


 


 信長は続けた。


 


 


「織田の軍」


 


 


「すべて銭軍とする」


 


 


 


 その頃。


 


 


 望月領(もちづきりょう)


 


 


 館の広間では、望月梓(もちづきあずさ)が書類を整理していた。


 


 


 頭の中ではIris(アイリス)が淡々と報告している。


 


 


『農業生産量 前年比四百パーセント』


 


『北陸交易利益 過去最高更新』


 


 


 梓は苦笑する。


 


 


「数字バグってる」


 


 


 そこへ藤兵衛(とうべえ)が駆け込んできた。


 


 


「梓様!」


 


 


安土城(あづちじょう)から使者です!」


 


 


 使者はすぐに広間へ通された。


 


 


 武士は深く頭を下げる。


 


 


「申し上げます」


 


 


織田信長(おだのぶなが)様より御達し」


 


 


 そして文を読み上げた。


 


 


「今後」


 


 


「織田家が攻略した大名」


 


 


「領地ではなく」


 


 


「銭で雇う制度を採用する」


 


 


 藤兵衛が驚く。


 


 


「ぜ、全国でですか!?」


 


 


 使者は頷いた。


 


 


「左様」


 


 


「殿は申されました」


 


 


「これは織田の新制度とする」


 


 


 梓は思わず笑った。


 


 


「さすが信長」


 


 


「決断早い」


 


 


 藤兵衛はまだ混乱している。


 


 


「つまり……」


 


 


「これからの武将は」


 


 


「みんな給料制?」


 


 


 梓は頷く。


 


 


「そうなるね」


 


 


 藤兵衛は天井を見上げた。


 


 


「戦国が……会社みたいに」


 


 


 梓は笑う。


 


 


「まあ」


 


 


「軍事会社だね」


 


 


 


 こうして。


 


 


 戦国の制度は大きく変わり始めた。


 


 


 土地で縛る時代。


 


 


 それは終わりつつある。


 


 


 これからの時代は。


 


 


 銭で動く軍。


 


 


 そしてその仕組みを作ったのは。


 


 


 豊穣の女神。


 


 


 望月梓(もちづきあずさ)


 


 


 彼女の考えた制度は。


 


 


 やがて戦国の常識そのものを。


 


 


 完全に塗り替えていくことになるのであった。

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