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世界を変える女  作者: 此花サギリ


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第62話 越前崩策

 春の気配が越前(えちぜん)の山々に少しずつ広がり始めていた。


 谷に築かれた壮麗な城下町――一乗谷(いちじょうだに)


 その中心にそびえるのが一乗谷城(いちじょうだにじょう)である。


 かつて文化の都とも呼ばれ、朝倉義景(あさくらよしかげ)の治める国は繁栄していると言われていた。


 しかし今、その繁栄の足元では静かな変化が起きていた。


 市場である。


 一乗谷(いちじょうだに)の市場では最近、ある商隊の話題で持ちきりだった。


「また来てるぞ」


近江(おうみ)の女商人だ」


「塩と米を山ほど持ってくる」


 その中心人物が、望月梓(もちづきあずさ)


 二十五歳の女商人。


 そして織田信長(おだのぶなが)の配下。


 梓は今日も市場に店を出していた。


 米袋が山のように積まれている。


 塩も。


 鉄器も。


 しかも価格が安い。


 この時代の常識からすればあり得ないほど安い。


 客が次々と集まっていた。


「こっちの米をくれ!」


「塩もだ!」


 売れ行きは凄まじい。


 梓は穏やかな笑顔で応対していた。


 しかし彼女の視界には別のものが浮かんでいる。


 半透明のボード。


Iris(アイリス)


『はい、マスター』


「市場状況」


 地図が表示される。


 青い印が少しずつ増えていた。


 梓の流通網に参加した商人。


一乗谷(いちじょうだに)市場支配率、二十八パーセント』


 梓は小さく頷いた。


「順調」


 市場を掌握するには二つの方法がある。


 一つは武力。


 もう一つは――


 価格。


 安くて質の良い商品。


 それだけで商人は動く。


 武士よりも簡単だ。


 梓は小さく笑った。


「そろそろ次の段階」


 


 その夜。


 一乗谷(いちじょうだに)の町外れ。


 古い蔵の中に数人の商人が集まっていた。


 その中心に座るのが、坂井宗兵衛(さかいそうべえ)


 城下町の有力商人だ。


 彼の前に座るのが梓。


 宗兵衛は腕を組んでいた。


「お前の狙いは分かっている」


 梓は静かに微笑む。


「市場です」


「正直でいい」


 宗兵衛は苦笑した。


「だがな」


「ここは朝倉家(あさくらけ)の国だ」


「勝手に市場を支配すれば問題になる」


 梓は静かに答える。


「だから相談です」


 宗兵衛は眉を上げた。


「相談?」


 梓は帳簿を広げる。


越前(えちぜん)全体の流通を統一します」


 商人たちがざわめく。


「なに?」


「そんなことができるのか」


 梓は淡々と言う。


「できます」


 そして無限収納(アイテムボックス)から箱を取り出した。


 中には鉄器。


 そして薬。


 見たことのないほど質がいい。


 商人たちは息を呑んだ。


 宗兵衛が低く言う。


「どこから仕入れている」


 梓は答えない。


 ただ微笑む。


 その沈黙が逆に説得力を持っていた。


 宗兵衛はしばらく考え、そして言った。


「もし本当に流通を握れるなら」


越前(えちぜん)は変わる」


 梓は頷く。


「ええ」


「だから」


「協力してください」


 宗兵衛は深く息を吐いた。


「……面白い」


 そしてゆっくりと頷いた。


「やろう」


 こうして。


 一乗谷(いちじょうだに)の有力商人が梓の流通網に加わった。


 


 数日後。


 一乗谷城(いちじょうだにじょう)


 広間では朝倉義景(あさくらよしかげ)が家臣たちと話していた。


 そこへ家臣の山崎吉家(やまざきよしいえ)が駆け込む。


「殿!」


「どうした」


「城下町の市場が……」


 義景は眉をひそめる。


「市場がどうした」


 吉家は言った。


近江(おうみ)の女商人が流通を握り始めています」


 広間がざわめく。


 義景は怪訝そうな顔をした。


「女商人?」


 その名はまだここでは有名ではない。


 吉家は続ける。


「名を望月梓(もちづきあずさ)


 義景はしばらく黙っていた。


 そして小さく笑う。


「商人ごとき」


「放っておけ」


 家臣たちは顔を見合わせた。


 だが誰も反論できなかった。


 


 一方。


 町の宿。


 梓は窓から一乗谷城(いちじょうだにじょう)を見ていた。


Iris(アイリス)


『はい』


「市場掌握率」


『四十一パーセント』


 梓は小さく息を吐いた。


「もうすぐ半分」


 そして静かに言う。


朝倉義景(あさくらよしかげ)


 城はまだ強い。


 兵も多い。


 だが。


 市場は違う。


「あなたの国」


「もう崩れ始めてる」


 夜風が吹く。


 遠くの一乗谷城(いちじょうだにじょう)の灯が揺れていた。


 戦はまだ始まっていない。


 だが。


 越前(えちぜん)は、すでに商戦の中にあった。

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