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ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第1章 ダンジョン嫌いニキ、バレる

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第43話 乗るしかない?

 ……眩しい。

 閉じた瞼の奥に光が差し込む。

 気泡が水面に浮上するように、意識がゆっくりと鮮明になっていく。


 ぼんやりとした視界の中で最初に認識したのは、見知らぬ天井だった。

 そして鼻をくすぐる消毒液の匂いと、規則的な電子音。

 ……病院か。


 そう理解した瞬間、全身に鈍い痛みが広がった。


「っ……」


 身体を動かそうとしただけで激痛が走る。

 思わず息が詰まり、そのまま動きを止めた。

 起き上がりたいが、これは無理だな。

 仕方なく、首だけをゆっくりと動かす。


 視界の端、ベッド脇に人影。

 そこに座っていたのは……愛沢だった。

 彼女は信じられないものを見るような顔をしていて、その目はひどく潤んでいる。


「あ、あいざ――」

「――ぜんっっっっっばぁぁあああああああああああいっ!!!」


 声をかけようとした瞬間、絶叫とともに抱きつかれた。

 と同時、全身を駆け抜ける激しい痛み。


「いってぇえええええっ!? ちょ、おま、痛いって!!」


 布団越しとはいえ、全体重でのしかかられる。

 肋骨が本気で悲鳴を上げた。


「はっ!? ご、ごめんなさいっす! 目を覚ましたのがあまりにも嬉しくて……嬉しくてっす……!」


 愛沢は慌てて飛び退き、ぐすぐすと鼻をすする。

 俺は小さく息を吐いた。


「……心配かけたな」

「まったくっすぅ……でも、生きて帰ってきてくれて、よかったっす」


 目元を必死に擦る愛沢。

 普段の軽口は影を潜めている。

 素直にそう言われると、胸にくるものがあった。

 俺は少しだけ彼女を見つめる。


 涙で潤んだ黒い瞳に、汗で少し乱れた黒のショートヘア。

 そして泣いたせいで赤くなった鼻先。

 やけに、可愛く見えた。


「せんぱぁい……ぐすん」


 愛沢が、ゆっくりと身を乗り出してくる。

 流石に距離が近い。


「お、おい」


 呼びかけても愛沢は止まらない。

 顔がすぐ目の前に来る。


「愛沢っ……ちょっと、近いって……!」


 彼女の柔らかそうな唇が、わずかに震えて。

 もう、間もなく、接触――


 ――ガラガラガラッ!


 ドアが勢いよく開かれ、愛沢は弾かれたように離れる。

 俺はどこどこと暴れる鼓動を抑えつけ、何事もなかったかのように視線を部屋の入口へ向けた。

 そこに立っていたのは、羽生田社長だった。


「あ、羽生田社――」

「――黒野ぐぅうううううう~~~~~ん!!!!」


 叫びながら突っ込んできた。

 そしてそのまま……ぎゅうううううううっ。


「っだだだだだだ!? いだい! 社長、いだいですっ!!」


 全身に激痛が走る。

 さっきより明らかにダメージがでかい。


「何やってるっすか!? 先輩は全身大怪我してんすよ!?」


 愛沢が慌てて社長を引きはがす。

 助かった……けど愛沢(コイツ)、自分のこと完全に棚に上げたな。

 社長はそのままベッド脇にへたり込み、号泣モードに突入。


「ううううう……よかったよぉ……生きててくれてよかったよぉ……」

「それは本当に、ご心配おかけしました。……けど」


 息を整えながら言う。


「どうしたんですか、そんなに慌てて」

「生きててくれてよかったってのが9割だよぉ……」


 社長はえぐえぐと息を吸いながら言った。

 ……うん? 9割?


「残りの1割は?」

「助けてほしいんだよぉぉぉおおおおおっ!」


 社長は即答しつつ、羽毛布団に顔をうずめる。


「あの一件以来、病院の前も会社の前も我が家の前すらも、マスコミとかファンとか配信者の凸とかで大騒ぎなんだよぉぉおおおおっ!」

「げ……マジですか」


 思わず顔をしかめる。


「大マジよ! もう朝も晩も張りこまれまくり! 寝る暇もありゃしない!!」


 すると愛沢が、少し落ち着いた様子で口を開いた。


「まあ、しょうがないっすよねえ。そもそも今回のゲート暴走の現場、世界中でテレビ放映されてたじゃないっすか」


 確かにそうだ。

 俺と愛沢も、会社の開発室に備え付けられたテレビで、現地からの中継を見ていた。


「そこに先輩――ダンジョン嫌いニキさんが現れて、謎の応援部隊も来て、敵の指揮官みたいなやつと戦って……で、途中で一旦放送は切れたんすけど、ドルヴァノが出てきたあたりから、ネットで急に配信が流れ始めたんすよ。アリスの機能で」

「……ああ、そうだったな」


 思い出す。

 形態変化ボスを倒して疲労困憊の俺たちの前に現れた、イグニス=ギア社の代表であるドルヴァノ。

 奴は世界に魔物を溢れさせるという計画を語り、その目撃者である俺たちをこの世から消そうとした。

 それを防いだのは、愛沢が勝手に付けた、アリスの簡易配信機能だった。


「という怒涛の展開の連続に、今や世界中の注目が先輩に集まってるんすよ。先輩は、世界を救った英雄っす。今立候補したら、どこの国の大統領にもなれると思うっすよ」


 愛沢は肩をすくめながら、さらっととんでもないことを言った。


「そ、それは言い過ぎだろ……?」

「言い過ぎなことあるもんですかぁーっ!」


 首を傾げる俺に、横から社長がツッコミを入れる。


「最初に黒野くんが話題になった時は『これで倒産回避!』なんて軽ぅく考えてたんだけど……あ、甘かったわ――」


 プルルルル!

 

「――ひいいいいいっ!」


 電話が鳴った。

 社長は悲鳴を上げながら、スーツのポケットからスマホを取り出す。

 そしてすぐさま俺のベッドに放り投げる。


 完全なる拒否反応だ。

 俺は仕方なくスマホを拾い、画面を見る。

 そこには、会社の同僚の名前が表示されていた。

 通話に出る。


「はい、黒野ですが」

『社ちょ……く、黒野!? お前無事だったのか! よかったなあ……!』

「はは、ありがとう」

『後でサインくれよ。同じ職場だって知ったら親戚中から連絡来てさあ……って、違う! 社長はそこにいるか!?』


 問われ、目の前の社長に視線を向ける。

 社長はぶんぶんと首を横に振り、口元で「しーっ」とジェスチャーしている。

 こ、子どもか……?

 俺はその様子を確認してから、あっさりと言った。


「いるよ」

「――なんでよぉぉぉおおおおおっ!?」

『お、よかった! スピーカーにしてくれ!』


 俺は言われた通りにスマホを操作する。


『社長! 早く戻って来てください! マスコミの人たちがまた会社に押し寄せてますよ!』


 その言葉を聞いた瞬間、ピキ……と社長が石になる。

 横で愛沢が、にやにやと笑った。


「よかったっすねえ。社長お待ちかねのビッグウェーブっすよ?」


 悪戯っぽく言う愛沢に、社長は頭を抱えた。


「――ぜんっぜん、よくないよぉ~~~~!」


 社長の悲鳴が、病室いっぱいに響き渡った。

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