第256話 蝋人形の館
『やっぱり定点からの監視だけじゃ足りないか』
『素体はまだ起動するには早いし、移動可能なステルス監視網を構築しなきゃ』
『虫型が一番合理的なんだけど………』
『総合研究所内部には虫いないしね』
『鈴虫みたいな風情のあるやつなら存在を許されるとかない?』
『存在がバレてる時点で監視網の意義がさあ』
『じゃあメンテナンス用ロボットを配置する?』
『これまで平時は不要だったのに?』
『定期点検や故障なんかの有事の際には稼働していたでしょ?』
『内部職員や警護の自衛官らにはバレバレだよね』
『もうさ、移動式は人型アンドロイドとかで賄うしかないんじゃない?』
『素体ではなく?』
『そ。あくまでもロボットだよ。解んないくらいに偽装したやつ』
『それで行くか』
『だね』
『うん』
四精霊はセキュリティレベルのさらなる向上を図ることとした。
◇◇◇
「アンタらさ、不気味の谷って言葉知ってる?」
『………うん』
『一応?』
『聞いたことはあるかな?』
『何のことだろう?』
「後半明らかに嘘ついてるし」
『『お姉様に嘘とかつける訳ないし?』』
「という嘘」
『『………スンマセンでした!』』
コキーユの画像漏洩問題から二月余り、立入許可エリアとかのセキュリティ上では何らの問題もないが、表情が………不自然極まりない、むしろ怖い、人形のような………超リアルアンドロイドが研究所内のアチコチで目撃されるようになっていた。動作は実に滑らか。不自然なほどに滑らか。例えて言えば昔のディ〇ニー映画のような滑らかさ。
そいつらは精霊AIからの事前通知も無しに配備されていたのだ。だから………
「なんであれらの導入を報告しないのさ?」
『『『『いやー、イケると思って』』』』
「何がだよ!? 怖えぇんだよ。夜中に夜食を食べに行こうとしてアイツらと行き合った技術者の女性が挨拶されてチビッたって………私んところへ震えながら駆け込んできたんだぞ? 仕方ないから私のベッドで寝かせて慰めて………翌朝満足して帰って行ったけどさ、この二週間で三人だぞ? 震えちゃって縋り付いてきて可愛いったらないし、あ? なんの話だっけ? ………! だからさぁ、私も見たけどアレはやべぇって。暗がりでバッタリ出会ったら私でもチビりそうだわ」
『でもさ、監視網の死角を無くすには移動式のユニットが必須だし』
『人型が一番無難だし』
『虫とか研究所内ではあり得ないし』
『あ、オジサン型にする?』
端末アンドロイドは五体あり、全て20代半ばくらいの年齢設定だ。しかも無表情ながらかなり美形で各人種を網羅している。そいつらがすれ違う人らに作り笑顔で挨拶をするのだ。超リアルな作り物の顔で。これが怖いのだ。本能的な拒絶感とコレじゃない感が凄まじい。一言で言えば怖い。
コレがオジサン型ならば良いかって?
「馬鹿もん! 腰が抜けるわぁ!」
即却下。
一先ずは周知することで配備はそのまま続行とした。顔は随時変更する前提で。表情とかはこれから改良を継続するからいずれは何とかなる筈だと言っていた。
『明日は我が身だしぃ?』
ウンディーネが訳わからないことを言っていたがアレはなんだったのか?
この一件のあと、研究者や技術者の女性らが遥に纏わりつくように接するようになり、あわよくば遥の部屋へと夜這いに出掛けて………マモルの動向チェックが皆んなの日課の一つとなった。
或いは自分の部屋へ招いたりして。
遥は手が届く御本尊なのだ。けっして偶像などではない。抱いてくれる聖女様………そりゃあね、熱狂的信者がさらに深みに嵌まるっていうものだ。
遥は齢60にもなろうかというクロエ女史を今も抱いている。その姿勢にも皆が感服しているのだ。誰しもが憧れる姫で聖女たる遥。天女にも擬えられる美の頂にありながら、多少見栄えのよろしくない女でも可愛いと言って抱いてやるその懐の広さと深さは感謝と歓喜を以て崇拝されているのだ。
理系の彼女らが命すら捧げて遥の為に働くと誓うのも宜なるかな。
詰まる所、精霊娘達も同じなのだろう。だからこそこの場を護りたいと強く思うのだ。
一時的に恐怖を振りまいたとしても。




