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はるかの日々  作者:
254/260

第254話 皆んな堕ちている

「とにかく調査するわね。漏洩とは限らないのだし、他の要因も調べてみるわ」


暫し考え込んでいた遥がスマホをテーブルの上に置いて話し掛けた。


「ノーム」


『呼んでもらえた! なあに、遥お姉様』


「さっきの話、聴いてたよね?」


『うん、聴いてたよ』


「アレってさ、どういう経緯で露見して、彼等がどんな証拠を保持しているのか判る?」


『うーんと………先ず写真と映像は確かに所持しているよ。映像は直ぐには入手できなかったぁ。写真は………送ったよ。見て』


送られてきたファイルは勝手に開いて添付された写真が表示された。皆んなで見てみると………富士のマギプロジェクト総合研究所屋上にあるヘリ用離発着場であると直ぐに確認できた。


『経緯だけど………うん、英国情報部の外部委託を受けたオーストラリア人が知り合いの自衛官に依頼してウェラブルカメラで撮影したものをデータリンクして抽出したものみたいだね』


「黒かぁ………クソッ!」


珍しく遥がイラついている。そんな遥の手を握りながら楓が質問した。


「誰か判るかしら?」


『静岡の普通科◯◯連隊◯◯小隊の伊東幸雄少尉だよ。今日も総合研究所で警備の任務中だね。ボクらの警戒監視には引っかかってないから映像の抜き取りは監視の死角を突いてやっているね。そうであればかなりの手練れかも?』


タブレットを開いて人事の管理フォルダへアクセスして件の伊東幸雄少尉のデータを開いた。


「あー、母親がオーストラリアに帰化した中国人で母の兄がシドニーで人材派遣業をしている………ノーム、彼に依頼したオーストラリア人って」


『チャーリー・マオ。うん、伊東少尉の母の兄だね。しかもこの依頼ってオーストラリア政府も相乗りしているんだね。写真の方は伊東少尉の合図に従って超遠距離から望遠レンズ使って撮ったみたい』


「こんなに鮮明に撮れるんだ」


佐原が妙な感心をしている。それに僅かに苦笑しながら楓がさらにノームへ質問する。


「分裂中国へ流出とかしていない? コレ」


『………まだ大丈夫だね。でもまぁ、片っ端から消しておくよ。母の方は繋がりがあるっぽいし』


「こいつらさぁ、うちのもんで締めていい?」


遥の目が据わっている。


「伊東少尉は逮捕出来るけど大した罪には問えないわね。オーストラリア在住の叔父の方は手出しも出来ない。そして母の方は………証拠不十分とかかな。うん。ここは遥ちゃんの憂さ晴らしに使っちゃって」


「ウンディーネ、こいつらの行動をトレースして。サラマンダー、事の経緯を爺ちゃんと曾祖父ちゃんへ連絡してお仕置き部隊の編成を依頼して」


『任せて〜』


『了解!』


『お姉様! わ、わたしにも何かさせて!』


「シルフィはね………ただいてくれるだけで嬉しいの。だからまた今度なにかお願いするね?」


『うん!』


その場の全員が思った。天然のタラシだと。そんなだから………


最初に我に返ったのは楓だ。


「伊東少尉はこの世界から除籍かしら?」


「ん? 全て明らかにした上で秘密裏に習志野駐屯地でレンジャー訓練に取り組んでもらうつもり。教官は勿論私と仲良しのベテラン達………生死不問の特別訓練だよ。その結果は誰にも分からない………よね?」


「ハ、ハハハ………良いんじゃないかな? 他の二人は………それはいいか」


殺る気満々らしい。

自衛隊員らならばほぼ無条件に信用していたというのがそもそもおかしいのだが、高校生の頃から可愛がられて甘やかされてここまできたのだ。遥にとっては第二の家族にも近しい存在と化していたのだろう。それなのに裏切られた。

無論それで全ての自衛隊員を裏切り者認定するようなことはない。習志野駐屯地の古参の人達は今も大事な仲間だし、第二類に分類しているような格別親しい人もいる。

自分の温さと甘さを恥じて、組織としてではなく個人を見ていこうと認識を改める。当たり前のことだ。その当たり前が出来ていなかった自分に先ず腹が立つ。だがしかし、そもそも悪いのは裏切り者本人だ。

大事なことに気づかせてくれたことの礼をせねばなるまい。そして傷付けられた心の対価を支払わせねばなるまい。

遥の中で思いが黒く重く渦を巻く。


「全ての自衛隊員が味方じゃないなんて当たり前のことだよね。中には敵もいる。楓ちゃんの組織なのに………だから余計に腹立たしいし、辛い気持ちになるのかな。この件は見せしめにする。裏切り者の末路を内々に知らしめる機会とするよ。いいよね? 楓ちゃん」


楓ちゃんの組織なのに………それを聞いて愕然となる楓。

震えた。そして腹の底から熱いマグマが湧き上がってきた。自身が、私こそがケジメをつけなければならない。この愛しい少女を傷付けた極悪人を地獄へと叩き落とし、後悔させ、命乞いをさせた上で残酷な最期をこの手で下す。当たり前ではないか。

さっきまでの温い自分はどうだ。事務次官などという事務方トップなんていう立場になってすっかり合理化と適法処理に慣れきった末路か?

相手は遥を、我が最愛を裏切ったのだ。落胆せしめたのだ。傷付けたのだ! 法に則った処理などと………ギリリと奥歯を噛み締めた。


「ゴメンね、遥ちゃん。やっぱりこの件は私がやるわ。組織の最高責任者としてではなく………遥ちゃんの恋人として私がやる」


暫しの間楓の顔を見つめる遥。瞳の奥に狂気が視える。


「………うん、任せるよ」


遥が僅かに見せた笑顔に場の緊張が幾分緩んだ。


「オーストラリアはどうしようか?」


「一門には私のシンパがいるから、そちらも任せて」


「結果は教えてね? 私、ミシェルも受け止めているから、なんでも大丈夫だよ」


何故ここでミシェル? 佐原だけがクエスチョンマークを頭に浮かべている。えげつない人だとは知っているのではあるが、具体的に何をしてきたのかは知らないのだから仕方ないのだろう。


「ええ、生き地獄を教えてあげるわ。じっくりとね彼等に………」


母と叔父にもその魔の手は及ぶようだ。甘く考えていたのは遥や楓だけではない。彼等もまた小野田を、日本を、防衛省を甘く見ていたのだろう。そのツケが支払わされる。

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