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はるかの日々  作者:
253/262

第253話 獅子身中の虫

無人戦闘機であるゼフュロス型と有人飛行用超音速機コキーユはどちらもシルフィの制御下にあってその機動力とステルス性能、光学迷彩機能などにより無敵かつ安全な航空機である。どちらも製作ロット毎に性能を向上させており、野田千鶴の監修を受けてさらなる高みへと昇華されている。それ故に………外へは供出できない代物となっている。

まぁ、マギプロジェクト参加国との契約上、提供する製品はマギプロジェクト側からの指定とされているから、もしゼフュロスやコキーユの存在が露見しても寄越せと強要することはできない。米国などは元大統領や元主席補佐官らが何度も搭乗していても尚、それを要求したりはしていないくらいだ。まあ、公開する相手はその辺りの心配が不要な人物に限られているのではあるのだが。

それでもまあ、運用していれば情報はどこからか漏れるものだ。


「あのホタテ貝のような形状の航空機はどういった性能なのだ? 視界から突如消えたりもするし、レーダーにも映らないと聞いている。ステルス性能は異次元のレベルと見たが、武装は? 何人乗れる? 巡航速度は? 是非とも欲しいのだが?」


眼の前には英国外務大臣と駐日大使、それに何故かオーストラリアの大使も同席している。挨拶もそこそこにまくし立ててきたのはオーストラリア大使だ。会見場所は防衛省内の会議室。マギ側にはマモルと遥、それに関連企業の社長となっている佐原巴、そして防衛省事務次官たる佐倉楓が並んで座わっている。

マギ側は主たる対応者を佐原として会合を進めることとした。


「秘匿対象の情報と思われますのでそちらの質問には一切お答え致しかねます」


先の発言への答えに不満をありありと表出させ、鼻息を漏らしてこれに応えたのは大柄な身体にくすんだ金髪をオールバックに撫でつけたオーストラリア大使だ。おそらくは発見者的立ち位置なのだろう。


「うちの国の者複数名が確認しているのですよ。写真もある。動画もね。こんな物を作る技術はマギプロジェクトにしかないでしょう? それとも撮影隊もいないのに特撮映画のテストでもしていたのですかな?」


「さて、お答え致しかねます」


「事実は既に確かめられているのですよ。すくなくとも存在の肯定くらいはなさらないと話が進みませんよ。

事務次官殿、日本国内を飛行している機体の認証くらいはしている筈ですよね? この機体はどちらのメーカーが作ったどういった用途の、なんという型式名の機体なのでしょうか?」


「さて、マギプロジェクトには自己防衛の為の武装認可が国からなされておりまして、それに伴う試作品等については届け出義務も課しておりません。配備後は識別コードの付与などに伴う情報提供は求めておりますが………正直何らの把握もしておりませんね」


英国大使が口を開く。


「一企業への過ぎたる信頼ですな。マギプロジェクトの貢献度はお国に限らず世界各国へも及んでおります。それは承知しておりますが、かつて、かのロシアとの極東事態の折にもロシア軍機の謎の撃墜案件が複数報告されておりました。あの頃から日本には隠し玉としての航空戦力があったのではないかと噂されておりましたな。今回のソレはその機体か派生型の機体なのではありませんか? であれば防衛省が把握していないということはないでしょう。我々はね、何も無条件に寄越せとか、情報開示しろとか言う事を申し上げにきた訳ではないのですよ。ただ知りたいのです。そしてマギプロジェクトの世界貢献に微力ながら協力したいと考えておるのですよ」


「噂、ですか。妄想の翼を広げ組み上げたその物語には聖杯を求めて冒険をする騎士の話などは含まれていないのですか?」


精霊AIと遣り取りしながらゼフュロスを使ってロシア軍機の撃墜指揮を執っていた本人が夢見がちな坊や扱い発言をする。


「………同じ作り話ならば私はシェイクスピアのほうが好みですね」


とても良い笑顔の英国大使。


「古典と伝承に範を取った創作物ですね。台詞回しが実に芝居がかっている。まあ、お芝居用の脚本だと言えばそうなのでしょうが」


「お芝居ですか。ふぅ、それでも我々は与えられた役割を演じなければならないのですよ。かの機体は存在する。それは我々の中では確信となっています。僅かばかりで結構です。舞台裏をお見せ頂くことはできませんか?」


暫くは口を噤んでいた佐原が再び前に出た。


「私共は軍需産業ではありません。しかし設計製造能力はあります。そして営利企業です」


「それはどういった意図で仰っていますか?」


ここまで黙ったままであった英国外務大臣がやっと口を開いた。


「希望を述べろと?」


「そうですね。マギプロジェクトへのそうした製品の発注は受け付けておりません。しかし我が社ならば話は別です。そちら様が求める性能の機体。それをお聞きして検討し、可能なレベルを提示して折り合いがつけば製造する。それならば対応可能かと。妄想の中の機体が我が社で再現可能かどうかは分かりませんが」


「成る程、開示はしない、但し、コチラの望みには耳を傾けると………ふむ、ところでその場合、如何ほどの金額となるのかね?」


「ケースバイケースですね。要求の高さに応じた金額となるでしょう。量産は望むべくもないので機体価格はかなりのプレミアムとなるでしょう」


「例えば………」


「お待ちを。コンセプトに沿った設計と製作コストを勘案するのはあくまでもマギプロジェクトの者達です。この場で概算であっても金額を提示することは不可能です」


「あぁ、成る程。」


過ぎたるステルス性能や光学迷彩機能などは供与できない。しかし宇宙往還機としてゼフュロスベースとなる機体はもうじき発売される。機動力や飛行性能などはある程度露見される。リバースエンジニアリングは不可能なのだが、そこからコキーユの性能を予測することは難しくない。だからオーダーメイドの形式をとってある程度までならば開示は可能との判断を下したのである。

但し、あくまでもマギプロジェクトを通さない、別企業を通しての商いの形態をとる前提で。


その後さらに1時間ほど話し合ってから、一度持ち帰るとのことで、散会となった。


ひと息ついた遥が疑問を呈した。


「どっから漏れたんだろ?」


楓が珍しく遥に対して無表情に答えた。


「富士に駐留している自衛官が濃厚ね。あそこならばコキーユの離発着に間近に接する機会が多数あるもの」


「自衛官が?」


「殆どの自衛官は遥ちゃんのシンパよ。でもね、組織としての自衛隊は近年巨大化していて新しい人員も沢山いるの。誰しもが習志野駐屯地や北海道の普通科連隊の隊員達みたいに姫の下僕って訳じゃない………腹立たしいことにね」


身内だと思っていた身近な警護要員らが穴となっていた可能性を提示された遥は少し落ち込んでしまう。

まだ確定した訳ではないのだが。

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