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転生したら寄生鎧だった ー女盗賊ミランダとアメジストの大ダンジョンー  作者: えぐれっと
ー女盗賊ミランダとアメジストの大ダンジョンー
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7 酸性雨

夜が明けてすぐに彼女達は行動に移った。ミランダは駆け込む様にルイーディアの家に向かう。


「こんな朝っぱらから血相変えて、どうしたのよ?ダンジョンに行く予定でもできた?」

「違う。急ぎアンタに相談したいことが出来た。」

「一体何よ?」


「貧困街で起きてる病気について。」


ルイーディアは驚いた顔をする。

「…なら丁度良かった。昨日言ってた頼み事、それに関係することなのよ。入って。」

フェクトは寝巻の後ろ姿を拝みながら、家に入った。彼女が着替えている間、部屋の中を見渡して地図を探す。


(あった、この都市の地図だ。見せてくれ。)

ミランダはテーブルに置いてある地図と対面する。北にアメジストの大ダンジョン。大きな塔から真南に中央街の正門がある。

(やはりな。中央街は南東に伸びる様に増えていってるんだ。)

「どういうことだい?」

(貧困街とはいうが、教会や家屋を見ると、中央街よりも古い建築様式だ。街はずれになるほど、村って感じの時代の名残がある。言い換えれば、旧市街だ。)

「よくわかるね…その通りだよ。」

(古くなった建物は解体するのにも費用が掛かる。新しく建てる方が早いし安い。だから新しく街を拡張する時は、みんな新築の物件は日当たりのいい方向へ建てようとする。他の建物が重ならない様に斜めに建てるもんなのさ。)


「へぇ、アンタ、随分と賢いのね。これが、昨日言いかけた頼み事よ。依頼を受けたのは、つい1週間前。」


彼女が見せた、薄くなった木板を並べ結んだ書簡には、自警団を介した中央自治区からの依頼だ。


内容は、貧困街の疫病の調査だ。検問の番兵の交代勤務者が全てが、同じ体調不良を訴えている。

「チッ、連中も気づいてないわけじゃないってことかい…。」

「ごめん。隠すつもりじゃなかったんだけど。」

「別にいいさ。アンタが元々どこの出かも知ってる。復帰を餌に体よく扱われてるんでしょ。」

「安心して、戻る気はないわ。それにアンタらも心配だからね。」


ミランダは書簡を突き返す様に手渡す。


「原因ならもう分かってる。中央街の工房の煙突の煙、空気中に舞い上がった煤。こっちが風下。あれが雨に混ざって降ってきてる。」


「な…本当に?」

「工房の鉄工所が出来た時期も一致する。フェクトがそう教えてくれた。」

ミランダ達が会話する間、彼はマジマジと地図を見ていた。


(この辺も街から西南西、風下のはずだ。ルイーディア、近くに川はあるか?魚の死骸が多かったり、先端が変色してハゲて枯れた木や、鳥の糞がたくさん落ちた様な模様の岩がなかったりしないか?)


フェクトの質問にルイーディアは思わず口元に手を被せた。

「…驚いた。全部アタリよ。」

(やっぱり。これは酸性雨で確実だ。鉄鋼産業が盛んな街では、ありがちな大気汚染、石炭の燃焼がもたらす空気の汚れなんだ。)

「アンタ、一体何者なの?」

(自分の事はよく覚えていないが…ハッキリ言える。俺は未来人だ。俺の記憶では、中央街区の街並みだって本の中にしかない過去のものだ。)

「…へぇ~?にわかには信じがたいね…。」

(俺の事はいい。発症は2か月前だ。それから交代勤務者全員の訴えが出揃って、左遷されたルイーディアの元に原因の追及の依頼が来た。依頼者の更に上の人物の腰はかなり重そうだぞ。)

「お察しの通り。この依頼自体も、旧市街区の区長が直々に私に依頼してきた。騒ぎにならない様にね。」


ミランダは腕を組んだ。


「で、解決方法は?」

(一つはキミの言う通り、工房そのものを止めてしまう武力行使だ。これは最終手段。)

「ふたつめは?」

(工房の煙突に有害物質を処理させる装置をつける。これが理想だが、時間と技術の問題でパスだ。将来的にやって貰う形になる。)

「他は?」

(3つめは、煤を全部洗い流してしまう。汚染される以上に雨を降らせてしまえばいいだけの話…な~ん~だ~け~ど、恐らくこの地域、雨が少ない。)

ルイーディアは続ける様に言う。

「氷の魔法で結露させても、そんな量は無理ね。やるには魔術師が200人以上いないと。」

「おいおいおい、どれも不可能なことばかりに聞こえるよ?雨なんてどうやって降らすんだい。」

ミランダはイラついた声色で貧乏ゆすりを始めた。

(石炭を使いながら大気汚染をゼロにする、なんて解決するのは極限的に難しいよ。インフラは常に動いていないと大損だ。)

「おい、解決策はあるって、自分で言ったろ!」


(分かってるって。まず聞いてくれ。引っかかる点がある。酸性雨が降るにはな、煙突が少なすぎるし、空気もかなり澄んでいるんだ。)


「…なんだって?」

ミランダは困惑した。今、自分で酸性雨が降っていると言ったばかりなのだ。

(酸性雨が降り出すような地域は、こことは桁違いの量の煙突があるもんなんだ。子供も満足に眠れないぐらい炭鉱に駆り出されるぐらいにフル稼働する。煤の煙だけで、町中が霧に覆われた様な地獄絵図になるのさ。)

「それだけの煙の量が必要なのに、事実、酸性雨が振り出している。確かに、矛盾してるわね。」


(さっきも言ったが、この地域、雨は少ないはずだ。振るまでの間に空気中に汚染物質は足元に溜まり、より濃くなっていく。雨が降る回数が多ければ、その分薄まって害は減っていくが、少ないから濃厚な酸の雨になるわけだ。)


「なるほど…」

「ふたりとも勿体付けるな。さっさと解決すんだよ!」


ミランダが結論を急ぐと、フェクトは早口で続ける。


(この街の、恐らく貧困街のどこかに【汚染物質が滞留】しているはずなんだ。煤は空気よりも重いから、出てきてすぐは熱の気流で空中に舞うが、冷えるとゆっくり落ちてくる。風で舞い上がっては、また床に落ちて風下の貧困街へと集まるんだ。)

「そうして繰り返すたびに有害物質の濃度が上がっていく。だから、体調の悪化も個人差が出てるし、精錬所が出来てから数か月は何も起きない時期があった、ということね。」

(そういうことだ。教会に居た人の症状、咳している人もいたが、シトリンやクレアさんは食欲減退や体のダルさだけだった。あのふたりは汚染水を飲んでいて、煤は吸い込んでいないはず。煤を吸い込んでいるのは、壁際に住んでいる人達だけ。)

「確かにスジは通ってるね…。」

(酸性雨の範囲は街の西側、貧困街の検問付近と、その街外れの風下にだけ。規模が小さく集中しているんだ。酸性雨とはいっても、1時間も降れば自然な雨に変わる。遠くまでは届かないから、ルイーディアの居る家にまで来ない。だが、水は地面に落ちた後も地下に引き込まれ、最後は必ず川に流れつく。)

「じゃあ探すよ!風を辿っていけばすぐじゃないか!そこの煤を掃除するだけで済むんだろ!安いもんじゃないか!」


彼は急ごうとするミランダのうなじをふにゃふにゃと叩いた。


(まぁ待てって。確かによくなるけど、それじゃ繰り返すぞ。中央街区の人間は、そもそも何が原因だったかも知らん。シーちゃんが辛い思いして、尻拭いまでしてんのに、今後も知らん顔され続けるのはクソほど腹が立つ。だろ?)

「ほ~?連中に自分で責任を取らせられる方法があるのかい?」

(今それを考えてる。ちょっと待ってくれって…)


フェクトは要塞の地図を見つめた。中央街区の門から真北にダンジョン。壁外に出て、左にルイーディアの家と、その南に街から西方向へ下る川がある。

ダンジョンから飽和したモンスターに対し、街のすぐ背後に川がある。一見すれば街ごと追い込まれている背水の陣だ。しかし、背後を取られる心配がない側面もある。

要塞に必要な壁の量を減らし、正面だけからの敵に集中できる地形だ。ある程度、この街を作った領主の家系は戦略的なものを見れるらしい。


(よし、大体の計画は見えて来たぞぉ。さっきの書簡だ。ルイーディアさん、そいつはかなり使えるはずだよ。)

「これが?私にとっては嫌がらせみたいなもんにしか映らないけど…。」

(その書簡を書いた責任者は、少なからず解決を望んでるから依頼をだしたんだ。つまり、被害にあった衛兵や、体調不良を重く見ている人間は、解決の意志を見せれば確実に味方になる。絶対に俺達の声に耳を傾けるはずだ。)

「…なるほど。」

(この地形、メモっておくか。なんか切り株みたいな広めの薪持ってきて。)

ルイーディアが薪を持ってきて机に置くとフェクトは目を閉じる。

(んん…目からビーム!)

目玉からレーザー光線を放ち、フェクトは視線を追う形で薪に街のおおよそな地図を書き写した。

「…閃熱光線にそんな使い方が…」

「…便利だね、あんた。」

(よし、まずは汚染物質の滞留している場所だ。目星はついてる。ルイーディア、外出するならマスクをつけた方がいい。煤を吸い込むのはよくない。)

「わかったわ。」

3人は書き写された地図を持って、駆け出す様に家を出た。


(滞留場所は、検問を入ってすぐ左、北側!要塞の壁の内側だ!そこらへんが風の【吹き溜まり】になっているはず!)

検問を入ってすぐ左折し、壁沿いを進んだ。丁度、西側と北側の壁の角に来た。ほんの家3建先に中央街側へ寄ると、そこには井戸のある広場があった。

井戸は大事だ。貧困街であっても、ここだけは地面が石畳になっている。

回りのボロ家は、修理と増築を繰り返したのか、形状はいびつな上、間隔が狭く日陰になっていて、ビル風の様な隙間風がルイーディアのスカートを揺ら付かせる。

「確かに、ここが風の吹き溜まり、だね。」

(足元を触ってごらんよ。この石畳み、こんなネズミ色ではなかったはずだ。)

ルイーディアがしゃがんで、人差し指で地面をなぞってみると指の腹には鼠色の粉が付く。踏んだところはひび割れ、靴底を引きずってみると白い本来の石畳の姿が現れた。

「これが全部、煤!」


ミランダは指を示して、ぐるりと井戸の回りを示した。


「よく見なよ。井戸を中心に、竜巻が起こるみたいに螺旋状に模様が出来てる。なんでこんなことに気づけなかったのか。」

「少しずつ積もるから、気づかなかったんだわ。」

(後ろの壁と遠くの壁の色も違うはずだ。落ち葉でも握りつぶして、砕いてみるといい。それで答えが見えてくる。)

言われた通り、ミランダが音を立てて枯れ葉を潰し、手を開いてみると、壁沿いに舞い上がった。

「上昇気流…!行き場がない空気は最終的に上に行くわけね。」

(雨雲が近い時、足元から吹くようなぬるい風がするのは、まさに上昇気流が原因だ。夜中になると、寒暖差で風はもっと強くなって舞い上がる。)

ミランダは手を強く握りしめる。

(晴れの日では壁より高くは飛ばず、朝露と一緒に舞い降りて地面に戻り、雨の夜に降る時にだけ強い上昇気流に晒されて酸性雨となって降り注ぐ。これが結論だ。)

「大した洞察力だよ。それで、この次はどうするんだい?」

(俺にいい考えがある。それは…)

「「それは?」」

2人は波状に灰色の汚れが付いた壁を見上げた。

(この薄汚れた壁を、ぶっ壊す!)


「「…は?」」

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