129 新たな冒険者達
「久しぶりだな、鎧の。」
後ろから話しかけられる。
「…ラケルか。」
「今はアネットだ。」
フェクトは座ったまま、ラケルは立ったまま。互いに目を合せようとはしなかった。
「また笑いに来たのか?」
「笑って欲しければ笑ってやるが。別件だ。」
ラケルは真剣な口調で言う。
「教会の刃は執念深いぞ。お前らのことを再び探りにくるのも、そう遠くはないだろう。」
「…だろうな。」
知っているとため息交じりにフェクトは答えた。
「来るのは恐らく、私の部下2人だ。別の上司も添えられているかも知れんがな。」
珍しく彼女の側から情報を提供した。フェクトはよほど重要なことなのだろうと、話題に乗る。
「名前は?」
「リラ・ゼニスとシスナ・シャスチーチカ。2人ともタレントは魔術師だ。シトリンが覚醒した晩に私のハーピー姿を見られている。その2人だけは教皇庁の命令がなくとも、確実に離反した私を追ってくる。注意しておけ。」
「覚えておこう。」
フェクトは重々しい声で答える。
「お前の存在もまた、我々がダンジョンで生き延びる為の駒にすぎん。我々は共生関係にある。」
「知ってる。」
「我々の魔物の汚名の払拭をするには、先手を打ってシトリンを聖女に認定させることだ。人の世に益を産む大きな実績を積まなければならんが、我々はここから大きく離れられん。」
「…。」
「人の世と関わるには協力者がいる。その為にお前を生き返らせ、再び摂政の座に就かせたのだ。」
…
冒険街ドイネルは、シトリンを人間社会に有益なものと認めさせるための、外交の場。人類との架け橋だ。
何も知らぬ冒険者が、仮にシトリンを倒してダンジョンの成り立ちを知っても、現在の知識レベルの人間ではとても理解は追いつかないだろう。
人智を超えた存在を人は畏れる。それが危険で排除できるものなら差別して排斥し、絶滅まで追い込むものだ。
だが、大きな実績を残して、教会の刃の大本の教皇庁に聖人に認定されれば話は別だ。
天使も悪魔も元は同一の存在。原典の天使の姿は、回転して浮遊する無数の目玉のついた円盤と巨大な羽だとか、神々しくも悍ましい姿であるなどともされている。
姿形はさしたる問題ではない。むしろ、ラケルの白い羽のハーピーの姿は、権力者が益の存在と認識すれば、掌を返して天使などと言い出すはずだ。
…
「手法は任せる。期待しているぞ大賢者。」
彼女は振り返って去っていった。
「やれやれ…重責ばっかりだな。」
フェクトはため息をついて立ち上がり、ミランダ達の下へと戻る。
…
アナトリーとの再会は、シトリンが起こしてくれた奇跡のひとつだ。
もう出会えるはずのない人間と出会うことが出来た。未亡人たちの心の救いにはなっただろう。
まだ物心ついているか分からない3歳前後の子供たちには、何が起きているのかもわからないだろうが。
アナトリーの口から新しい命を託され、フェクトは快く了承する。
………
……
…
妻と子供たちと共に、フェクトは庁舎からダンジョンを見上げる。
かつてミランダに着られて出て来た場所は、高い断崖になって、もう見る影もなくなっていた。
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大聖堂の礼拝堂から、シトリンは街を見下ろした。
これからは街を黄金の光で照らし、亡き義母クレアの志を継いで、より豊かに人々を導いて見せると。
胸に手を当てて、未来への希望を祈る。
―――――
………
……
…そして、新たな冒険者を乗せた馬車が冒険街ドイネルに到着する。
馬車から降りたのは、妖艶な魔女の格好をした、黒髪のエルフの女。
洒落っ気のある、編み込んだ白髪と黒髪の女のコンビ。
顔に大火傷のある、荒くれの男。
…色々な冒険者が、それぞれの事情で集まっては別れていく。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。修験道に挑まれる方、ギルドカードの新規登録はこちらです!」
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シトリンの不思議な大聖堂 ―冒険街ドイネル・黄金の修験道―
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―終―




