表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/131

128 聖堂街シトリン

フェクト達は、裏口から最上層の黄水晶の大聖堂に招かれる。


結婚式場の下見にリフトで最上層まで一気に登ると、建物の全てが黄水晶で作られた、目が痛くなるほど荘厳極まる場所だった。


大晶洞の大量の水晶を用いて作られたこの場所は、まるで神話の様な景色。

故郷の教皇庁に面食らわせる為に、ラケルが心血を注いで作った自慢の建築だと、連れて歩くシトリンは言う。



裏口からの入場は、不戦の誓いを立てた上で招かれる来賓用の施設だ。

迎賓側の礼拝堂と、挑戦者用の最深部のボスエリアは鏡合わせの作りになっている。


挑戦権のないフェクトとミランダを招く為に、最低限失礼のない様にしたい。そんなシトリンの想いが詰まっている。


最深部に直通させているため、裏口側は何もない平穏な場所だ。

しかし、表のダンジョン側から入ると、大聖堂の最奥部の礼拝堂まではとても遠く、道中は強力な魔物がワンサカいるらしい。


かつての大晶洞の11層からボスエリアまでの道のりを思わせる作りだ。



下見を終えた数週間後。


フェクトとミランダの挙式が、大聖堂で行われることになった。

出産後、しばらく経つ形になってしまったが、ようやく正式な結婚式となる。


あまり大勢の人間は招けなかったが、集まる人間は厳選された彼らの縁者のみとなった。


壇上に立ったのは、ミランダの兄、リカルドだった。

彼は神父の格好をして2人を迎える。


「新郎、アナトリー。あなたはここにいるミランダを、病める時も 健やかなる時も富める時も貧しき時も。

 妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」


「我が身、生まれ落ちた時よりミランダに尽くすこと。この身が亡ぶまで続けることを誓います。」


「新婦ミランダ。あなたはここにいるアナトリーを病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も

 夫として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」


「誓います。」


「それでは、神とわたしたち一同の前で、結婚の誓約を―――」



『その結婚、ちょっと待ったぁぁー!!』



何者かが立ち上がり叫んだ。

全員はひとりの女を注目する。


品格のある格好をして、剣を腰に下げた騎士の出の娘の様だ。


『アナトリー様!どうしてマルドーネにお戻りになられないのですか!』

「君は…?」

『街の魔物騒ぎが終わり次第、そちらに向かいますと、手紙を寄越してくださいましたよね!』


「ぅぇえええーーん!!」


女の隣から、怒鳴り声で赤ん坊が泣きだした。フェクトとミランダは目を合わせ、一抹の不安が頭をよぎる。


「まさか…」

「ちょっとストップだ!話をしよう!シトリン来てくれ!」


結婚式は一時中断となり、女と共に2人は別室で話し合う。


『『隠し子ぉ!?』』


2人は驚いて身を乗り出す。女は泣く子供を抱いてあやした。

「私、ミレナ・ストルムと申しますわ。アナトリー様、その驚き方、どういうことですの?」


「聴いてねえぞ…!」「あぁんのクっっっソ野郎ぉぉぉ…!」

今までにない試練の訪れだ。

フェクト達は頭を抱え、今後をどうすべきか思い悩んだ。


ミレナには事情を説明して、今のアナトリーが大賢者フェクトだということを伝える。


「…にわかには信じられませんが…」

彼の手から出て来る火炎と土魔法は間違いなく、両属性が使える賢者のもの。

アナトリーは、通常の騎士の家系だ。

普通の神官、僧侶やシスターと同じ様に、土と風と光の魔法のみしか扱えないはずである。


「どうするよフェクト…」

相手の子は3歳の女の子。ミランダの子供より3歳上で、アナトリーがルメリア側に国境を渡るよりも前にこさえた子であることは間違いない。

「…とにかくだ、養う事は出来る。君達の身元は保証する。そこは安心して欲しい。」


問題は相続だ。騎士貴族の世継ぎの問題は、兄弟ですら揉めるのに隠し子ともなると余計に拗れる。


考え込んでしばらく沈黙していると、誰かが走って来る音がする。


「先生、大変です!」


フェイルが慌てて控室にやってきて、また1人の女を連れて来た。


褐色肌の女も子供を抱えている。彼女の身なりは、余り裕福ではなさそうだった。


「リフト下で立ち呆けていたので、事情を尋ねたのですが…」

「…まさか。」

物憂げな顔をしながらも、小さくお辞儀をする。子供は2歳の男の子だ。

「リュドミラという、ルメリア王都の娼婦らしいですが…。」


娼館で働く彼女は、脱走を企てた時にアナトリーに助けられ、一晩の関係に陥ったそうだ。

彼には路銀など融通してくれた恩があり、いずれは小間使いの侍女として召し抱えると約束までしていたらしい。


「…。」


ゴンとテーブルに鈍い音を立てて、フェクトは白目を剥いたまま、頭から倒れた。


「先生ぇー!!」「フェクト!気持ちはわかっけど!しっかりしろ!」


倒れた彼の体を揺すって呼びかける。


「ぶわーっはっはっは!美人妻に囲まれて幸せだなぁ鎧の!」


半開きのドアが開いて、ハーピー姿のラケルが体を隠そうともせず、彼を指さして大笑いする。

「やめなってラケルさん!流石に気の毒だよ!」

シトリンに引っ張られて彼女の笑い声が遠のいていく。

「ひーっひっひ!災難だったなミランダ!あーっはっはっは…!」


ミランダも、花嫁姿のまま途方に暮れて表情が死んでしまった。


「…マジでどーすんだよコレ…」



結婚式は、大騒ぎのままキャンセルされた。


控室には、招待されたエリスやディミトリ、カイルとフェイル。続々と騎士貴族階級が集まってくる。


「誰ともヤってないのに妻と子供が3人出来た…。」


フェクトは明後日の方を向いて、口を開けたまま項垂れて動かない。

男衆は、幾多もの思いを込めた彼の一言に苦笑いする。


ミレナは元々マルドーネ側の領地を持った武家の出の娘。

アナトリーの家族が謀反で処刑された後、彼の行きつく先となる家のはずだった。

許嫁の扱いだったのは、既に子供が出来ているぐらいに良好な関係だったからだろう。


大ダンジョンを踏破して、アナトリーが爵位を持って、ルメリア側に領地を持ち彼女を放置するのは、マルドーネとの外交問題になりかねない。


ミランダの子供よりも年上の子供がいることからも、結婚すべきは彼女になる。


しかし、大ダンジョンの踏破者でもあるフェクトはミランダを守る為に生まれた存在だ。

ヴィシュテの戦いで見せた手腕は、今後もエリス達には不可欠のもの。

マルドーネに召し抱えられると、北へ行き国境から余計に離れることになり、簡単にはいかない問題だ。


シトリンは滝の様な冷や汗をかいて、目を逸らしていた。


「シトリン。だからアナトリーを生き返らせるべきだったんだ。」

フェクトの言葉に、素直に彼女は頭を下げた。

「ごめんなさい。でも、言い訳させて?」

「…言ってみな。」

溜息交じりに俯くミランダが言う。


「アナトリーがここまで不貞な人だとは思わなかったんだもん…騎士って、高潔な人じゃないの?」


歯切れは悪いが、率直な意見だ。

彼と寝た3人は全員頷く。

「そうなんだよね…」「全面的に同意します…。」「うん…。」


「それに、どっちにしても今この状況になってたよね?フェクトじゃなかったら落ち着いていられないと思うけど…。」

アナトリー本人だった場合、ミランダが黙っていないだろう。拳が血まみれになっていた可能性も十分あり得る。


黙っていると、沈黙を切り裂いたのはフェイルだ。

「不躾な物言いですが…先生の英才教育を受けた子供が3人は、アドの方が多いのでは?」

彼の物言いは失礼極まりないものであるが、空いている領地も多く将来的に見れば同意できる

「正直、治めて貰いたい領地なら、いくらでもあるのです。公妾こうしょうとして認めることはやぶさかではありません。」

エリスは言うが、フェクトはかぶりを振るう。

「家柄回りの問題は、そう簡単なものではない。敵の国境沿いの土地を与えられて喜べる狂戦士ばかりじゃないんだぞ。」

「…伯爵の私がしてあげられることは、あなた方に領地を授けてあげるぐらいです。ご理解ください。」


外交問題が大きくなる前に、マルドーネとの協議は急務になる。ミレナ側の要求とどこまですり合わせられるかが争点だ。


「私は…養って貰えれば構わない。平民だから…。彼が死んだのは…凄く悲しいけど…。」

リュドミラは俯いて言う。

「問題は、フェクトがウチの男ってこったよ。自慢でも何でもなく、魔物として生まれた宿命だからね。この大聖堂からはそう長く離れらんないのさ。」


穏便に解決する道は少ない。そのうちの1つは、ミレナが黙ってルメリア側に嫁入りすることだ。

マルドーネ側との外交の接点になるメリットもあるが、実家を放り出すことにもなる。


「ミレナさん、申し訳ないのですが、貴方の賢明な判断を仰ぐ次第でございます。」


エリスの発言は、彼女に対して妥協しろと高圧的に言っている。無礼ではあるが穏便に終わらせるならば順当なものだ。

「…確かに、アナトリー様は出世の為に大ダンジョンに挑みましたわ。子爵となった踏破者のアナトリーに召し抱えられる。字面だけで言えば、これが一番自然でございますわね…。」

「そうなる…。」

「…今はそれで乗りましょう。経緯はどうであれ、噂に名高い大賢者様を近くで見る機会、中々ありませんもの。悪くありませんわ。」


一同はホッとすると同時に、ミレナの度量の大きさに驚く。

ただ提案を受け入れるのではなく、自分で見定めるという強い主体性を残した発言。気に入らなければいつでも離反してやるぞ、という意思表示。


(ウチもこういうのを見習わなくっちゃね。)

ミランダは彼女を気に入った目で見る。互いに不敵な笑みを見せあった。


背もたれによりかかって天を仰いでしなびていた彼が姿勢を正す。


「流石は騎士の娘だ。その心意気。今、俺の手元に欲しくなったぞ…!」


放心状態だったフェクトは、意気を取り戻した。

これほど太い度量を持った人物、男性でも中々いない。辺境の領主でも十分にやっていけるだろう。

政治事情を持ち帰るかもしれない警戒すべき相手でもある。


この地を脅かそうというのなら、容赦はしない。彼の目はそう物語っていた。


(これよこれ。先生はそうでなくては。)

フェイルも笑みが零れる。座談の場ですら一辺の隙もない迫力は、かつて先頭で魔物を屠り続けて来た大賢者のものだ。


「あら…。大賢者様は存外、熱い人なのですわね。」

目を合わせると彼が急激に遠のいて、自分が小さく見えてくる。その気迫にミレナは笑顔の裏で戦慄した。


「ステパン大公に手紙を送ろう。君をこちらで預かることにする。子供が二本足で歩けるぐらいはこちらに居てもいいだろう。」



フェクトは、かつてチーリアで密会したステパンに、アナトリーの名義で手紙を送った。

追伸で、こう綴る。


『チーリアで失神させた帝国海軍のお方は、今はどうなったのでしょうか。』と。


フェクトの存命を知った彼は、アナトリーの婿入りではなくミレナのルメリア側への嫁入りに承諾する。



冒険街ドイネルは、敵に回して利がある相手では断じてない。





それから何か月かした頃だ。


冒険者達はダンジョンへと続き、とうとう地表の最上層エリアに辿り着いたパーティがひとつ。

リーダーは両手に盾と重鎧に身を包んだ、堅牢の象徴の様な男。


「すげぇ…!目が眩みそうだ…!」


目前にあるのは大聖堂の巨大な礼拝堂以外にも、全てが黄金色の黄結晶で出来た小さな街。



―――聖堂街シトリン―――



11層以降の地表エリアは、かつての大ダンジョンの最深部、ジオード大晶洞に相当する場所だ。


だが、見上げる礼拝堂までは遠く、続く道は蛇行した様な通路に、要所要所に建物があった。

まるで城塞の迎撃場所。


そして地表へ上がってみれば、襲い掛かって来るのは大量のアゾフカ達。

「こいつらか、アゾフカってのは!やるぞ!」


彼らは大量に襲い掛かるアゾフカと戦い、激闘の末に12層に辿り着く。


ドアを開けると、そこにはシトリンが待っていた。


「はぁ~い!12層到達おめでとー!」

全員身構えるが、シトリンは先頭の男を見て驚いた。


「あれ?両手盾?もしかして、サクソン?」

彼は盾を下して対話に応じる。

「そうだ。元気そうだねシトリン。」

「えー!びっくり!腕治って復帰できたんだ!よかったぁ!」

「同じパーティーだったのに、同期達には随分差をつけられちゃったな。」

「まぁまぁ。でもアゾフカ達を退けたんでしょ?十分強くなってるよ~。」

シトリンの発言の裏には、余裕が見受けられる。パーティーメンバー達はむっとして身構えた。


「ふふ…それじゃあ説明するね。この12層からの偶数階には、中ボスが待ち構えてるよ。私が居る層は…残念だけど秘密!中ボスエリアがいくつ合って、何が出て来るかはお楽しみで!」

「君が用意した試験ってことか。」

「そゆこと。中ボス戦にはルールの緩和があります!戦闘中、やられた人は一時的に頭上に見える鳥籠の牢に転移されます!」


全員上を見て、確認するとすぐにシトリンの方へ向き直して身構えた。

「なるほど。全滅がやり直しの条件なわけか。」

「ご名答!けど、奇数階の道中に関しては、これまで通り仲間が1人でも欠けたら即入り口に戻されるからね!」

「やれやれ…無理難題でふるいに掛けられてる気分だ。」


彼女は不敵な笑みを浮かべて答える。

「言っとくけど、ここで脱落者が出てる様じゃ私には勝てないよ~?じゃ、準備はいい!?」


シトリンが手を叩くと、魔物達が召喚される。複数体。それも人型だ。


『試練に立ち向かう者よ。』『力を示せ。』


見覚えのある姿に、冒険者達は狼狽える。

「おいおいおい…嘘だろ…!」


「ここからが本番だよ!頑張ってね!」



冒険者ギルドの酒場は、始めて12層に到達したサクソン達に話題が持ち切りだ。


しかし、当の彼らは机に突っ伏して表情が死んでいる。


「なぁ最上層はどうだったんだ!」

「敵はやっぱりアゾフカか!中ボスエリアは何が出たんだよ!」


「12層に出て来たのは…」

「出て来たのは…?!」


「ドイネル様のエインヘリヤルだ。しかも護衛の銃士隊もセットで…」


しばらく沈黙した後に、ギルド酒場は騒然とする。


「あんなのどうしろってんだよ~!魔法も効かねえのに一方的に銃も魔法も撃って来やがるしよ~!」

「それよりも強いテストが、あと何個もあるんでしょ?こんなの無理に決まってんじゃん…」

サクソン達は悔しがってテーブルに再び突っ伏した。




12層の中ボスの噂は、フェクトの耳にまで届いた。


「…銃士隊もセットってのが妙だな。」

「使ってた銃は散弾銃らしいね。」

フェクトとミランダは顔を合わせる。

「ミレナとリュドミラを呼べ。子供たちも連れてくぞ。」

「あんの野郎…!」



~ところ変わって、12層。最初の試練の間。~



パンパンとシトリンが手を叩く。


『試練に立ち向かう者よ。』


前に冒険者達がおらず、召喚された彼らは後ろを振り返った。


「よぉアナトリー。」


『…。』


フェクトとミランダはフル装備で、シトリンに連れられて裏口側から12層の試練の間に入っていた。


ミレナとリュドミラは子供を抱えて、シトリンもミランダの子供のクレアを抱っこして、彼を見ていた。

「ぱーぱ!ぱーぱ!」

「そうよ。あれがパパ。よくわかったね~。」

ミレナの子供が、エインヘリヤル姿のアナトリーに手を差し伸べる。


『……力を示せ。』


武器を構えたエインヘリヤルは、ドイネルの鎧にインフェクテッドアーマーの剣。この構築は間違いなくアナトリーのものだ。


「テメーこの野郎!魔物の振りしてシラ切る気か!」

「…俺も今回ばっかりは頭に来たぞ…!」

2人は青筋を立てて武器を抜く。

フェクトは装備を衛兵の軽装に改め、ライフル銃に氷属性の銃剣と、インフェクテッドアーマーの剣。

ミランダは、彼女の名を冠する短剣と魔鞭に拳銃の、現役時代の構成だ。


『待って、シトリンちゃん。話が違う。大賢者とミランダは挑めないんじゃなかったのか。』

「挑めないとは言ったけど、来賓としてしょっちゅう呼んでるよ?どんな魔物素材が欲しいかとか、新しい料理の共有とか。」

『え…』

「食べ物はフェクト達に依存してるからさ。修道院とかでも責任者は外部とやり取りするのが当然でしょ~?」

シトリンに至極当然なことを言われて、アナトリーは固まってしまう。

「だからやめといた方がいいんじゃないって言ったんだよ。」


サラ達は子供とミレナとリュドミラを見て首を傾げた。

『そっちの2人とお子さんは?』

「こっちの縦ロールのミレナはマルドーネに残して来た許嫁の騎士の娘。褐色肌の方のリュドミラはルメリア王都の娼婦。どっちも隠し子だ。そこのクソバカの。」


フェクトがアナトリーを指さすと、サラ達は波が引く様に遠ざかって武器を下す。


『婚約者いながらミランダとヤって、妊娠も知ってて討伐優先してたの?お前…』

マリウスは信じられないという顔で彼を見つめた。

『いや、ミランダに関しては、誘われちまったから仕方なく…不可抗力だ。』


仲間達に必死に弁明するが、サラは汚物を見る様な目で後ずさる。


『それはそれとしても、大賢者に3人も托卵する度胸はスゲーよ。』

ヒューゴも呆れて腕を組む。

『え、ちょっと待って…。何で皆離れるの…』


2人は手や首の関節を鳴らしながら前に出た。


「オメーさっき力示せっつったよなぁ?」

激怒しているフェクトがライフルのボルトをコッキングして装填する。


「やっちゃってください!大賢者様、ミランダ奥様!」

「浮気者!」


ミレナが後ろから叫び、物静かなリュドミラも珍しく大声を出す。

「あぁ任せな!」

ミランダは拳銃の安全装置を解除して撃鉄を起こした。


『みんな、来るぞ!』

アナトリーは構えたが、仲間達は気だるそうにそっぽを向く。


『ベストコンディションの大賢者とミランダだぞ。無理に決まってるだろ。』

『俺達関係ないし。どう考えても10:0でお前が悪いだろ。』

『不潔!』

仲間達に見捨てられ、アナトリーは焦った。

『そうは言ったって、仕方ねえだろ!討伐隊に選ばれたんだから!選んだのだってフェクトじゃないか!俺にも元の家族の矜持ってものがあって…』


「死んじまったことは水に流してやれるよ!緊急事態じゃ、そりゃ仕方ねえさ!」

「俺らが怒ってんのは、手紙のひとつも寄越さねーことだ!シトリンに代筆させるとか、やりよういくらでもあんだろうが!それもせず守護神ごっこにかまけやがって!!」


フェクトの言葉に、アナトリーの仲間達も深く頷いた。


激怒する2人はとても説得が無理そうだとアナトリーはシトリンに目を向ける。


『し、シトリンちゃん、なんとか言ってくれ!』


彼女は少し考えてから答えた。


「え~っとね。殺傷武器リーサルのフェクトとやれる機会なんて、私でもまずないからさ。貴重な機会だと思って頑張って!」

励まされる様に梯子を外されてアナトリーは焦る。

『じゃあ、シトリンちゃん、一緒にどうだ!貴重な機会なんだろ!流石に俺1人は戦いになんないから!』


「加わってもいいが、巨大カツサンドとホタテ塩ラーメンの話は抜きだぞ。」


数秒天秤にかけて考え込んだが、シトリンのお腹が鳴る。


「…そういうわけだから!じゃ!」


食べ物に買収されたシトリンは、彼を見捨てた。

「はーい。ボウヤ達はこっちね~。」

子連れは手を振って、試練の間の外に出る。

『俺達も退散だ。』

『ラケルさんのとこの足湯行こうぜ。』

彼の仲間達も続々と出て行った。


『ちょ、ちょっと待ってください!ま、待って!助けて!』


「アナトリー。」

『はい!』

「終わったら子供は抱かせてやる。」

『お、お手柔らかに―――』


フェクトはベアリングを出して、電撃を纏う。ミランダは剣に宝玉砂を纏わせて、雷と風を纏った


ギガディスクと載雷裂空刃。最強の複合魔技が同時に2つ。


「全力で行くぞ…!!!」

「5回はぶっ殺してやる!覚悟しな!」


『うぉぁぁぁぁぁーーーーーー!!!』


彼の断末魔が響き渡る。



ボコボコにぶちのめされ、顔が細くなったアナトリーは子供を抱かせて貰い、妻たちと談笑する。


最低で無責任な別れ方をした彼だが、恋した人は中々忘れられないものだ。

冒険者として、騎士として、困っている人を見過ごせない。アナトリーの人望は確かなもの。


フェクトは、男女の仲に水を差すまいと、試練の間から出ていく。


大聖堂の凄まじい景色に見惚れて、崖から街を見下ろしていると、後ろから近づいてくる足音がひとつ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
KBF!KBF!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ