狩人と竜と狐
狩人さんの続編
溜まり場と化した小屋には、今日も誰かがやってくる。
一人の竜がもたらした人間の狩人との繋がりは、存外にも早く竜たちに浸透していった。しかし、彼らは決して他のものに悟られることのないように振舞った。
人とは強欲だ。力のあるものを利用することを厭わない。
その為ならば周囲の人間、たった一人の『狩人』を利用することなど容易いだろう。
だから、彼らは『そこに居て』『そこにいない』ものであるために姿を変え痕跡を消してやってきた。
□□□
「(今日はなにも捕れなかった)」
弓を片手に狩人は重い足取りで小屋に戻っていく。雪が益々酷くなるので、余り遠出できないことが日々の成果に現れていた。
そんな狩人は、今日の食事をなににするかと考えながら見えて来た小屋に一安心した。
「(この前の干し肉をスープにしよう。水は汲んであったから、それと保存してある山菜を入れればいい)」
少しでも暖を取るために暖かいものを、と考えながら小屋の戸を開けた。そこで
「お邪魔していますぅ」
「お!きたきた!」
「先に一杯やってるよぉ?」
目に飛び込んできた白赤金にソッとドアを閉めた。
「なんで閉める?」
「連日のごとく来られれば現実逃避もしたくなる」
赤毛の火竜に答えながら溜息を吐く。しかし、己の城ともいえる小屋に入ると、薪も使わずに萌える囲炉裏の周辺には枝に刺さった魚が焼かれている。
「今日は坊主か?」
「ぼう…なんだと?」
「ぼ・う・ず
収穫なしって意味だ。可笑しいな。通じない…海辺の方言だったか?」
「というより」
「ん?」
「何故竜族以外がいる」
疲れたように聞けば金髪は面白そうに目を細めて氷竜を見た。
「見たみた?この人間、俺が竜じゃないってわかったよ?」
「ケリー様はぁ目立つ方ですからぁ」
氷竜が目を細めながら、囲炉裏にかけていた鍋の蓋を取る。それを狩人が覗き込むと、中身は魚の身ときのこをたっぷりと入れたスープだった。
己の作ろうとしていた干し肉のスープに比べればどれだけ上等なのだろう。と考えていると、いつの間にか数の増えた器によそわれて差し出された。
「どうぞぉ」
「いいのか?」
「はい。この地域にはない食材ですからぁ、食べきってもらったほうがうれしいですぅ」
この地域にないはずのもの。下手に残せば人外の関与を疑われるものと暗に言われて狩人は座り込むと器を受け取った。
それに安心したように氷竜が他の面子に声をかける。
「ではぁ私は温泉にいってきますぅ」
「おう」
「ゆっくり温まっておいで」
大きな布を片手に嬉しそうに小屋を出て行く姿を見ながら狩人はスープに口をつける。
熱い汁が染み渡るように流れ込むと、いかに身体が冷えていたのかがわかった。
「っ…うまい」
「個人的にはコレに味噌を入れたいな。今度持ってくるか」
「みそ?」
「俺の国の調味料
これに入れたら最高に美味い。けど、輸入品でも高級品になるから、持ち込んだらさっさと使い切らないと」
高級輸入品の『みそ』といわれて狩人が首を傾げる中で、火竜が鍋の中身に手を出しながら言う。
「オイオイ、ありゃ大陸からして違うから流石に誤魔化しきれない。諦めろ」
「仕方がない」
「…1ついいか?」
「なんだ?」
金髪の男が狩人を見て面白そうに目を細める。その様子は親しげだが、腹の中ではナニを考えているか解らない。
下手な怒りを買えば厄介ごとの種にして嘲笑いそうな。そんな感じだった。
「そちらは、『何』だ?」
器を置いて礼儀正しく向かい合いながら聞かれて男は目を細めた。
「いいなぁいいなぁ、そうやって真っ直ぐ見てくれる男は嫌いじゃない」
クツクツ笑いながら男は改めて向かい合うと、髪と同じ金色の目で真っ直ぐに見つめながら答えた。
「俺は東の島国からきた狐の一族だ。そうだな。有名な通り名で言うなら『九尾』ともいう」
名前は名乗らなかった。代わりに教えられた通り名に狩人は驚愕した。いや、寧ろ冷や汗が流れた。
「九尾って」
昔、ある大国の王が一人の側妃に入れ込んだ挙句に国を滅ぼしたことがあったらしい。
その原因の側妃じゃないかといわれているのが『九尾の狐』
獣型の中でも最上級に位置する人外だといわれて目が泳ぐ。
「まぁそう驚かないでくださいな」
目を逸らした瞬間に聞こえた甘い女の声に目を向けると、そこには男ではなく。絶世ともいえる美女があられもないような姿で居た。
「っ!」
「この姿はお嫌い?」
聞きながらしなだれかかろうとする九尾に狩人が息を呑む。瞬間にドアが開きながら声が聞こえる。
「なにを、なさっているんですかぁ?」
氷のように冷たくなる室内に九尾がむくれる。
「もう、折角楽しもうと思ったのに」
「九尾様ぁ
おふざけがすぎますよぉ?」
きつめの美女とおっとり可愛い系の2人に挟まれた狩人が冷や汗を流す中で、火竜が言う。
「そのくらいにしとけ」
「えー…仕方がないなぁ」
つまらない!というように姿を元の男に戻しながら九尾が立ち上がる。
「折角遊ぼうと思ったのに」
「九尾様?」
「わかってるって、解ってるから怒らないでよ。鱗出てる鱗」
パキパキと音を立てて本性を出そうとしている氷竜に九尾も諦めたように肩をすくめていう。
「はいはい。ここの人間には手を出さない。わかってるって」
降参したように手を上げて彼は笑う。
途端に氷竜が深呼吸をすると、凍りかけた室内が元に戻る。それに狩人は安心したように溜息を吐いたのだった。
すぐに先程までの穏やかな空気が戻ると、九尾と火竜の持ち込んだ酒が出てくる。その味に舌鼓を打ちながら狩人は、誰かの居る生活に笑みをこぼしたのだった。
九尾さんが何故傾国の美女をしたのかは理由がありますが、その辺はまたの機会で
次は少しシリアスな話を行くか悩み中
では、また次の機会にノシ