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満面の笑みを浮かべたクロに、怪我や疲労等の様子は見られない。
流石はSランクというべきか。
あの数の屍鬼たちに囲まれて無傷なのは、素直に賞賛する。
やっぱり私とは格が違うわ。
だから、そこに問題はない。
問題があるのは、エイミィだ。
クロに頭を鷲掴みにされてる。
短い手足をジタバタさせて、逃げようともがいているのが、可愛いやら可哀想やら。
「ちょっ、離してぇぇぇぇ!助けてぇぇぇぇ!」
「転がってたのを助けてあげたじゃないか。」
「めり込んでる!めり込んでますからぁぁぁぁぁ!!」
どういうわけか、エイミィはクロに怯えていて、クロはそれを知ってるみたいな感じ。
いくら優しいエイミィとはいえ、ドラゴンに何してんのよ。
エイミィがキレて、巨大化したら瞬殺ものだよ!?
「クロ?あんたドラゴン相手に何してんの!?」
呼んだ途端、エイミィを文字通りぽいっと投げ捨てて、両手を広げたクロは、そのまま私のすぐそばまで来てぎゅっと抱きしめた。
ポイから抱きしめられるまで、わずか2秒。
あまりの素早い動きに、反応することもできなかった。
「あ~ラズだ~。ラズの匂いだ。大丈夫?怪我はない?痛いところはない?ラズが襲われた時は、心臓が止まるかと思ったよ。」
「ないから!無傷だから!とりあえず離して!」
「やだ。ラズを補充させて?」
「変態か!!エイミィヘルプ!ヘルプミー!」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられて苦しいんじやー!
力加減を考えろ!
兎に角、エイミィ助けて!
と、視線を向けた瞬間。
あんぐりと大きな口を開けたまま、固まっているエイミィがいた。
ちょ、エイミィ?
尋常じゃない様子に、心配になってしまう。
すりすりと頬を、というか、全身を私に擦り付けてくるクロはこの際放置だ。
「エイミィ、大丈夫?打ち所が悪かったの?」
絡みつく巨体を引きずって、やっとの事でエイミィの目の前に辿り着く。
「いや、あー…聞くまでもない様な気はするんだけど、その絡みついてるのって…。」
「これ?私の相棒。クロムヴェルグだよ。って、いつまで張り付いてんの!?暑苦しいんだってば!!」
おでこを私の肩にぐりぐりすんな!地味に痛い!
べしっと頭を叩いてやったら、ようやく力が緩んで、少し離れた。
ふぅ。これでやっとまともに会話ができるわ。
エイミィに向き直ると、先程の状態から脱したらしく、今度は疲れたような顔で長いため息を吐かれた。
その上、なんか憐れむ様な目で見られてませんかね?
「エイミィさん?」
「あ~。なるほどね。」
「ん?なにが?」
「とりあえず、お茶を淹れ直すわ。」
無視ですか?私さらっと無視されました?
再び例の白いテーブルセットでお茶を淹れてもらい、やっと落ち着いた。
「で、あんたたちは、何の為にわざわざこんな山まで来たのよ。」
「あ~・・・えっと・・・。」
あなたの鱗をひっぺがして持って帰るためです。
なんて言えるか!
大分エイミィに対する恐怖は薄れたとはいえ、腐ってもドラゴン。オネエでもドラゴン。
私は私の命が一番大切です!
でも、鱗を持ち帰らない限り、依頼は達成できない。
どうしたもんか。
う~んと悩んでいると、横からすっと手が伸びた。
「エドガルド、鱗ちょうだい?」
ちょ、さらっと言いやがった!まだ何の防御結界も準備してないのに!!
って、エドガルド?って誰?
ここにいるのは、私、クロ、エイミィの三人。
他に誰かいるの?
と尋ねようとしたその瞬間。
「いやぁぁぁぁ!!ヤメテェェェェ!その名前で呼ばないで!!」
と、野太い悲鳴が上がった。
「何言ってるのかな。エドガルドはエドガルドじゃないか。」
「私はエイミィよ!!そんな男臭い名前じゃないわ!」
「かっこいい名前じゃないか。エ・ド・ガ・ル・ド?」
「キィィィィ!!わざとね!わざと言ってるでしょ!!?」
ええと?つまり?エイミィの本当の名前は、エドガルドてこと?
というか、なんでクロはエイミィの本当の名前を知ってるの?
エイミィもクロを知ってたみたいだし?
説明を求む!!
「ちょっと、クロ?エイミィと知り合いだったの?」
「ああ。うん。そう。ここにいるレッドドラゴンがエドガルドだって知っていれば、もっと気楽に来れたのにね。」
いや、あんたは最初から気楽そうだったからね?
というより、こいつが緊張したり、慄いたりする姿を見たことがない。
「どこでどう知り合ったのよ。」
「ああ、エドガルドが幼生の頃、少しの間俺が育ててたんだよ。」
「ドラゴン生の汚点よぉぉぉぉぉ!!」
バンバン!とテーブルを平手で叩き、エイミィは涙目で私に詰め寄ってきた。
「まだ私が純粋無垢な幼生の頃、こいつにどんだけ酷い目に合わされたと思う!?まだ鱗も硬質化されてないくらいに、幼気なこの私を、魔獣の巣穴にぶち込みやがったのよ!?それだけじゃないわ!火属性のレッドドラゴンを湖に投げ入れて、温泉作れるか実験とかもう鬼畜の所業よ!!」
お前は一体何してんだよ。
幼児虐待は、立派な犯罪ですよ!?
ギロッとクロを睨み付けたが、どこ吹く風。
それどころか、うれしそうに笑って私の頭を撫でるなバカ!
「人の子と違って、ドラゴンの子はそうやって強くなっていくんだよ。だからエドガルドはここまで強いドラゴンになれたんじゃないか。」
「え?そういうものなの?」
「そうそう。」
「あっさり騙されてんじゃないわよ!そんなわけないでしょぉぉぉぉ!?」
「お陰で強いドラゴンに成長できたんだからいいじゃないか。」
「結果論!それ凄まじい結果論よ!?」
まぁ、なんだ。
結果的にエイミィ元気に今も生きてるし、ドラゴンだし、エイミィがクロに怯える理由もわかったから良しとしよう。
エイミィとしては全然よくないかもしれないけど、そこはホラ。当人同士の問題だから。
それよりもさ、エイミィって思ったよりもずっと若いドラゴンなのかな?
私と同じくらい?
クロが面倒見たってことは、少なくともクロの方が年上ってことだよね?
まだ20代くらいかな?
そもそも、ドラゴンってどうやって年齢を見分けるんだろ?
人間みたいに皺が刻まれたり、白髪になったりはしないだろうし。
よし。チャンスだ。聞いてみよう。
「はーい!しつもーん!」
右手を上げて、左手でテーブルをぺしぺしして、言い合う2人の注意を引く。
「エイミィがクロに育てられたって事は、エイミィってまだ若いドラゴンなの?」
「もちろん!100歳だもの。まだピチピチよ!」
ひゃく?
え?
え?
「え?クロに育てられた?100歳?」
「ええそうよ。」
こっくりと頷くエイミィが嘘を言っているようには見えない。
ってことは、よ?
ぎぎぎぎ、とクロを見上げる。
どう見ても、若作りだけど実は40歳、なギルドマスターより若そうに見えますけど?
正確な年齢聞いたことはないけど、20代後半くらいと思ってましたよ?
「クロは、何歳?」
「俺?えーと、確か200ちょいくらいだったかなぁ?」
はい?
に、にひゃく・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「はぁぁぁぁっ!?200歳!?クロが!?」
クロは私に嘘を吐いたことはない。大事なことを言わなかったことは山ほどあるけど!!
ってことは、本当に!?
「え?まさか、あんた、言ってないの!?」
私の反応に驚いたエイミィが、信じられない!とクロに詰め寄る。
クロは言ってなかったっけ?とのほほーんと笑ってるけど、確信犯だ。
わざと教えてなかったに違いない。
「200歳って、クロは人間じゃないの?」
「うん。ドラゴンだよ。」
てへっと頬を染めんな。イラッとするわ。
それにしても、よりによってドラゴンて・・・。
地上最強種族じゃないのよ。
そりゃ、Sランク当たり前だ。




