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「そんなに緊張しなくても、とって食いはしないわよ。」
震える手でティーカップをソーサーに戻す私に、レッドドランは苦笑交じりに言うけど、ここで緊張しないとか無理だから!
殺気は感じないけど、目の前のドラゴンがその気になったら、私なんかプチ!だからね?
「はいはい。あんたに危害を加えたりなんかしないから。それ飲んで、少し落ち着きなさいよ。」
「うう・・・わかってるけど、こればかっかりは・・・。」
「はぁ~、仕方がないわね。」
かなり頭上からため息が降ってきたかと思ったら、すぐにクルルルゥ~という何かを転がすような不思議な音がし始めた。
なに?と顔を上げようとした、その瞬間。
カッと赤い光が部屋を満たし、驚いて目を思わず塞いで顔をそむけてしまう。
殺気や攻撃的な魔力は感じない。
ただ、熱を持った魔力が部屋を満たして、消えた。
「ほら、これならいいでしょ?」
レッドドラゴンの声に、恐る恐る目を開けて顔を戻す。
と、そこには・・・。
「えっ・・・?」
全長30センチほどの、ミニチュアドラゴンが、テーブルの上にちんまりと鎮座してました。
くりんとしたまん丸の目。ぽっこり出たほんのり薄紅色のお腹。
ぴたんぱたんと動く短い尻尾。
どお?と首を傾げている様がもうなんとも。
たまらんですたい!!
「可愛いぃぃぃぃぃ!!」
「ふふん!でしょう?もっと愛でてもいいのよ?」
声が野太いままなのが残念だけど、もうこの際許す!
可愛い!
目の前のドラゴンの両脇を持ち上げる。
見た目と反して、ひんやりとした鱗の感触が、両手に伝わってきた。
「さて、これでまともに会話ができるわね。・・・って、あんた、聞いてる?」
可愛い。可愛い。ヤバい。これ持って帰りたい。
鱗いらない。これ持って帰りたい。
「なんか寒気がするわね。ちょっと、あんた良からぬことを考えてるでしょ?」
「いえいえ、持って帰りたいなんて考えてません。」
「考えてるのね?」
何故ばれたし。
紆余曲折あったものの、なんとかまともに会話できる状態になり、改めて自己紹介。
「ふぅん。ラズリは冒険者なのね。でもよくここまでたどり着けたわね?」
「私もそう思う。」
エイミィと名乗ったレッドドラゴンが出してくれたクッキーをかじりつつ、しみじみと頷いた。
現在進行形で、私よく生きてるよね。
あまつさえ、ドラゴンにお茶を出してもらってるんだからね。
これ、冒険者仲間たちに言っても、信じてもらえないだろうな。
「クロ・・・って、私の相棒なんだけど、彼がいなかったらここまで来れなかったと思う。」
というか、クロがあんな無茶な依頼を受けてこなかったら、ここに来る必要もなかったんだけどね!
「その相棒っていうのはどうしちゃったのよ。」
「途中で屍鬼と魔獣に襲われて、私がヘマやってはぐれた。」
「あんたどんくさそうだものねぇ。」
「・・・うう、否定できない。」
って、そうだよ。クロだよ。はぐれてしばらくたつけど、今どこにいるんだろ・・・。
今回の依頼の目的が目の前にいる以上、私は動かない方がいいのか?
けど、私一人で鱗くださいなんて交渉できるわけない。
エイミィは確かに理知的で、むやみやたらに襲ってはこないけど、傷つけられるとわかったら、絶対怒るよ。
ダメならダメって言ってくれればいいけどさ。問答無用でぷちっ!とかなったら、瞬殺だよ瞬殺!
クロがここに来てくれるまで、大人しく待ってた方が無難だよね?
でも、今日中に合流できればいいけど、万一会えなかったらどうしよう。
一日ここで待たせてもらって、クロと合流できなかったら、探しに行ってみた方がいいかな?
ティーカップを持ったまま、これからどうしようかと考えていると、またクルルゥゥ~っと可愛らしい声が、エイミィの喉から発せられた。
もしかして、これってドラゴンの鳴き声?
ぽかんとしている間に、私とエイミィの前に、赤い優雅な姿をした蝶が現れる。
魔力で造られているらしく、淡い光を纏う蝶に、思わず見惚れてしまった。
「この子を飛ばして、ここまで道案内してあげるわよ。で、あんたの相棒の特徴は?」
「本当!?ありがとう!えっと、黒い髪で金色の目で、背は高い男だよ。」
「・・・え?黒髪に金色の目?」
クロを思い浮かべながら話すと、エイミィがびしっと音を立てて固まった。
蝶も羽ばたくのをやめて、私たちの間に墜落している。
「エイミィ?どうしたの?」
「・・・いや、いやいやいやいや、それはないだろ。うん。ねぇよ。ねぇわ。でも、金の目とかありえねえわよ。」
ぶつぶつと独り言を言い出したけど、完全に男の口調になってる。
いや、最後は混じってるわ。
暫く云々唸った後、恐る恐るといった動きで私を見るエイミィ。
ドラゴンにそんな態度取られるって、どういうことよこれ。
「念の為に聞くけど、そのクロって愛称?本当の名前?」
「愛称だよ。本当の名前は、クロムヴェルグだよ。って、大丈夫!?」
クロの名前を教えた途端、エイミィがテーブルから転げ落ちた。
そのまま転がって、転がって転がって・・・って、そっちは出口!?
「あ~、私暫く戻らない旅にでるから、迎えが来るまでここに好きなだけ居ていいわよ!というか、あの魔王をずっとここに足止めしておいてくれるかしら!?」
「え?ちょっと!どこに行くの!?っていうか魔王って誰のこと!?」
慌てて引き留めようと、手を伸ばした瞬間。
「ん~どこに行くのかなぁ?」
のんびりした声がして、エイミィの体が文字通り固まった。




