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目の前には私の数十倍はあろうかと思われる、巨大なレッドドラゴン。
見るからに咬まれたらミンチ確定っぽい、とっても素敵な牙の覗く口からは、時折炎がシュコーッと噴出している。
あはは~目の前に本物のドラゴンですよ~。
現実逃避をする私を余所に、レッドドラゴンはびったんばったんと尻尾を右へ左へ。
尻尾が動くたびに、地面がえぐれてるのは、目の錯覚ではないだろう。
あれに当たったら、確実に私吹っ飛ぶな・・・。
やがて、紅玉の様な爬虫類特有の目をくりんとさせて、尚且つ小首をかしげて、目の前のレッドドラゴンは人間サイズの(ドラゴンにとっては豆粒のような)ティーカップを私に差し出した。
「はい。熱いから気をつけなさいよ?」
鋭い牙が覗く大きな口から、重低音のとってもダンディーな声。
ただし、オネエ言葉。
この違和感どうしたものか・・・。
勧められた白いテーブルセット(乙女仕様)に座り、盛大に顔をひくつかせながら、ありがとうございます
とティーカップを受け取った。
普通に美味しいんだけど、この状況生きた心地がしないんだよぉぉぉぉ!!
そもそも、なんでこんな状況になったのか。
事の始まりは、ドラゴンの棲家を捜索し始めて2日目。
ポコポコ湧いて出てくる魔物を蹴散らしつつ、ようやくレッドドラゴンの棲家らしき洞窟を発見。
洞窟の奥から吹いてくる風は、どこか澱んでいて嫌な予感がした。
「な~んか澱んでる風が吹いてくるね。」
「魔物が住み着いてるんじゃないかな。」
「えぇ!?ここにもいるの!?ドラゴンがすぐ近くにいるっていうのに!?」
「こういう所が好きな魔物って結構いるからね。」
確かに、暗くてじめっとしてて、それなりに獲物には困らない、こういうダンジョン的な洞窟には魔物が住み着いている事が多い。
ということは、まだまだドラゴンまでの道のりは、長く面倒くさいらしい。
は~がっくり。
入口でうだうだしてても仕方がないと、魔術で光の球を作り、頭上に浮かせて歩くことしばし、嫌な予感は的中して、十数匹の屍鬼と遭遇した。
「ラズ、援護よろしく。」
「了解。」
余裕綽々といった感じで、引き抜かれたクロの大剣の刀身は黒い。
そして、呆れるほどに重い。
一度試しに構えてみたことがあるんだけど、持ち上がらなかった。
あんなのを片手で構えるクロの腕力って、どうなってんだか。
キィキィと耳障りな声を上げて、一斉に襲い掛かってくる屍鬼。
右手でささっと空中に魔術発動の為の印を描き、魔力を乗せてふっと息を吹きかける。
握りこぶし大の小さな球だった光が、瞬時に大きくなり、眩しいくらい皓々と洞窟内を照らした。
「ギィィィィッ!!」
暗い所が大好きな屍鬼は、その眩しさに目を押さえて悲鳴を上げる。
その隙にクロが次々と屍鬼を切り倒していった。
私が下手に手を出すと、クロの邪魔になることは、身に染みてよくわかってるので、あえて見守る方向で。
押し付けてるわけじゃないよ?
適材適所ってやつですよ?
なんてのんびりと構えていたら、クロがハッとこちらを振り向き、目を見開いた。
「ラズ!後ろ!!」
鋭いクロの声に視線を向ければ、臭いにつられて集まってきたのか、涎をダラダラ垂らしてこちら目掛けて突っ込んでくる十数匹の魔獣の姿。
その距離僅か数十メートル。
魔術を展開する時間はない。
かといって、私の剣であの巨大な魔獣と戦うって、かなり無理がありませんかねぇぇぇぇ!?
「ぎゃぁぁぁ!!」
「ラズ!!」
あ・・・だめだこりゃ。
珍しくも切羽詰ったクロの悲鳴染みた叫びと、あっという間に目の前まで迫ってきた魔獣が、くわりと口を開けて私に噛みつこうと飛び掛かってくるのを、どこか他人事のように見つめるしかできない。
痛みを覚悟して、ぎゅっと目を瞑ったその瞬間。
ドン!!
焼けつくような痛みではなく、何かに吹っ飛ばされたような衝撃を受けたのを最後に、意識がそのままブラックアウトした。
意識を取り戻した時には、すでに周囲は真っ暗。
急いで灯りをつけて周囲を見回したけど、クロの姿も、魔獣の姿も、それどころか戦闘の痕跡も見当たらなかった。
「・・・ってことは、私が吹っ飛ばされた・・・という線が濃厚かしら?」
魔獣に噛みつかれた傷も、何かに打ち付けたような痛みもない。
あの瞬間に、咄嗟に防御魔法でも使ったのかもしれない。
それでそのまま吹き飛ばされた・・・というのが正解か?
物理的に吹っ飛ばされたというよりも、移転魔法が働いたってのが正しい気がする。
「何はともあれ、兎にも角にもクロと合流しないと。」
クロとはぐれてしまったのは、実はこれが初めて・・・ではない。
というか、よくある。
冒険者を始めてすぐの頃はよく迷子になった。
だ、だって、魔物と戦ってて、クロがどこに行っちゃったかなんて、把握できるわけないじゃん!?
気が付いたら一人森の中とか、笑えない状態になったこともあるけど、まぁ今まで何とかなったんだから、今回も何とかなるでしょ。
たった一匹のドラゴンにさえ遭遇しなければね!
な~んて思ったのがフラグだったのか。
特に魔物に遭遇することもなく、ふらふらと洞窟内を彷徨っていると、急に広い空間にでた。
その時点で警戒していればよかったのに、せまっ苦しい空間から解放された喜びで、ここがどこなのかを、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「あらん?ずいぶんとちまいのが紛れ込んだわね?」
ずいっと目の前にドラゴンの顔が現れて、気絶しなかった私を誰か褒めてほしい。




