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Bon voyage!  作者: 雛樹
第一章 レッドドラゴンの鱗一枚、持ち帰りでお願いします
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 翌日、王都から出る定期馬車に乗って、揺れること2日。そこから徒歩で半日。

ようやくレッドドラゴンの棲む山の麓までたどり着いた。


見上げる山はそれなりに高くでかい。

この山のどこかにレッドドラゴンが居るんだろうけど・・・・。

定期馬車の発着所を出たのが昼過ぎだった為に、空はすでに茜色に染まっている。

今日はここで野宿をすることにして、クロと私はそれぞれの役割を果たすために動き出した。



 火を熾す為に必要な枝を集め、それから魔獣除けの結界を火を中心に張る。

その間に、クロは夕食の材料獲り。今夜はウサギを二羽ゲット。


お互い慣れたもので、周囲が闇に染まる頃には、夕食の準備が完了した。



焚火を前に、二人並んで肉にかぶりつく。

じゅわりと染み出る肉汁と、程よい塩コショウの味付けがおいしい。

おいしいんだけど・・・。


「これが最後の晩餐とかにならないといいなぁ・・・。」

「またそんなこと言ってるの?心配しすぎだよ。ほら、これもおいしいよ?あ~んして?」


いつもとまったく変わらない様子のクロが、赤い木苺を差し出すのを、むっすりと食べる。

あ、甘酸っぱくておいしい。


「・・・じゃなくて!ドラゴンと会うのを前にして、そんな暢気になんか構えてられないってーの!」

「だから、俺とラズならなんの心配もいらないってば。はい、もう一つあーん。」

「何を根拠に言ってんのよ?」


クロは確かにSランクだけど、ドラゴン相手となれば話は別だ。

なにか秘策でもあるの?

そうでなかったら、瞬殺ものだよ!?


口に放り込まれる木苺を、もっきゅもっきゅと食べながら睨み上げる私に、仕方がないなぁと苦笑すると、クロはそもそもドラゴンていうのはね?と語り出した。


「何かちょっかいを出されない限りは、攻撃的なことはしてこないよ。」

「そうなの?目があった瞬間にブレスとか飛んできそうな感じだけど。もしくは、ぷちっと潰されそう。」


そう言うと、心底呆れたような顔をされた。

大げさなくらいでっかいため息まで吐かれたし!


「ドラゴンは魔獣じゃない。知性ある生き物だ。もしも、意味もなく、年中大暴れするような生き物だったら、この世界はもっと滅茶苦茶になってるよ。」


そう言われてみれば、確かにそうかも。

こんな王都の近くにいるのに、ドラゴンに襲撃されたなんて話は聞かない。

他にも、ドラゴンの棲家に行くというのは聞いても、逆にドラゴンが街に来たってのは聞かないなぁ。


「ここのドラゴンも、ちゃんと事情を話せば、鱗の一枚や二枚や三枚、あっさりくれると思うよ?」

「そうだったらいいけどね~。」


ドラゴンの鱗は魔力を帯びていて、たった一枚でもそこいらの魔具を軽く超越する魔力をもっている。

その鱗を持っているだけでも、かなりの魔獣除けの効果があるし、魔術の媒体とすれば通常の数倍の効果を発揮するだろう。


欲しいからって言って、そうほいほいくれるとは思えない。

そんな簡単にくれてたら、商人あたりが大挙して押しかけて、ドラゴンがハゲるまで毟り取りそうだよ。


「案ずるより産むが易いってね。大丈夫。俺がいるんだから。」


頭をぐりぐりと撫でられ、むぅと唸る。

何だかんだ言って、クロが大丈夫だといって、ダメだったことはない。

いざとなったら、クロを盾にして逃げればいいか・・・。


「ラズ、今良からぬことを考えてる?」

「そんなことないですよ~。」



チッ勘のいい奴め。















 お腹もいっぱいになったところで、あとは寝るだけ。

この稼業、寝れる時に寝て体力を蓄えないと、いざという時に動けなくなったら死に直結するからね。

クロの結界があるおかげで、寝ず番はしなくても大丈夫。


焚火も魔術で一晩持つようにしたし、あとは毛布に包まって横になるだけ。

同じように毛布を取り出し、体に巻き付けるクロの隣に寝転がると、木々の間から皓々と輝く月が見えた。

明日も天気は良さそうだ。


すぐ背後にクロが横たわり、抱き枕のように抱え込まれる。

10歳からこうして野宿の時は寝ていた為、今更どうこう言うつもりはない。

暖かいし、地面に寝転がるより寝やすいし。



「そういえば、なんでこんな依頼受けてきたのよ。同じSランクの仕事にしたって、もっと難易度低いのがあったでしょう?」



こんな高難度な依頼、ギルドでも今一番の強者と名高い、グレン・フォーマスに依頼されるもんじゃないの?

クロは確かにSランクの冒険者だけど、Bランクの私とコンビを組んでいる現在、あってもAランクの簡単な依頼くらいしか受けたことがない。

それでも、何度も死にそうなほど恐ろしい目にあってきた。

今回はその上のSランクだ。普通ならあり得ない。


「あ~・・・ディルクがどうしても俺に頼みたいっていうもんだからさ。」


ディルクというのは、私の養父ギルドマスターの名前だ。


「ギルドマスターが?だったら、私じゃなくて、ほかのSランクの冒険者と行くべきだったんじゃないの?」


完全に私巻き込まれてないか?

どう考えても巻き込まれてるよね?


「え~?やだ。あいつら性格が悪いんだもん。」

「悪いんだもんって、いい歳した男が言うな。そんなに悪い人たちばっかじゃないでしょうに。」

「ラズは忘れちゃったの?あんなに酷いこと言われたのに。」


背後から不機嫌な声と共に、抱き着く腕の力が若干強くなる。


ほぼゴリ押しで冒険者になりたての頃、私はギルドの色々な人たちにキツイことを言われてきた。

実力主義の冒険者ギルドで、私の存在は浮いて見えてたらしい。


「まぁ、他の冒険者から見れば、七光りの上にSランクの護衛付の小娘だったからねぇ。言われても仕方がないというか・・・。」


確かに色々言いたい放題言われて、悔しい思いもしたけど、それをバネにして頑張ってきたからこそ、今の私がいるわけだし。

今のランクすらクロとギルドマスターの力で手に入れたと思ってる人もいるけど、実力で手にしたことを知ってくれてる人もいる。

だからそんなに今は気にしてはいない。

当時否定的に見ていたけど、悪かったって謝ってくれた人もいるしね。


「ラズは優しすぎだよ。俺なら絶対に許さない。」

「クロには私のせいで大分嫌な思いをさせちゃったもんねぇ・・・。」


私は言われても仕方がないと思ったけど、クロはそうじゃない。

真っ当な強さと実力で勝ち得たSランクだ。

それを私と一緒にいたが為に、言いたい放題言われてきた。


ロリコンだとか、子守Sランクだとか・・・・。

子守はともかく、ロリコンとか本当に申し訳ないよなぁ・・・。


クロが怒るのも無理はない。




 前々から考えていた。

成人したら、クロとのコンビを解消しようと。

この国では16歳で成人と認められる。

私が成人するまで、あと数か月。

こうして冒険者として一人でも自立していけるだけの知識と経験を、クロとギルドマスターのお蔭で得ることができた。


この仕事が終わったら・・・・。



「ラズリは、なにも悪くない。俺は、ラズリとしか一緒に旅をしたくない。」

「え?」


一瞬考えを読まれたのかと思って、肩が跳ねた。

恐る恐る背後のクロを振り返れば、炎に照らされた琥珀色の瞳とぶつかる。

見たこともない真剣な表情に、どきりと心臓が跳ね上がった。


怖い。


ふと浮かんだ感情に戸惑う。

クロは怒っているわけじゃない。威圧しているわけでもない。

でも逃げ出したいくらい、怖い。

けど、目を逸らすこともできずに、固まっていると。



「って、ことだから、他の奴となんか組まないよ?」


と言って、いつものようにヘラリと笑った。

いきなりあんな真面目な顔をされて身構えた分、肩透かしを食らった気分だ。

無意識に力んでいた肩から、力が抜ける。



もー、急に真面目な顔するからびっくりしたじゃん!と、言おうとして口を開きかけた瞬間。






グオォォォォォォン・・・・!






お腹に響くような低い咆哮が、夜空に突如響いた。




「・・・・・っ!!」






咄嗟に脇に置いた剣を掴んで跳ね起き、中腰で周囲の様子をうかがう。


「大丈夫。こっちに気が付いてる訳じゃなさそうだ。」


全身で警戒する私とは対照的に、クロは警戒心の欠片もないような様子。

確かにかなり離れた場所からのようだったけど、あの咆哮はどう考えてもドラゴンのものでしょう!?

なんでそんなに落ち着いていられるの!?


「あれは、夜の散歩に出る前の深呼吸みたいなもんだよ。機嫌よさそうだったし。」

「何を根拠に言ってんのよ。」


あの咆哮のどこが機嫌よさそうだったというのか。

咆哮ひとつでドラゴンの機嫌なんかわかるか!


暫く周囲を警戒したけど、こちらにドラゴンが近づく様子はない。

大丈夫・・・かな?


「ほら、もう寝よう?おいで?」


手招きするクロの隣に渋々寝転がると、宥めるように頭を撫でられる。

ゆっくりと、繰り返し撫でられているうちに、騒いでいた心臓が落ち着きを取り戻す。

目の前で揺らめく焚火の炎を見ながら、ぼ~っとしていると、そのうち瞼が重くなってきた。


「おやすみラズ。」


何かが頭のてっぺんに触れる感触がしたのを最後に、完全に眠りに落ちた。






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