↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輝石の還る場所  作者: すす
1章
PR
9/16

Episode9

そして更に1週間の時は流れた…


レイカ戦ほど消耗はしていなかったらしく、一週間待たずして体力は全回復した。

時期としては蝉が少しずつフィーバーしてくる時期。部屋を閉め切れば暑い、風があれば涼しい。

そんな初夏にマコトの試験が行われた。

全員で受ける入学試験ではないため空いている部屋で孤独に行ったが、マコトは持てる力を出し切って、結果は合格。


更に準備期間を設け、少女はめでたくアカシア学園の生徒となった。


高校生に限らず子供は噂には敏感なので転入生の存在はすぐに噂となって知れ渡った。

一部…気になる尾ひれもついていたが…



「なあ、聞いたか!?転入生が来るんだってよ!」

「もうすぐ夏休みのこの時期にか?」

「どうやら家庭の事情らしいわよ」


「ほら、あの噂知ってる?異能者のトップを張る高レベルを超した超高レベルの異能者の噂!」

「知ってる知ってる!まるで悪魔みたいなやつで目が合っただけで非異能者が殺されたって」

「流石に尾ひれだとは思うけど…転入生、その人らしいわよ」

「えっ…何で校長そんな奴の入学許可したんだ…?いくら異能対応した学校つってもさ…」



「ほーら皆席につけー!ホームルーム始めるぞー!」


ドアを盛大に開き、噂に沸き上がるクラスを一言で沈めたのは、見た目体育教員のそのクラスの担任だった。

実際に柔道部の顧問と呼ばれても誰も不思議に思わない風体のその教員は実は理科の教師である。

それだけは解せぬ。クラス一致の疑問だったが、今はそんなことどうでも良い。


担任は黒板前におかれた教卓に生徒名簿を置くと「あー」と話を続けた。


「…どうやら噂は広がってるらしいから大したサプライズでもないだろうが、転入生だ。

 耳に入ってきた噂からいくつかかいつまんで否定しておくが異能者ではあるが悪魔ではない。……とにかく入って来い、転入生。」


ドアに向かって担任は叫ぶ。

ガラッとドアが開いて、その学校の制服のスカートをひらひらとさせながら少女は入ってくる。


愛らしい笑顔を向け


「どーもぉ!榎本マコトです!よろしく!」


一気に男子生徒は沸き上がった。若干一名を除いて。


「可愛いじゃん!!」


誰か男子生徒が叫ぶ。もともと中性的な顔立ちだと言うことになっていたがそれは男性らしい表情を作って、男装をし、低く声を偽造していたためであった…。

帽子を外して女性の服を着て笑顔を作ってしまえばショートヘアーの可愛らしい少女の出来上がりである

はっきり言って湧き上がらなかった若干一名もその変貌には驚いていた。だがそれ以上に…


「何故同じクラスなんだ…」


と頭を抱えていた。異能クラスは2つあったはずなのに……と。


「彼女は今まで家庭の事情で休学してたんだが、今回めでたく復学した…と言うわけだ。なかなか可愛らしい顔しているが…」

「先生ロリコン発言はいけないと思います!」


誰かが叫ぶが担任は咳払いをして


「一般論を述べたのみだ。こう見えて武道の心得があるじゃじゃ馬娘だから盛った男子共は慎重にアプローチせんと地面と熱いベーゼをする羽目になるぞー。」

「はーい!」


分かっているのか分かっていないのか…男性陣の元気のよい返事が返ってくる。

女子は女子で男子に媚びない姿勢が気に入られたのか新しい友達が出来るのではと近くの席同士で話し合っていた。


「じゃあ、マコト。一番後ろに空いた席があるからそこに座れ。ロッカーはホームルームが終わったら教えるからな。」

「はーい!……あ!トオルじゃん!!同じクラスだったんだよろしくなー!!!」

「まだ付きまとうつもりか…」


ぴょこぴょこ跳ねながら手を振る少女と頭を抱える少年…。

そして一部クラスメイトから湧き上がる殺気。


これはこの二人敵を作ったな、担任は悟った。




学期末試験もすでに済んだ為に本日は午前中に数教科の授業があって終了であった。


帰りのショートホームルームも済み、珍しい転入生の周りには人だかりができていた。


「マコトちゃん、このクラスに来たってことは中レベルの異能者なの?」

「まあね……レベル4〜5ぐらいのサイコキノ持ち」


ということに嶋原家と相談して決めておいた。勿論学校には正直に話してある。協会に黙っていることは黙っていたが。後は男性性も少し控えることにした。目立ちたくなかったのもあるが、男性を名乗るマコト自身がこの体を借りているという自覚が出てきてしまったせいだ。女性に戻った時のためにせめて中性であろうと繕っている。この事はトオルにも言っていない。


「あれ?低レベルの異能者はこのクラスにはいないの?そっちの方が多いでしょ」

「確かに異能高校なんだけど、一般人がいるからってPTAがうるさくて数年前に分けちゃったんだって~」


女子生徒がむうと言う。と言うことは一週間程前に会ったアヤネはレベル2のテレポーターなので別クラスか?モミジは中レベルと聞いてるのでいそうなものだが見当たらない。隣のクラスか?


「『中レベル以上の異能者は普通の我々の脳にも影響があると聞く!万が一でもうちの子が異能者になったらどうするんだ!』って」

「異能は素質のない奴には移らねーってのによー」

「別の高校行けばいいんだよ」


男子生徒がぼやく。

実際に異能者は人口の1%と最初に説明したと思う。異能者が恐れられているこの時代、一般人の保護者は我が子が一般人でいられるかは重要な要素だ。

まあ確かに成長期に強い異能に触れると偶然その1%の中の未覚醒の者が覚醒するという研究もある。殆どが低レベルだが。

一般人の子を持つ親は1%に入っているかどうかなんて分からないのだから恐れるのも当然か。


ちなみにこの学園は異能者と非異能者の和解を理念に建てられており、異能者の学生比率は50%程度とかなり高い。


「へえ…こういういい学校でも面倒くさいんだね~…と言うことは皆中レベル以上の異能者?」

「まあね。種類はいろいろだけど皆色んなことが出来て楽しいクラスだよ。」


マコトの机の前にしゃがむ女子がはにかむ。

皆も「だなー」と笑った。良いクラスだ。マコトはそう思ってクラスを見渡す。

そしてあることにはたと気づいた。


マコトの後ろにアヤネがいて、明らかに暗い顔をしている事に


「あれ?アヤネこのクラスだったの?」


マコトは明るく尋ねる。

アヤネは申し訳なさそうに


「……うん、レベルが上がって、ね……。」


そして彼女は少女の正面に回ってそして机に頭をぶつける勢いで頭を下げた。


「ごめんなさい!!!私貴女を誤解してた!!」


面食らったマコトは慌てて立ち上がる。そしてクラスメイト全員に「ごめんね!」と告げてアヤネの腕を取り、クラス内で本を読んでいたヒカルを連れ出して人のいない階段の踊り場へ走った。

「いきなり何よ」と息を切らすヒカル。そしてアヤネに一般的な女子の体力を考えなかった自分を反省し、ごめんと伝え、そして


「何が……?あ、取り繕う必要ないか。モミジか?」


先に呼吸が整ったアヤネが、教室で頭を下げた時と同じ表情で


「…あの時、私を怪我させたの…モミジだったよね…」


マコトは金の眼を丸く開いてヒカルを見る。彼女をサイコメトラーとして認識したうえで触れたがその件の事実は隠したままのはずであった。そうなるように触れたはずだった。


「……モミジの、自爆よ…」


息を整えつつヒカルの説明を聞くと、あの後マコトをサイコメトリーしたヒカルは2人を連れてケーキバイキングへ行った。

そのころからモミジの様子がおかしいと二人は気づいていたらしい。


マコトとモミジ、アヤネの因縁は、簡単に言うと加害者、目撃者、被害者の関係だった。

中学の時放課後にアヤネが何者かによって襲われ、怪我をした。アヤネは後ろから襲われて犯人が見えなかった。

それを遠くから見ていたとモミジは言った。犯人はマコトだと。

しかしマコトはその日放課後に残ってはいなかった。だが、それを証明する人は母親のみで、普段から不良ぶっていたマコトのことを誰も信じなかった。そこからマコトの不登校気味が始まった。


はっきり言ってモミジがマコトを貶める理由がマコト自身にも分かっていなかった。当時はマコトは一般人でモミジは高レベルの4つ属性持ち。接点もあまりなかった。

だから関わりたくなかったというのもある。


そして今回の事だが、結論から言うとその事件の真相をマコトがサイコメトリーのヒカルへ伝えたとモミジは疑心暗鬼となっていた。

そして事件当時にそうだと落ち着いた事実をアヤネが話し、モミジを落ち着かせようとしたがその話を聞いたヒカルが矛盾点を指摘。

そしてモミジが発狂したのだ「人気のあったアヤネも、五大属性のマコトも気に入らなかった!」と。

モミジは店を飛び出し、その後数日学校の欠席が続き、秋草異能学校に転校して行ったというのだ。


話を聞いたマコトはただ…ごめん…と呟いた。


「…そんなつもりはなかった…自己紹介したかっただけなのに…」

「そんなこと実際に透視した私が良く分かってるわ。」


ヒカルが溜息をつく。


「『マコトだよ。最近異能に目覚めちゃってトオルのおじいちゃんに色々教わってる最中なんだ』ってすっごく明るい情報流してくるんだもの。聞いてたのと違って拍子抜けちゃった」

「何年も悪者扱いしてごめんね…」


アヤネは俯いたまま何度もごめんねごめんねとつぶやいた。

暫くして誰も何も言えない状況になってしまい…かといって解散のタイミングも逃し3人で階段の踊り場に佇んでいた。

それを破ったのは小さな消しゴム。下の階から消しゴムが飛んできてマコトの頭に当たったのだ


「いった!?…消しゴム?」


発射元をきょろきょろと探すと階下にカバンを持って下校体制のトオルの姿があった


「祖父さんが『帰りに寄れ』だと」


それだけ言って少年はさらに階段を下って行く。少女は追いかけようとしてふと思い出したように2人に向き直り


「そんなつもりはなかったの!でも許してくれるなら仲良くしてね。」

「……マコトってトオル君とそういう関係?」


アヤネが首をかしげる。マコトは笑い飛ばして


「あんな完璧な奴ちょっとねー!」

「誰がそんな勝手気ままな女…」


階下から聞こえた低い声に、火がついたように「なあ、俺は褒めたんだけど!」と叫んで階段を飛び下りる。

そして少年を追いかけようとして鞄を忘れたことに気づいて教室へ走って行った。

鞄を持ってまたその階段を通るときに二人に笑顔で「じゃーね!」と手を振る


「…モミジも馬鹿よね。あの子の純粋さに気づけばあそこまで歪まなかったかもしれない…」


ヒカルはぼそりと呟いた。アヤネも小さく頷く。



走って追いかけたマコトは校門を出たあたりでトオルに追いついた。


「ちょっとぐらい待ってくれてもいいだろ?」


口をとがらせて隣にならぶ。

トオルは大げさに溜息をついた。


「…学校出た瞬間その声と口調か…」

「いいじゃん、こっちが素なんだから。」


少女は少年より一歩前に出てスカートを翻してくるりと回る。

その姿はやはり愛らしい。だが…


「女装してる気分なんだけど」

「そうすると決めたのは自分だろ」

「そうだけど……なあ」


モミジの事黙ってたのか?とマコトは睨む。


「関係性も知らなかったし特に言う必要も感じなかった。俺も忙しかったしな」

「ああ…ジェダイト号と同時にいくつか不確定の予知が出てたんだってな。じゃあ仕方ないか」


マコトはスカートを翻して、トオルの前をトコトコと歩く。そして、そう言えば……とまた振り向いた


「未覚醒で属性って分かるもんか?」

「……どういうことだ?」

「モミジは五大属性の俺が気に入らなかったらしい。まだ中学の時未覚醒だったのに」


トオルは考える素振りを見せる。頭の中で文献などの検索をかけているのだろう。


「瞳の色……か?」

「火なら赤、水なら青ってアレか?」

「五大属性なら金だ」

「でも当てになるのかそれ?灰じゃなくて青い識がいるけど」


トオルのことだ。


「俺は生まれた時は銀だったらしい。……確かに法則から外れる事も多いが、逆に金で一般人を見たことがないからそこから推測した可能性がある。後は母親から推測したんじゃないか?」

「ああ、母さんも五大属性だしな……異能って遺伝したっけ?」

「研究されたが保留になっている」

「なんかしっくりこないな」


それこそ生まれに何かしらの……それこそ人体実験の末生まれたなど知らなければ、未覚醒で異能者であることなどわかるはずがない。


「もっと早くアカ学入ったらモミジ捕まえられたのに」

「たらればの話をしても仕方がないだろう」

「まあな。……ところで爺ちゃんが呼んでるって本当?」

「制御装置の具合と学校の感想が聞きたいそうだ」


マコトは苦笑する。


「もしかして、助けてくれた?」

「図らずとも祖父さんがな」

「はいはい。爺ちゃんに礼言っとくな」


そう言って心のなかでトオルに礼を言う。

後はお互い黙ったまま嶋原家にたどり着いた。

博士に学校初日の感想を伝えてその日はお開きになった。


そしてその帰り道…


午前中に放課後になっていたため報告まで含めていても時間帯はまだおやつ時。

帰りにどこかでおやつでも買って帰るかとマコトは学生鞄を振り回して歩いていた。

昼時だというのに人通りもなく、誰もいない。


そんな道を不思議に思うことも無くマコトはただ歩いていた。


暫く歩いていると前方より人影が歩いてきた。

そこでようやっと少女は「今日は人が少ないな」と気付く。だが社会人なら仕事中の時間である。学生も試験後の為午前終了しているからそのせいだろう。そう思い直してその人影とすれ違おうとした。


すれ違う瞬間…少女は足を止める。


「モミジ…」


いつも人陰に隠れていたが見間違うはずもない。その腰まである艶やかな黒髪。そして黒々とした真っ黒な目。

髪先のパーマさえなければきっと美しい日本人形だが柔らかく巻かれたその髪とすっとした目立ちでゴスロリと呼ばれる服装になったらさぞがし似合うだろう。

そんな容貌の少女だった。


美しい少女から発せられるのはただすれ違うだけの空気の流れではない。明らかな…そう、邪気と呼ばれても致し方がない禍々しい雰囲気…。


マコトは瞬時に察し、何があっても対応できるよう距離を取ってモミジをじっと見据えた。


「…どうしたのマコトちゃん。可愛い制服着てるのにまるで男の子みたい。」

「……そう言うモミジはまるで呪いの日本人形だね。」


嫌味を嫌味で返した瞬間、黒い少女の瞳がカッと見開かれる。マコトのやや後ろ足元の地面に黒い円状の影が生まれ、そこから手にも触手にも見える“もや”が伸び少女を捕えようとした。

マコトは本能で飛びのく。そしてその円から5mほど離れたところで円と“もや”は消失した。


「才能っていいわねえ……ねえ、私と同級生だったころは貴女無能だったじゃない。急にどうしちゃったの?まるで高レベル異能者じゃない。」

「……さあ?何でだろうな」


抑揚のない喋りに寒気を覚え少女は冷汗を垂らす。

確かに人前に出ずに誰かを手八丁口八丁で操る人間であったがここまで不気味な生き物ではなかった…。少なくともマコトの記憶の中にはなかった。


「羨ましいわねえ……母親に愛されて、レベル10になって、周りに助けられて、認められて愛されて!トオル君にも近づけて……!

 ……お父様がね、言うのよ…。どうしてお前は15年生きててずっと訓練も受けてて“この程度”なんだって…。」


私だって高レベルよ……。

少女は小さくつぶやいた。そして焦点の合わない瞳でふらりふらりとマコトへ近づく。


「不公平よ。大切なトモダチも貴女のせいで失っちゃった…。」


距離を縮めぬようマコトも後退する。いつでも逃げれるように。


「……で、お前の不幸の種をお前はどうしたいんだ、モミジ?俺を消してもお前が羨ましいと思った事実は消えないぞ」

「分かっているわよそんなこと!!【締メ上ゲヨ】」


黒い手がマコトの首へと延びる……!瞬間少女は首と黒い手との間に自らの手を挟ませ防御したがそれが通用するのは生身の手が締め上げる場合のみ。

黒い手はいわば影……少女の防御など関係なく真綿で首を絞めるように少女の首を侵食していく。


じわりじわりと呼吸苦は増していく。少女は呻きながら酸欠の金魚の様に口を動かすが肺は動けど酸素は入って来ない…。

魔法で抜け出そうにも酸欠の脳では集中できず、力を発動させられない…。


もう、ここで終わるのか…黒い手を掴む少女の手がだらりと垂れさがった…




――――――瞬間



「【流水の妖精よ、我が使役の元に彼の者に制裁を:水蓮】!!」


何処かで聞いた澄んだ声を意識の遠くで少女は聞いた。

直後、少女の横を掠め多量の水の塊が黒い少女を吹き飛ばした。

同時に首に絡みついた黒い手も霧散する。


地面に座り込んだ少女は首を掻き毟るように大きく息を吸い込むと盛大にむせ込み、倒れ込んだ。


「マコト!大丈夫!?」


駆け寄ってきたのはルカであった。

せき込むマコトの背中をさすりながら覗き込む海の色をした瞳、少女はゆっくりと頷いた。

ルカの攻撃をまともに受けた黒い少女は走り去ろうとしている。


「あの女……!殺人未遂の現行犯で逮捕して……!!」

「……待っ……て……!!」


せき込みながら少女はルカの手を取って握る。驚いて振り向いたルカの目には泣きそうな顔をしながら首を横に振る金の瞳があった。


「赦せと言うの…」


そう問うてせき込む少女の隣にしゃがみ、黒く浸食され色が変わった首筋に触れた。


「……私を殺しても……何も、変わらないのに…でも、したく、なるほど……可哀想な子、だから……。」


ぐったりと少女はルカにもたれかかる。

ルカは大きくため息をついて、「家はアレだったかしら?」と尋ねた。

マコトは力なくその方向を指さし


「あの、小さい赤い屋根の家…」

「場所が見えて助かったわ…。私こっちのプロじゃないから船酔いするわよ。【座標移動:方向南西…」


マコトを支えたままルカは呪文を唱える。するとぐにゃりと世界が歪み、前後上下関係なく身体をまわされたような眩暈に襲われる。

そして歪みが収まるとそこは住み慣れたマコトの家のリビングであった。


「う゛っ…」


すぐそばのソファに倒れ込んでマコトは口を抑える。それこそ乗り物酔いしたような吐き気が全身を襲う。


「吐きそう?」


背中をさするルカも顔色が青白い。ともに酔ったようだ。

そこまでじゃない、とマコトは首を振る。


「やっぱりテレポーターみたいに快適に移動は出来ないわね…」


ルカは隣に座って背中をさする。

マコトの吐き気が収まってきたころ…


「…で、何があったの?」


唐突に真面目な声で聴かれた。

少女は実際にあった事実を出来るだけ主観を入れぬよう話した。


「……同情してるって言うの。自分を殺そうとした相手を」


憮然と問うルカに対して、数瞬遅れて少女は頷いた。


「だからって許される行動じゃないのは分かってる……。始めからアイツの自業自得……それも分かってる……。

でも…何処か可哀想になった……」


そう言いながらキャビネットの上におかれた、何処かマコトに似た面影のある女性の写真を眺めた。


「…でも、ま…助かった、ありがとう。死にたくはなかったから」


少女は首に黒い痣を付けたままはにかむ。

その表情に違和感をルカは覚えたが彼女にはそれが何なのか分からなかった…。

分からないままにマコトの首の痣に触れて魔力を流す。

指先に薄い青い光が集まる。するとその光に触れた痣が少しずつ…肌の色へと戻っていった。


「複合属性みたいだけど泥みたいな魔力ね」


汚れを振り払うかの様に手をピッピッとはらう。


「すっげー……纏わりついてたもんが取れた」

「仲間の中では得意な方だからね」

「特級ライセンスってやつ?」


空間酔いも覚めて二人で靴を脱いで玄関へと投げ、リビングに戻った。


「知ってるのね」

「トオルの爺ちゃんから簡単にな」

「それなら話は早いわ」


突然ルカはマコトの手を握り、真剣な眼差しを送る。


「マコトも特級ライセンスを取って仲間になってほしいの」

「へ?」


何故そんなことを言う?ルカを含め協会側の殆どはマコトをレベル1程度だと思っているはずだ。マコトは混乱する。


「いやいや一般人に毛が生えた程度の俺がなれるわけ……」

「再覚醒してるわよね?レベルは知らないけど高レベルにはなってるわよね」


顔には出さない様にしたが、ギクッとした。何処まで鋭いんだこの子は……いや、それこそ特級ライセンス持ちだからなのだろうか。ステータスは抜きん出ているというのか。


「最近秋草研究所がきな臭い動きをしてるのよ。秋草研究所は知ってる?」

「……異能バンザイの研究所」

「大体正解」


動揺を隠しながら最低限だけ答える。ルカは続けた。


「調べてみたけど倫理的にも法律的にもアウトな面が見つかったわ」

「例えば?」

「ジェダイト号のあの一件、秋草研究所が絡んでるわ。資金調達ってやつよ」

「!?」


マズイ……それが本当なら、もし魔力感知ができる人間がいたら、もしこの不安が本当に秋草からの身の危険を表しているなら、バレてしまったかもしれない……知らずに思いっきり敵陣で魔法を使ってしまった。

動揺が伝わったのか、ルカは心配そうな顔をする。


「どうしたの?」

「いや、別に……思ったより大ごとだったんだなって……」


嘘でも本当でもないことを言って誤魔化す。

本当の事を話せばルカはきっと協力してくれるだろう。だが規律には厳しそうなルカだ。きっと協会に正式に相談してしまう。手続きで後手に回るのは勘弁だが……いや、ここまで分かっていればそうでもないのか?分からない……。


「……正直に話してみて」

「……ッ、あー……」


ええいもう言ってしまえ。マコトは確かに再覚醒して今はレベル10の五大属性だということ、恐らく母親からの関係で自分は人体実験かなんかで生まれたこと、それはほぼ間違いなく秋草研究所が関わっており、直感だが身の危険を感じている事。

そしてその事をトオルに話しており、レイカに相談済みだと伝えた。


「何よそれ、私だけのけ者?」


ルカの怒りも最もだ。マコトは目を逸らす。


「タカシにも言ってない……察してるかもしれないけど。レイカが協会に知らせたら対応が後手に回るって予知して……他に仲間がいても知らないはず」

「……タカシは頭使わないから気づいてないわね。レイカの指示なら仕方ないか……」


ハーとため息を吐いて、ルカはソファに腰掛ける。


「まあいいわ。一緒に戦ってくれる意思はあるのね。それだけでも収穫だわ」

「そんなに戦力足りないのか?皆強いだろ」

「多分一対一なら化け物と言われる特級だもの、負けないわ。でも相手は何人いるか分からないのよ。しかも何かしらで鍛えてる異能者。経験上低レベルでも異能者の群れは厄介よ」

「猫の手でも借りたいと」


そういう事。ルカは頬杖をついて海の瞳でマコトを見つめる。


「それにしても、たかが100人ばっかりの洗脳で倒れるようには見えないのよねぇ……。まだロックかかってるんじゃないかしら」

「えっ?」


マコトはリビングのテーブルに添えてあるティーバッグの紅茶を淹れてルカに渡しながらも目を丸くした。


「なんだそれ。流石に魔力切れるだろ。てか感応力あるのか?」

「見る目があるってだけよ。フリマで掘り出し物の皿とただの皿が分かるみたいな感じ」

「鍛えられた感じ?」


そうよ、それ。と言いながらルカは紅茶に口をつける。及第点は貰えたようでホッとした。何となくルカもレイカのような金持ちな気がしていたからだ。


「Starsのチョコフレーバーによく寄せてあるじゃないこのティーバッグ」


Starsは高級紅茶専門店だ。やっぱりな、とマコトは隠れてため息を吐く。

ルカはハッとして咳払いをした。金持ちとは言いたくないらしい。


「トオル君に何か言われなかった?」

「いや、レイカとやった時も限界は正確に分かってたみたいだけど、ジェダイト号の時は何も……ってよく考えたら電話はしたけどボロボロの時は会ってないな」

「レイカと戦ったって怖かったでしょうに……」


ルカは渋い顔をする。確かに初心者向けでは無かったが戦いはあんなモノだと思っていて怖くはなかった。黙っておくが。


「……じゃあムラがまだあるのかしら。どっちも現場を見てないから違うなら何も言えないわ」

「ところで……ルカは協会に俺のことバラす?」

「バラすなんて人聞きの悪い……。言うけどね」


サラリと言われて少なからず肩を落とす。しかしルカはパチンとウィンクをした。


「大丈夫よ、レイカの判断は信じてるから。こういうのは上層部に言って面倒な処理は後回しにするのよ。マコトだって動き回って逆に協会に目をつけられたくないでしょ?」

「出来るのか!?」

「言い方の問題よ。そのかわりマコトはそのうち特級ライセンスの試験受けさせられるわ。あなたの力強すぎるもの」

「それは……」


今の気持ちならむしろ自分から立候補したいぐらいだから良いが、もし……


「……万が一、俺の人が変わったようになったら無理強いしないでくれるか?」


おずおずと尋ねてみる。取り憑いているような自覚があるのだから、自分が守りたい元の人格が表に出てくるなら明け渡すつもりだ。今のところ出てくる様子はないが、彼女が好戦的である保証はない。


「どういう事かしら?」


詰めると言うよりも純粋な疑問でルカは質問する。どう答えたものかとしどろもどろになりながらも


「たとえば……えーと……、今回の戦いでもうこりごりになったりとかして女子として生きていきたくなったり……」


ルカはマコトをじっと見る。品定めしているようだ。


「……戦えないなら無理に受けさせないわ。けど、登録はしてもらわないと困るわね」

「うん、まあ……それはわかってる」

「ならいいわ。異能者登録はあなたを守るためでもあるんだから」


そう言ってルカは立ち上がる。


「……さて、レイカとトオル君から話聞いてくるわ。マコトも連絡先交換しましょう」

「あ、うん」


2人は端末を出して連絡先を交換する。

そしてふと思い出したかのように


「護衛置いとく?マコトなら油断しなければ大丈夫そうだけど」

「……母さんが家に結界遺してったから破れる奴がいたら分かる。大丈夫だ」

「そう?何かあったら誰かに連絡するのよ?」


そう言ってルカは帰っていった。

マコトはソファに倒れ込む。小さく手が震えていた。


「なっさけねえ……」


ぐっと手を握って起き上がる。母の部屋に向かって本棚を漁る。そして古めかしい本を取り出してパラパラとページをめくった。

途中のページで手を止めて、指でなぞりながらそのページを読み込む。


「……成る程、こういう仕組みか」


本を閉じて元あった場所に戻す。ならばとサンダルを履いて、小さな庭にある倉庫から小さな工具箱を出して、中から釘を出す。そして庭の敷石から手ごろな石を4つ選び出して釘で何やら模様を書き記す。

魔力を流してその石を敷地の4隅にセットした。元々半球の結界が張られている上から立方体の結界が展開される。

両方とも強力で攻撃が与えられたら攻撃を跳ね返しつつ所有者に警報を鳴らす仕組みだ。敵意があるものは入ることも出来ない。

同じ仕組みの結界なら多少魔法形態がちがっても非常識とは言われないだろうと踏んでの策だった。


「さて……コレで家は安全だろ」


家に上がって端末を見る。トオルに連絡しておこうか。


「しっかしやっぱりモテるんだなアイツ」


報告形式で文章を打ちながら呟く。今日だけで何回嫉妬されたことか。ヒカルはそうでもなかったがアヤネは明らかにファンではある。モミジはマコトに嫉妬するほど恋している。クラスの女子も何人か殺気を感じた。

アレだけ顔が良くて、クールに見せかけて面倒見も良ければ当然か。

後日話した時にからかおうと思って一人で笑う。


そして報告を送信したあと見逃した事について説教の電話がかかってきたのは言うまでもない……。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。