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輝石の還る場所  作者: すす
1章
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10/16

Episode10

日中快晴であってもこの時期は何のいたずらか突如雨が降り出すことがよくある。

夕立と呼ばれるそれは、突然空に暗雲を持ち込み、何の前触れもなく空からバケツの水をひっくり返したかのように雨を降らせた。


直前までの快晴のために傘など持ち歩いていなかったマコトは、フードをかぶって目的地である目の前のタワーに走りこむ。

髪から服の裾から滴る水を絞りながら、手に持っていた向日葵の花束を確認して、散っていないことに安堵して入口から空を見た。


「やられたわ…」


向日葵についた露を軽く振って弾き、薄暗いタワーの奥へと歩を進める。


そのタワーは一言で言うと墓地だ。

墓地が横に広がり、草原から海が見えて…などそのような感傷に浸れるような代物ではない。

薄暗く、高いタワーに一定の区画が分け与えられてそこに墓石が建つ。お盆の時期や命日など、遺族は目的の墓まで階段を上るかエレベーターを使うかして上っていき、花を供えて線香を焚いて亡き人を憩うのだ。

マコトも、お盆が近いという理由で、今日は例に漏れず墓参りにやってきていた。


しかし表情は暗い。暗いというよりは軽く怯えている。


「風通し悪くて薄暗いせいか……ここ“人の気配が”溜まるんだよな…」


少女は腕に巻かれた腕時計型の制御装置を見る。実際に時計としての役割もはたしているそれは夕方の4時を指していた。

ホラーが苦手で『人の気配』を感じるこの場所はマコトは嫌いだった。もっと早くの時間に来れば良かったと後悔する。電車が人身事故の関係で遅れていたのだから仕方がない。


「それにしても…お盆にしては静か…」


少女ははたと気づき、周りを見渡す。薄暗いためほとんど回りは見えないが、お盆だというのに参拝者がほとんどいない。

いや、たまたまこの階に少ないだけだろう。そう思い直したマコトは足早に上の階へと階段をいそぐ。


だが…そこも少ない。

あまりにも少ない…。


よもや閉館日であったか。しかし墓に閉館日など聞いたこともなく雨によって駆け込んだタワーの入り口は何の障害もなく開いた。

ならばその説は否定される。


少女は不思議に思いながらも、心細く思いながらも、ゆっくりと歩を進める。

すると、前方に少年らしき人影を発見した。ただ人がいたことがうれしくて、

薄暗く霧がかかったように見えるそれに走って近づいた…だが…………


「……ッなに、こいつら」


まるでゾンビのような、体を引きずるような動きで少年は歩いているではないか。

しかもその少年一人ではない。霧に紛れていたが奥にも何人も老若男女問わずいたのだ。


まったく同じ風体でずるずると歩いて。


少女はすくんだ足に喝を入れ、数歩後ずさる。

その時に、彼らは、彼女に気付いたようだった。


ぐるりと方向を彼女に向け、両手をだらりと突き出し


「殺せ…殺、せ……」


確かにそう呻きながら少女へにじり寄る。

恐怖に支配された少女も自分へ危害が降りかかるようならば隅っこで震えてもいられない。

明らかに人間ではない動きをするソレだが、人型のモンスターも死人の徘徊も今まで実在した試しがなかった。

つまり、このゾンビのようなものは生きている人間。ならば気絶させてしまえば動きを封じることができる。


少女は衝撃波を出そうと両手を前に差し出す。その際、ゴロンと、何か、柔らかいものを、蹴飛ばした。


見てはいけない。少女は本能がそう告げるのを無視して、何を蹴ったのか目視する……


それは、棒状のもの

青白い、棒状のもの


切断面は赤黒く、白い棒が飛び出ており


反対の端には、5つの枝分かれが、あった。


枝分かれの先には、きれいに整われた爪が赤く染まり…いや、全体的に赤黒くシミができているそれは…

枝分かれの端から2番目に、シルバーのリングが…輝いていた……。


「あ…あああ…!!!!」


何を見たのか、ようやっと察したマコトは両手が、全身が、ガタガタと震えだす。

金色の目から自分の意志と関係なく涙がこぼれた



「…………やめ……うして、……殺さ…ないで……た…あなた…お願…愛して…る…から…」


自分の意思と関係のない言葉が漏れる…

それはおそらくその左手の持ち主の最期の感情。

感応力もちの可能性は低いといわれてはいたが0ではなく、少女は感受性が強かったのであろう。

でなければ死を弔う、死に満ちたこのタワー自体を恐怖などするものか。


「…どう、して……あなた…愛してる……愛してる…」


無意味な涙を流しながら少女は震える体でありもしない夫の頬をさするように空を撫でる。

その間にもゾンビらしき人間どもはジワリジワリとマコトに近づいてきていた。


「ばか野郎!気をしっかり持たないと呑まれるぞ!!」


聞き覚えのある低い声に一瞬だが少女は我に返る。

その瞬間。腕を捕らえられ、少女は手をひかれ走りだしていた。

少女の手を引く少年はゾンビを突き飛ばしながら階上を目指す。

そして、階段の中腹辺りで二人はようやっと足を止めた。

二人とも息を切らせて…少女は体を震わせたままその場に座り込んでしまった。


「……あ、りがとう…トオル…。」

「ここで気を抜いたらあのゾンビの仲間入りだ!」


あくまで心配よりも叱咤する。その態度に間違いなくトオルだと、マコトは安心したように震えが止まった。

そして息を整えながら階下を覗き込む。先ほどのゾンビは二人を見失ったのか生気のない顔でずるりぺたりと歩いていた。


「霧があいつらの行動範囲だ。入らないようにしながらお前は待っていろ」


そう言ってトオルは階上を目指す。少女はあわててトオルを追いかけるが


「待って…!一人にしないで…!」

「無理だ。仕事がある。」

「もう大丈夫だから…!」

「死体の残留思念で引きずり込まれるやつは足手まといだ!待っていろ!」


ぴしゃりと言われて少女はうつむく

ようやっと観念したか。少年はまた歩き出す……が、跳ねるように走り出した少女に腕をつかまれ、背筋に悪寒が走ったトオルは反射的に振り払った。


少女は頭を押さえてよろけ、階段を落ちかかるが手すりをつかんでどうにか踏みとどまる。


「……お前」


今までにないほどの怒気を孕んだ声で少年は少女を呼ぶ。


「予想以上に情報流れ込んでくるんだな…サイコメトリーって…」

「見たな…」


少女は頭を押さえたままふらつきながらも自分の足で立つ。そしてまっすぐに金の瞳は青の瞳を捕らえた。


「上に犯人がいるんだろ?また秋草研究所だな?俺も行く」

「見ての通りお前と相性は最悪だ。怖いんだろ?」

「怖いよ……。でも秋草研究所が絡んでるなら……母さんが絡んでるなら話は別だ」


震える手先をみたトオルは小さく舌打ちをする。本気で恐怖を感じているのに立ち向かおうとする。止めても無駄だと思い直したトオルは階段を昇り始める。勝手にしろ、と続けて。

マコトは、上等とばかりについて登って行く。

そして前を登る少年の背中を見て、先ほど見た光景を思い出す。


サイコメトリのプロではないマコトが我流で読んだのはトオルの表装の意識のみ。

だがその意識の中には……おびただしい死体があった。

あまりにも赤い記憶……人が人として形をとどめていないものもあった、首がないものもあった…赤くこそないもの、天井からのぶら下がっているものもあった

まだ人を手にかけていない、アレは嘘ではないだろうがサイコメトリのプロである以上、解決のために死体と関わらなければならないのだろう。


だからこそ、一人にしておきたく無かった。


そして、最上階へとたどり着いた。

二人が最上段に足を乗せたかどうか、その位のタイミングで巨大な炎の玉が飛んできたのだ。

二人は反射的に反対方向へ避ける。

直撃を食らった階段への空間は、融けたのか…焦げたのか…丸く変形していた。


炎の発射元を目視する。霧に包まれてはいたが、色素の薄い少女のような見た目の宙に浮いた少年と、対照的に赤いチョーカーが印象的な赤い服で着飾られた可愛らしい5歳ぐらいの女児が現れた。


「……アレが、犯人だ」

「うっ……」


ピンクの瞳がニコリとマコトを捕らえる。瞬間嫌悪感と吐き気に襲われた。


「あ、そっちの女児は『マコト』ですね」


少年は場の雰囲気にそぐわない明るい声で名を呼ぶ。名乗った覚えはない。


「成る程、魔女は封印して貴女を隠していたのですね。しかもマコト自身もまだ『目覚めていない』。これは見つからないはずです」


ひゅっと飛んでマコトの間合いに着地する。

吐き気を堪えて階段を登りながらウエストポーチから出していた短剣で彼に切りかかった。

何の驚きもなく彼は後ろに跳んで柔和に笑う。


「何故分かった……!?」

「貴女も感じているでしょう。僕は貴女と同類ですよ」

「そんな……!!」

「そんなはずない!お前、ここで何人食ったんだ!」


トオルが言葉を続ける。

トオルの目には少年の中に大量の魂が蠢いているように見えていた。どんな意味でも同類には見えなかった。


「……いい目をしてますね貴方、食べたくなります。でも……ちょっと邪魔ですよ」


まるでマコトの放つような衝撃波をトオルに向かって放つ。

トオルは前方にバリアーを展開して直撃を避けたが、相手の方が力が強かった。後方に飛ばされ壁に全身を打ってしばし行動不能になる。


「……うちの実験動物並みに強い力ですね。特級ライセンスですか。……さて、マコトさん。貴女に会えたのは僥倖でした」


腰まである薄い金髪をまとめたピンクの瞳の少年は右手を差し出して笑う。


「一緒に行きましょう。好きに暴れたり、食事もできますよ」

「知らない!『食事』も何のことか分からない!」


マコトは頭を抱えて心から叫ぶ。しかし少年は


「でも『貴方』は自覚がありますよね?」


笑顔を崩さない。これがマコト自身に取り憑いている『自分』へと向けた言葉だと察し、目を見開く。


「核になっている人格と別人である『貴方』が自我を持っているのは驚きました。僕はね、『貴方』と同じものの集合体です。勿論、僕は核の魂が主導権を握っていますが」

「『俺』はいったい何なんだ……?」


耳を貸してしまった。

しかしマコトは後悔することになる。


「核の魂に注入された数百ものコアの一人ですよ」


不意に最近見た夢を思い出す。光を食い尽くそうとする蠢き、そこから光を助け出したいと手を伸ばした自分。

少年の言うことが本当なら……


「なんてことをしてくれたんだ!マコトはそのコア達に食われかけてるんだぞ!」

「……なんだ」


少年は影に潜り込んでマコトの背後に姿を現す。


「それなら被検体の命は長くないですね。魔女ならより良質な被検体になると思ったのですが、見込み違いでしたか」


トスっと背後から押された様な感触があった。胸元から彼の手が突き出ている。不思議なことに血は出ていない。だが、何かを吸い取られている。マコトは吐血して背後の彼を睨んだ。


「勿体ないので貰ってあげますよ。特に『貴方』は纏め役になってくれそうです。そしたらそこの彼みたいなのに見破られることも無いでしょう」


足元から力が抜けていく。膝を折ったマコトは光から引き離される幻覚が見えていた。『貴方』と呼ばれている男性人格が少年に吸われかけたその時……!


ドクンと少女の身体が脈打つ。だらんとしていた少女の四肢が、突き出た少年の腕を掴んだ。金色の光が少女から発せられる。


「……して」


突き刺さった腕が謎の力で押し返される。


「私の民を返して……!」


たまらず少年は腕を抜いて距離を取った。

胸元を吐いた血で汚した少女は自分の足で立ち上がる。

怒りのオーラで髪が揺らぐ。

少年は驚いたような顔をして、また笑った。今目覚めたか、と。

そして彼女の足元に傅いた。


「お迎えにあがりました、女王よ」

「勘違いしないで。私は食事をして魔力を増やすつもりも、母さんを殺した団体に入るつもりもないの」

「ご存じでしたか」

「民の中に感応力が使える人がいるみたい。今情報が入ってきた」


少女は少年を睨む。そして短剣を少年に向けた。


「『私』と『彼』だけで君に勝てるよ。あの女の子を置いて帰って」


段々とマコトの顔色が上気してきている。膝が抜けて座り込まないように己を律し続けている。まるで高熱を出しているかのようだ。

少年は興奮した笑顔のまま、立ち上がる。そして殺意無く少女の額に触れた。


「……一緒に行った僕のコアも返してもらいますね」


指先が光ってシュルシュルと青い光が少年の方に戻っていく。


「どうやらコアが入りすぎても体調に影響があるようですね。報告書に1文入れておきます」

「もうこんなもの作らせない……!」

「心配には及びませんよ。貴女以降15年以上も成功例が無いのですから……なので、マコトさんの事を喉から手が出るほど欲しがっています。データを取ればまた成功するかもしれませんからね」


ぞわりと鳥肌が立つ。おおよそ人間を相手にしているとは思えない所業だ。

魔力の塊であるコアを詰め込んで人間の形をした化け物を量産する、それが目的なんだろう。


「……ま、僕は反対ですけどね?せっかくの成功例が壊れたら何の意味も……おっと」


突如鋭い岩が少年めがけて吹っ飛んで来た。球状のバリアーを展開した少年は不動だ。バリアーに触れた岩は砕けて勢いのままに瓦礫となって吹っ飛んで行った。マコト自身にも瓦礫が振り注ぐが彼女自身もバリアーを展開して無傷だった。


そして、バリアーが解除された次の瞬間……!


少年が床に組み伏せられる。目を覚ましたトオルによって。

トオルは頭から血を流しているが健在そうだ。


「……大量殺人の現行犯だ」

「……僕じゃありませんよ?狂った人間が殺し合ったのをいただいただけですから」


組み伏せられながらも余裕の笑顔は崩さない。トオルは異能を封じる手錠を取り出した。


「その狂わせた霧を出していたのはお前だろう」

「そのとおりですね」


手錠をはめて無理やり立たせる。霧が消えて赤い女児も倒れてしまった。

トオルはマコトを女児の介抱に向かわせる。マコトは素直に従った。


「あーあ、女王が離れてしまった」


謎の一言のあと、少年は吐血して体勢を崩す。何が起こったのかとサイコメトリするより早くマコトは焦った様にトオルに手錠を外す様に叫んだ。


「多分封印で生きるのに必要な魔力が足らなくなってる……!」

「なっ……!?」


大急ぎで手錠を外して、マコトが女児を抱えて側による。周りの人間の魔力を回復させるパッシブスキルによって最悪な結果は避けられただろう。

少年は口についた血液を服で拭って大人しく座っている。一応拘束魔法で縛られているが。


「……僕はね、実験の末核にはほとんど魔力がのこってないんです。取り込んだコアと魂で生きているんです。脆いのがプロトタイプの欠点ですね」

「随分口が軽いな」

「女王に教えているんですよ。欠点は解消されているはずですが、貴女も封印……あ、女王が消えかけていたのはそのせいか。知らなかったとは言え魔女も酷いことをしますね」


それを聞いてマコトは少年の胸ぐらを掴む。


「母さんは、知らなかったの!?」

「クローンを産まされる程度の認識だったでしょうね。その時は僕も赤子で詳しくは知りませんが」

「じゃあ、なんで……なんで、殺したの!?君が……!」

「真実を知った魔女が合意したんです。本当は貴女も道連れにと希望されていましたが」


ピクリと胸ぐらを掴む手が震える。

マコトの顔色がみるみる真っ青になっていった。


「なんで私は見逃したの……!?」

「魔女は居場所までは教えてくれなかったんです。そして僕には見つけられなかった。貴女が封印されていたから。だから仲間に協力を求めていましたが、全然……。その間に貴女が覚醒してしまいました。もう僕には殺す理由が無くなってしまいました」

「なんで!?」

「……よく考えたら貴女は妹なんですよ。封印が長引いて弱るなら殺せます。覚醒してこっちに来るなら……あの忌まわしい実験台にされるなら殺せます。そっちで人間として扱われるなら、殺す理由がありません。しかし上層部はそうじゃないです。貴女を捕らえて実験なり兵器なり使い道はたくさんあるでしょう。だから」


突然少年はマコトの真っ青な唇に口づけた。血の味と共にコロッとなにか塊を渡される。

口に入ったそれを吐き出してマコトはソレを見る。金色に輝くコアだった。


「僕は貴女から手を引きます。ミカさんと戦って死ぬなり、生き残るなり、逃げるなり、好きにしてください」

「これは……母さんなの?」

「ミカさんの魂をコア化させたものです。これもこっち側に取られたらマズいですよ」


ニヤリと笑う。

手を引くも何もこれから捕らえられるのだが。トオルは口を出さずに聞いていた。そして階下から増援の気配がしてくると少年は立ち上がった。


「動くな」


トオルは拘束を掴んで捕らえる。階下の増援は協会側だが、少年は余裕を崩さない。


「最後に名前、教えて」


マコトは尋ねる。少年は優しく笑った。


「ニスと呼ばせてます。名前なんてないから」

「トオル!応援を呼んできたぞ!」


溶けた階段を下に控えていたタカシが飛び越えると、待っていたかのようにニスは消えてしまった。テレポートしたらしい。


「あっ……!」

「仲間が控えていたか……」


タワーの外にはたくさんの赤色灯が回転していた。

パトカーに消防隊、救急車…

霧に包まれていた人間たちは霧が消えた瞬間より一様に気を失っており、一人一人が担架によって救急車へ運ばれて行った。

犠牲者も同じく……身体の残った部分を集められ、人を一人包める袋へそれらしく設置され、目隠しのシートをかけられ同じく救急車へ……


マコトは母の墓に縋ってじっとしていた。金のコアを握ったまま。

暫くそうしていると手が空いたトオルがマコトの元へやってきた


「あ、トオル」


気付いたマコトが声をかける。男性声だ。


「女王とやらはどうした?」

「疲れたからって寝た」


埃を払って立ち上がった。まだ顔も洗ってない、服も着替えてないで血まみれだ。トオルは協会にケガの手当てをされて頭に包帯を巻いている。


「怪我、大したことなくてよかったな」

「殆ど気を失ったフリだったからな」

「何処から聞いてたんだ?」

「ほぼ全部だ」

「おー怖」


マコトは苦笑する。やはり顔周りが血まみれだ

トオルは服の裾を使って血を拭ってやった。口周りを特に念入りに。


「うわっぷ……!?……そんなに酷かったか?」

「……。吐血しといて酷くないわけ無いだろ。治療班に診てもらってこい」

「後でいい」

「良くない。顔色も悪い」


細い手首を掴んでタワーの外へと向かう。

道すがら、マコトは呟いた。


「……俺、生きてて良いのかな」

「生きると決めたんだろう?誰も文句を言う権利は無いはずだ」

「そうかな?こんな継ぎ接ぎで出来た化け物だぞ?」

「世間ではただのレベル10ですら化け物だ。大差はない」

「……そう、かな……」


手の中に転がる母のコアを眺める。

母は共に死ぬことを望んだ。それだけ自分の存在を危険視したのだ。

でもそれならニスに場所や特徴を教えるはず……。

分からない。母の気持ちが分からない。


治療班のいるテントに押し込まれたところ、中にいた職員……特にルカにギョッとされた。ルカはテントの隅に彼女を押し込み、服をめくり上げ腹部や胸部を確認する。痣一つない。

吐血したことを伝えると、腹部に治療魔法を施すが、入院を勧められた。しかしマコトは柔らかく、そして頑なに入院を拒否する。そして自力での帰宅を希望した。

ルカは体調の悪化があればすぐに受診することを約束させ、荷物の中から着替えを押し付ける。公共交通機関で帰るならあまりにもひどい格好だからだ。

動きやすいデザインだが、絹のような風合いで洗うときは一般家庭の洗濯機で良いのか悩みながら受け取り、着替えができるスペースに案内される。


「うわ……」


そのスペースに鏡が立てかけてあって、自分の格好を鏡に映して初めて気がついた。血液の付着は分かっていたが、腹部に穴があいていた。顔色は土気色で、顔についた血液もトオルが拭ってくれたとはいえかなり跡が残っていた。拭ったときには血液が乾いていたんだろう。特に唇付近は赤くなるほど擦られていた。そういえば母のコアを口移しで受け取ったときに触れた所だ。


「……、なんで?」


いや、彼も吐血していたし、他人の血液と粘膜が触れ合うのはそりゃ良くないか。だから念入りに拭いたんだろう。

拭いたところで仕方がないが気分の問題だ、うん。

マコトは柔らかい布地に袖を通して、タワーのトイレを顔を洗いたいからと借りて水道で洗った。まだ土気色だが血は綺麗に落ちた。


そういえば夕立はいつの間にか止んで、赤い夕日がとても綺麗に広がっていた。

その夕日が榎本ミカが亡くなったと知らせを受けた日の夕方と重なって目頭が熱くなる。


「なんで……」


もう何度返事のない問いを繰り返しただろう



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