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輝石の還る場所  作者: すす
1章
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6/16

Episode6

勉強はつつがなく進んでいく……わけもなく。

机に突っ伏したマコトは目を回していた。散々教え込まれてそろそろ脳がオーバーヒートしそうだ


「またここ間違えてるぞ」

「範囲が広いんだってー……。もっとヤマはったりはしてくれないのか?」

「ヤマで試験を乗り越えてもその後が困るだろ」


授業についていけなくなる事を危惧したトオルは敢えてヤマをはらない教え方をしていた。無論大事な部分に重点をおいて教えてはいる。だがそれ以外もミニテストに出す。それと今までの知識を応用した小難しい問題も。

トオルは教科書をめくってここに書いてある事を使うと説明を始めた。


「そういえばアカ学って紙の教科書なんだな。俺んとこタブレット」

「……ああ、昔タブレットにしたらしいが、生徒の学力が下がって戻したらしい」

「ぐぬ……そういえば検索機能で隅から隅まで教科書読むとかしなくなったな……」

「なら教科書は読んだことあるのか」


マコトはムッとした表情をして、しかしへちょっと机に突っ伏す。


「どーせ最初だけですけどねー」

「そこから不登校か?」

「そう。母さんが今年に入った頃死んで、しばらく頑張ったけど入学式あたりから無理だった」

「……」


流石に悪いことを聞いたか、とトオルは黙ると、マコトはガバっと頭を起こしニマニマと笑った。


「中学の時も結構サボリ気味だったけどな」

「髪の毛程の同情を返してくれ」

「髪の毛ぐらいかよ!?……まあ、母さん、危ないことしなければその辺自由にさせてくれてたからな」

「今は危ないことはしてないだろうな……と、」


単身の魔物狩りを続けていないかツッコミをいれようとしたところで、トオルの傍らに置かれていた端末が鳴った。画面には「岩城タカシ」と表示されている。テレビ電話のようだ。


「ちょっと待ってろ。……嶋原だ。任務か?」


端末からホログラムで筋肉男の顔が映し出される。


「やあトオル、起きてたか。体調はどうだ?」

「……普通だが」

「じゃあ結構良いんだな」


キラッとタカシは爽やかに笑った。と言っても筋肉の浮き出たTシャツも映し出されているせいか暑苦しい。


「本題だが俺達が必要になりそうな事件の予知反応が出ているらしい」

「確定はしていないのか」

「まあな。けどもお前の体調聞いといて損はないだろうと思って電話してみたぞ。悪ければルカとレイカペアになるが、攻撃力で言えばこちらの方が強いからな」


ハッハッハとタカシは笑う。


「それで事前情報なんだが……」

「ちょっと待て、そばに部外者がいるから場所を変える」

「大丈夫だ!そこまで情報も濃くないからな。トオルに連れがいるならそのほうが……」


マコトが脇で聞いていて、初対面の筋肉男のイメージと一致している。次の日廊下で会った時は恐ろしく挙動不審になってフラフラフラと廊下の反対端……一番マコトと距離を取る位置まで離れ、壁に頭を打ち付けてそのまま固まっていた。案内していた海の少女に放っておけと言われて声をかけなかったが、嫌われるような何かをしたか?と胸につっかえていた。

その為2人の会話に興味を持ったマコトは首を伸ばしてトオルの側による。


「あ……!」


タカシは数瞬反応が遅れ、ガタガタガシャンと派手な音と共に、タカシの顔がぶれ、次に画像が安定した時にはタカシの靴が映し出されていた。

どうやら端末を落としたらしい。

そこでようやっとマコトがカメラに映り込んだ事に気付いたトオルは馬鹿と叱るが……時既に遅し。事前に説明して置かなかった自分が悪い。


「……すまない。先に場所を変えるべきだった」


声は届いているのか不明だがトオルは電話向こうに謝る。

反応がない。気絶でもしたか?いやでも立ってるしな……とトオルは思案する。


「お……」

「お?」


もう見られたなら自分も参加して良いだろうとマコトがオウム返しする。

ホログラムに映るタカシはドスンとあぐらを組んで座った。ギリギリ顔が入る。その顔色は茹でたタコの様に真っ赤だった。


「お、おおお前自分の部屋に女子を連れ込んで何をしているんだよぉぉぉぉぉ!!!」

「はあ!?」


トオルとマコトが同時に叫ぶ。カメラに映る背景からトオルが自室にいる事が分かるのは分かる。そこから女子がぬっと顔を出してきたことから不謹慎な想像をかき立てられるのも分かることは分かる。だが激しい勘違いだ。


「女に興味はないって普段からクールに言ってただろおおおおお!!!この裏切り者おおおおお!!」


そこでマコトは気づく。今日は男装をしていない。マコトだと相手は分かってないのではないか?

トオルの服の裾を引っ張ってこっそりその事を伝える。視力が弱いトオルはその事をあまり意識していなかった。更にやらかした……と頭を抱える。女性苦手なタカシがマトモに女性の顔を覚えられるほど凝視出来るわけがない。しかも今は電話越しで匂いも届かない。それにしても声が大きい。鍛えられた腹筋から出る声はここまで通るものか……。


「あ、あのな!筋肉の兄さん、俺だよ俺!」

「俺っ娘かよ!!そういうのが好みだったのか!!」


とうとう泣き出した。駄目だ、電話越しでは手が付けられない。どうしたものかと困っていると、電話の奥から落ち着いた女性の声が近寄ってきた。


「一体何にそれほどのショックを受けているんですの?」


端末の映像から、恐らくその声の主がタカシの端末を拾ったのだと思われる。そして、髪を前下がりボブに切りそろえた和服の華麗な女性が映し出された。


「あら、トオル君ではありませんこと?どうなさいました?」

「……そこの勘違い野郎にコイツが誰か教えてやってほしい」


やっと解放される、とトオルは頭を抱えながらマコトを親指で指さす。

電話の奥からおいおい泣き声が聞こえる。


「えっと……ああ資料で見ましたわ。金の瞳の覚醒者さんですわね。マコトさんとおっしゃったかしら」

「アカ学の下りは知っているか?」

「ええ。ルカに聞きましてよ」

「今勉強を教えてたところだ」

「タカシさん女性が苦手な割に惚れた腫れたも敏感でいらっしゃいますものね」


女性は苦笑して、傍にあった机にでも端末を置いたのだろう。座ったまま泣き続けるタカシの顔が映る。


「……おしとやかな姉ちゃんだな。誰?」

「ルカ…海にいそうな女とペアを組んでいるレイカだ。あと、おしとやかと言う表現は間違っている」

「タカシさん、彼女はあの時助けた覚醒者さんですわよ。勉強を教えていたんですって」


タカシに中腰で近寄ってレイカは話しかける。しかし……


「俺を差し置いてトオルがぁぁぁあ!!仲間だと思っていたんだぞぉぉぉ!!」

「もう……」


すると信じられない映像が流れた。和服の女性、レイカがタカシの胸ぐらを掴んで持ち上げたのだ。


「……お話聞いて下さる?触りますわよ?」


ドスの効いた声が電話口から響く。

思わず「ひぇ!?」とマコトは悲鳴を上げた。一種のホラー映像の様だ。


「ま、ままま待ってくれ!い、いくらレイカでも、さ、流石に触られたら……うわぁぁぁぁあ!!!」


電話が切れた。

バッテリーが切れたか、近くにほかの誰かいたか……

ため息を吐いてトオルが端末をポケットにしまうと、小さな振動に気付く。

トオルの服の裾を掴んでチワワのように震えていた。


「……何してるんだ?」

「お、俺……!ホラー苦手で……!」

「ホラーなんかあったか?」


トオルは見慣れているから気づかないだけだった。レイカの変わり身とタカシの悲鳴はホラー嫌いのマコトには十分刺さった。特に電話が切れた演出が怖かった。マコトは必死に説明する。震えながら。

ああ、もう、あっちもこっちも面倒臭い。


「ココア淹れてやるから落ち着け」

「あう……」


台所に向かうトオルの後をよたよたとマコトはついて行く。一人にしないでほしいと言うことらしい。この足取りでは階段から落ちかねない。


「……ったく、どいつもこいつも……!」


仕方なしに彼女の手首を握って少々乱暴に階段をエスコートする。力の使い方を分かっていれば階段から落ちたところで飛べるだろうが、制御装置なしで飛ばすのはリスクが伴う。コレが一番面倒がない。

リビングのソファに座らせ、見えるところにある台所でココアを淹れる。

そしてマコトに渡して、トオルは自分用に淹れたコーヒーを煽った。


と、ポケットに入れていた端末が震える。協会のグループメールだ。トオル宛にレイカからメールが来ている。


『今から謝りに向かいます』


今はまずい。目の前のチワワがまた怯えるかもしれない。

急いで後でいいと打ち込むが、その前にインターホンが鳴った。


「な、何!?」


ほら怯えた。トオルは頭を抱えるが向こうも無下にするわけにもいかない。


「タカシとレイカだ。出てくるからここにいろ」

「危ない目にあったら声出すんだぞ……!」

「……まあ、その時は一人で逃げろ」


冗談で返して、玄関へと向かう。そしてドアを開けて皮肉たっぷりな表情で迎えた。


「お早い到着だな」

「丁度テレポートの使える執事がおりましたもので……」


おほほ……と鉄扇で口元を隠して笑うのはレイカだ。かなりのお嬢様であり、コレで大学院生だ。

で、隣にいる大学生の筋肉男……が、鼻にティッシュをつめたまま、小さくなっている。何があった?いや深くは聞くまい。


「この度は、この人が大変申し訳ございませんでした」

「すまなかった」


2人揃って深々と頭を下げた。


「……変な噂になったりしないだろうな」

「識エリアのトレーニングルームでしたので人目は少なく済みましたわ。ちょっと怪しいお方はちゃーんとお話しておきましたのでご安心くださいませ」


識エリアというのは協会の建物の中央部の事だ。関係者以外立ち入り禁止のエリアだと思ってくれていい。よってまず入れる人が少ないから大丈夫とレイカは言う。まああれだけの大声で外に声が漏れた可能性も否めないが、レイカなら抜かりないだろう。


「……わかった。ならいい、わざわざすまなかったな」

「とーこーろーでー、わたくしマコトさんにご挨拶したいのですが紹介してくださいませんか?」


やっぱりそう来たか……。さて、今は会わせたら面倒が増える。どう断るか。足の速さからしてもう帰ったも通じない。


「……生憎だが、あの仔犬は意外と怖がりなんだ。電話が切れるのが遅かったな」

「あら、見てらしたの?」


あらら、とわざとらしく目を丸くする。


「……でも、トオル君が仔犬と表現するなんてとても可愛らしいお方ですのね。ご本人が嫌がったら大人しく帰りますわ。ね?未来の仲間に挨拶もなしだなんて御堂家の名が廃りますわ」

「……ッ」


レイカは少しだが未来を見通す力を持っている。ちょっとしたことしか見えないが、確実に言った、『未来の仲間』と。そう、トオルやタカシ、ルカやレイカに共通している、特級ライセンス持ち……つまりはレベル10に近い彼らが協会に雇われてる理由……その力を世のために振るう事で異能者として存在することを許される資格を持つ日が来ると確信している。


「アイツはレベル1だが?」

「やだ御冗談を」


コロコロと笑うレイカに勝てる気がせず、ため息を吐いて玄関を通す。そしてリビングに案内した。

リビングではココアを飲んで手足があったまり、ようやっと精神的に落ち着いたマコトがくつろいでいた。

足音を聞きつけてトオルが帰ってきたと思ったマコトは明るい笑顔で振り返る。

……と、その先には鉄扇で口元を隠して笑うレイカがいた。


「ひゃ!?」


反射的にソファを身軽に飛び越して身を隠す。

そしてにゅっと顔を出してトオルの無事を確認した。渋い顔ですまない、とポーズをする。


「はじめまして。わたくし御堂麗華と申します。予想通り可愛らしいお方ですわ」

「か、可愛いって……俺が?」


怪訝な顔をしてレイカを睨む。レイカはその目すら悦んでいるようで、鉄扇を帯に挟んでスッとマコトに近寄った。ビクッと怯んだマコトは距離を取って今度はトオルの背中に隠れた。


「ほら可愛い」

「かーわーいーくーなーいー!」

「うっ……」


そんなやり取りの中で苦しそうに膝をつくタカシ。口元を押さえて今にも吐きそうだ。

マコトは思わず駆け寄ろうとするが、トオルに止められた。首を横に振られる。


「タカシさん、吐く前にやることがありますわよね?」

「……とは言ってもこの匂いじゃ……」

「マコトさんは半分男性ですわ。以前も暫く耐えられたのはそういう事です。筋は通しなさいませ」


タカシはマコトに向かって頭を下げた。

えっ、とマコトは後退る。


「さっきは騒いですまなかった。その前も女性の身体にみだりに触ったりして……」

「え!?いや、別にわいせつ目的でもなし……」


さっきはわいせつな事を考えて騒いでいたのかもしれないが……鼻栓をしてまで謝る意思があるなら別に気にしない。


「えっと、匂いでもするのか?」

「ケーキより甘い匂いを女性から感じて……酔う」

「あーね……じゃあ、こうか?」


とんっとタカシの額をつっつく。

触れたところから金の光の波が走った。


「ん!?」


フゴフゴと鼻を動かし、匂いを嗅ぐが匂いを感じなくなった。鼻栓を取って鼻を鳴らしてみても同様だ。

タカシは途端に顔色を良くして立ち上がった。


「今のは何だ!?女性の匂いが消えたんだが……!」

「土属性じゃないけど真似できるならやってみればQOL上がるんじゃないか?無理でもここの爺ちゃんならこの魔法の機械作ってくれると思うぞ」

「本当か!?ありがとう……!」


ギュッとマコトの手を握る。マコトはそれならよかったとニコッと笑った。

その笑顔に刺されたタカシは一気に顔色を紅潮させる。


「さ、さっそく練習してくる……!」


そう言って慌ただしく帰っていった。


「……あれ感能力の一種じゃないか?」


ふう、と息をついてマコトは強く握られた手を揉む。手首が赤くなっていた。


「……馬鹿」


それはそれとしてトオルは苦虫を噛んだような顔でマコトを罵倒する。何で…!と言い返そうとして、ハッとレイカの方を見やる。


「アレが感能力ならあそこまで封じる魔法はありませんわ。制御装置ですら最近できたモノですもの」


ニッコニコで答えた。ゾッとして顔色を青くする。


「教科書内の常識でいっぱいいっぱいなんだ、余計なことはしないでくれ」

「えっ……ええ……!?」


慌てたマコトはレイカの傍に寄って両手を合わせて頭を下げた。


「お願いします!暫く黙っててください!」

「あら、暫くで良いんですの?」


逆に驚く様子を見せる。マコトは唸りながらトオルに目配せした。何処まで話していいか、と。


「……コイツと秋草研究所について何か見えることはあるか?」


唐突にトオルは尋ねた。そんな核心的な事を話すか!?とマコトは焦るが、トオルの目は真剣そのものだった。

ふむ、とレイカは真剣な眼差しをマコトに送る。緑の瞳が妖しく光った。


「……見えませんわ。指定されたら何かしら見えるものですが」

「その結果を踏まえて任せる」

「任せんのか!?」

「未来予知ができる奴には判断を任せたほうがいい」


目を逸らす。ある程度情報を与えて良いように転がしてもらったほうがいい。トオルはそう判断した。特にマコトのことは未来の仲間と言っている。それならマコトに悪いようにはしないはずだ。マコトは不服そうだが、トオルが判断するなら……と黙った


「……成る程、分かりましたわ。何処かしらと事を構えるつもり、と……。では質問させていただきます」


彼女は鉄扇を再び帯から出してマコトに向けた


「マコトさん、人を殺す覚悟はお有りですか?」

「へ……?」


その質問を受けた黄金の瞳はあまりにも無垢だった


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