Episode12
それからシオンは協会本部に保護される形となった。研究所が計画している事を伝えるかわりに協会にある一室で護衛付きで暮らしている。
少し息苦しいけども、生きるためだから……と面会の時シオンは笑っていた。
そしてシオンからの情報により、秋草研究所はモンスターの最強種を支配下に置く計画をしていたことも分かった。支配する道具がそろそろできるのではないか、と。
「シオンって、下っ端の割には組織の事詳しいよね」
「識だから、情報が勝手に入ってくるんだよ。……あと、アレックス様には信頼されてたからね」
「アレックスってあの青ミミズ髪だよね?寝返ってくれれば良いのに……」
青ミミズって……メッシュの事?とシオンは苦笑する。そして寂しそうに無理だと言った。
「……俺だって保護されてるのが不思議な位罪を重ねてるんだよ、アレックス様はもっと色々やってる。人前に出る人だから。だから無理だよ」
そう言うシオンは寂しそうであった。
そして数日が経ち、場所はとある雪と氷におおわれた島に移る。
シオンの情報をもとに協会で調べたところ3匹のモンスターのうち1匹がこの島、雪花島に居るとの情報が手に入った。
同様に他2匹の情報も手に入ったが、そちらはそれぞれ特級ライセンスを持ったルカ、レイカ、タカシ、未だ会わぬ火の特級ライセンスの持ち主が手分けをしてモンスターの捜索、発見した場合凶暴性がある場合は退治、危険なしと判断された場合はかわいそうであるが住処を追い出し行方不明にさせることを目的として現地へと向かった。
マコトとトオルもその任に就き、北方にある雪花島へと訪れたわけである。
「涼しー…」
季節は夏真っ盛り。島には雪と氷が残るが照りつける日差しは強く、地面からの冷気は半そでで心地よいものであった。
しかしトオルは持参したコートを羽織る。
「洞窟の中は夏といえど極寒だ。観光に来たわけじゃないんだぞ」
棘のある忠告をTシャツ短パン姿の少女に言い捨て先に進んでいく。
マコトは頬を膨らませ、あとに続いた。
「分かってます~!ちょっとぐらい遠出を楽しもうとかそんな余裕ないのか?」
少女は腕にかけていた上着を羽織りながら小言を言う。
少年はため息をついて
「何でおれがコイツのおもりなんだ…」
そう、ぼやいた。これから向かうモンスターの属性は事前の調べでは氷属性。水属性の派生だ。
水属性のルカでは攻撃が凍らされてしまえば無力化されてしまうため除外。3匹のうち火属性であるらしきモンスターの現地へ。
木属性のレイカも冷気との相性が悪く空属性らしきモンスターのもとへ。
火属性のライセンス取得者は氷担当にはうってつけであったが雪花島が遠いため扱いに慣れている火のモンスター担当。
地属性のタカシは……こちら担当でも問題なかったのだが当人が拒否。レイカと組んだ。……匂いを封じる魔法がうまくいかないと本人談。
よって余った汎用性の高いこの二人が雪花島にいくこととなった。
「決まったことだから文句言わないー!ていうか文句ならタカシに言え!……勘封じがうまくいってないなら私の方が楽なんじゃないのって思ったんだけど…私半分男みたいなもんじゃん」
「本当にわかってないんだなニブチン」
シラーっとトオルは後ろから付いてくる少女を睨む。
本人はああ言ったが言い訳に過ぎないのはマコト以外全員が察した。
「だって皆に聞いてもごまかすだけで教えてくれないんだもん!」
憮然と言う。一途な青年の気持ちなど他者から伝えるものではない。
しかもその想いは他者視点完全に一方通行なのだから。
「言っても無駄なだけだからな」
「またそうやって馬鹿にする!元々そうだけど何?機嫌悪い?」
タワーの一件以降トオルに少し距離を置かれているように感じていた。思いつくことと言えば生まれの話だが、生きることには肯定的だった。
「……魔力不足で普段から苛々してるだけだ」
「それでも面倒見すごくいいじゃん。最近の話だよ」
「…雑談は良いからキリキリ歩け。」
そう言って少年は歩を速める。
洞窟にたどり着き、一歩中に入るとそこは別世界だった。
凍りついた壁面は美しく輝き、まるで水晶の様。そして一気に気温も下がって吐く息は白くなった。
「綺麗だねー。」
いつの間にか横について少女は感嘆の声をあげる。そして一歩踏み出したとたん
「うわっ!?」
滑って転んだ。
「いたたた……滑る……」
盛大に打った尻をさすりながら今度は滑らぬよう慎重に立ち上がりそして…
「ふぎゃっ!?」
滑った。
その様に流石に少年も笑う。鼻でだが。
少女は座ったまま「少しは助けてよ!」と憤慨するが
「氷まみれだって分かってたのに用意しない方が悪い」
そう言ってトオルはスパイクのついた靴でザクザクと奥へ進んでいった。
その後ろ姿を見送って少女は溜息をつき軽く精神を集中する。
するとふわりと腰が上がり、さらには足すら地面から離れ、体が浮き上がった状態になった。
そのままトオルを追いかける形になり。
「準備がなかったわけじゃないし」
追いついてむぅと頬を膨らませた顔を見せた。
「…念動力の強さからやれるとは分かってたがやっぱり器用だなお前」
「器用さには自信がありますし」
一転してふふんと得意げにマコトは笑い、そのまま隣を飛び続けた。
時々褒めてやればいいのだな…少年はマコトの扱い方を一つ学ぶ。
そのまま歩き続けること十数分と言うところで狭い道から大きな空洞へと出た。
岩と氷の天井から漏れた光がその奥に鎮座する“それ”を照らす。
その光景があまりにも幻想的でトオルすら小さな吐息を漏らした。
直径5mはあろうかと言う大きな氷の塊の中に白馬が眠っているのである。
一角を生やし、青いたてがみが美しく、閉じられた瞼のまつ毛もまるで年頃の少女のように長い。
「これが例のモンスター?」
マコトは興味をひかれた様にふわりと飛び上がり、氷漬けの白馬に近づく。
ひやりとした感触の氷に触れ、そっと額をつけて目を閉じた。まるで会話を交わしているかのように…
トオルも慎重に近付き氷に触れる。そしてサイコメトリーの回路を開き、白馬の情報を読み取った。
ガラスが砕けたような心象風景の中に時々白馬の記憶らしき風景が通り過ぎる。
元々このモンスターは争いを好まず、この洞窟を巣に気ままに暮らしていた。
その時は一頭ではなく数頭の仲間がおり、白と氷の蒼の風景に数頭の馬が駆ける姿が通り過ぎていく。
しかし時の流れと共に一頭、また一頭と倒れていき…彼が最後の一頭となった。
独りとなった彼は寂しさに嘆いた。そして自分ももうすぐ仲間の後を追えると思っていたがその時間は存外長く…嘆きに耐えきれなくなった彼は自らの魔力で氷漬けとなり…長い眠りについたのだった……。
「寂しそう……」
上空で氷に触れていた少女はぽつりと呟いた。
彼女には透視の能力は無いはずではあるが、そう言ったことには敏感なのか憂いを帯びて目を開ける。
「こいつが最後の一頭だな……。自分の意志で氷に留まっているらしい」
「そうなんだ……」
少女はトオルの隣まで下降し、青の瞳を見つめる。
「どうする?指令では退治か逃がすか…だよね。」
「……どちらかと言えば逃がすしかないだろう。狂暴ではなさそうだが研究所には狂暴化の手立てがある。」
途端氷に触れていたトオルの指先が凍りつく。トオルは慌てて手をひっこめ、飛びのいた。
指先に、【灯】と小さな火を灯し、氷を溶かす。
少女も一歩遅れてトオルの位置まで後退した。少しずつ氷の結晶が広がってきているのだ。
「起こされたくないらしいね…起こすのやめよう。」
「しかしここにいる以上あいつらに見つかるぞ」
「だって――」
少女は白馬の一角を眺めながら
「多分私たち二人で本気になってやっと氷を溶かして……、その上大人しく逃げてくれるとは思えない。」
「っ……」
トオルは手を口に当てて思案する。
モンスターの異能力は人間の高レベルでようやっと同レベルとなるほど強い。
見た目は美しく、大人しいがこの幻獣…闘えば自分たちは高レベルとはいえかなり苦戦するだろう。
氷を溶かした後の体力の消耗を考えると勝ち目はかなり薄い。
ならば…
「洞窟をつぶす…か」
「トオルって思ったより凄い事考えるね」
少女はあきれ半分驚き半分で答えた。
自らの火魔法で温まった手で頭をかきながらトオルは唸る。
「逃がせない倒せないなら奴らに見つからないようにするしかないだろう。実際にこいつは自分を包む氷の範囲を広げようとしている。」
「まあね。実は私も同じこと言おうとしてた。てっきりトオルには反対されると思ってたから吃驚したけど」
ニコッと笑って少女は氷の塊へと飛んでいく。
「じゃあまず私の方からも氷を厚くしてやろうかね。」
「そうはさせないわ」
女の声に二人は振り向く。
燃えるような赤い髪を団子に纏め、余った髪をポニーテールのようにに垂らし、露出の高い服を纏った大人の女性が蒼い世界に炎の様に立っていた。
「誰!?」
「アタシはディア。ニスの第一の配下…と言うか子守り役よ」
「ディアってニスと姿を消したって話の……むが!?」
トオルに口を塞がれる。そうだ、これはシオンからの情報だった。
「あら?私達の他にもまだ裏切り者がいるのかしら」
シオンの事は知らないようだ。下っ端一人抜けたところで気にならないか、それとも……
「研究所を抜けといてまだ組織の為に動くのか?」
「違うわよ」
手をヒラヒラさせてディアはため息を吐く。
秋草研究所とは別の人間としてここに来たのか。2人は目を合わせる。
「……ああ、飛んでる方が、ニスと同じ生まれのマコト……だったかしら。ニスが絆されてあれこれ喋ったらしいわね」
「まあね……秋草研究所はこの子を使って戦わせるつもりらしいけどディアはこの子をどうするつもり?」
「食事、そう言えばわかるわよね?」
食事といえばアレだ。魔力補充だ。
でもそれなら、ニス本人が来ればいいじゃないか。お世話係が単身で来る必要なんてない。
「ニス……、具合悪いの?」
「……、当たり前でしょう。魔力の大半を頼っていた魔女のコアを渡しちゃったんだから」
「……!?」
そんなこと彼は一言も言っていなかった。そして榎本ミカの死亡時期からして魔女のコアを手に入れたのは今年になってから。ニスはマコトより長く生きているはず。ソレまで大量殺人で生きてきたとは考えにくい。
「魔女のコアを手に入れるまではどうしてた、って顔ね。自分の核の魔力をじわじわ消費しながら強いモンスターのコアで生きてたわよ。モンスターのコアだといずれ消費されちゃうけどね」
「元の生活に戻ったって事?」
「そういう事よ。少し補充の時期を見誤って今寝込んでるけどね」
「そんなに大事なものだったなら返……」
首飾りを取ろうとしてトオルに止められる。本当のことか分からないから、と。
「嘘ついてどうするのよ。だから邪魔しないでちょうだい。回復能力のあるユニコーンならまだ長く保つ可能性があるんだから」
腰に携えていた鞭を持って、地面へと垂らす。鞭が触れた部分の氷が少し溶けていた。
マコトはくっ……と表情を歪めて黙り込む。真実の叩き付けと大量殺人で傷付きもしたが、母親のコアは返されており、もう秋草研究所と関係がないなら邪魔をする理由がない。
だが、ユニコーンと呼ばれるモンスターの気持ちを考えると撤退することも出来ない。
すると、氷の厚みが急速に増して、氷に巻き込まれそうになった、炎の盾を展開してマコトとトオルはユニコーンから距離を取る
「手伝えって言ってないのよ、邪魔だけはしないで!【我が武器に宿れ:炎龍】!」
女は詠唱とほぼ同時に氷へと鞭を振り下ろす。
ビシビシと氷にヒビが入り、氷のかけらが地面に落ちていく。
『私の眠りを妨げるものよ…』
直接脳に響く美しい声が場に響き渡る
「ユニコーン!?」
マコトが叫んだ。トオルは気づいていた。ユニコーンは怒りの魔力を放出していることに……
「マコト下がれ!奴はやる気だ!」
「でも……!でも……!」
氷が砕け散って一角の白馬が地面に降り立つ。
マコトだって分かっていないわけではない。
ディア一人では勝てない。
『私の力が欲しいのか女よ……』
「そうよ!大人しく倒されなさい!」
女は興奮気味に語りかける。だが…
『生憎だが貴様らが期待するほどこの老体……魔力など残っておらぬ』
そう言って美しい白馬は前足をあげ嘶く。
その瞬間――
ザクリと、気味の悪い音が響いた。
白馬はその体制のまま止まった。胸に地面から伸び出た蒼の氷柱を突き刺し、美しいオブジェの様に……
氷柱は自らの役目を終えると砕け散り、白馬はその場に倒れ伏した
「な……んですって……」
胸に風穴の開いた白馬を立ちつくし見下ろす赤い女は言葉を失っていた。
マコトもトオルも例外ではなく言葉を失う。
『私は仲間の元へ逝く……疾く去るがいい、我が理解者よ……』
その言葉を最期に……自らの命を絶った白馬の体は粒子が散るが如く消え去って行った。
そしてコロコロと魔石が落ちる。黒い魔石、くすんでしまってマコトが今までに見た魔石とは違った。邪気抜きをしてもコアとして役に立つかどうか……。
その後の異常にいち早く気付いたのはトオルである。
「マズイ、逃げるぞ……!!」
その叫び声とほぼ同時に天井から垂れ下がった氷柱の一本がディアの髪を掠め地面に当たって砕け散る。
「洞窟が崩れる!」
「ちっ……失敗ね」
女は振り返って踵を打ち鳴らそうとする……が
「待って!!」
彼女がテレポートするより早く、マコトはディアの服を掴んでいた。
「何するの!アンタも巻き込まれるわよ!」
「まだ帰らないで!お願いだから!」
「ッ、……!」
ディアは離脱を諦め、彼らと共に走り出した。
その間にも天井から氷柱の雨が降り注ぎ上空の彼らを攻撃する。
マコトはいち早くトオルの元へ飛び、炎の膜と念動力による物体浮遊で氷柱から3人を護る。
「どうやらユニコーンの魔力で成り立っていた洞窟らしいな!素晴らしい最後だ!」
皮肉たっぷりに叫んで出口へと走る。
マコトもそれを追い、天井からの岩や氷柱を弾く。
彼らが命からがら洞窟から出た瞬間、入り口が瓦礫に閉ざされた―
大きく息を乱し、青空の下で腰を下ろして3人で地面に汗を落とす。
「これでッ……満足、ッかしら……!」
「おまえっ…」
熱い息をのみこんでトオルはマコトに詰め寄る。どうするつもりだと。
マコトは熱い息を吐きながらちょっと待ってのポーズをする。
「3分ッ、頂戴……!」
地面に木の枝で魔法陣を描き、手に握っていた黒い石を3つ、落とした。
ユニコーンが落とした魔石は1つのはず。
ディアがなにか言おうとするが、息が上がっているマコトは謎のサムズアップのポーズをした。多分意味などないんだろう
「ト……、オル……!魔力、ッ貸して……!」
「……またか」
息が整ったトオルが魔法陣を確認する。また見たことが無い陣だ。
「何も考えなくても魔力だけで行けるやつにしたから……」
「ったく……お人好しだな」
トオルが魔力を通す。銀の光に導かれて魔石の瘴気が剥がれ、銀に輝く3つのコアが合体する。そして小さな模様が描かれ、ストンと地面に転がった。マコトは出来栄えも確認せず念動力でディアへと投げて渡した。
「ふう……、あー飛び慣れないから息上がった……」
「何なのこれは……!」
「核の魂にくっついて修復する魔法刻んでみた。ユニコーン人間の言葉分かるぐらいの知能だし母さんのコア程じゃなくても近い働きするんじゃね?」
ギュッとコアを握りしめたディアは鼻がわずかに赤くなって瞳が潤んでいる。
「……何で、そこまでの事をやれるのよ……!母親の仇なのよ!」
マコトは地面に片ひざ立ちで座って不敵に笑う。男性人格が濃く出ている様だ。
「『女王』が喚くんだよ。『兄』なんだろ?……ただし、許せない部分は許せないから次は無いからな」
「ッ、礼は言わないわ」
ディアは踵を鳴らしてふわりと消えた。テレポートしたようだ。
「……何処で3つもコア拾ったんだ?」
助け起こしながらトオルは問う。
「あのユニコーン、悲しくて仲間の魔石食ってたんだよ。それでアイツだけ長生きしちまったんだ」
「……俺よりサイコメトリ強くなってないか?」
「何でだろうな、俺がコアの塊だからかもな。コア触ったら解った」
マコトも立ち上がり、今はつぶれた洞窟の入り口を眺める。
「まあ使うかどうかは迷った」
「本人は仲間の元に行けたんだろう。それでいい」
「………うん。帰ろう。」
待たせていた協会の船へと歩き出そうとしたとき、トオルの端末が鳴った。
ポケットから取り出し少年はテレビ電話の通話ボタンを押す。
画面には酷くあわてた様子のルカが映し出された。
「トオル君!?大変なことが――!!…ちょっと待って落ち着かなきゃそっちの成果はどう!?さっきから何度も呼んでるのに出ないんだもの!」
「結論からいえばモンスターの自害で終わった。」
「…そう、こちらの火属性のモンスターフェニックスは…残念ながら既に敵の手に渡っていたわ。さっき下っ端達が現地で暴れるのをどうにか追い払った所。」
「大変ってどうしたの!?」
横からマコトが顔を出す。向こうの画面もマコトを映し出したのであろう。
一呼吸、息をのみこみ、そして…
「……マコト、落ち着いて聞いてほしいの。協会が手薄になった隙にシオンが―――」
―――研究所に浚われたわ
少女の金の瞳が大きく見開かれる。
瞬間トオルの手を取り、少女は大きく跳んだ。そして何かのゲートをくぐったかのように姿が消え…後に残ったのはトオルが取り落とした端末のみであった…
その頃の秋草研究所のある街には異変が起きていた。
元々その街は周囲を壁に囲まれた閉鎖的な街であったが、ここ数週間は観光客すら受け入れぬほど警備が強固になっていた。
侵入を試みようとしたカグラも出入り口からは追い返され、周りの壁には結界が張り巡らされており、行く手を阻む。
どうしようか…彼女が思考を巡らせていると
「うわっ!?」
ばちっと何かを弾くような音とともに聞き覚えのある声がした。
そしてどさりと落ちる音が二つ…
「あら……?」
「いっつ……」
「いたたた……」
上空から降ってきたマコトとトオルが起き上がる。
各々打った場所をさすりながらそれを見下ろす少女へと目を向ける。
「…マコトにトオルじゃない。どうしたの冬の格好して」
「カグラ?…ここは…街の外…!?」
挨拶も適当にマコトは立ち上がり壁を叩く
「何で…!?街の中に座標指定したのに!」
「落ちつけ!結界が張ってある!!」
「シオンを助けなくちゃ…!シオンが…!」
壁を叩きながらマコトは叫ぶ。誰の目にも明らかなほど魔力の出力が上がり結界すら粉々にしようとしていた。
コートを脱いで錯乱する少女の肩を掴んでトオルが声を張り上げる
「落ち付けと言っているだろう!今から体力を消費してどうする!!」
「っ……!」
やっと周りの声が耳に届いたのか少女はその場にへたりと座り込んでしまった。
その横でトオルは壁に触れ、結界の質を探る。
「感応力で街の中の様子は探れるが魔法でのテレポートは弾かれた……、超能力ではなく魔法を弾く結界だな。研究員の移動手段はテレポートだからか……」
「物理攻撃はどうかしら」
カグラがどこからか拳銃を取り出してハンマーを下げ、壁へと向ける。
「離れてなさい。どう跳弾するか分からないわよ」
二人が離れたのを確認して引き金を引く。タァンッと火薬音をさせてはじき出された金属片は壁に触れた途端テレポートしてきたマコトとトオルを弾いたときと同じ音をさせて地面に落ちた。
「……衝撃吸収タイプね。」
「物理的に破壊するには骨が折れるぞ」
「だから私なら破壊でき……!」
ぎろりと睨まれてマコトは黙る。だが気持は焦るばかり。
「違いなんてわからないけど魔法がだめでも超能力なら通るんだよね!?カグラは入れないの!?」
「残念だけどあたしにはそれほどの力がないのよ。物なら……」
カグラは足元にあった手のひら大の石を放り投げるとパッと消して見せた。そして壁の向こうでドスンと音がする。
「……自信あるのだけど」
そう言ってため息をついた。
マコトが爪を噛んで思考を巡らせている間に、トオルは…
「……中心部を見つけたぞ。おそらく秋草研究所の屋上だ。」
「場所の説明してもらえるかしら?」
カグラは銃を構えた。場所さえ分かれば破壊できる、と態度が示していた。
トオルは方向、距離、高さを正確に伝え、カグラは銃口を結界へと向ける。
そしてハンマーを下げ、ふう、と一度精神を統一すると引き金を引いた。
弾きだされた弾丸は結界に触れる前に消え、数秒の間を置いた後に…結界は融けるように消えていった。
「やった……!」
マコトは壁を乗り越えようと跳ぼうとする。しかし――
「待て!」
それより早く肩を掴まれトオルに阻まれた。
「何で…!?もう結界は解けたのに!」
「お前は待っていろ!敵の狙いはお前だ!それに――魔女のコアもお前が持っているだろう」
トオルは真っ直ぐに少女を見つめる。
「お前がつかまったらこちらの手札は全て敵に奪われてしまう。何故それが分からないんだ!?」
「でも……!」
「はっきり言ってシオンの略奪は餌だ!お前をアジトに呼び込むための……お前は邪魔だ」
そう、トオルは言い放つ。
マコトはそれを受け、俯いてしまった。
しばらくの沈黙の後、マコトは小さく肩を震わせる…
…ぽたりと、しずくが落ちた。
金色の瞳が涙で揺らぐ。あれほど気丈な少女が……一瞬だがトオルはたじろいだ。
勝気で、底抜けに明るい。暗い過去すらバネにして生きる彼女が……。
「そうだよ……私のせいでシオンが……」
彼は…誰にでも心を開く金の瞳が苦手だった。恐れすら抱いていたのかもしれない。彼女の心を覗けば覗くほど…広い世界が広がっていて
温かい風が吹いていて、自分は人に触れるだけで全てを把握してしまう程の力を持ち、そのせいで……誰にも心を開いたことが、なかった。
人を受け入れる世界も精神的余裕も、ない。
だから苦手で同時に――
「どうして…そんなに他人の為に涙を流せるんだ…」
「決まってる。」
マコトは掌で目を拭ってトオルを見据えた
「“他人”じゃないから…大切な人だから」
大切に思ったものは危険を冒してでも護りたい。
おそらく本人も最初から分かっているのだろう。これが罠であることなど。それでも…
「……助けに行く。」
「……ッ」
――同時に、憧れと言う感情を抱いていたのかもしれない。
トオルにはまだ彼女を止める理論も言葉もいくらでも残っていた……しかし、言葉が出ない。
「無駄よ、トオル。この子は曲がらないわ」
沈黙を破るようにその様子を見ていたポニーテールが踊る。
「アタシの提案聞いてもらっていいかしら。」
そうスカートを翻しパチンと少女はウィンクした。
秋草研究所……ビルへの侵入は簡単であった。
結界さえ失ってしまえばマコトの魔法によるテレポートで中へ侵入。そしてカグラは目的が違うとのことで離脱。
マコトとトオルは手分けして上と下へ別れてシオンを探すことになった。
マコトは階段を駆け上がり、一部屋一部屋気配を殺して侵入して回る。
誰もいない部屋も多く、研究員が一人二人いるだけの部屋…とにかく途方もない部屋の数を片っ端から調べ、気づかれた場合は気絶させていった。
そしてある暗い部屋に入ると…
ぼうっと闇に浮かび上がったのは手を後ろ手に縛られた薄紫色の髪…
「シオン……!?」
少女は隠密していることも忘れ駆け寄る……途端、機械音が少女の耳に届く。
次の瞬間には少女の足元の床は両開きの扉の様に開き、少女は階下へ落ちてしまった。
浮遊は間に合わなかったものの着地は念動力で勢いを殺し、正面を見据えて
「罠だったか…」
唸る。少女が見ていたのは忘れもしない顔…ジェダイト号で見た青いメッシュの金髪の男…
「よう、お前の方からこっちに来てくれるなんてな。手間が省けたぜ」
アレックスが、不敵に笑う。その肩には何か…雷電を丸めたような尾を引く球体がまとわりついていた――
一方その頃のトオルは……
「ちっ……、ノイズの原因は結界じゃなくてビルか…」
シオンの捜索などビル全体をサイコメトリしてしまえば容易であったはずだった。
しかし読めどもノイズがひどく情報が読み取れない。かすかな情報をたどっても原因は見つからず……どうやらビル全体に細工が施してあるようだ。
トオルはサイコメトリーによる情報集めをあきらめ、マコトと同じように気配を探りながら一部屋一部屋調べて行った。それでも、気配を察知する能力はマコトよりは優れているため余計な戦闘もなく、だ。
そしてとある部屋に入り込む。
その部屋は室内とは思えないほど明るく、床には土が敷き詰められ、花や草、木までが生えてまるで温室のような部屋である。
トオルは気配を探りながら奥へと進んでいく
するととたんにぞわりと悪寒が走り、本能的に飛び退く。
もともといた場所の地面に黒い矢が数本突き刺さり、地面へ刺さった後霧散した。
臨戦態勢をとると、木の陰から白い少年が穏やかな顔で出てくる。
「一応サイコメトリー対策もしてたんですが…流石特級ライセンスですね」
「お前は……姿を消したはず……!」
ニスであった。ディアの姿はない。
「何のことです?僕はずっとここにいますよ?」
生気のない顔でニコリと笑う。ゾワッと寒気がした。
「……いや、お前は『違う』」
「……ふ、ふふ」
まるで人形のように笑う『ソレ』は首を傾けてズルズルと近寄ってくる。
「そうですね、僕は言わば『二人目』ですよ」
視覚情報にノイズが走る。そう言えばマコトが二人目とは言われていない。
間に何人かいても不思議ではなかった。
そしてノイズが晴れると目の前にいたのは、茶のショートヘア、金の瞳、先程まで行動を共にしていた……
「マコトの姿に変われるのか……」
「私は始めからここにいたよ、トオル」
あまりにも無邪気な笑顔が背筋を凍らせた――
「アレックス……シオンは、どこ?」
「格上には“さん”をつけろと学校で教わらなかったか?嬢ちゃん」
「尊敬してない奴は名前を呼ばれるだけありがたいと思え!」
そう叫んで光を単純に打ち出した矢が少女の背後から飛ぶ。
とたん、青年の肩に乗っていた雷電の塊のようなものが形を変え、青年の前に盾となって、文字通り立ちはだかった。
雷は光に類似した属性である。盾となった雷は光の矢を吸収してしまった。
「チッ……。」
「焦るなよ、マコト。ゆっくり話しあおうぜ」
「焦ってんだよ。お前の元部下の命がかかってんだから」
「大丈夫だ。お前がここにいる間は死にやしねえ」
青メッシュの男はニヤリと笑って返す。それが癪に障ったのか少女は声を張り上げた。
「お前の部下だろ!?良いのかよそれで!」
「……あいつは裏切りモンだ。ここに居場所はねえ」
一瞬、妙な空気が流れたような気がした。
その原因を探ろうと深く尋ねようとするのとほぼ同時に――
「さて、船での仕事をチャラにしてくれた礼をしねーとな!!」
男が手を振りかざすと雷電が少女を狙って落ちる。
少女は直感を頼りに避けるが、枝分かれした小さな稲妻までは避けきれず少しずつ少女の筋肉を鈍らせていった。
そしてとうとう…
「うっ…あああ!!!」
悲鳴が上がる。筋肉が痙攣し床へうずくまってしまった。
「ここは俺様のフィールドだ。コイツもいるしエネルギーは尽きねえ。」
そう言うアレックスの右手には電気が形を成したような斧が握られていた。
「“いる”…?」
「此奴はトール。見てくれはこんなんだが立派な生き物だ。雷には形がねえ。」
トールと呼ばれたそれは鳥のように形を変え青年の周りを飛び回ったり、竜のように形を変えまつわりついたりと動き回っている。
「…それが、空……雷のモンスターか…」
「ああ、ユニコーンは失敗しちまったがこいつは素直だぜ。少し暗示をかけただけで俺の忠実なペットになっちまった」
「この……!」
激高した少女は体のしびれなど忘れて立ち上がる。するとそれよりも早く雷を纏った球体が少女に激突した。
直撃した電気に少女は悲鳴を上げ、再び床に倒れる
「安心しな、ボスからお前は殺すなとの命令が出ているからな。…いいんじゃねーか?こっちでアイツと仲良くやればよ、ええ?マコトさんよ。」
勝利を確信した笑い声が部屋に響き渡った。
その光景を腕時計型の端末からの立体映像で見せられていたトオルは、一瞬の隙を突かれて魔力の紐で縛られていた。
愉悦に歪む黄金の瞳が背筋を凍らせる。
そしてマコトに似た生き物はトオルに視線を向けた。
「馬鹿な人だね……。大人しくプロトタイプについて来れば今こんなに痛い思いしてないのに。ねえ、トオル」
黄金の瞳は念力で自らを浮かせ、トオルの耳元に口を寄せる。甘ったるい声で囁く
「…もし、貴方が私の配下になるなら、ずっと君の好きな姿でいてあげる」
「ッ――!」
ぞわぞわと脳に毛虫が這う様な感触に脳が警鐘を鳴らす。
此奴の言葉をまともに聞いては駄目だ。ニスと同じならコレの得意能力は洗脳……意識を持って行かれてしまったら最後…抗うことなど出来るはずがない。
トオルの両頬を包むようにマコトに似た顔は両手で顔を包み、彼ら目を合わせる。ただでさえ惹かれていた黄金の瞳から目を逸らすことが出来ない。
「どうですか…?正義の為、などと言う十字架を捨てて私の所に来れば…君は救われる。光と闇など背中合わせなモノ……ただ光に生きれば制約が付きまとうでしょ?そんなもの、こっち側にはないんだよ?」
「ッ……」
「私はね、気にいってるの。その何もかも見透かす青の目が……、抉ってしまいたいほど。」
マコトは妖艶に笑う。トオルの青の目はとうとう……虚ろになり、首の力が抜けるように項垂れてしまった…
別行動を取っていた黒いワンピースの少女には探し物があった。
別件で奪った魔女のコアは手元にはないが、それを能力増強の為に使用する装置…最悪設計図のデータさえ手に入れれば作れる。本体が手に入れば僥倖。
コアそのものは魔女のコアじゃなくともどうとでもなる。
さらに運が良ければ『彼』がここにいるかもしれない。
「それにしても…儲かってるのねーこの研究所…」
辟易して嘆息を漏らす。そもそもこの研究所内のマップデータを持っていないこともあるが、目的の品を扱っていそうなフロアさえ見つからない。それほどの広さに飽きれると同時に感心してしまった。むしろ雇ってもらえば最終目標まで近いのではないかと。
そこまで思考を巡らせて首を振ってそれを振り落す。もう組織に属するのはまっぴらだと思っているのは自分ではないか。
彼女は目の前の目標に向かうため、最上階に近いフロアの一番奥まった所にある部屋へと侵入した――
いやに暗いその部屋は机やいすの気配すらなく、使用していない部屋なのかと錯覚させられるほど何もない、と、少女の感知能力は告げる。
しかし……蛇に睨まれたかのような寒気が少女を襲った。
「来たわね」
暗闇から声が聞こえ、瞬時に声へ向かって発砲する。しかし手ごたえはない。
代わりに暗闇に少しずつ光が灯り、映し出された光景は……。
「何なのコレ…!?」
少女を混乱させるには十分な光景であった。
白いワンピースを着た幼女が、銃を持って……包丁を持った男の頭部をめがけて発砲、重い銃声と共に少女のワンピースは赤く染まり、ガタガタと震える幼女はすぐそばに震える年下の男の子を抱きしめ……一晩を明かした。
赤いワンピースは黒く変色していき、朝日を迎え……もう大丈夫だと思った瞬間――
「止めて!!」
頭を抱えてヒステリックに少女は叫ぶ。すると風景は解け、燭台も無しに浮かび、列を連ねる火のともった蝋燭に囲まれた部屋へと移された。いや、もともといた部屋がそれなのだ。
よく視れば壁には黒いレースが敷かれ、それが火の揺らめきで影の形を変える。
「自力で幻術を解くほど嫌な記憶だったかしら。」
甘い声と共にカグラの前にふわりと現れたのは、黒い髪に黒いドレス……間違いない。マコトとトオルの同級生であったモミジであった。
脊髄反射でカグラは銃を構えて銃弾を放つ……!
しかしふわりと闇へ消えた少女はカグラの背後に現れ、瞬時に振り向き銃を構えるカグラと、装飾の施されたナイフを首へ突き付けるモミジの腕が交差した
「……貴女がモミジね。見たところ同い年ぐらいじゃない。そんなに人が少ないのかしらこの研究所は。」
「そう言う貴女が魔女のコアを奪った泥棒猫ね。私てっきりあの女かトオル君が来ると思ってたのに残念だわ…。貴女どう見ても高レベルじゃないもの」
誤情報はあるが、虚ろな瞳で少女は言う。まるで黒いフランス人形のような風体にカグラは寒気を及ぼす。
「……ついでに言うけどもコアはここには無いわよ。ある人に預けてあるの。」
「そう……残念。でも貴女にも用はあるのよ?泥棒猫はよーくお仕置きしなきゃ」
「野良猫にうかつに手を出すと引っ掻かれるわよ…!」
高く膝を突き上げカグラはモミジのナイフを蹴り弾く。
その隙に飛びのいて銃を構えなおす…しかし、
「≪捕えよ:黒縛≫」
床から伸びてきた黒い影に手足を捕えられ銃を取り落とした。
カラカラと乾いた音を立ててそれはモミジの元へと滑り、モミジは銃を拾い上げる。
「唯一の攻撃手段を奪われた気持ちはどうかしら?」
銃を手中で弄びながら少女はにたりと笑う。
「……ら」
「何かしら?」
踊るように黒いドレスは捕えられて身動き一つとれない少女の顔を覗き込む。
「……誰が唯一と言ったのかしら!【シャイン】!」
カグラのスペルにより少女を捕えていた黒い影が光に照らされ拘束が外れる。
その瞬間を逃さずカグラは跳びこむように床に落ちたままのナイフを取り、モミジへ投げた。
その瞬間、ナイフが分裂しナイフの雨となった。
「生憎“空”とテレポートに関してはそこらの高レベルに負けてないわよ!」
それはテレポートの連続で残像によりナイフが増えたと錯覚させるテクニックであった。全てが残像とはいえその一瞬一瞬は実態が伴っているためどのナイフに触れようと切れる。
モミジは小さく舌打ちをしてテレポートでナイフの雨から避ける…が、その拍子に奪った銃を取り落してしまう。
銃の落下エネルギーを利用し、手元へとテレポートさせ、懐へと収める。
「さて、これで終わりじゃないわよ!」
キィン…と高周波の音が部屋中に満たされる。別所にテレポートで現れたモミジは耳を押さえて頭を抱えた
「いやあああああ!!!」
「直接内耳を刺激される気持ちはどうかしら!異能を使おうにも集中できないでしょう!?」
そう少女は叫ぶがモミジの耳には届いていない。
その隙にとカグラは部屋を出て行った。魔力の差を見て敵わないと悟ったからだ。
「それじゃバイバイ!」
「……堕ちましたか?マコトではないのだからこのぐらいやれば堕ちるとは思うけども…」
マコトの姿をした生き物がつぶやくと、トオルを捕らえていた魔力の紐がほどけその場にトオルは倒れ伏す。
そして少年は地面へ降り立ち、トオルの後ろ髪を掴んで持ち上げた。その隙に魔力で二種の紋様を描いていく
「何…!?」
白い少年がソレがトオル得意の魔法形態の一つであると気づいた時には時すでに遅し、天井から大きな爆発音が響いた。
「はっ……はぁ、ぐ……!」
「いいねーその眼、こんな状況でもあきらめてねえ眼だ。」
マコトは身体を起こすたびに雷撃に襲われ、痺れた身体を引きずって避け、また雷に打たれ……繰り返し続けて少女の体力はすでに限界であった。
地面に四つん這いになり、呼吸を乱して動けなくなってしまった
「はぁ、は、ぁ…」
「………そろそろ限界か。眠ってもらう。」
ゆっくりと青年は歩を進める。気絶させる一撃を放つ気だろう。
「…残念だったな。お前なら……」
「………。」
「ん?」
青年はとどめの一撃の手を止めて耳を澄ます…が、
「【…せよ・魔法複写→座標修正;z=-1→発動】」
「なっ…!?」
とたん地響きが起こり床にひびが走った。
何が起こったかアレックスが理解したころには二人は床下へ真っ逆さま…
身をひるがえし、振り行く瓦礫を避けつつ、温室へと落ちていく。
そう、彼らの居た部屋の位置関係は階を挟んで上下に位置していたのだった。
合流した二人は呼吸を合わせ
「【敵を捕らえよ・木精霊】!」
「【束縛の流水】!」
木の蔓による捕縛と、水による攻撃を繰り出した。
頭上からの瓦礫を避ける事に専念していた『2人目』は蔓にからめとられ、魔法による水を大量にかぶる…
「しまっ…ああああ!!」
水に濡れた物が電気を通しやすいことなど子供でも分かる道理、少年ははアレックスがまとっていた雷のモンスター『トール』によって感電してしまった。
そのまま気を失った少年。アレックスの肩からトールが離れてどこかへ飛んでいく。
「一人片付いただけ良しとしようか。」
「……ああ。」
少女の隣で少年は意識をはっきりさせようと頭を振っていた。
土煙が晴れ、マコトとトオル、アレックスが対峙する。
「………ふっ…、やっぱりな…」
アレックスからは敵意は感じない。にやりと笑って部屋の隅にどかりと座ってしまった。
そして二人へ話しかける。
「行けよ」
「えっ」
「お前が俺のかわいい部下をかっさらったんだ。日の当るところで生かさせてやれ。」
「あっ……。」
ようやっと、違和感の正体がわかった。
彼は、自らの任務より部下を守ることを優先したかったのだ。戦っているときからずっと……
だからもし自分が負けるならば…
「……ありがとう!」
二人は部屋の出口に向かって走り出す。そして廊下に出たところで…
「危ないところだったね…」
「……こいつがいなければ堕ちていた」
トオルは胸ポケットから金に光る石を取り出した。魔女のコアである。
コアの力を借りたからこそ彼の強力な催眠にかかりきらずに済み、テレパシーでマコトと意思の疎通ができたといっても過言ではなかった。
何故トオルが魔女のコアを持っているかというと潜入前のカグラの鶴の一声によるものである……リスクの分散。その名目でマコトからトオルに手渡された。
「それにしてもトオルは無茶しすぎ!あんな催眠に全力で対抗するなんて!廃人になるよ!?」
「それはお前も同じだろう!ずっとビリビリ来ていたぞ!いつ心停止してもおかしくなかった!」
むぅうと二人は睨みあう。だがこの場で喧嘩していても何の解決にもならないと、比較的冷静であったトオルが折れ、コアをマコトに投げ返した。
「…それは俺には強すぎる」
「……そう?」
コアをキャッチしてマコトがしげしげと石を見つめる。すると突然――
「きゃあぁぁぁぁあああ!!!」
「カグラ!?」
「上か!?」
上の階からカグラの甲高い悲鳴が響く。
マコトは跳ぶように階段を登ろうとするが、トオルの足がぴたりと止まる。
「トオル?」
「ノイズが、弱まった……」
そう言ってトオルは腰をおろし床へと触れる。指先が銀色に光り、目を閉じる。
すると数秒の後に…
「見つけた……!下だ」
「シオン……!?」
トオルは頷く。マコトはぴたりと動きを止め階段の上を見、下を見て迷ったような表情を見せた。
その表情を見てトオルは立ち上がる。
「……シオンの事は任せろ。上へは能力の汎用性が高いお前が行った方がいい。」
「……任せた!」
その一言で心を決めたマコトは階段を跳ねあがる。
そしてトオルは跳び降りるように階段を下りて行った――
マコトは階段などないかのようにするすると登って行き、妙に焦げ臭い階にたどり着く。
この階だろう、そうあたりをつけて廊下を走って行くと、壁に大穴が空き、天井や床に敷かれたカーペットは焼け焦げたフロアにたどり着いた。
その大穴を開けた衝撃をまともに受けたであろう場所に黒いワンピースの彼女が倒れていた。
「カグラ…!」
駆け寄って安否を確認する。大きな外傷はなく、気を失っただけの様である。
とりあえずは安堵するが頑丈なビルに大穴を開けた“ソレ”が視界に入り、臨戦態勢に入る。
大きな燃える翼に長い尾…モンスターに疎い者でも誰でも一度は名を聞いたことがある…不死鳥…フェニックスであった。そして…
「……モミジ…」
それを従える者に対して唸る。
ただの同名であってほしかった。だがその願いは現実に容易く打ち砕かれる。
「今度は貴女なの……」
虚ろな瞳で少女は笑う。その笑顔に寒気がした。自分が首を絞められた時も狂気に満ちていたが、その比ではない。
ひらひらとした黒いドレスが更に狂気を増しているように見える。
「じゃあ今度は貴女の番ね…」
ふわり、とレースをひらめかせて腕をかざす。それが合図だった。
フェニックスがくちばしを開けてマコトめがけて火の玉を吐き出す。
反射的にマコトはカグラを抱えて避ける。
そして着地する場所に次々と火の玉が降り注ぐ、自分より大きい体格の人間を抱えた彼女は避けきれなくなり、反対属性である水のバリアーを作りだし火の雨を防ぐ…!
「ほらどうしたの?気絶している仲間など棄てればいいでしょう!?」
「棄てられるわけ…!」
恍惚の表情でさらに攻撃を続けるよう、モミジはフェニックスに指示を出す。
そのうちにバリアも蒸発してしまい、シャボンの泡が弾けるように消えてしまった。
「じゃあどうするの?一緒に焼き豚になっちゃう?」
「お断り。私は、アンタなんかに、負けない。」
しずかに見据えて言い放った。誰も諦める気はないと。
その言葉を聞いてモミジは奥歯を噛む。
「…気に入らないわ。その言葉も、眼も。やっぱりあの魔女そっくり」
「なっ…!?」
モミジが呪文を唱えると火の雨に交じって氷の矢が降り注ぐ
これでは反対属性によるバリアも役に立たない。
少女は未だ意識の戻らぬ友を抱え飛ぶ。それを雨が追う。
床は凍り、そして焼け焦げ、フロアはどんどん脆くなっていった。
「所詮人間なんて最後は一人よ!自分の命を賭けてまでその女が大事!?」
「っ……」
降り続ける殺人的な雨を紙一重で避けながらマコトは小さく舌打ちをする。
このままではこちらの体力が尽きて共倒れである。
カグラを見捨てれば隙をついてモミジを倒す事は不可能ではないだろう。だが……手を離すことが出来ない。
――マコト、貴女は優しすぎるから…異能は似合わないわ。強くなって欲しくないもの。
唐突に母が健在であったころの言葉を思い出す。
母親が異能者であったことを知った時、素直に憧れ、異能者になりたいと幼かった彼女は言った。
その時に帰ってきたのがこの言葉である。
優しいならば、正義の為に使うからと無邪気にその時は答えた…
実際に異能を手に入れてみて、異能者の風当たりの悪さは実感した。それでも“似合わない”と言う言葉には実感が持てないまま今日まで来てしまった。
あの時の言葉の意味……その真意がわかった気がする。少女は奥歯を噛んだ。
「こういう時“選べる”事が強さなの…?」
教えてよ母さん…!マコトは念じるように一瞬しかもたぬ障壁を張る。
『選ぶ必要はないわ――』
「えっ」
脳に響いた聞き覚えのある声に思わず声を漏らす。
そして次の瞬間…
「きゃあッ!」
自分にも信じられないほどの威力の衝撃波が放出され、モミジが吹き飛ぶ。
ポケットにしまったコアが熱く熱を持ち、黄金の炎のような光を放って少女の周りを浮遊する。
「……コアが、」
「く、ぅ…よくも…!」
モミジは怒りの炎をたぎらせ影の矢を放つ…が、それよりも早く他方向からの水の塊にフェニックスが吹き飛ばされてしまった。
「なっ…!」
水の発射元に皆の視線が集中する。
「相手は一人だと思い込むのは危険だ!」
それは遅れてやってきたトオルであった。
トオルはモミジから視線を外さずマコト達の元へ歩いていく。
そしてカグラへ触れ、小さく何か呪文を唱えるとカグラは目を覚ました。
「えっ…あ、あら…?」
ふるふると頭を振ってカグラは立ち上がる。
そして状況が呑み込めたのかマコト、トオルと共にモミジと対峙した。
するとマコトは一歩前へ出て二人を制止するポーズをとる。
「二人とも手は出さないで……フェアじゃない」
「馬鹿か何を言っているんだ……!」
「モミジをこんなに歪ませた原因の一端は私にある。」
真っ直ぐにモミジを見据えるマコト、彼女の性格を知り尽くした二人は止めても無駄だと思ったのだろう。大人しく一歩下がった。
「……シオンは外に連れ出した。安心しろ。」
「……ありがとう。」
そう、振り向いて微笑む。
そしてモミジと対峙し一歩進む。
「モミジ…こんなことはもうやめよう」
「…なによ、貴女私を救おうとでも思っているの!?」
声が咆哮のように衝撃波となってマコトにぶつかる。マコトは両手を前に突出し障壁を作るが数歩たたらを踏む。
「貴女はいつもそうよ!昔からそうだった!私の欲しい物全部持っている!友達も!才能も!!親からの愛情も全部全て皆!!!その上私を救うなんて言ってここの地位まで持って行こうって言うの!?そんなの偽善よ、コンビニの募金箱にお金でも入れていい気分を買う方がまだ性質がいいわ!」
「っ……」
マコトは眉を下げて悲しげな表情でモミジを見る。
その表情が癪に障ったらしくレースのスカートの隙間から拳銃を取り出して銃口をマコトに向ける。
「その眼が気に入らないのよ…キラキラ光る金色の目…」
――魔力を増やす方法?…モミジちゃん、魔力が多いだけが人間の魅力じゃ無いわ。
彼女が過去出会った金の眼と、目の前の金の眼が重なる……
少女は幼いころ、マコトの母親に会ったことがあった。父親に魔女と聞かされて、能力が伸び悩んでいた少女は魔女を訪ねた。そこで言われたのがあの言葉であった。
能力がすべてと教え込まれた彼女の人生を変えるには至らず……しかしその言葉は彼女の心に楔となって突き刺さったまま、今日までやってきた。
全ては逆恨み、だったのかもしれない。
能力を強くする方法をマコトの母親が教えていれば、親からの愛情も受けられていたかもしれない、自分にもっと自信が持てたかもしれない。
「私の…母さんを思い出すから?」
あくまで悲しげな表情のまま少女は問う。
「分かってるじゃない…貴女そのものも嫌いだけど魔女も邪魔だった!どうして皆私が幸せになるのを邪魔するの!?」
「……ごめん。」
「今更謝られても遅いわよぉ!……それとも、貴女死んでくれる?」
あははと狂ったような笑い声を上げながら少女は問う。マコトは一瞬吃驚したように眼を見開くがすぐに凛と
「…できない。母さん、それにトオル、シオンにも助けてもらったこの命、君にあげるわけにはいかない。」
そう言って胸に手を当てる。まっすぐにモミジを見据えながら。
その眼がやはり件の魔女と重なる。諦めを知らないまっすぐな眼……。
その眼を見るたびに楔が食いこんで胸が痛む。自らの確固たる信念に反するマコト母子など、無視すれば済むはずなのに、金の眼が視界に入るたびに楔が疼くのだ。
「……ねえ、きっと今からでもやり直せるよ。行こう?」
マコトは手を差し出す。金の瞳が微笑む…柔らかく微笑む――
「その眼で私をみるなぁぁぁああああ!!!!!」
瞬間――少女は引き金に手をかける。それを目視するのと同時にカグラがマコトの前に立ちはだかった。カグラが対銃弾の障壁を展開するのと同時にタァンと発砲音が響く。
障壁の展開は間にあったはず――しかし銃弾は弾かれることなく障壁を素通りした。
「対異能弾…!?」
予想外の干渉に、こうなったらとマコトはカグラを抱いて背を向け、痛みに備えて眼を固く閉じる。
……が、来ない。
ゆっくりと眼を開け、視界を発砲もとに向ける…そこにはずっと見たかった背中があった。
それはガクンと膝を付き、床に倒れ伏す。
「シオン!」
頭が理解するより先に走り出し、彼を助け起こしていた。ぬるりとした感触……手が赤に染まりマコトの顔色から血の気が引いた。
その間にふらふらと立ち上がり大穴の開いた壁のすぐ脇にもたれかかって少女は嘲笑する。
「あははは…大事なものを傷つけてやったわ…ふふふ……」
「…ッモミジ!」
彼女の名を呼んだのは怒りからではない。フロアの隅で気を失っていたフェニックスが狭いフロアで飛び上がり、モミジへと突進してきたからであった。
モミジは避ける術もなく、フェニックスの翼に当たり、空に投げだされる。
フェニックスは空を飛び去って行ったが……モミジは……
まるでスローモーションのようにゆっくりと落ちていく光景をみたマコトは無意識に駈け出してその手を掴もうとしていた。……しかし、血に濡れた手は奇しくも掴んだその手を滑らせてしまう。
モミジはそのまま落ちて行った……
「モミジー!!!!」
下を覗き込む勇気なんて…なかった。
「……ッゴフ!」
床に倒れたままのシオンが咳とともに赤い液体を吐きだす。
既にトオルが止血を行っているがその手も赤く染まるばかり
「シオン!待って今止血するから!」
そう言って彼女は無理矢理に止血魔法を編み出し手のひらを腹部に押しつける。
「……マコト、怪我はない?」
か細い声でシオンは問う。マコトは必死になって頷いた。
安堵したように青年は微笑む…痛みに顔を歪めることもなく
「何で……戻ってきたの……」
「……証拠、隠滅して……る……逃げないと、……皆が……」
再び吐きだした血がマコトの衣服や顔にかかる。おかしい、普通の傷ならばもう止血できても良いはずなのに…少女は必死になって魔力を込める。
「……君を失ったら…罪、を償っても……生きる、意味がない……そう、思ったから…」
「もういい……!もういいからしゃべらないで…!血が、止まらない…!!」
涙声になって少女は叫んだ。そして遠いところで爆発音がズシンと響く……
どうやら証拠隠滅というのはビルの破壊の事の様である。
しかし逃げようにも、彼を動かせば出血が増えるのは必須。ここで血止めだけは行わないとシオンの命が危ない。
「何で…!なんで止まらないの…!」
「…抗異能弾……だからよ…」
脇でカグラが唇をかむ。
もし、ここから彼を生きたままテレポートさせる事が出来れば、それだけの力があればそのまま病院に運んで弾を摘出して最大限の治療ができる。
しかし…彼女は中レベルの異能者…そこまでの力がない。
シオンは力なく首を横に振った。もういい、と。
もう……分かるのだ……。
マコトは耐えきれず涙をボロボロとこぼす。自分の無力さに、また、大切な人が奪われる悲しさに……
「カグラ…、自分を、攻める、な…。未来を……見て……。」
カグラの唇から血がにじむ
やはり悔しいのだ。力があれば自分が彼を助けることができたはずなのに……。
「…トオル、君の、気持ちは…痛い、程…分かる…だからこそ……」
トオルは無言で目を逸らした。
識同士意思の疎通が取れたのだろう。シオンは眼球を泳がせるようにマコトへと向け、微笑む。
「……マコト」
もう、呼吸すらままならぬ声で自分を抱く少女を呼ぶ。
「…最、期に……笑った顔、見せて…」
少女は血まみれの手で涙と血を拭い懸命に笑顔を見せた。
青年はそれを見て薄く、微笑む。
そして……青年の目から光が消えた。
呼吸が止まり、筋肉の硬直が解けていく……。
ゆっくりとトオルは青年に近付き、開かれたままの瞼を閉じてやった。
ぽたりぽたりと青年の顔に透明な液体が落ちる。シオンシオンとただそれだけ…少女は壊れたラジオの様に呟いていた。
その間にも地響きは近づいていく。
そのフロアからパラパラと埃が落ち、小さな小石が落ち…
次の爆発音では大きな瓦礫が彼らの数メートル先に落下してきた。
反射的にカグラとトオルは避ける。だがシオンの寝顔を愛おしそうに撫でるマコトはそこから動かない。
「本当に崩れるわよ!逃げるわよマコト!」
カグラが叫ぶ。しかしマコトは首を横に振った
マコト頭上の瓦礫も崩れ始め、いつ落ちるか分からない。
反射的にトオルはマコトの手を掴み、引き寄せる
脱力仕切った彼女はあまりにも軽かった。
間一髪。落ちた瓦礫は…マコトとシオンを別つ。
マコトはシオンの元へと戻ろうと抵抗した
「駄目!おいていけない!!シオンが一人になっちゃうおいていけない!!」
それを阻止しながら「無理だ!置いていけ!」とトオルは叫ぶ。
だが、マコトはトオルの手を弾き
「……皆逃げて、大丈夫、ビルの倒壊ぐらい私一人で止められる」
以前能力の強さの話をした時に、トオルが言っていた事だ。トオルは言葉に詰まる。
その様子に業を煮やしたカグラは、無意識にマコトを平手打ちしていた。
パシンと軽快な音が地響きの中で響く。
マコトは叩かれた状態のままじっと動かなくなった。
「……二人ともしんじゃうよ……、逃げてよ。私は大丈夫だから……」
「お前はそこまでの馬鹿野郎だったのか!!」
トオルがマコトに罵声を浴びせた
「そうだよ、馬鹿なの分かってたでしょ…」
生気のない声でマコトは応えた。トオルは彼女の両肩を掴んで揺さぶりながら叫ぶ。
「アイツが身を挺して守ったのは誰だ!?あいつの望みは何だった!?誰の為に罪を償ってまで生きようとした!?けれど誰の為にあいつは…銃弾の前に飛び出した!?あいつの気持ちを無駄にする気か!?マコト!!」
はっとしたように少女は顔をあげた。
色んな感情を殺して生きてきた少年が歯を食いしばって声を荒げて…目の前の少女を叱り飛ばす。初めて、彼の熱い心根を見た気がした。
少女は……手を引かれながらも走り出した……
外でわらわらと出てくる研究員の下っ端達を捕えていたタダシ、ルカ、レイカの3人は地響きに気づいて付近の人間の非難に切り替えていた。
爆発音とともにビルから瓦礫が降ってくる。
時々だが…人型をしていたモノが降ってきたこともあった。
そしてあと数度崩れれば全壊だろう…そこまで崩壊したところで砂煙に紛れて3人の人影が姿を現した。
それが誰かなど、考えずともわかる。
3人は走り出してそれを迎え入れた。
「良かった…!3人とも無事で…!!」
「ああ…!こんなに怪我して…!すぐに救護班を……!」
「本当によかったですわ…3人とも…さんにん………」
レイカが何かに気づいて黙る。
それに続いてタダシとルカも何かを察した。
脱出してきた少年少女の表情は生還を喜ぶものではない
そう、
ひとりたりない
「シオン……は、あの人……君達を助けるって戻っていって…」
絞り出すようにルカがカグラに問う。
関が崩れたようにカグラの瞳から涙があふれ出した。
その場にへたり込んでしまったマコトは慟哭する。声を上げて泣き出してしまった。
トオルは俯いたまま肩を震わせて声を押し殺していた。
この場にいて察しない人間などいない。
そんな…とレイカは一筋の涙を落とし、ルカはマコトを抱きしめ、ともに泣いた。
タダシは地面にヒビが入るほどの勢いで拳を叩きつけ震える。
それが……協会と研究所の戦いであった




