14 夜明けに、道具は似合わない
「レイ、大丈夫?」
「レイ!起きてってば!死ぬの?死んじゃうの?」
騒がしい声に起こされて目を開ける。
「起きた!起きたー!」
そう言ってメイナが抱きついてくる。
頭が痛い。
血もでてるし当然か。
「で、クロ。えっと分身の方か?」
「確かに分身だけど。意識は本体と分散させてるから。この意識は本物だよー」
起き上がろうとする。グラッと目眩がして、また地面に倒れ込む。
「ルルの所...いかないと...」
「レイ、今は安静にしないと。ルルを助けて。結果、レイがお陀仏は笑えないよ...」
メイナがそう言う。
クロの方をみる。
「クロ...」
クロがしゃがんで、俺の顔を覗き込む。
「そんなに、行きたいの?」
頷いた。
「へえ、自分で着地出来たんだ。感激しちゃったなぁ。
......それで?なんでできるのに。わざわざレイに助けてもらったの?」
鋭い瞳がルルを貫く。
ルルは何も言い返さなかった。
血がルルを覆おうとする。クロが血を手刀で切った。
「逃がすと思ってんの?
ほんとはね。お前を助けたいなんて思ってないの。
レイが助けたいからね。手伝ってるだけ。この善意を無下に...」
クロの周りに無数の血の針が現れた。
クロはそのすべてを手刀で叩き切る。
切っている間。
ほんの少しの隙で、ルルはその場からいなくなっていた。
「あっ逃げられちゃった。」
上からクロの分身がレイを連れてくる。
「ごめんねレイ。ルルに逃げられちゃった。」
レイが行こうとする。
「だめでしょ。行っちゃ。今日は安静にしとこ?」
ハァハァ。
義足で片方の足を支えながら歩く。
足が震える。
ドサッ。地面に膝がついてしまった。
(どうしよう。どうしよう。このままだと、また...)
恐怖と痛みに震えながら。その場から動けなかった。
下をうつむく。首輪に触れた。
この首輪に鍵はない。外す方法はない。ないはず...
『君の首輪を外す。』
なんでいい切った?なんでいい切れる?
不安と希望が揺れる。
足音が聞こえた。
顔をあげる。
「大丈夫ですか?」
目の前の知らない人が手を伸ばしていた。
きつねの仮面を付けた知らない男。
私の横に来て、私の腕を肩にかける。
仮面の男がそのまま立ち上がって、私を立ち上がらせた。
「迷ってるんですか?」
唐突な核心を突いた言葉。
心臓が音を鳴らした。その男の方を向く。
「助言ですが、迷ってるなら後悔しない選択をした方がいいですよ」
「後悔しない選択...」
頭の中では分かってた。
後悔しない選択...このまま政府で道具として死ぬより...。
首輪がチャキッと音を立てる。
私に対する警告のような。分かってる...分かってるんだ。
「...もう俺がここにいる必要はないみたいですね。」
仮面の男が自分の心臓に手を当てながら言う。
「自分の心に正直に。それがきっといい結末になりますよ。」
仮面の男を背にして走り出した。
もうそんな力は残ってないのに。
だめって分かってるのに。分からない。
__それでも足が止まらなかった。
「あれがお前の言ってたお前の入ってた隊の隊長様?
すぐに壊れそうな目してんねー。」
「だからお前に頼んだんだろ。優しいときの猫かぶり度は以上だからな。」
レイに会いたかった。会いたい。
レイに始めてあった時。
助けてもらった時から。私の後悔しない選択肢はこれだった。
首輪がカチ、カチ。と音を立てる。
止まれ、とでも命令するように。
進む足が少し怯んだ。けど、止まらなかった。
義足の接合部が悲鳴をあげ、脳が痛みを叫ぶ。
止まらない。止まったら、またあの闇に飲み込まれてしまう。
夜の闇が少しずつ薄くなっていく。
冷たい風を切って走った。
彼の後ろ姿が微かに見えた。
「レ....イ..」
かすれた声でそう叫ぶ。
少しつまづきそうになった。
心臓がドドドと音を立ててるのが聞こえる。
もう、こんなに疲れ切っていたのか。
ヒューッと大きく息を吸い込む。
「....レイ!」
今の精一杯の声で叫んだ。
彼が振り返る。
目があった。
____届いた。
.....安堵感のせいで地面にへたり込んでしまった。
首輪の音が静まり返る。
______バチッと音が弾けた。
あ゙ゔっ____
温かい手の体温が肩にかかる。
体の内側を何かが暴れる。神経を一つ一つ殺すように。
あ゙ぁぁあ。喉の奥からかすれた声が漏れる。
「....ご、ごめ....ごめんなさい。ごめんなさ.....」
聞くのも耐え難い彼女のうめき声が響き渡る。
少し肉の焦げた匂いが鼻を突いた。
首と首輪の間。集中してシールドを入れ込んだ。
自分の手もシールドで覆う。
首輪に触れた。
バチッと音が鳴り、跳ね返された。
「痛っ。」
冷や汗が垂れる。シールドでも完全には防ぎきれていない。
できる限り、シールドの層を重ねる。
....3枚が限界だ
...もう一度首輪に触れる。
バチッというが、先程より威力は落ちていた。
でも痛い。
ナイフを脇差しほどの長さに変形させる。
力任せにナイフを振り下ろした。
カキンッと音がなる。
滑って、ナイフの刃が通らない。
ナイフを投げ捨てて首輪を手で鷲掴みにする。
思いっきり、力を込めて首輪を引きちぎろうとした。
電気で痺れて、手の感覚がない。
このままじゃ間に合わない。
ちぎれるのか...?こんな硬い物を....
そう思っていた矢先
____首輪にヒビが走った。
希望が見えた。
視界に入ったヒビを頼りに、
力を込める。
鈍い音と共に、首輪に亀裂が走る。
そして、砕けた。
バチバチという不快な音が、砕けた破片と共に消えた。
__辺りが静寂に包まれる。
さっきまでの音が嘘のように消える。
ヒュッ。と彼女の息を吸い込む音だけが響いた。
バッと俺に抱きついてくる。
縋るように。
大きな泣き声なんてしなかった。
肩を小さく震わせながら。
声を押し殺して、それでも堪えきれずに息が漏れる。
泣いていた。
___道具なんかじゃなくなった。
今泣いてるルルは等身大の彼女そのものだった。




