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けっかはっぴょ~~う!! (浜〇雅功風に)

「ないっ、花凛ちゃんの名前、ないよっ」

 テスト翌週の月曜日、職員室前の廊下にそれは張り出されていた。今時はもう珍しくなってしまった代物らしいけれど、県内でも有数の進学校であるこの満ヶ谷学園では競争も勉学を通して学ぶものとして位置づけられているのです。って前に校長先生が言っていた。おばあちゃんじゃないよ。その順位表の名前に目を通す。もちろん、下から。


 百二十四位、石原良平。百二十三位、村上恵子。百二十二位、辻尚子。百二十一位、森下亮。百二十位、吉田太郎。


「ほんとだっ。下から五人以上見ても花凛の名前はないね」

 本来なら下から二番目の花凛だから、成長を確認するならその程度で十分だろう。などと失礼なことを考えていると。


「まあ、花凛の場合は、全教科名前の書き忘れとか、卑猥な回答して失格とかの可能性も考えられるから、名前がないからって安心はできないけれど」

 雪歩はさらにその順位表を疑っていた。仲間なんだからもう少し信頼してあげよ?


「な~にを~。私だってやりゃあ出来んだからな~」

 そして私たちのその視線の遥か上、真ん中より少しだけ下を花凛が指さす。


「ほら見ろ~ちゃんと名前あんだろ~」


「ほんとだっ」


「嘘でしょ」


「やったね、花凛」

 私たちもその名前をしっかり各々の目で確認して、声を上げる。


「よっしゃ~っ。六十九位だぜ~。英語で言うとシックスナイン~!」


「ちょっ、何言ってんのよっ。その言葉は言っちゃダメっ」


「雪歩、ちょっと花凛の発言に敏感になりすぎてるよ。違う意味もあるからねっ」

 なにが言ってはけなくて、どれが違う意味なのかは私中学生だからわかんない。てへ。まあ、六十九位は正しく英語にするなら、シックスティナインスね。序数だからね。


「見てみて、雪歩ちゃん今回もすごい順位だよっ」

 私たちが何を言っているのかちょっと分からなかったであろう美月は既に意識を別のところにやっていた。どれどれと私も視線を移すと。


 二位、富永雪歩。一位、内原文則。


「…………」

 その並びをじっと見つめて。きゅっと雪歩が拳を強く握ったのを私は見た。


「あの、雪歩」

 後ろから声をかけると、雪歩は複雑な表情で振り返る。


「また、負けちゃった……」


「あの、負けったって言っても、でも」

 その様子に美月も彼女の心中を悟ったのか、励ましの言葉をかけようとする。しかし私と美月が揃って困ったような顔をしているとすぐに、にっと、いつもの勝気そうな表情をその顔に張り付けた。


「でも、結果にしっかりと手ごたえはあったし、実際返された点数もすごくよかった。二位とは言え、内原くんとの差はほとんどないはずよ」

 強く唇を引き結ぶ彼女は無言だったけれど、後はあなたたち次第よと言われている気がする。これから私たちは、旧文学部の教室で、いよいよクイズ研の面々と対峙する。勝ち負けがどうなるかは分からないけれど。既に結果が出ている以上はもう、足掻いても仕方がない。泣いても笑っても、後は相手チームの得点を待つことしかできない。


「じゃあ、行こうか」


「ええ」


「お~う」


「き、緊張、するけどね」

 私が踵を返すと、三人も続く。リノリウムの床を踏む微かな足音が廊下に響いた。


 因みに、順位だけの話をするのであれば、美月は二十位。私は九位だった。


 えっ、九位⁉ 一ケタってすごくない⁉ ってかその描写を物語都合で省かれるって、私不遇すぎだよ。一応メインヒロインってことでいいよね。間違ってないよね⁉ もうちょっと大切にしてくれてもよくない⁉


*****


 からからと教室の引き戸が開く。


「入るぞ」

 そんな掛け声とともになだれ込むように入って来たのは、内村、あ、間違えた、内だ……、内……え~っとまあいいや。内なんとかくんとクイズ研一年男子のモブ三たちだ。この人たち結局最後まで名前が曖昧だったね。まあ、ただの作者の怠慢だね。


「にゃ~っはっはっは。逃げずに来たことだけは褒めてやる~」

 なんて、やっぱり花凛はどこかの星の戦闘民族みたいな言葉で迎える。


「お前らこそ、今日で部室を使えるのが最後の日だって自覚はあるんだろうな?」


「なんであんたたちはそう簡単にこれから負ける悪役みたいな台詞思いつくのよ」

 そうだね。でも逆に両陣営がそんなだから、先の展開が読み辛くなったね。二人ともグッジョブだよ。


「あう~、み、みんな。仲良くやろうね」

 その場の空気に美月は相変わらずおどおどしていた。う~ん、今のところあんま緊張感はないけどね。


「じゃあ、さっさと始めるわよ。結果はもう出てるんだから」


「ふん、言われなくてもな」

 

「瞬間、刀を抜き放つように、西村と内原が互いの答案用紙を構える。教卓を跨いで交錯する視線。ざっと一陣の風が、決戦の開始を告げるようにその場を駆け抜けた~」


「そういうスタイル⁉ セルフナレーションスタイルで行くの?」

 語尾で花凛が漏れ出てたし。教卓を跨いで交錯する視線てなんかダサいし。


「まあ、私たちの勝ち負けはもう出ちゃってるしね。それでも、一応点数の確認だけはさせてもらうわよ」


「ああ、しっかり確認してくれ」

 そして、驚くほどきれいに花凛のナレーションを放ったらかしにした二人が答案用紙を教卓に並べる。美月が律義に、二人の平均点を黒板に記す。


 内田くん、九十七・六点。雪歩ちゃん、九十七・二点。総合得点の差が五教科で僅か二点。平均点に直すと、たった〇・四点だ。ハイレベルな勝負だったと言えるだろう。

内原くんはやや驚いたように目を見張っていた。


「たったこれだけの差しかなかったなんてな」


「次は負けないから」

 あと、美月、内原くんの名前間違ってる。ここで大声を出すとせっかくの緊張感が台無しになりそうなので、私はこっそり黒板消しで、内田の名前を消しておいた。


「よし、じゃあ次は松本」


「うす」

 えっとね、松本って誰のことか分からないだろうから捕捉しておくとね、モブ一だよ。


「じゃあ、こっちは美月ね」


「は、ひゃい‼」

 松本くんと美月が教卓に歩み寄る。まずは美月が、恐る恐る教卓にまでにじり寄って、最後は臭い雑巾をつまんで放り投げるように、答案用紙を教卓に放り出した。うん、ほぼ初対面の彼が怖いんだね。私は分かるけど、あ、松本くんの方は傷ついてるなぁ。この勝負って精神攻撃は有効なんだっけ? 


「わっ……私はっ、八十六・二点ですっ」

 しかし、松本くんはその点数を聞いてにやりと口角を上げた。


「俺は、九十一点」


「えっ……」

 美月が口元を手で覆う。


「そんなっ」


「高いわね……」

 私と雪歩もそれに続いて。


「四点、いや五点差か……?」

 花凛だけが意味不明なことを言っていた。いや確かにそれは攻撃が見えなかった強敵に使う言葉っぽいけどさ。


「へん、こう見えて俺らは結構勉強できんだぜ、な、杉山?」


「うい~っす。いよいよ俺の出番じゃね?」

 えっと、杉山って誰のことか分からないだろうから捕捉しておくとね、モブ二だよ。


「じゃあ、次は私が行くね」

 頷く皆を見ながら一歩前に出る。正直、順位を上げたと言っても、花凛の点数には限界がある。ここで花凛が出て、四人目の結果をみるまでもなく勝負が決まってしまうのは少し悲しい。だから、ほんの気休めに過ぎないけど、私が先に出た。


「こっちは、九十・四点だ」

 その言葉を聞いて、私はひとまずほっと、胸を撫で下ろす。


「私は九十三・二点だよ」


「よしっ」


「やったねっ」


「やり~っ」

 今度は文学部の三人が喜んで互いに手を打ち合わせる。確かにうれしいけれど。私と彼の差が二点と少ししかなかったことで、ほぼ結果は決まってしまった。


 状況を整理すると。相手と比較して、雪歩がマイナス〇・四点、美月がマイナス四・八点、私がプラス二・八点だ。トータルで二・四点負けている。それはつまり、花凛があの三人目に、二・五点以上の差をつけて勝たなければ、私たちの勝ちはないということ。


 そう、あのやけにキャラの濃い、クイズで内原くんさえも圧倒していたモブ三に。


「おっしゃ~、じゃあ、残るは私だな~」


「では、小生、小生も参りますぞ」

 バチバチと睨みを聞かせ合う二人から視線を外して、ああ、と私は天井を仰いだ。

やっぱり負けちゃうのかなぁ……。


「うお~し、じゃあ、私から。私は六十一・四点、だ~」

 ばしぃ、と教卓に答案用紙をたたきつける。どこまでも堂々としていて、とても花凛らしい。点数も先生の目標を越えている。でも、多分足りない……。モブ一とモブ二の点数が、想定していたより高すぎた。


 雪歩も美月もぎゅっと互いの手を握り合って、目をつむっている。上を向いたままの私の視界は、少しだけ、水分でぼやけ始めていた。


 そんな中――――

「小生、小生は……」


 がばっと答案用紙を頭上に掲げて。

「十六点、でありまぁぁぁぁああああす」


 モブ三がとうとうそのベールを脱ぎ棄てた。瞬間、沈黙。やがて。

「えっ……?」


「うそっ」


「低っ‼」

 美月と私、雪歩の声が重なり、内原くんは悩まし気に、頭に右手をあてがっていた。


「にゃはは~、こいつザッコ~。私が先生に見てもらうようになる前の点数よりひくいじゃ~ん」


「石原……」

 その花凛と、内原くんの言葉に私ははっとする。石原ってまさか……。


「え、だってだって、どういうこと? この間はあんなにクイズ強そうだったのに」

 皆の疑問を美月が代弁する。


「そ、そうね。一体どういうこと?」

 すると内原くんははぁ~っと大きな溜息をついてから答える。


「あ~そういや、そうだったな。お前ら部活を一回見てたんだったな。あのとき練習してたのはジャンル縛りクイズだったからな」


「ジャンル縛り?」


「そう、歴史なら歴史だけ。グルメなら食べ物関連だけ。芸能なら有名人関連だけってふうに予め問題の範囲を決めておくんだ。場合によってはそれで答えが絞られて早押しのタイミングが変わったりするから、たまに練習するんだよ。そんでコイツは」

 ぴっと、親指でモブ三のことを内原くんがさす。


「しょ、小生は鉄道オタクでありますっ」


「このとおり鉄オタってやつらしい。そのジャンルなら無敵だけど、他はからっきし。勉強だって、入学以来ず~っと学年最下位だしな」

 どこか吐き捨てるように内原くんが言う。


「そ、そういえば、百二十四位くらいに、石原って人がいたような……」

 気になる人は数ページ読み返してみてね……。それにしてもこんな結末って。


「あ~もうっ、くそっ、負けは負けだ。帰るぞお前ら」

 そうして、内原くんはそそくさと踵を返す。


「まってよ、内原ぁ」


「てか、これちょいダサくね」


「小生も、小生も帰るのでありまぁすっ」

 う~ん、やっぱり最後がキャラ濃いな。ってかこいつが戦犯なのに、全然反省の色が見えないな。最後に、一つだけ、私はずっと気にかかっていたことを彼に問いかけた。


「内原くん! ちょっと待って。最後に一つ聞いてもいいかな?」

 からから引き戸を引いたところで、内原くんはぴくとその動きを止める。


「なんだよ」


「内原くんは、石原くんが勉強得意じゃないこと初めから知ってたんだよね?」 


「ああ。付き合いは長いからな」


「じゃあ、どうしてこんな勝負を受けたの? 不利になるって分かってたでしょ?」


「そりゃ……」

 一瞬言いよどんでから内原くんは続けた。


「勝てると思ったんだよ。石原がたとえゼロ点だったとしても、俺さえ点を取ってればな」

 かっこいい捨て台詞のように言い残して、ぴしゃりとその扉を閉める。ああ、一緒だ。内原くんは一緒なんだ。やっぱ彼、頭いい癖に根本的な考え方が花凛と同レベルなんだよ……。私が理解する。と、同時に。


「「「かっ、勝った~~~~~」」」

 雪歩、花凛、美月三人分の声が重なる。何はともあれ結果は結果。私たちの大勝利である。溢れそうになる涙をこらえて、私たちはしばらく勝利の余韻に浸るのだった


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