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これでも真面目にやってるんです

 そして迎えたテスト当日。中等部の期末考査は、主要五科目以外にも、音楽、保健体育、技術家庭、美術のテストも行われるため、全三日間に跨っている。その初日の朝、ホームルームまではまだ少し時間があるけれど、さすがにみんなの顔には緊張が伺える。ぱらぱらとノートを見返している人も、友達同士で問題を出し合っている人もいる。私たち文学部の四人はみんなそろってテスト前最後のミーティング中だった。


「いよいよだね」


「ええ、みんな準備は万端かしら?」

 私の言葉に続けて、雪歩が皆の顔を見回す。


「お~う。準備は万端、蜜柑はポンカン。絶好調!」

 う~ん、ダメそうだね……。ってか、ポンカンは柑橘類だけどミカンじゃないし。


「ま、まあ、今日はそんなに緊張しなくてもね?」


「そ、そうだね。今日はまだ主要科目が少ないしねっ」

 放っておくと美月からボロが出そうであったため、私は慌てて会話に割り込んだ。


「でも油断は出来ないわ。一科目目は理科から。最後までノートを見返しましょう」


「そうだね」

 雪歩が秀才らしくノートを開いて美月も頷く。


「今回は植物の範囲が広いから……被子植物と裸子植物の違いはしっかり理解しておかなきゃいけないね」

 私も自分のノートを見返しながらつぶやく。


「ええっと、二つの違いは何だったかな……」


「おっし、それなら私は説明できるぞ~」

 美月が思い出そうとしていると、花凛ちゃんが自信満々に胸を叩いた。


「ほんとに?」


「おう。被子植物はさきっちょの方が被ってるやつで、裸子植物はさきっちょの方が裸のやつだろ?」

 雪歩の問いかけに、また花凛がとんでもないことを口走った。いや、とんでもないって思うのは私の心が汚れているからなのかな……。


「ちょっ、あんた、それはほー〇ーかどうかの説明でしょ~っ」


「雪歩ダメっ‼ それ大声で突っ込むことじゃないから~」


「ふえ? 〇ーけーって何? っていうか被子植物はどうなんだっけ?」

 気が付くと、クラスメイト全員が目を見開いて私たちに注目していた。もう、ダメ化かもしれません。


*****


 二日目。

 今日は、音楽と、国語、社会のテストを控えている。中だるみ、というわけではないけれど、みんな初日程は緊張していない。そして美月も、今のところ狙い通り、平常心でテストに臨めているようだった。


「今日の強敵は社会ね。毎回最後に記述問題が出るから、ただ単語を覚えておくだけじゃだめなのよね」


「うん、今のうちに少しでも復習。今日こそ朝の時間を有効に使うよ」

 雪歩ちゃんの言葉に続いて、私も気合を入れ直す。


「お~う、社会はもうカンペキだけどな~」

 社会性はカンペキに欠けてるけどね……。


「私も社会はどっちかっていうと得意だよ」

 こくりと雪歩が頷いた。


「じゃあ、出そうなところの確認よ。今回の範囲は室町時から戦国時代中期までの歴史ね。たとえばそう。そのころまだ日本では珍しかった鉄砲を用いて少数の軍勢ながら今川軍を破った武将は誰だかわかる?」


「にゃはは~、それくらいなら私でも分かるぞ。織田信長~」


「正解だね」

 雪歩の答えを聞くまでもなく私が言う。こくりと雪歩も頷いた。


「じゃあ、ここからが本番ね。その織田信長が敷いた政策。楽市楽座令。これはどんな内容で何を目的としたか答えられる?」


「あ~、何だっけかな~」

 花凛が思案顔で顎に手をやったため、雪歩は美月に尋ねた。


「美月は?」


「私は……、その……分からないよ」


「え? でも確か美月は社会は得意だったはず」


「あのね梅乃ちゃん」

 私が疑問を返すと、美月は深刻な顔で私の肩に手を置いた。


「織田信長ってたくさんの人を殺しちゃったんだよ。ホトトギスさんも殺すんだよ。私、人を殺す人の気持ちなんて……分からないし、分かりたくもないよっ」


「…………」

 雪歩が任せたとばかりに無言でこちらに視線を送る。いやいやいや、こういう時だけ任されても、とは思いつつ、最低限の突っ込みは義務感だけで入れておく。


「テスト中は織田信長のキモチも考えてあげてね……」

 あとホトトギスは実際には殺していないと思う。そんな甘ったれたことを言っているから、本番で点取れないなんて泣くことになるんだよ……。なんか不殺の主人公の漫画に登場する悪役みたいになっちゃったね。


*****


 そしてとうとう最終日。今日は英語と数学の二科目だから、いよいよ勝負の一日といったところか。だというのに。


「い~や~よ。だって、あんたたちと一緒にいても全然テストのためにならないし」

 ついに雪歩はテスト前の朝を四人で過ごすことの無意味さを知ってしまったらしい。


「ダメだよっ、雪歩。雪歩が諦めたらきっと二人ともなんにもできないよ」


「な、なんにもできないってのはちょっと言いすぎじゃ」


「にゃは。雪歩がいないなら、鉛筆でサイコロつくる~」

 私たちを尻目に二人が勝手に話を始めた。まあ、喋る権利くらい二人にもあるし、これは仕方ない。勝手にとか言ってごめんなさい。


「え、サイコロつくってどうするの?」


「美月知らね~のか? 数学ってほとんど数字が答えなんだぞ?」

 はたと首をかしげた美月に、相変わらず自信満々に花凛が答える。


「そ、それで答えるつもりなのかな?」


「おうよ、二本つくったら美月にもあげるぞ」


「わ、私は別に、自分で解くからいらないよ」


「え~、つまんね~。もらってくれよ~」


「いらないよ。それに私はシャーペン派だしね」


「み~つ~き~。もらえよぉ~」


「だから、いらないってば」

 この辺りで私はもう我慢の限界を迎えてしまった。


「ほらぁ~っ! 放っておいたら、勉強も進まなければ、笑いも生まない、なんの生産性もない会話はじめてるよ~っ。雪歩~。頼むから戻ってきてよ」


「うるっさいわね‼ もうとっくに、開始五分前なのよっ」

 今日に関しては私が悪い、のかもしれないね……。


*****


 そんなこんなで過ぎ去ったテスト期間。の最終日。のさらに放課後。

「いや~。ようやく終わったな~」


「ホントね、いつものテストの数倍は疲れたわ」


「私も……」

 三人がそれぞれに、う~っと伸びをする。けれど、その疲労感が証明してくれていた。皆が真剣にテスト勉強に取り組んで、その成果を精いっぱい発揮するために全力でこの三日間と向き合ったということを……。こら、そこ、テスト前ふざけてたじゃんとか言わない。そんな数分たらずの行動で、コツコツ積み重ねてきた努力は崩れ去ったりしないものだと思う。……多分。


「それでみんな、出来はどうだった?」

 一番気になっている部分を私が訪ねる。真っ先に口を開いたのは雪歩だった。


「私は粗方、百点近いと思うわ。特に数学は自身ありね」

 おお、心強い。雪歩は薄く微笑んで眼鏡のブリッジを押し上げる。続いて花凛が。


「あたしは、あらかた何点かわかんね~な。特に数学は回答中の記憶がない」

 う~ん、この子に関してはやっぱり、奇跡的な何かを信じるしかないみたい。まあ、先生も花凛には問題を楽しめって言ってたし、何も覚えてないくらいのめり込んだのだという可能性もなきにしもなくもない。あれ? それって結局どっちだ? 深く考えると頭が痛くなるので、もうやめにしよう。


「私も全部で八十五点くらいは取れてると思う」

 こっちは何とか最後までうまくいったみたいだ。さて、どこでバラそうかなぁなどと私が思案していると。


「これで今日からしばらくは遊び放題だな~」


「あんたはこれを機にちょっと勉強する習慣をつけた方がいいわよ」


「なんだよ~、ちょっと遊ぶくらいいいじゃん」

 なんて会話をやり始めた。そしてその輪に美月も加わる。これは。


「雪歩ちゃんの言う通りだよ。週末はしっかり今日の復習して、本番に臨まないと」

その発言を雪歩と花凛が訝しんでいた。ああ、これ、事故的にバレるやつだなぁ。


「本番?」


「なんのことだ~?」


「え? だって今日は模擬演習で、テスト本番は来週からでしょ?」


「はぁ~? なんだそれ? 美月風邪ひいた時に変な夢でもみてたのか?」


「誰がそんなこと言ったのよ?」

 今度は美月ちゃんがおろおろと混乱する番だった。


「え、だって、この間私が休んだとき梅乃が……」


「あの~、美月さん」

 やれ頃合いだと、おずおず私は手を挙げた。


「どっ、どういうことなの梅乃」


「え~っと、説明し辛いんだけど……。エアコンの不調もテストの延期も全部私がついた嘘だったりして?」

 私は一息に言い切って、ばっと勢いよく頭を下げる。ごめんっ。てへぺろとか言って舌でもだそうかと思ったけど、本気で怒られそうなのでここは割愛。


「ええっ⁉」


「だって、うるさいって言ってた工事の音なんて聞こえなかったでしょ?」


「たしかに、そうだったけど……」


「おかげで、緊張せずにテスト本番を終えられたと思わない?」

 あははと苦笑いしながら言ってみる。その時点で、ぐるぐると美月の瞳が渦を巻き始めていた。かなり混乱しているみたい。


「つまり、つまり、一体どういうことなの?」

 ひとつ溜息をついてから告げる。


「テストは今日で全部終わったんだよ。あとは結果を待つだけだね」

 本当は。菅原先生が作ってくれた偽テスト日程プリントを手渡したり、市販のクッキーに雪歩の手作りを混入して服用させたことも謝らなくちゃいけないんだけど。


 まあ、ややこしいからその辺は曖昧でいいよね……。


「う、えええええぇぇぇぇぇえええええ⁉」

 しばらくの沈黙を経て、美月の叫び声が教室中にこだました。


 その、だから悪いとは思ってますよ? でも後半になって厄介な問題を持ち込んだ自分の責任だから。多少のキャラ崩壊は許してね。


 こうして私たちの長かったテスト習慣はようやくひと段落を迎えるのだった。え? テスト中の描写はないのかって? だってテストのシーンってみんな静かにペンを動かしているだけだから、物語的には割愛するしかないんだよね……。嘘です、ハイ、作者、間違えた、神様の描写力が足りないだけです。ごめんなさい。


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