メタ的な発言を繰り返すのはよくないよね
満ヶ谷学園中等部、一年一組の教室。昼食を食べ終えたクラスの面々は仲のいい子たちとおのおの集まって、楽しくおしゃべりしている。教室の隅、一番廊下から遠い窓際の一角で私たちもそれに習っていつもの四人で打ち合わせ中だ。
「と、いうわけでなんとかクイズ研と話をしないといけないわ」
どういうわけなのかは読者向けに私がちゃんと説明するから安心してね。
「あ~、今あいつらとは敵同士だもんな~」
「う~ん、そこまで殺伐とした間柄ではないと思うよ」
一応花凛の発言をやんわりと否定して。
「わ、私は大人しく待機してるね。知らない人と話すのは怖いから」
「まぁ、ぶっちゃけその方が助かるんだけどね」
雪歩の容赦ない一言はそのまま流すことにした。だって、事実だし。あ、別に美月のこと役立たずとかポンコツとか、レームダックとか、おっぱいだけとか思ってるわけじゃないから。いや、ホントに。……最近、作者……間違えた神様のせいでどんどん私の性格が捻じ曲げられている気がする。
きっかけは先週の日曜日である。土曜日を半日すっかり遊び惚けた……まぁ、私はそこまで遊んだとも思ってないけれど、ともあれ、あまり勉強をせずに過ごした私たちは、翌日曜日、すっかり先生にしごかれた。一日の終わりには久しぶりに実力確認テストも行って、もうみんなへとへとだったと思う。
しごかれてぇ、へとへとぉ……。言い方次第では何か深い意味がありそう? ありません!
そんな折に先生が言ったのだ。そろそろ目標点を決めないと、と。先生曰はく、ただ今より点数を上げたいと思って勉強するより、目標点をまず決めてしまって、自分があとどの分野を出来るようになる必要があるのか、最悪の場合どの部分を勉強しないのか、を決めてしまった方が、短期のテスト勉強は効率的らしい。
だからまず、内原くんとクイズ兼のモブさんたちの平均点がどの程度になるかを知りたいということである。前回の彼らのテストの点数なんかが分かれば理想的。というか、あのモブさん達そろそろ名前つけた方がいいかな。などと私が読者向けに懇切丁寧な説明を行っている間にも、雪歩たちの会話は続く。
「それで、私にちょっと作戦があるんだけど……」
私たち四人は顔を寄せ合って、ひそひそと雪歩がその内容を説明する。
因みに今日の始業前、当たって砕けろの精神で花凛が一度直接点数を聞きに行ったらしい。そのとき内原くんは教えるわけないだろうと、一刀両断したみたいだけど。
「あの、私、怖いけど、頑張って雪歩ちゃんについていくよ」
「にゃはは、あいつらバカだから、なんとかなるんじゃね~か」
「それで、梅乃はどう思う?」
問われて私は思案する。う~ん、とても上手くいくとは思えないけど。物語をここまでギャグ調で書いちゃうと、結局ご都合主義でどうとでもなる気もするなぁ。とりあえず、ダメ元でもやってみるのがいいのかも。
「私も、それしかないならやってみてもいいと思うよ」
「よし、じゃあ、決まりね。早速今日の放課後決行よ」
お~、とみんなの声が重なる。その、ご都合主義とか私があんまりメタ的な発言をするのはこれからは控えていこうと思います。一応、ヒロインなので。あ、そもそもこういうのがメタ的か。
*****
「一体俺になんの用だよ、今お前らと話すことなんてないぞ」
ホームルーム終了と同時に教室を駆け出して。一年三組の教室から、ちょうど廊下に出てきた内田くん……、空間違えた、内……、うちむ? う、うち、あっ、そうだ、内原くんを私たちは捕まえた。
「そんなこと言わないで、今日は例の部室のことで少し話をしたいの」
呼び止めたのが雪歩、その隣に花凛、それを追いかける形で私、私の陰に隠れる形で美月といった立ち位置だ。うん、やっぱこの子ついてこなくてよかったかも。いや、誰とは言ってないよ。ぴく、と彼の天然パーマが揺れる。
「お、なんだ? ついに部室を譲る気になったのか? あと、後ろにいる里咲、今失礼なこと考えただろ」
ひっ。エスパー、彼はエスパーなの⁉ という内心の焦りを隠して私は告げる。
「そそそ、そんなわけないよ~」
「ふん、まあいいけど」
助かった……。
「悪いけど、そういうわけじゃないの。でも、次の勝負までの間、私たちだけがあの教室を使い続けるのも、その、違うかなと思ったのよ」
「でもだからって、俺たちが使ってもいいわけじゃないんだろ?」
「にゃはは、当たり前じゃん。私らもクイズ研も教室は使いたい。でも一方的にずっと文学部だけが使ってるのもなんか違う気がするってこと」
「だったらどうするっていうんだ?」
「また、クイズ勝負で決めようぜ~」
にこにこ、いや、にやにや、といった表情を崩さないまま花凛が告げた。
「なに?」
今度は内原くんの眉が、いやこちらはパーマかかってないけれど、ぴくりと動いた。そういえば彼は前クイズ勝負で花凛に負けたんだったね。負けたと言うより、どう考えても自滅としか言いようのないひどいクイズ運びだったけど。
「クイズでそう何回も俺たちにほいほい勝てると思うなよ」
案の定気にしてたみたい。
「それと、後ろの里咲、また失礼なこと考えただろ?」
「そ、そんなことないよ~」
ばっ、ばれた。やっぱり彼エスパーだよ。心中で失礼なこと言うのやめよう。
「それで、この勝負、受けるの受けないの? もしあなたが勝ったなら、部活がテスト休みに入るまでは、クイズ研に場所を譲ってもいいわ」
「にゃはは~、まあ、こいつ馬鹿だから結局私らが使うことになるんだろうけど~」
花凛がいつになくいい仕事をしていた。今日に関しては全く問題を起こさず予定通りの行動を取っている。やっぱりナチュラルに人をおちょくるのは得意みたいだね。
「調子にのるなよ。受けてやる、そんで、こんな勝負ふっかけたこと後悔させてやるからなっ!」
「決まりね、じゃあ、とりあえず部室に移動しましょう。あっ、言い忘れてたけどクイズ研一年のみんなも連れてきてね。総力戦の予定だから」
捨て台詞のように言って、すたすたと雪歩が部室に向かって歩き始める。
「あ、あの美月、このままだとせっかくついてきた意味がなくなるから、一言くらい話しておけば?」
一応私は後ろの美月にアドバイスする。
「え、え、でも、私……」
「なんでもいいから」
そしてその言葉に背中を押されて、美月は叫んだ。
「う、うん。みんなっ、今日は久しぶりすぎて内原くんのことテンパでいじるの忘れてるよっ」
「あっ」
「そういえば……」
「確かに⁉」
そしてみんなでそろって頭を下げる。
「ごめんね、内原くん。美味しいところをナシにしちゃって」
「おまえら、いい加減にしろよぉ~‼」
う~ん、爆弾は誰が投げ込むか分からないものだね。あっ、でも今回の場合は火をつけたの私か。今度から気をつけよう。なんだか反省してばっかだな。
*****
「いい? ルールは以前と同じ。互いにクイズを出し合って、先に答えられなくなった方が負けよ」
「それはいいけど、今回はしっかり制限時間を決めてくれよ。そうだな、問題を読み終わってから二分以内ってのはどうだ?」
そういえば、以前はそれでごちゃごちゃ言ってたもんね。でもその辺りは雪歩もきちんと考えている、というか、上手く利用している。
「分かってるわ。その代わり、二分以内であれば何回でも誤答できる。これもルールに入れていいかしら。サドンデスだから、一発勝負のクイズだと、実力をちゃんと見る前に終わっちゃうかもしれないでしょ?」
雪歩も今日は久しぶりに、頭いいキャラ感が出てて非常にいい感じだ。
「いいだろう。まあ、俺はきっと全部一発で答えるけどなっ。学年一位だし」
内原くん、そんなこと言ってていいのかなぁ。以前早押しでもないクイズでお手付きして痛い目みたの忘れちゃったのかなぁ。
「くっ……いちいち無駄にイラつかせるわね」
作戦のためか雪歩はそれだけでなんとか我慢する。
「にゃはは~。まあいいじゃん。どうせ勝負してみりゃ白黒はっきりするんだからさぁ~。わくわくすんな~」
「それだけは、西村に同意だ。さっさと始めようぜ」
「えっと、美月はクイズには参加するのかな?」
「う~ん、私は辞めておくよ。また皆に迷惑かけてもわるいしね」
いや、だったらやっぱりどうしてついてきたのよ。などと突っ込みたかったが、昆布茶をすすってすっかり観戦モードの彼女に、私は小さく首を振った。どこかで悟りを開いたみたいだね……。
私たちに付き合っていられないと思ったのか内原くんが出題の姿勢に入る。
「俺が先行でいいのか? さっそくいくぞ?」
「え、ちょっと、待ちなさいよ」
「ふんふ~ん。私はいつでもいいぞ~」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
「よし、じゃあ、第一問」
でーでん。とやっぱり無駄にクイズ感を醸し出すあの効果音を内原くんは自分の口で表現した。こいつら、これやらないとクイズ出来ないのかよ。あっと、こいつとか言っちゃったよ。反省反省。
「英雄セテウスがミノタウロスを倒した後に、その迷宮を脱出する際に使用した道具から転じて、現代では難問を解決する際のヒントや手がかりとなるもののことを何の糸、というでしょう」
少し悪いとは思うけれど。私たちはこのクイズ勝負で勝つという気概はほとんどない。なぜなら、私たちの狙いはこの勝負を通して、内原くんのテストの実力を知ることだからだ。それでも、敢えて言わせてもらうとすると。
ク、クイズ、ガチすぎじゃない⁉ セテウスとか一度も聞いたことのない人だよ……。雪歩はどうおもっているのかなぁなんて隣を見ると。
「わ、分からない……」
その顔は絶望に染まっていた。いや、そこまで落ち込むことじゃないと思うけど。てかこれ中学生で分かる人いるのかなぁ。しかし。
響いたのはバコンと机を叩く音。だからその机は早押しボタンじゃないからね……。ちょっとボケ多めだな今日は。
「はい、西村」
ぴっと、内原くんが花凛を指名する。
「いぼのいと」
「ベタっ、ボケがベタすぎだよ花凛っ」
「ボケ? もしかしてふざけてたのか?」
「ち、違います。はい、真面目にやってます」
思わず否定してしまったけど、今のがボケと自分で判断できない内原くんはやっぱりどうかと思う。
「にゃはは~、やっぱ違ったか~。素麺やっぱり、いぼのいと~♪」
うん、確実にふざけてるなこれは。てか今、素麺って言ったし。
「ふんっ。まあいいが。忘れてないだろうな? 今回は制限時間つきだからな?」
内原くんがこちらに向けたストップウォッチが確実に時間の経過を伝えている。ああ、やっぱ答えられそうにないよね。もう一度雪歩に視線をむけて、内原くんには聞こえない程度の小声で告げた。
「雪歩でも分かんないよね?」
「ええ。でも安心して。さっきようやく私の本当の目的を思い出した。私に任せて」
……目的、忘れてたんだね。ますます任せにくいよ。
「いいのか、あと三十秒だが」
私たちがタイマーに目を向ける中、無慈悲にも時間は過ぎて行き。やがてピピっと電子音が鳴る。
「はい、ざんね~ん。答えはアリアドネの糸でした~」
「くっ、分かっててもイラっとするわね」
「まあまあ、雪歩抑えてね」
「ふん、ざまーみろだ。結局運がなければお前らなんてそんなもんなんだよ」
まだ勝負はついていないにも関わらず、内原くんは高らかに宣言する。そういうとこ、そういうところですよ。
「くぅ~、悔しいわね」
「まあ雪歩~。次、私らもあのテンパが答えらんない問題にすりゃいいんだよ~」
「い、今テンパって」
「ごめんなさい言ってないです、テンパじゃないです、ちゃんとストレートですっ」
「ストレートって言われると逆に嘘っぽいからやめろ~っ」
「ひっ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい~」
何故か一番関係のない美月が謝っていた。
「もういいから、早く問題いってくれ……」
項垂れたまま内原くんが言う。あ、その何て言うか最終的にあきらめたくなる感じ。私はちょっと共感できるなぁ……。
「わかったわ。じゃあ、次はコッチの番ね」
ちゃかと雪歩が眼鏡のブリッジを押し上げる。いよいよここからが雪歩の作戦開始だった。いいのかな、そんな怪しい動作を見せて。上手く行くかどうかは、う~ん、私にはもうこの人たちのことが良く分からないから、全然読めないよ。内原くんが本物のバカなら上手くいくかもね、程度の希望的観測を持ちながら私はことの成り行きを見守る。
「では、問題です。第四十四期満ヶ谷学園中等部入学生の中で、成績優秀、スポーツ万能、加えて容姿端麗で有名な」
バコンと机を引っぱたく音が響く。
「内原文則っ‼」
ナルシストだっ、完全完璧疑いようのないナルシストだよこの人~。そして地味に前回と同じ無駄早押しで間違っているところもポイント高いね。
「ぶ~‼ はっずれ~」
べろべろば~と花凛が子供っぽい挑発をして。雪歩が問題文の続きを読み上げる。
「加えて容姿端麗で有名な内原文則くん、」
えっ、そこ内原文則がほんとに正しかったの? どうして雪歩はこんな文章を平気で笑わずに読んでいられるの? あ、それは失礼か。
「その内原くんの、今年度一学期末考査、国語の点数は」
その時点でまた、バコンと机を叩く音が響く。
まさかっ……。
「九十三点‼」
「ぶっぶ~‼ またハズレ~」
花凛が言って雪歩が何事もなかったかのように続ける。
「国語の点数は九十三点、ですが、」
「くっそ~ですが問題か。卑怯な」
「英語の点数は、」
―――バコンッ。
そんな上手くいくわけ……。
「九十六点‼」
「ぶ~、何回間違えりゃ気が済むんだよ~。雪歩続き続き~」
「英語の点数は九十六点でしたね。理科の点数が……」
さすがにそろそろ学習して……。
―――バコンッ。
「九十八点‼」
「あはは~。ま~た外したぞコイツ~」
「くぅ~っ」
「理科の点数は九十八点、社会の点数が……」
―――バコンッ。
全部言う。この人乗せられて結局テストの点全部言っちゃうよ。
「九十七点」
「ば~かば~か、大外れ」
「社会の点数が九十七点ときて、では、数学は何点だったでしょ~か。はい、花凛ストップウォッチスタート」
ええと、ちょっと混乱してきたな。問題をおさらいすると。笑っちゃうから問題の前半は省略してっと……。『今年度一学期末考査、国語の点数は九十三点でしたが、英語の点数は九十六点でしたね。理科の点数が、九十八点、社会の点数が九十七点ときて、では、数学は何点だったでしょ~か』。う~ん汚い、実に汚い問題だよ。てか、問題文で、「でしたね」って何⁉
「かぁ~、数学だったかぁ~」
当の内原くんはというと、すがすがしささえ伺える表情で、額を抑えていた。
「分かるなら早く答えなさいよ。時間なくなるわよ」
「ふん、バカかお前らは。俺が自分の点数答えられないわけないだろっ」
「早く~。あと一分だぞ~」
「そんなに急かさなくても言ってやる。答えは、百点だ。どうだ、参ったか」
「い、イトモカンタン二~」
「ど、ドウヤラ、アタシタチノ、マケ、ミタイダナ~」
すると唐突に、雪歩と花凛がたどたどしい日本語でそう告げた。
「はん、身の程もわきまえず勝負を吹っ掛けるからこうなるんだよ。さっさと教室を使わせろってんだ」
ふーはっはっはっと内原くんの高笑いが教室に響き渡る。バカだ、ここに本物のバカがいたよ……。




