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ラブコメにありがちなキャラの深堀が始まりますよ

「お~、すっげ~広いな~」

 まだ新しい建材の香りのする建物をぱたぱたと花凛ちゃんが駆ける。


「こら、花凛、走っちゃダメ。それに今日は人が多いんだから、絶対変なこと口走らないようにね」

 雪歩ちゃんはどう考えてもふりとしか思えないようなことを口走り。


「し、しししし、しらない人がいっぱいだようぅ」

 美月ちゃんが怯えているのはご愛敬。


「知ってた……。知ってたよ、どうせみんなも一緒だって」

 そして何故か梅乃ちゃんだけは不満げに唇を尖らせていた。


「はい、集合、とりあえず集合っ」

 放っておいたら、おのおのふらふらとどこかへ行ってしまいそうだったため、少々の気恥ずかしさを感じながら俺はみんなを一か所に集める。西京大学から市営地下鉄で三駅分。県内でも二番目に大きい交通の要である西京駅から歩いて五分の立地に、大型商業施設S-TOWNは開設された。西京市はそこまで人口の多い町ではないけれど、オープン直後でしかも休日となると、子供からお年寄りまで人であふれかえっている。


「なぁ、せんせー今日はどこ見て回るんだ~?」


「私も気になります。そもそもどうしてみんなでこんなところに? もうテストまであまり時間がないのに」


「まあ、まあ。今日はいつも頑張ってるみんなのちょっとした息抜きだよ。みんなが見て回りたいところを順に回ろう。俺はどこでも付き合うから」


「先生、私、知らないひとばかりで怖いんですが……」


「俺が傍についてるから大丈夫だよ? それとも俺のこともまだ怖いかな」


「せっ、先生は……、もうあまり怖くありません」

 あまりか……。どうやらもう一歩かな。


「じゃあ、みんなもいるし、なんとか一緒に回れそう?」


「は、はぃ~」


「…………」


「こーら、梅乃、ジト目で先生と美月のこと見ない」


「みっ、見てなんかないもん」


「お~見ろよ~っ。あっちに、地図みたいなやつがあるぞ~」


「ホントだね。とりあえず見に行ってみようか」

 俺がそれとなく話題をそらすと、だだだと駆け出す花凛ちゃんに、皆も続いていく。


「はえ~。やっぱ広いんだな~」


「ホントね。一日中でもいられそう」


「迷子にならないかな~」


「美月が迷子になっても泣き叫ぶからすぐ見つかりそうだよ……」

 四人に続く集団の最後尾にいた俺は、フロアマップにざっと目を通す。なるほど、フロアは二階までしかないようだが、そもそもの敷地面積が広大らしい。中には、洋服のハイブランド店から、女の子に人気の小物雑貨店、書店、スポーツ用品店、ゲームセンターに映画館なんかも収容されていて、今日の目的にはもってこいだと思う。


「色々あるみたいだけど、みんなが行ってみたいお店はあるかな?」

 俺は文学部四人の顔を見回しながら訪ねた。


「はい、はい、はい~。せんせ~」

 早速花凛ちゃんが元気よく挙手する。


「お、どうした?」


「あたしはとりあえずパンツみた~い」

 いきなり俺は周囲の様子を警戒する羽目に。ズボン、ズボンのことであってくれ。最近の中学生はませてるから、ズボンのこともボトムスとかパンツとか呼んでるはず。


「ちょっと、あんたもう小学生じゃないんだから、いい加減羞恥心を持ちなさいよ」

 しかし、雪歩ちゃんの一言で、それが言葉の通りのそれであることを知る。


「パ……そ、それはお母さんとでも来た時にしようか」


「えぇ~、さっき先生どこでも付き合うって言ったのに。嘘つき! じゃあ、代わりにぶらじゃ……あでっ」

 ぱこんと、珍しく梅乃ちゃんが暴力に訴えていた。ありがとう、ナイスフォロー。


「えっと、他に行きたいところがある人は」

 俺はこの中で一番発言を躊躇いそうな美月ちゃんにすっと視線を向ける。


「わ、私は、今すぐには決められません。たくさんあって。ごめんなさい」


「いいよ。大丈夫。雪歩ちゃんは?」


「私は少し雑貨屋さんを見たいんですが、荷物が増えると良くないのであとの方がいいと思います」

 さすが、秀才らしい答えだ。


「なるほど、じゃあ、梅乃ちゃん……」


「は、はいっ」

 ぱっと、顔が綻ぶが、心を鬼にして今日はそうれをスルーする。


「は、置いておくとして」


「ですよね、そうですよね……そんなことだろうと思いました」

 え、ナニコレナニコレ、しゅんとしてる梅乃ちゃんチョーかわいいんですけど。はぁはぁ今すぐおつむ撫でてあげたい。あっと、失礼取り乱しました。


「なんだよ~。みんな希望ないのかよ~。なら、とりあえずゲーセンで決まりぃ~」

 そんな花凛ちゃんの一言で、あっさりと第一目的地が決定してしまった。同意を得ないまま、またも花凛ちゃんはたたたと駆け出す。


「ちょっと、走らないっていったでしょ~」


「私、私は一人にしないって約束したよね」

 つられて駆け出す二人の後を、梅乃ちゃんも追いかけて行きそうになる。


「梅乃ちゃん」

 その彼女を俺はやや小さめの声で呼び止めた。


「は、はい?」

 はたと立ち止まってこちらを振り返る。少しだけ彼女の耳元に顔を寄せた。


「今日はありがとう。急に俺が言い出したことなのに、三人を連れ出してくれて」


「そ、そそそそ、そんなことアリマセンヨ。テスト対策のためですもんね?」

 何故か梅乃ちゃんは少し裏返った声で返事をした。因みに、顔を寄せたのは内緒話をするためだから。決して、断じて他意はないよ……?


「うん。少しでも、俺がみんなのことを知るきっかけになればと思ってね」

 そう、わざわざテストが一週間前の土曜日に梅乃ちゃんに文学部の三人を連れ出してもらったのは俺が梅乃ちゃん以外の三人の考え方を良く知って、それぞれに響く授業をするためだ。性格を知るなら、きっと机に向かっているだけより、いっしょになって遊んだ方が何倍も早くて効率がいいはず。……いいはず。自分で言っててこの作戦大丈夫か?


「でも、そんなにうまくいくでしょうか」


「大丈夫。きっと何かつかんで帰るから。梅乃ちゃんは普通に、なるべくいつも通りみんなと遊んでくれるだけでいいからね」


「そうなんですが……」


「ん? 何か不満そうだね」


「今日の先生はちょと私にだけ冷たいなぁって、思います」

 ああ、はいはい、もう可愛い可愛い。分かっててもかまいたくなっちゃうんだよなぁ……。ほんと、この子はいつもいつも年上の心を弄んで……。じゃなかった。


「し、仕方ないでしょ。今日は梅乃ちゃん以外の三人のことを知らないといけないんだから。悪いけど、行き先の希望も三人を優先することになるよ」


「分かってますっ」


「いや、明らかに」

 機嫌悪いよねと言いかけて、言葉は飲み込んだ。その辺りはやっぱりまだ十三歳になったばかりの女の子だ。


「大丈夫ですっ。私、お、と、な、なので。今日は、いろいろ、たくさん、先生としたいことあったけど……、ちゃんと我慢しますっ」

 あ、なんかダメそうだなぁ。ぷいと視線をそらして、三人を追いかけようとする梅乃ちゃんを俺は慌てて追いかけた。


「はぁ……また、二人が痴話喧嘩してるわね」


「なぁなぁ、雪歩、痴話げんかって何だ~?」


「私知ってるよ、お父さんとお母さんでする仲良しの喧嘩のこと」


「まあ、夫婦って言うには梅乃からの気持ちが一方的すぎるんだけどねぇ~」


「あ、それなら私も知ってるぞ。片思い、片思いってやつだ~」


「女の子の初恋で片思いって、漫画とかだと大抵失恋の思い出だよね?」


 すると、その先では三人がなにやらひそひそやっていて。


「さっきから、ぜ~んぶ、聞こえてるんだからねっっ‼」

 などと、小規模な事故を引き起こしていた。こういう女の子同士の冗談には流石に入っていき辛い。繰り返しますが、この作戦、法的な部分も含めてほんとに大丈夫か?


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