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だから、ここって何サークルなんだよ!

 久々に顔を出したサークルの集まりに、俺は少しの余所余所しさを感じて、定期的に参加していなかったことを反省する羽目になった。それでも、散会後に勇気を出して声をかけると、来子(くるこ)さんは当たり前のように俺についてきてくれた。多少サークルの先輩方がざわついていた気がするが、ベストは無視であることを俺は知っている。因みに、何度振り払ってもついて来ようとする長谷太(はせた)には、今度夕飯がてらに土産話を持って帰ることを約束して、丁重にお引き取り願った。


 最近全然登場しないから二人とも一応ルビふっとこうっと。閑話休題。


 選んだ場所はなんの工夫もない、大学の図書館前。自動販売機と休憩用のベンチがいくつか並んでいて、春先の昼間であれば学生で賑わう人気スポットだ。十一月半ばの今は対照的に、そろそろ肌寒さを感じる季節だからか人の姿はまばらである。


「それで~。こんなところにお姉さんを呼び出して、何の用事かな」

 ざわと、一陣の秋風が吹いて、靡いた髪に来子さんは控えめに触れる。くそ、やっぱりこの人は画になるなぁ……。無駄な緊張感を作者、間違えた、神様が演出したせいで、俺はおっかなびっくり口を開く。


「えっと、実は少々言いづらいんですが……」


「用がないなら帰らせてもらうわ」

 だからなんなんだよこの無駄な緊張感は。


「あ、ちょっと、ま、待ってください‼」

 慌てた俺が追いかけようとすると、来子さんはあっさりこちらへ向き直った。


「こういうシーン一回やってみたかったのよねぇ~」


「ええぇ……、今本気でちょっと焦った俺の気持ちを返してくださいよ」

 あんたも無駄な緊張感出した戦犯かよ、と突っ込むわけにもいかず、俺はやんわりとそう反抗するに留める。


「何の用事か早く聞きたいのは本気なんだからね。君から私に声をかけるなんて、珍しいことじゃない?」


「まあ、そうなんですが」


「それで、なんの用なのかな? やっぱり人気のないところに呼び出したってことは告白、告白なのかなぁ~。でも残念。私、お洒落なバーに連れて行ってくれないと告白はオーケーしないから」


「いや、告白じゃないですから。っていうか告白したかったとしても今の聞いたら、ためらっちゃいますから。軽く振られて既にショックですよ」

 あと俺大学生だけどまだ未成年ですからね。


「えっ、告白じゃなかったの?」

 いや、そんなそれ以外に用事ないでしょみたいに言われても……。この人の思考回路は本当に良く分からない。


「だから違いますって」


「あれ? じゃあ、何だろ。もしかして、これから後ろ手に縛られて、ぐへへへへへ、来子さん、た~ぷり味わってあげますよぉ(ニチャァ)ってパターンかしら」


「来子さんってホントに自分の魅力を信じて疑いませんよね……」

 ニチャァって、誰のことだよ。現実にそんなやついるのかよ。


「まぁ、こう見えて私って後輩にモテモテだからねぇ~」


「否定はしませんが……ってそうじゃなくて」


「あはは、ごめんごめん。ちょっとおふざけが過ぎたかな。それで?」

 ようやく彼女は俺の話しを聞く態勢に入ったようだった。これを逃すとまたからかいが始まりそうだったため、俺は思い切って、一息に、それを切り出す。


「実は、今週末ご一緒する予定だったアウトレットの件は、キャンセルさせてもらいたくてっ‼ すみませんっ」

 ばっと勢いよく頭を下げた。


「へ? 荷物持ちをお願いしてた?」


「はい……」


「あんなにいい笑顔で頷いてくれてたのに?」


「はい……」


「ふぅううううんんんんん」

 いや、怖い怖い怖い。そんな威圧感あるふううんを俺は未だかつて一度も聞いたことがありませんよ。


「菅原くん、もしかして彼女でもできたのかな?」

 しばしの沈黙の後、唐突に、そんなことを言い出した。


「はっ、なんで急にそんな話になるんですか」


「じゃあ、できてないわけ?」


「当たり前です。できるわけないじゃないですか」


「あはは、別に大学生なら彼女できるくらいフツーだと思うけど」

 何でもない事のように笑う来子さんの態度に、たらり、と俺の頬を冷や汗が伝う。確かに! 確かにそうですよね。大学生なら彼女くらい普通ですよね。出来てない俺がダメなんですよね。あ、これ確実に来子さんに経験ないことバレたわ。はずい。ちょうハズイ。などと、内心ではチェリー精神をがっつり抉られていた俺だが、幸い平静を保つことは得意な方なので、来子さんに尋ねてみる。


「あの~、どうしてそんな話になったんでしょうか」


「だってさぁ~。お姉さんとの約束を破っておいて、その日に菅原くんは何をするのかなぁ~って。あ、親戚とかお父さんとか、身内に不幸があるパターンの嘘はナシね」


「それが本当だったらどうするんですか……」


「それくらい、君の目を見れば分かるよ~。お姉さんを侮ってはいけませんっ!」

 めっと、わざとらしい仕草で鼻先を指で押さえられて、俺の心臓はびくりと跳ねる。にこにこと細めた目元の奥の瞳が、先刻の宣言の通り俺の目からすべてを見透かしてしまいそうだと感じた。


「は、ハイ」

 俺はその近さに圧倒されて思わずうなずいてしまう。


「それで、菅原くんは次の週末、だ、れ、と、何をするつもりなのかなぁ~。お姉さん気になるな~」


「えぇえ~っと」


「誰かといっしょなのかな?」

 ここだっ、誤魔化すならここしかないっ。


「いっ、いえ。一人でちょっと自分探しの旅に」


「ん~~~?」

 ぐいと、来子さんが顔を寄せる。


「ごめんなさい、嘘です。ハイ」


「お相手は女の子かな?」

 ここだっ、誤魔化すラストチャンスはここしかないっ。


「い、いえいえ。そんなわけないじゃないですかぁ~。ゴリゴリムキムキの男くさいのといっしょですよ~」


「ん~~~?」

 再び来子さんの顔が近づく。


「ごめんなさい、嘘です。ハイ。……女の子です」


「正直でえらいねぇ~。そろそろ何をするのか白状しちゃおっかぁ」

だから怖い怖い怖い。笑顔なところがまた怖い。サイコな拷問官役とか映画でできそう。絶対この人には敵わない。そうして俺は、あっさり白旗を上げる羽目になった。


「実は、最近、かくかくしかじかで――――」

 あ、この説明の仕方、まだ使う人いたんだ。


*****


「あっはははは。じゃあ私は中学生の女の子に負けたってわけだ」


「いえ、負けただなんてそんな」

 俺は何故だかひどく精神の疲労を覚えて、弱弱しく告げる。


「でも、それでいいんだと思うよ」

 しかし、それに続いた来子さんの言葉は予想外のものであった。


「それでいい、とは……?」


「今回みたいな頼み方じゃ仕方ない。私は誰でもよかったけど、その子にとっては君しかだめだったみたいに聞こえるしね」

 俺の問いには答えずに、来子さんはそんな風に言った。


「…………?」

 その正確な意味を俺は理解しきれない。


「次は私もちゃぁ~んと。君に自身にお願いするから、覚悟しておいて」


「えっ……それってどういう」

 けれども、そんな俺の困惑など意にも介さない様子で。


「自分で考えなさ~い」

 あははとまた楽しそうに、来子さんは笑う。なんとなくだけれど、初めて打算のない彼女の笑い声を聞いたように、俺には感じられた。



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