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キャラづくりの為にとんでも設定がつくのは明らかに筆者の力量不足だよね

 それからは、再び問題に集中し、演習を始めてから、一時間と少しが経過していた。いつも先生の授業は大体一時間半くらいだから、もうひと踏ん張りという時間帯。


「菅原先生、ちょっと見てもらってもいいですか」

 今度は雪歩が先生に声をかける。これは少し珍しい。しかし、先生はどこかやっときたなという表情でそちらを向いた。


「うん。いいよ。どの辺りかな」


「あの、実はけっこうたくさん……。今日の問題、半分くらい解けてないんです」

 それは本当に珍しいね。少し調子でも落としているのだろうか。


「半分解けたならたいしたものだよ」

 しかし先生は、当たり前と言った様子で笑った。


「え、でも……」


「実は今日の雪歩ちゃんの問題は、スペシャルバージョンなんだ。今まで何回か勉強してるところを見せてもらったけど、雪歩ちゃんはケアレスミスも少ないし、反復練習が必要なほどスピードが遅いわけでもないことは分かった。あとは難易度高めの応用問題だけかなと思って、そういうのを多めに集めてみたんだけど」


「そうだったんですか……」

 幾分安堵した様子で雪歩は呟いたが、すぐに、きゅっとペンを握り直す。


「もうギブアップかな?」

 先生に問われて、雪歩は数秒何かを考えるように、半分以上が空欄の演習用紙を見つめていた。


「でも、このくらいのレベルをコンスタントに解けるようにならないと、今より点数を上げるのは難しいですよね……」


「そうだね。今俺が教えてもいいけど、」


「それでは、その場で考えなきゃいけない応用問題を解く力はつかない……」


「自分でも分かってる時点ですごいと思うよ。俺としては、時間はかかっても、一回自分で全部答えを出すのがいいと思う。といっても、今日はもうほとんど時間がないから持ち帰りになっちゃうけどね」

 雪歩が眉根を寄せていた。学年上位の生徒でも、やっぱり勉強の悩みはあるようだ。


「私、やってみます。でも……、それでも分からなかったら、その、後からちゃんと教えてもらえますか?」


「もちろんだよ。頑張ってみて」

 こんな風に高いレベルで先生に激励されるのは、少しうらやましい。私も、早くそんなレベルに追いつきたい。ちょうどその時、ピピピ、と先生持参の小型時計のアラームが鳴った。授業終了の合図だ。


「んあ~っ。今日も頑張ったぁ~」

 それとほぼ同時に、まず花凛が伸びをする。


「うん、今日も合計三十分くらいは机に座ってられたね。えらい」

 それに、先生が一言加える。も、目標低くないですか? あと一時間は一体何をしてたんだろう。来週にはテスト勝負があること分かってるのかなぁ。


「やっぱり、集中すると少し疲れるね。肩がこっちゃいそう」

 ぐわっと、肩を反らせて美月が胸を張る。はい、アウト、アウトですよ。ちょっとだけ大きいお胸のお山が強調されてる。先生は見ちゃ駄目だからね。


「そうね。あ、そういえば……」

 そんな私の心配を知ってか知らずか、雪歩がごそごそと自分の鞄の中をあさり始めた。そして次に放った台詞が、つい先刻までの私の不安など吹き飛ばしてしまう程の緊張感をもたらした。


「私、クッキー焼いてきたの」

 それはとても、綺麗な笑顔だった。


「なっ」


「うそでしょ」

 けれども瞬間、花凛と美月の表情にも、緊張が走ったのを私は見逃さなない。


「へぇ~。クッキーなんて焼けるのかぁ。雪歩ちゃんはすごいね」

 などと、何も知らない先生だけが、呑気なことを口走っている。


「はい。せっかくですから、先生から選んでください。抹茶と、チョコレートと、プレーンがあるんですよ」

 可愛らしくラッピングされた四つの包みを掌に載せて、雪歩が先生の前に歩み寄る。


「へぇ~、じゃあ、遠慮なく一つもらおうかな」

 この流れはまずい……。


「ちょお~っと、せ、先生。待ってください」

 不自然な程大きな声を出して、私はなんとかその会話に介入する。


「急に大きな声出してどうしたの? もしかして、梅乃も欲しいのがあった? でも、梅乃には何度かあげたこともあるし、今日はいつものお礼だから、先生が先ね」

 もらった、確かに、もらったよ。でもそれで私たちは酷い目にあった。


 何というか、雪歩の手料理はとてもこの世のものとは思えない味がするのだ。あ、今失礼だと思った人は、実際に食べてみてから意見してください。その実力の程は、以前調理実習で焼いたパンケーキで、あの温厚な教頭先生を体調不良に追い込んで、犯人捜しが始まったくらいなんだから。後からから聞いたら、腹痛と発汗が一日中収まらなくなったらしい。一体なんの恨みがあったんだろう。なかったんだろうなぁ……。


「いや、梅乃ちゃんがそんなに食べたいなら俺は後でいいよ」

 たら~っと、背中を冷や汗が伝う。そ、そういうことではないんですよねぇ。


「あっ、そ、その私は別に、今日はいいかな。お腹いっぱいで、そう、花凛‼ 花凛さっき疲れたって言ってたよね。頭が疲れた時は甘いものだよ」


「にゃはは~。あたしもお腹いっぱ~い。それにそれ、甘いかわかんな~い」


「じゃ、じゃあ、美月」


「わわわ、私もっ。よく考えたらそんなに疲れてもいなかったなぁ~」

 くっ……、二人とも自分が助かることしか考えてないな……。


「もうっ、みんなしてどうしたの? だったらやっぱり先生にあげちゃうわよ」


「ありがとう、じゃあ、プレーンをひとつもらうね」

 ああ、先生。とってもいい笑顔だね。これから死にに行く人とは思えないよ。


「じゃ、じゃあ、私たちはそろそろ」


「ああ、梅乃~、またなぁ」

 先生が受け取った瞬間に、二人はいそいそと帰り支度を始めてしまう。食べるところまでは見ていられないということだろう。


「はい、美月、これ上着」

「うん、ありがとう。花凛ちゃんの勉強道具も片付けておいたからね」

 こういう時だけ無駄に連携がいいんですよね……。それを見た雪歩もサクサクと教科書を仕舞い始めた。


「えっ、ちょっと待ちなさいよ。私もいっしょに帰るわよ」


「じゃあ、せんせ~。今日もありがとな~」


「あ、ありがとうございました~」


「え、あ、うん。もう帰るの? 気をつけてね」


「だから待ちなさいってば~。食べてから帰ればいいのに~」


「にゃはは~、そんなわけないだろ~」


「待って、花凛ちゃん走らないで。私が、私が雪歩ちゃんと二人きりになるから~っ」

 次第に声が遠ざかっていく。最後の方はもう雪歩に考慮のない言動だよね……。


「なんだったんだ……?」

 クッキーの包みを握った先生だけがその場に一人取り残される形となった。どさくさに紛れてそーっと、私も部屋を後にしようとする。しかし。


「梅乃ちゃん」


「は、はいっ」

 先生に呼び止められて、私の脱出はあえなく失敗に終わった。


「今日、この後少しだけお話できるかな」

 先生のその顔は笑顔だったけど。どうしてかその奥に寂しさを隠している気がして。反射的に私は頷いてしまうのだった。


「は、はい。もちろん大丈夫ですよ」

 あぁ~っ、どうしてこういうタイミングに限って先生そんな顔するんですかぁ。


「よかった、少しだけ長い話になるかもしれないけど大丈夫?」


「え、あ、ハイ。じゃあ、私ちょっと飲み物取ってきますね」


「うん、ありがとう」

 言いながら先生は無造作に小ぶりな雪歩クッキーをひとつ口に放り込んだ。


「あっ」


「えっ?」

 慌てた様子の私を先生は、何事かと見つめる。そして数回口の中のものを咀嚼して。


「ごほぁっ」

 血を吐いたのかと見まがう程の勢いで咳込んで、がくりと膝をついた。


「せっ、先生~」


「梅乃ちゃ……これ、な……ごほぁっ」

 とうとうばたりと前のめりに倒れ込む。


「ああ、どうしよう、水、水を今持ってきますからねっ」

 だだだと、部屋を出ようとする私のズボンの裾を力なくつかんで、先生が告げた。


「し、しんだおばあちゃんの姿が見える……」


「だめっ、先生。そっちに行っちゃダメですからね~っ」

 ほらぁ、やっぱりこういうことになるんだよ……。


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